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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編
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第1話 ~ 街に入ってくるモンスターはフルフル様で十分ですわ ~

さて記念すべき新章1話目です。

少々長い章になるかもですが、よろしくお付き合いください。

「そんな馬鹿な……」


 呆然とつぶやいたのは、金色の髪をなびかせた少女だった。


 白銀のライトメイルに、鉄靴を履き、腰に細身の剣を帯びている。白地のスカーがふわりと舞い、大きくくびれた腰と臍が露わになっていた。


 異世界オーバリアントでは、姫騎士と呼ばれる職業につく少女の名は、ライカ・グランデール・マキシア。


 先ごろ、父カールズの意志を受け継ぎ、マキシア帝国初の女帝となった少女である。


 その深い緑の瞳には、奇妙な光景が映っていた。


 ずんぐりとした虎のような体躯にワニに似た顎門を持つ獣。

 大きな複眼と人ほどの大きさの翅虫。


 それぞれオーバリアントでは、前者をローガー。後者をカルードと呼ばれるモンスターだ。


 両者ともさほど珍しくない獣型と飛行型のモンスター。

 レベルが高いわけでもなく、冒険者初心者には少し厳しい程度の強さを持つ。


 対して、ライカのレベル98。それほどのステータスを持つ彼女なら、目をつぶってでも倒せるような弱小モンスターである。


 では、何故彼女は驚いているのか。

 それはモンスターそのものではなく、出現場所にあった。


 ライカがいるのは、ローレスから南にあるドーラという街だった。

 良質の鉱石が取れるという以外、特に際立った特徴がない――普通の鉱山都市だ。


 だが、今そこにモンスターの大群が押し寄せてきていた。


「宗一郎……。私は夢を見ているのだろうか……。私の目には、モンスターたちが城壁を破って、街に侵入しているように見えるのだが――」


 隣に立つ男に話しかける。


 黒髪黒目。顔は卵形で、眼光は鋭く、キュッとしまった顎を閉じていた。全体的には細身だが、ネイビー柄のスーツは決まっており、その分大きく見える。


 しかしポケットに手をしまった姿は、お世辞にも良い姿勢とはいえず、折角の容姿とスーツを台無しにしていた。


 宗一郎はおもむろに口を開く。


「心配するな。オレの目にも同じものが見える。……なんだったら、頬をつねってやろうか?」

「いや、いい……。自分でやる………………………………痛ッ!!」

「どうだ。痛いか?」

「うむ。痛い……」

「なに惚気(のろけ)てんスか、このバカップルは? 非常事態なんスよ、今は」

「わ、わかっている」

「うむ。気を引き締めねば……」


 2人の間に入ったのは、褐色肌の活発そうな少女だった。

 金色の眼を爛々と輝かせ、口元に白い八重歯がこぼれる。燕尾服の裾を長くしたような黒い喪服を纏い、薄紫色のツーサイドアップに、小さな角のようなものが飛び出ている。


 大きな胸をぽよよんと動かしながら、宗一郎の契約悪魔フルフルは睨んだ。


「でも、気持ち分かりますわ。私……モンスターは街の中までは襲ってこないと教わりましたもの」


 不安そうに胸の辺りで杖を握った少女は、城壁を登ってくるモンスターを呆然と見つめている。


 他の人間とは1段も2段も低い背丈に、緑色の瞳。金色の髪は、横にいる姫騎士よりも濃く、そして同じぐらい肌が白い。ピンク色のドレスのような法衣から伸びる手は、小さくて可愛く、足には先がカールした黄金の靴を履いていた。


「クリネ。意見には賛成だが、さりげなく宗一郎の手を取るのはやめろ」

「あら……。これは失礼しました。あまりにたくましい手だったのでつい――」

「つい――ではない! 全く油断も隙もないのだから……」

「油断するお姉様が悪いのです。私は妹であって、恋敵でもあるのですから」

「またそういうことを……。恋など、まだ小さなお前には早い」

「あら――。恋に年齢も性別も関係ないと私は思ってますわ」

「おいおい。ライカもクリネもいい加減にしろ。非常事態なんだぞ」

「そんなこと見ればわかります!」

「そうだ! そもそも宗一郎が悪いのだ。気持ちをはっきりさせないから、妹がつけあがるのだが」


 ……宗一郎の眉根がぴくりと動く。

 気持ちも何も――プロポーズまでしたのに、お預けを食らっているのは宗一郎の方なのだ。


「だああああ! 早くモンスターを倒しに行きましょう! まったく……。まともなのはフルフルだけッスね。みんな、緊張なさすぎッス!」

「フルフルの言うとおりだな」

「うむ。少々ふざけ過ぎたようだ……」

「そうですね。街に入ってくるモンスターはフルフル様で十分ですわ」

「クリネ、何気にひどいッス!」

「行くぞ」


 宗一郎は抜剣する。

 同時に、他の3人の乙女も戦闘態勢に入る。


 そしてモンスターの群の中へと突っ込んでいった。




 宗一郎たちがドーラに到着する5時間ほど前――。


 ローレスト三国に行くため、一路西へと向かっていた一行は、ライカの提案に少し南を目指していた。


 本来であれば、プリシラの力を借りて転送してもらいたいのだが、何故か「アベック、死ね」という謎の言葉を叫ばれ。


『私はドラえもんの「どこでもドア」じゃないのよ! そんな大所帯転送できるわけないじゃない!』


 激しく拒否され、通話を切られた。


 仕方ないので、宗一郎はベルゼバブに連絡しようとしたが、こっちは転送どころか交信も出来ない状態だった。諦めて、再び悪魔を喚び出そうとしたところで、ライカが提案してきたというわけである。


「おお……。あったぞ、宗一郎」


 森の中に分け入り、見つけたのはかなり年代物の石の祠だった。

 巨大な石を積み上げただけの原始的な作りだが、大石と小石を巧みに使ったり、石の種類を変えたりと、高度な設計思想が見て取れる。


 苔の付き方や石の浸食具合からも考えて、200年以上は経っているかもしれない。


「あらぁ。こんなとこにもあったのかしら。【旅人の祠】」


 という声は、フルフルが持つブローチから聞こえた。

 よく見ると、そこには1人の小さな少女が、大きな宝石の中に入っていた。


 褐色の肌に、厚めの唇。薄紫の頭には、足下まで届きそうな2つの縦ロールが揺れている。前髪から覗く瞳は真紅で禍々しく、黒い漆黒のドレスを身に纏っている。


 その少女は宝石の中で寄りかかるようにして、薄く笑みを浮かべていた。


「お前の意見など聞いていないぞ、アフィーシャ」


 ライカの声のトーンがたちまち暗くなる。


「それはゴメンナサ~イ、皇女殿下……。あ、そうだ。女帝になられたのかしらね」

「貴様……!」

「まあ、待つッスよ、ライカ……。アフィーシャたんは祠の事を知ってるんスか?」

「もちろんかしら。中には装置があって、対となる祠に人間を転送することができるの。さすがにどこに転送されるかは知らないけどねぇ」


 フルフルと宗一郎は、アフィーシャが言った事を確認するようにライカの方を向いた。


 少女は軽く咳払いした後、頷いた。


「しかし、何故貴様が知っている? ここは皇族でも限られたものしか知らないはずだぞ」

「そうです。私も初めて知りました」


 と発言したのはクリネだった。


「私が知っているのは、この中にある装置のことだけかしら。場所は知らない。たぶん、私とは別のダークエルフが建てたんでしょうね」

「ダークエルフが建てた?」

「そうよ。それだけじゃないかしら……。シルバーエルフが使う魔法も、人間が鉄を加工する技術も、ガラスを作る方法も、ぜ~んぶ私たちダークエルフが作ったものなのよ」

「でたらめを言うな! そんなこと初めて聞いたぞ!」

「それはそうかしら。……だって、あなたたち人間もシルバーエルフたちも、私たちを迫害したでしょ? その時一緒に私たちの技術まで盗んでいったのよ。『悪魔の技術だぁ』とかなんとか難癖をつけてね、かしら――」

「そんな馬鹿な……」

「嘘なんか言ってないわよ。嘘をついているのは、あなたたちの方……。私から言わせれば、悪魔は人間やシルバーエルフの方なのかしら」


 呆然とする一同の中で、宗一郎だけはさもありなんとアフィーシャの言うことを考えていた。


 現代世界にも、優れた民族を劣等種が迫害することはあった。歴史がそれを証明してくれている。異世界と現代世界を比較することは出来ないが、おそらくオーバリアントでも似たような事があったのだろう。


 宗一郎が考える横で、ライカはアフィーシャを親の仇のように睨んでいる。毒を盛ることを指示したのはマトーだが、唆したのは目の前のダークエルフの少女。仇といっても過言ではない。


 ――アフィーシャを連れてきたのは、早計だったかもしれんな……。


 胸中で呟きながら、怒りに震えるライカの肩に手を置く。


「ライカ、一旦怒りを静めろ。どうせそこにいては、アフィーシャは何もできん」

「わ、わかっている。しかし――」

「連絡が取れないオレの従者のことも気になる。少し急がねばならない」

「宗一郎がいうなら……」


 ライカはようやく身を引いた。


 一行は祠の中へと入っていく。


「まだベルゼバブ様に連絡が取れないんスか、ご主人」

「ああ……。あいつの実力を考えれば、あまり心配はしていないが」

「フルフル様と同じ悪魔だと伺いましたが、どんな方なのですか?」


 尋ねたのはクリネだ。

 クリネとライカには、すでに宗一郎の口から、異世界から来たことと、フルフルが悪魔という事も告げている。


 初めこそ驚いていたが、特に疑心暗鬼になることもなく、宗一郎たちの事を信じてくれていた。


「うーん。すっごく怖い方ッス。はっきり言って、クリネとライカは覚悟した方がいいッスよ」

「そんなに恐ろしい方なのか?」

「恐ろしいといえば、そうなんスけど……。正直、今言えるのはそこまでッス。まあ、会えばわかるッスよ」

「これか……」


 辿り着いた先にあったのは、泉だった。といっても、ひと1人が入れるほどの大きさしかない――本当に小さな泉だった。


「なんか薄々予感はしてたッスけど、まさか本当に『旅〇扉』とは……」

「それも……そのなんだ。『げぇむ』というヤツの用語なのか?」


 不慣れな言葉を使いながら、ライカは尋ねた。


「そッスよ。説明もさっきアフィーシャたんが言ったのとほぼ変わらないッス。この中に入るんスよね?」

「そ、そうだ」

「え? 泉の中に入るのですか? お姉様、クリネはその――――」

「心配するな。一瞬だけだ」

「おやぁ……。もしかしてクリネたんは泳げないッスか?」

「そ、そんなことはありませんよ。……ま、まま毎日、水浴びの時に10秒顔を付ける練習を――――あっ!」

「うひひひ……。いいこと聞いたッス。じゃあ、今度フルフルが教えてあげるッスよ。手取り足取り――」

「プローグ・レド!」

「ぐあひぃいいいいいいいい!!」


 クリネの三級炎魔法がフルフルに突き刺さる。


「ちょ! クリネたん! 最近、フルフルの扱いが過激になり過ぎッス!」

「すみません。フルフルって聞くと、自動的に魔法をぶちかましたなるのです」

「無慈悲すぎるッス!!」

「お前たち、いい加減にしろ」

「そうだぞ。クリネまで……」


 女帝とその婚約者のコンビに怒られ、クリネはしゅんと肩を落とした。


「ともかく行こう」

「うむ。私の後に付いてきてくれ」


 先に泉に入ったのは、ライカだった。

 水しぶきを上げると、そのまま泉の中に消えてしまう。


 さらにクリネ、フルフルと続き、最後に宗一郎が入った。


 先ほどまで騒がしかった祠は途端にしんと静まり返った。


キャラ表を作ってほしいという依頼を、このエピソードを書いていた時に

受けまして、ちょっと人物描写を改めて描いて見ましたが、

いかがだったでしょうか?


依頼をいただいた方にもお断りさせていただいたのですが、

今のところキャラ表を作る予定はございません。


ちょっとその作業をすると、毎日投稿のペースが守れないうえ、

最近商業のお仕事も重なって立て込んでいて、作る時間があるぐらいなら、

1話を積み重ねていきたいと考えています。


あまりこういうことを作者からいうと催促しているように聞こえるかもしれませんが、

もし現代魔術師のキャラを気に入ってもらって、イラストにおこしてみたいという方がいらっしゃるのであれば、どうか今回の描写を参考にしていただければ幸いです。


明日も18時になります。

新章よろしくお願いします!

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