表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第1章  帝国最強編
9/330

第2話 ~ さあ……。祝砲だ……!! ~

異世界の1戦目です。

「ぶはっ」


 むせた。


 大きく息を吐き、大きく胸で吸う。

 それを何度も繰り返す。


 その空気に血の臭いが混じっていた。


 はたと辺りを窺う。


 視界に飛び込んできたのは、人の死体――それが地平の彼方までとはいかないが、広い平地を赤く埋め尽くしている。


 皆、資料でしか見たことのないような西洋風の甲冑を着込んでいる。他にも両刃の剣や矢が墓石のように地面に突き刺さっていた。


 死肉を漁る猛禽の類いはいないが、戦場であることに疑念の余地はなかった。


「異世界に来たのか?」


 疑問があるとすれば、ただその一点だった。


 ふと大きな気配を感じて、振り返る。


 見た事もない化け物と、鎧を身につけた綺麗な少女が目に飛び込んできた。


 思わぬものを見てしまい、さしもの宗一郎も絶句する。

 もう少し心の準備が欲しいところだ、と心の中でひっそりと注文を付けた。


 よく見れば、向こうも同じように驚いているらしい。


 女を手玉に取りながら、今にも下品な笑い声を上げそうな化け物は、神妙な顔で宗一郎を見つめている。その舌に絡め取られた少女もまた同じだった。


 たった今気付いたが、宗一郎の周りだけが焼け焦げていた。

 2つの存在が目を剥くほどの現れ方をしたのは、想像に難くない。


 お互い見合った状態で、五秒の無駄な時間が過ぎ去った。


 ――先手を取るなら、今だな……。


 そう判断した宗一郎は、スーツについた埃を払いながら立ち上がった。


「質問をしよう……」


 言葉について気にはなったが、その時はその時だ。

 宗一郎は落ち着きを払い、一言尋ねた。


「ここはどこだ?」


 突如、戦場に闖入した男の第一声を聞いて、化け物ともども数度瞬きをした。

 質問に驚いたのか、それとも宗一郎の身体からにじみ出る不遜な雰囲気に飲まれたのかわからないが、両者とも息を飲む。


 そしてその後の1人と1匹の行動は違った。


「御仁! 何者かは知らぬが逃げられよ!」


 宗一郎の姿から戦力を分析したのかもしれない。

 少女ははっきりと退却を指示した。


 対して、化け物は少女を舌で絡め取ったまま、大きな鎚を振り上げ、迫ってきた。


 無慈悲に宗一郎の頭上へと振り下ろされる。


 ガッギャン!


 鎚は大地を抉り飛ばした。

 大量の土や岩が空へと吹き飛ばされた。


 その威力は明らかに人間を粉微塵にできるものだった。


 しかし――――。


 鎚が振り下ろされたのは、宗一郎が立っていた数メートル横だった。


「??」


 化け物は怪訝な顔を浮かべる。

 確かに捉えたはず――そんな表情をしている。


「もう一度聞こう、化け物。……ここはどこだ?」


 宗一郎の態度も声音も変わっていない。

 横に空いた穴など忘れたかのように平然と質問を繰り返した。


「きゃ!」


 可愛い悲鳴が上がった。

 邪魔だと言わんばかりに、少女を投げ捨てる。


 そして鎚を横降る。


 だが、今度も宗一郎を捉えることは出来ない。


 かと思えば、化け物の背後に回り込み、甲冑少女の膝下に手を入れ、胸を支えるようにして抱いていた。


 いわゆるお姫様だっこというヤツである。


「怪我はないか?」

「あ……。はい……」


 上から見下げてくる宗一郎に、甲冑少女は素直に返事する。

 その顔は少し赤くなっていた。


 宗一郎はそっと地面に下ろす。


「名前は?」

「ら、ライカだ。……ライカ・グランデール」

「オレの名前は杉井宗一郎という」

「すぎい、そう…………」

「お前に聞きたい。ここはどこだ? ニホン、アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、アフリカ! 1つでも聞き覚えがある単語はあるか?」

「そんな質問をしている場合では――――」


 ライカの言うとおりだ。


 化け物は体格に対して小さな羽根を羽ばたかせ、地面から1メートルほど浮き上がると、器用に方向転換した。

 宗一郎たちの方に身体を向けると着地する。


「チッ! 確認どころではないな……」


 舌打ちしながら、化け物を睨む。


「おい。ライカ。……あれはなんだ?」

「モンスターだ!」

「モンスター?」


 いきなり現代の言葉が飛び出てきて、宗一郎は眉間に皺を寄せた。


「レベル89の大型モンスター《スペルヴィオ》だ。あいつのせいで、私の仲間たちが全滅した」

「レベル?」


 ふと宗一郎はあることに気付いた。


 視界の右下に何やら数値らしきものが浮かんでいる。

 手で触ろうとするものの掴めない。

 まるで眼球に直接投影されているように、空中に浮かんでいる。


 体力  : 14

 魔力  : 05

 レベル : 001


「なんだ、これは? レベル1だと?」

「レベル1?」


 ライカは弾かれるように身を乗り出した。


「御仁! 助けてくれたことには感謝する。しかし、やはり今すぐ逃げられよ!」


 ライカは立ち上がると、地面に落ちていた武器を拾い上げる。

 宗一郎を守るように、スペルヴィオとの間に立ちふさがった。


 ――何かの魔術……。いや、呪術の類いか…………。なら少し厄介だな。


 宗一郎は意に介さず、突然右隅に記載された数値の経緯を探る。


 そうしている間に、スペルヴィオの口内が赤黒く染まった。


「しまった! ブレスだ! 逃げよ、宗一郎殿!!」


 ライカは宗一郎の身体を押す。

 だが、戦場に現れた闖入者は微動だにせず。


「フルフル、いるか?」


 と呟いた。



「は~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い」



 天空から声が聞こえたと思えば、黒い影はスペルヴィオの脳天に突き刺さった。


 ブレスを放つ直前だった化け物は、自分の炎を飲み込む。

 口内で炸裂した炎は、鼻や耳から噴き出し、次いで煙を上げた。


 鎚を取り落とし、嚥下した喉を抑える。

 餅をつまらせた老人のようにのたうち回った。


 現れたのは、薄紫の髪の少女だ。

 褐色の肌に、黄金の瞳。スペルヴィオほどではないが、小さな角を頭に生やしている。


 唐突な展開に、ライカはただただ狼狽えるのだ。一方、宗一郎は全く表情を変えず冷静だった。


「いきなり気持ち悪いヤツの頭を踏んづけちゃったッスけど、取り込み中だったッスか?」

「一応ナイスタイミングだと褒めておこう」

「おお! ご主人はフルフルを褒めるなんて。これはもしかして恋愛フラグが立ったスかね!? 好きです! ご主人」

「悪魔には興味はない」

「ひ、ひどいッス! 告白して1秒でフラれたッス! フルフル、結構本気なのに……」

「宗一郎殿……。こちらの方は?」

「うおお!!!」


 宗一郎が紹介する前に、フルフルはライカに飛びついていた。


「すごいッス! マジヤバッス! 本物の姫騎士じゃないッスか? 写メ撮っていいッスか?」


 フルフルは懐からスマホを取り出す。


「あ。そうそう……。このガラスを見るッスよ。で、ポーズはこう……」

「な……何故、ダブルピースなんだ?」

「いいじゃないッスか。ハッピーハッピーなんスから」


 などと訳のわからないことを言いながら、フルフルは写メを撮る。あまりの悪魔の気軽さに、ライカは疑問を投げかける暇もない。


 フルフルは即座にツゲッターに「姫騎士なう」と投稿する。

 もうなんでもありだ。


「ああ! あとッスね。いつもの台詞お願いできますか?」

「い、いつもの台詞?」

「台詞っていえば、アレっスよ。……クッコロっスよ」

「クッコロ?」

「『くっ……殺せ!』じゃないッスか。常識ッスよ」

「な、なんでそんな物騒な言葉を言わなければならないのだ」

「は~い。またレンズ見るッスよ」


 今度、フルフルは距離を置き、撮影モードにしてスマホを構える。


「え? え? 一体なんなのだ! 君は!?」

「は~い。よーいスタート」

「え? な、なんだ? くっ……殺せっと言えばいいのか?」

「そうそう! そうッス! はい、どうぞ!」

「く……。くっ……殺せ!」

「よしよし! いいッスよ! よっしゃあ! 本物の姫騎士の『くっ殺』ゲット! これでフォロワー爆上がりッスよ」


 フルフルがスマホをフリックしていると、宗一郎はおもむろに取り上げた。


 スマホの両端を掴むと――。



「いい加減にしろおおおおおおおおおおおおおお!!」



 真っ二つに折った!


「ぎやあああああああああああああああああ!!!!」


 フルフルは顔面蒼白になりながら、末期の悲鳴のように叫び声を上げる。


「な、なにするんスか!」

「調子に乗りすぎだ! この女には後で色々聞かねばならん。丁重に扱え」

「意識が高いママが子供のゲームを壊すみたいに、スマホを折るなんてご無体ッス!」

「意識が高くて結構だ。散々、お前が言ってることだしな」

「うう……。クラウドは圏外なのに……」


 そもそもネットも通っていないだろう、というツッコミを宗一郎は控える。


 ようやく落ち着きを取り戻した時、3人に大きな影が被さった。


 同時に振り返ると、顔を真っ黒にしたスペルヴィオが、目を真っ赤にして怒り狂っていた。

 鎚を持ち上げると、宗一郎たちに向かって振り下ろした。


 再び地面がえぐれる。


 だが、宗一郎たちは全く無傷だ。

 不思議な現象に、ライカは目を丸くするのみだが、宗一郎もフルフルも全く表情を変えない。それどころか、薄く笑みを浮かべていた。


「いやー。なんかこっちもよく見ると、死にゲーに最初の初見殺しで現れそうなボスみたいッスね」

「お前の親戚みたいなもんだろ?」

「いくらご主人でも、今の言葉は聞き捨てならないッスよ。こんな醜いヤツ、フルフルの親戚にはいないッス」

「それはすまなかったな」

「で――? どうするッスか? 姫騎士と……まあ、オークとくくるには多少デカいッスけど……。どちらに付くッスか?」

「オレの話を聞いてくれそうな方だ……」

「理解したッス。……フルフルがやるッスか?」

「異世界での最初の一戦だ。華々しく行こう……」


 宗一郎は一歩前に出る。

 そしてその身体に炎が灯る。瞬時に、宗一郎は炎にくるまれた。


 熾天使カスマリムの力だ。


 ゆっくりとスペルヴィオに近づいてくる。

 後ろの方で、ライカが「危険だ!」と声をかけるが、一切を無視。

 さらに絨毯爆撃のように振り落ちてくる鎚をかいくぐると、すぐ目の前に立つ。


 何十回と攻撃を浴びせながら、一度も当てることができなかったスペルヴィオは、「ひぃ」と小さく悲鳴を上げる。濁った緑色の皮膚は心なしか青くなっているように見えた。


「光栄に思うがいい。モンスターよ。……お前は、現代最強魔術師であるオレの――異世界での最初の犠牲者だ」


 とん、と軽い音を立てて、大きく突き出された太鼓腹に手を置く。


 炎の御手に触れられた腹は、伝播した熱に焼かれるかと思いきや何も起こらない。だが、しばらくして体内が赤黒く発光をはじめる。


 スペルヴィオの顔には大量の汗が浮かぶ。すでに赤い目の瞳孔は開き、痙攣した手から鎚を取り落とす。


 徐々に赤黒い光は、蛍光色へと変わり、腹はおろか全身が膨れあがっていく。耳や目、鼻からは小さく炎を吐き出していた。


「さあ……。祝砲だ……!!」


 宗一郎が言った瞬間――。



 爆発した!!



 体内で暴れ回った炎は、外へと飛び出し炸裂する。

 スペルヴィオの皮膚が四方に飛び散るが、炎を纏って消し炭に変わった。


 後に残ったのは、黒い影……。

 モンスターが大きく諸手を挙げたような形は、まるで降参を宣告しているようであった。


 爆風と爆煙をものともせず、炎の化身となった宗一郎は翻る。


 纏った炎を解除すると、スーツに手を突っ込んだまま嘲笑を浮かべた。


「やや下品な花火だったな……」


 あれほど派手で不気味な祝砲にもかかわらず、宗一郎は満足していない様子だった。。


「あ、あなたたち…………」


 少し同情を禁じ得ないほどの惨い爆散シーンを見て、ライカは声を上擦らせる。


「改めて名乗っておくか……。オレの名前は杉井宗一郎」

「フルフルっス! よろしくッス!」


 ポケットに手を突っ込んだまま無礼極まりない姿勢で挨拶する。その一方で、フルフルは敬礼をして、可愛げにウィンクをした。


「さて聞かせてもらおうか、可愛い騎士殿……。この世界のすべてを……」


3日目の日間ランキングで170位でした。

ブックマーク、評価いただいた方ありがとうございます。

PVも前作含めた過去最多に並ぶ「6310」と、多くの方に読んでもらい、

重ねてお礼を申し上げますm(_ _)m


お礼といっては何ですが、本日もう1話挙げさせていただきます。

21時からになりますので、今しばらくお待ち下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ