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異世界犯罪分析官  作者: 星野彼方
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Act 1-4:プロファイル

「まずは、比較的発見しやすいと思われるアンサブBについて、説明します」


 ぼくに、衆目が集まっていた。


「二十五~二十七歳の人族白人男子。栄養不良で痩せている。住まいはよごれ散らかり、犯行の証拠──血で汚れた服などが、そのまま置いてあったりするかもしれません。兄弟がいるとすれば、彼は年少です。現在、同性とも異性とも付き合いはない。一人暮らしで、家にいることが多く、安定した職には就いていない。なにかしているとしても、短期的なもので、ごく簡単な単純作業の非熟練的職業と思われます。両親くらいはいっしょに住んでいるかもしれませんが、可能性は低い。学校を中退しているかもしれません。あまり知能は高くない。彼は犯行現場である被害者の家の近くに住み、徒歩で往復したでしょう。行動範囲は、常に狭い」


 ぼくは一度言葉をきって、まわりがついてきているか、たしかめた。

 みんなの視線が集まっている。

 その目には、あきらかに説明を求める光がある。


「こういう種類の殺人者は、一般的に男で、自分とおなじ人種を狙うということが一つ。このアンサブBは、現場念写と事件記録を見るに、あきらかに〈無秩序型〉です。遺体の状態や血を飲んでいた痕跡から、重い妄想型分裂病をわずらっていると思われます」


 精神的な病気についての知識が、ほとんど差異なく適用できることは、この世界に関する資料から読み取ることができていた。


「殺人を犯すほど病気が進行するまでには、八~十年はかかります。妄想型分裂病は、思春期にたいてい発病しますので、平均的な発病年齢は十五歳。そこに、さきほどの十年をくわえると、犯人は二十代半ばということになります」

「もっと高齢の可能性は?」


 ピュグマの問いに、首をふる。


「こういう殺人者は、三十五歳以下である場合がほとんどです。くわえて、犯人が二十代後半より上なら病気が進行し、これまでに、もっと多くの殺人が起きているであろうことから、年齢は高くても二十七歳程度でしょう」

「やせ型、というのは?」

「彼が妄想型分裂症であるという仮定から、心理学に基づいて導きだしました」


 ぼくは説明した。


「人間の体型と気質に関するクレッチマー分析によると、内向型の精神分裂病は、やせ型の男性に多く見られます。そういった患者は、栄養のことなど気にせず、きちんと食事をとらない。自分の外見についても無頓着で、清潔や身だしなみに注意をはらいません。こういう人物なら、まず独身です」

「愛のちからがあれば、わからないのだ?」

「確率論ですよ。まあ、聞いてください。彼の住居は、犯罪現場とおなじく、混沌とした状態でしょう。これほど病状の進んだ人間なら、学校をつづけることや、安定した職業に就くことは困難であるはず。まるで世捨て人のような人物像だと思われます。また、犯行の前後に遠距離を移動するような秩序だった行動はできず、自分にとっての安全地帯である近所で、衝動的に犯行におよんだはず」

「つまり、アンサブBに関しては──周囲で聞きこみをして言動のおかしな人の目撃情報をさがしたり、近くの民家を確認したり、その地域の学園で過去に中退したような生徒を調べたりすればいいのだ?」

「そのとおりです。彼は、見つけさえすれば、かなり目立つはずです。先ほどのプロファイルを地域の人たちに公表して、思い当たる人物がいないか聞くのも効果的でしょう」

「なるほどなのだ」

「それで、今後の捜査のことですけど……まったくべつの二つの事件が同時に起きている以上、ただ一つの捜査機関であるぼくたちは、二手にわかれる必要性があります。なので──Q。ぼくたち、わかれましょう」


 ぼくが言うと、Qは傷ついた顔をしてみせた。


「ちょっと待て。お前、私のこと、遊びだったのか……?」

「二人はエッチな関係」


 Qの軽口にナズナが過剰反応する。

 ぼくは頭をかかえた。


「真面目に聞いてください! プロファイリングについて現段階でくわしいのは、ぼくたちだけです。いっしょに動いたのでは、効率が悪い」

「わぁったよ」

「こうするのだ」


 ピュグマが提案した。


「コーイチは、あたしとモクと組んで、より複雑なアンサブAの事件を捜査。ナズナとQの二人でアンサブBの情報を追い、なるはやで解決して、こっちに合流する」

「現場はすぐ見れます?」

「もう夜になるのだ。今日は道中の宿屋に泊まって、明日の朝一で、それぞれの現場に向かうのだ」

「徒歩で行くのか?」とQ。

「馬に乗れる?」

「私も恒一も、乗馬クラブに通ったことはあるが、恒一の成績は……」


 ピュグマが、ふぅん、とおもしろそうにぼくを見た。

 うらめしくQをにらむと、彼女は、どこ吹く風で、そっぽを向き口笛を吹いた。


「──馬車を雇うのだ」


 そう決まり、一同は、準備を開始した。

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