第2話 ~ モンスターの一撃よりきついことを言いますね ~
第4章第2話です。
よろしくお願いします。
こうしてローレスト三国の一国であるローレスの土地にやって来た一行は、近くのドーラにやってきた。
そこで彼らが見たのが、モンスターに襲撃されている姿だったのである。
幸い魔物たちのレベルは低く、4人の敵ではない。
ほぼ一撃で片付けていく。
「住民の気配が全くないのだが……」
「すでに逃げたか? 安全な場所に退避したのでしょうか?」
「その詮索は後だな。ともかく、街の中心に向かうぞ」
宗一郎の号令のもと、一行はドーラの中心地へ向かう。
「お姉様! あれを……!」
クリネが指さしたのは、30人のほどの冒険者たちだった。
迫り来るモンスターをなぎ倒している。
各々武器や職業は違うようだが、1つ共通しているのは、誰も彼も装備はぼろぼろで明らかに疲弊しているということだ。
その先には、大きな教会がある。扉の前には、鎌や鍬、武器になるようなものを構えた一般人たちが、冒険者の戦う様を見つめていた。
どうやらあそこが避難場所らしい。
「助けるぞ」
「無論だ」「はい!」「了解ッス!」
三者三様の返答が返ってくる。
宗一郎が転進すると、3人の少女たちは後に続いた。
「マフイラさん!」
声がかかり、1人の女性スペルマスターは振り返った。
茶色に近いブロンドの髪。ヘーゼルの瞳はやや吊り目で、眼光の鋭さを丸い角のレンズがはめ込まれた眼鏡で中和している。起伏にとぼしいものの、すらりと長い手足が妙に印象に残る体躯をしていた。
中央に蒼い宝石がはめ込まれたローブを纏い、手にはそれぞれショートスピアと革と木で出来た盾を構えていた。
「なに? また新手!?」
鬱陶しげに声を荒げ、戦士の冒険者が指さした方向を見つめる。
数人の人影がこちらに向かってきているのが見えた。
「逃げ遅れた住民?」
「いえ……。違うわ」
マフイラはこちらにやってくる4人の人影を見ながら、つぶやいた。
その視線はぼんやりとして、焦点が定まっていないように見えた。
いざ戦いになれば、強い眼光を放つスペルマスターの目が、優しげに――いや、むしろ泣きそうになっている。
煤や砂で汚れた白い顔が、やんわりと赤くなっていく。
【三級風系魔法】オイフ・ズレパンティ!
魔法士の少女が立ち止まり、花蕾の杖から風の鎌を射出する。
魔物の群れにくさびを穿つと、少女の横から3人の大人たちが飛び出した。
姫騎士が細剣でモンスターに無数のダメージ判定を与え、戦士の少女が大剣を振るって、なぎ倒す。
そして最後に現れた男は、飛び上がってマフイラの元までやってくる。
背中を向けたまま、呪唱した。
「アガレス……。かつての力天使よ。お前の打ち破る力を、オレに示せ!」
拳に赤光が宿る。
すると、襲いかかってきた獣型のモンスターの顔面に拳打を打ち込む。
血と肉、骨まで破砕され、顔は消滅した。
さらに2、3匹同じように魔物を引き裂く。
「倒す」ではなく、「殺す」力を持った人間の登場に、容赦なく突撃を繰り返していたモンスターの動きが鈍ったような気がした。
「おい。大丈夫か……。ん? お前……」
男は振り返る。
真っ黒な髪と瞳。シンプルでシャープな変わった服装。
マフイラが忘れるはずなどなかった。
「勇者殿!」
今にも抱きつかんばかりに、元ライーマードのギルド副所長マフイラ・インベルターゼは声を弾ませた。
「勇者殿!」
懐かしい声。そして顔だった。
耳介をピンと横に張った耳と、眼鏡をかけたエルフが、瞳を輝かせて立っていた。
「……マフイラ、か? お前、なんでこんなところに?」
「いや、色々ありまして――――あ、危ない」
マフイラがショートスピアを構えようとした瞬間、宗一郎の裏拳が飛行型のモンスターをはたいていた。
宗一郎は手の甲についたモンスターの血や肉を見つめた。
「どうやら話はこのモンスターを倒してからのようだな」
「はい。――ですが、倒しきれるかどうかはちょっと……」
「うん? どういうことだ?」
「実は、かれこれ5日ほどぶっ続けで戦ってまして」
「5日!?」
「なるほど。……あなたほどの実力者が、何故こんな低レベルのモンスターに苦戦しているか合点がいきました
ライカが近寄り、冒険者たちを守るように細剣を構える。
「ライカ様! 戴冠お喜び申し上げます!」
「さすが耳が早いな、マフイラ殿は……。だが、堅苦しい挨拶はまた今度にしよう」
「雑魚も集まると、厄介ッスからね。おまけに取得できる【経験値】も雀の涙と来ているし」
モンスターの群れに穴を開けると、花道を通って頭に角のようなものをつけた少女が駆けつけた。
「フルフル殿も!」
「ご無沙汰ッスよ、マフイラ。彼氏できたッスか?」
「たはは……。モンスターの一撃よりきついことを言いますね」
「しかし、よく5日も戦うことができましたね」
そう言って、クリネも合流した。
「クリネ皇女もお久しぶりです。なんとか交代で休ませながらですが、それでもここまで保たなかったでしょう。彼の存在なくしては……」
「彼?」
「はい。すごく腕の立つ冒険者――本人は一般人だといっていますが――1人いまして。その方に助けてもらったのです」
「……わかった。詳しいことは後で聞こう。ともかくお前たちは下がれ」
「宗一郎の顔を見て、空っぽだった気力が戻ってきたような気がしますが、お言葉に甘えさせてもらいます」
昔を懐かしむように目を閉じ、マフイラは笑みを浮かべた。
「みんな、教会まで下がって!」
「え? いいんですかい? マフイラ姉さん」
「いいから!」
他の冒険者たちは顔を合わせながら、ゆっくりと防衛戦を下げていく。
「ライカとクリネも下がれ」
「しかし宗一郎、我々はまだピンピンしているぞ」
「無限にモンスターがわき出るなら、『倒して』も無駄だ。根を絶たねば意味がない」
「なるほど。わかりました。クリネ、行くぞ」
ライカはクリネを連れ立って、マフイラとともに引いていく。
「ご主人、フルフルを引かせないってことは、もしかして真の力を解放しても」
「フルフル……。貴様の悪魔の姿を見たという目撃証言を、オレが頭を下げてブラーデルたちにもみ消させたことをよもや忘れていないだろうなあ」
目から炎が噴き出さんばかりの勢いで、宗一郎は従者を睨んだ。
「も、もちろんッスよ。いやー、あの時はちょっと……。だ、だいたいッスよ。アフィーシャたんが悪いんスよ。人を改造人間みたいにいじくるから」
「フルフルちゃんの実力なら、別にあんな姿にならなくても良かったと思うかしら……」
宝石の中でごろりと転がりながら、アフィーシャは意見した。
「もうちょっと弁護してほしいッスよ」
「ともかく、お前はオレの手伝いだ。正直、今のところモンスターを【殺す】ことができるのは、オレとお前ぐらいなものだからな」
「了解ッス」
2人は示しを合わせると、右と左に分かれた。
フルフルは手をかざす。
「我、悠久なる悪を貫く者。心臓を智と説く者よ。我の左手に宿りて、裁きの槍を伐たせ!」
途端、夕闇に沈みかけていたオーバリアントの空に、黒い雲が立ちこめる。
戦場は一気に闇色に染まる。
その中で、フルフルの力強い声が響き渡った。
【雷天必撃】!!
手を振り下ろす。
六芒星の魔方陣が大地に刻まれた。
すると、陣に向かって空から青白い霹靂が打ち落とされた。
巨大な光の柱は、モンスターたちの身体と悲鳴を飲み込む。
後に残ったのは塵芥だけだった。
「むふ……。ちょっと今回はアレンジを加えたッスよ」
得意げに鼻を鳴らす。
――相変わらず無駄演出を……。
その様子をちらりと一瞥しながら、宗一郎も群れに突っ込んでいく。
「久しぶりに使うか……」
呟いた途端、宗一郎の身体から赤い火が噴き出した。
蛇のように絡むと、たちまち炎を纏った巨人が生まれる。
その姿に、モンスターたちはおののき、動きを止める。
宗一郎は容赦しなかった。
両手から炎弾をはき出し、まず飛行型のモンスターを焼く。さらに突っ込んで、獣型の顔を掴んだ。炎を伝播させ、一瞬で火だるまにする。
群れの中で暴れ回る炎の魔神。
それでもモンスターは襲撃を止めようとはしない。
「ふん。まどろっこしいな」
炎にまみれる中で、宗一郎は呟く。
両手を水平に掲げる。手の平の先に、大きな炎の玉が生まれ、どんどんと膨張していった。
「喰らえ!!」
炎の玉が爆発する。
すると、巨大な炎の波が起こり、モンスターを飲み込んでいく。
同じく塵すら残さず、宗一郎の周りには何もなくなっていた。
「な、なんだよ……。あれ」「つえぇ……」「どっちが化け物だよ」「いや、むしろ救世主だろ」「強い!」「どんだけレベル上げりゃあ、あんだけ強くなるんだよ」
一旦引いた冒険者は口々に呟く。
その中にあって、「当然!」という顔で見つめていたのは、ライカ、クリネ、マフイラの3人の乙女たちだった。
「フルフル……。残党を狩るぞ。付いてこい!」
「そういえば、殺すと経験値もらえないんスよね。ただ働きなのは残念ッス」
「どうせ雑魚だ」
「まあ、それはそうッスけど……」
あれほどの働きをしながら、宗一郎は手を緩めない。
フルフルと手分けして、街へと散っていった。
というわけで、マフイラも登場です。
明日も18時に投稿します。よろしくお願いします。