面影を探して
24歳になり、異動先で上司となった先輩を見ることになったのは運命のいたずらなのか、はたまた未練がましいこの気持ちに終止符を打てということなのだろうか。
「吉野さん?」
『はい、何かありましたか?』
「これ、吉田課長が吉野さんに渡すよう言われたから」
ありがとうございますと言いながら受け取った書類。
直接渡せばいいのになんて思いながらも、直接ではなくてよかったと思う自分がいる
気分を切り替えようと、給湯室に向かうと新人社員の話声が聞こえた。
「それにしても、吉田課長って格好いいよねー」
「だよねー。でも婚約者いるんでしょ?」
「あ!秘書課の有森さんでしょ?お似合いだもんね、美男美女カップルで」
「羨ましいよねー」
そう、彼の婚約者もこの会社にいる。
彼女達が話しているように美男美女カップルでとてもお似合いだと思う。
ふと、彼女達の話に足が止まった。
「あの噂知ってる?吉田課長の高校時代の元カノがこの会社に入社してるんだって」
「え、何それ。追いかけてきたってこと?」
「ヤバいよね?婚約者いる相手、追いかけるとかさー」
『…』
どこからそんな話が流れてきたのだろうか。
それを知ってるのは、私か彼ぐらいだと思うのに
「悪いけどコーヒーをいれて貰いたいんだが」
そう言って給湯室に入ってきたのは、彼だった。
彼女達の話は聞こえていたのだろうか
「え、と、」
『吉田課長、よければコーヒーをお持ちしますよ。会議室ですよね?』
偶然を装いながら給湯室に入ると会話に割り込み、視線を彼に向けると少し驚いた顔をしていたが、すぐに微笑んだ。
「あぁ、頼むよ」
その表情を普段見せることのないものだったのだろう、彼女達が驚いている
昔は、よく笑う人だったのにこの会社で彼が笑っているところは見たことがなかった。