第34話 ~ でかい……ぶっかけ…………閃いたッス! ~
第3章第34話です。
ちょっと短いですが、よろしくお付き合い下さい。
杉井宗一郎の侵略戦争。そしてマトーの暴走事件から、2週間が経っていた。
「まったく……。前皇帝には困ったものだ」
城の客室でくつろいでいた宗一郎は、その時のことを思い出しながら、ため息を吐いた。ソファに寝っ転がり、スーツをだらしなく着崩し、テーブルに並んだチェスの駒を動かす。
「まだ、ブツブツいってるんスか? 2週間前、ご主人が何を言ったか再現しましょうか?」
結婚しよう。ライカ…………。
「コピペはダメだといったのは貴様じゃなかったか? フルフル」
「時と場合によっては効果的ッスよ」
ニヤリと笑うと、宗一郎は顔を少し赤くした。
許されるなら、2週間前に戻りたい。
ライカには申し訳ないが、本当にその場の雰囲気とノリで応えたことは否めない。
最低なヤツと罵ってもらって結構だが、事実なのだ。
すべては前皇帝の企みだ。
それにライカ、ブラーデル、ゼネクロ、クリネまで加わり、さらにマトーまで利用した。完全に一本とられたのだ。マトーは愚帝であったが、前皇帝はまさしく悪党だった。
「ああ! もう! 本気で時の魔術の研究をしてやろうか?」
「むははは……。やめておいた方がいいッスよ。どんな代償があるか。よし。チェックっス」
フルフルは駒を動かした。ちなみに2人がやっているのは、現代世界でのルールのチェスである。駒は自作だ。
「それにご主人は、ライカの事を愛しているんでしょ?」
悪魔に指摘されて、宗一郎の顔が一気に真っ赤になる。
茹で蛸みたいになったご主人を指さし、フルフルは爆笑した。
「だったらいいじゃないスか? ……両想いというのは恋愛において最高の結果ッスよ」
「し、しかしだなあ……」
「ああ……。あるみ様のことを心配してるッスね」
ビクリ、と宗一郎の肩が動いた。
「大丈夫ッスよ、ご主人。あるみ様は了見の狭いお方がじゃないッスよ。ビンタの1発、2発ぐらいで済むッスよ。――加えて、銃弾の1発、2発は飛んでくるかもしれないッスけど……」
「怖いことをいうな!」
まあ、殺されても仕方がないことはした気がする。
――あんな、約束までしたしな。
異世界から必ず戻ってくる――と……。
それは暗に「待っていてくれ」という言葉だ。何を待っていろ、というのか多解釈があるだろうが、男と女であれば自ずと決まってくる。
一生帰らないという考えもあるが、宗一郎の意識が許さなかった。
「それよりもいいんスか? ……戴冠式にでなくて」
事件から2週間のこの日。
城の中にある聖堂では、戴冠式が行われていた。
女神プリシラの洗礼を受け、帝冠を抱く者の名は――。
ライカ・グランデール・マキシア。
マキシア帝国が始まって、初の女帝の誕生である。
「どんなに取り繕ったところで、オレが帝国に混乱をもたらしたことに間違いない。恩赦によって書類上の罪は消えたが、人の心証とは別問題だ。犯罪者が初の女帝の戴冠式にノコノコ参加するわけにはいかない」
宗一郎はキングを動かし、逃げる。
「そんな風に考えているのは、帝国広しといえどご主人ぐらいだと思うッスよ。……皇帝に推したいって話もあったってクリネが言っていたッス」
「それこそナンセンスな話だ。……女を皇帝にするだけで大騒ぎするような国だぞ。その上、帝国国民でもなければ貴族でもない異世界の人間を、どうやって皇帝に祭り上げるというのだ」
「そんなもんスかねぇ……」
「そんなものだ」
2人は盤面を「むむむ」と睨んだ。
フルフルは視線はそのままに真剣な表情で、主人に声をかける。
「ところで、ご主人……」
「なんだ?」
「溜まってないスか?」
「は?」
「ほら。……だって、まだライカとしてないんでしょ?」
「おま――」
宗一郎の顔がまた朱に灯った。
「大丈夫ッスよ。……まだ結婚前だしぃ。他の女と1発やっても問題ないッスよ」
「こ、この淫乱悪魔がぁ……」
「ハリウッド映画とかでもあるじゃないッスか。結婚式の前日とか男友達とかで馬鹿騒ぎして、風俗とかいって暴れ回るヤツ。……1度でいいから乱パってやってみたかったんスよ」
宗一郎はいきなりチェス盤が載ったテーブルごとひっくり返した。
盛大な音を立てて、駒が床に落ちる。
跳ね上がった駒の一部が、見事にフルフルの両目に突き刺さった。
「目がぁ、目がぁああああああああ!」
どこかのロリコン大佐みたいな迫真の演技で、フルフルは悶え苦しむ。
宗一郎は立ち上がる。着崩していたスーツをしっかりと着こなし、部屋の入口の方に足を向けた。
「はれ? ご主人、どこへ?」
「そろそろ行こうと思ってな」
「うわーん。ちょっと待って下さいッスよ。さきっちょ! 先っちょだけでいいから、入れてほしいッス! ご主人はともかくフルフルが溜まって――」
「やかましい。淫乱悪魔! どこぞの馬の精液でも漁ってろ」
「な、なんてこと言うッスか! 馬の精液……でかい……ぶっかけ…………閃いたッス!」
「閃くな!!」
バシーン、と薄紫色の頭をはたいた。
2人は口論しながら、そっと扉を開け、部屋を出ていった。
なんかこのやりとりは、ホッとするw
次話は第3章ラストパートです。
本日18時に更新です。よろしくお願いします。