表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/330

第31話 ~ 故に我々は敵だ。世界の敵なのだ ~

第3章第31話です。

よろしくお願いします。

 豪快な頭突きだった。


 蜘蛛とマトーは両方悲鳴をあげ、仰け反る。

 マトーは槍を取り落とし、溜まらず1歩、2歩と退く。


 宗一郎は再び剣を取ると、すかさず反撃する。

 跳躍し、マトーの頭を狙った。


「なめるなよ!!」


 頭を抱えながら、マトーは前肢を動かす。

 宗一郎の剣を止めた。三度、2人は睨み合い、そして押し合いになる。


 マトーは赤い瞳を烈火に燃やし、叫んだ。


「何故だ!? 何故、貴様なのだ!!」

「なにぃ?」

「何故、皇帝陛下はお前を選んだのだ?」

「陛下……。選ぶ?」


 宗一郎は気付く。


「お前、陛下との会話を聞いて……」


 いや、違う。

 あの時、マトーは出席していなかった。

 おそらく聞いていたのは、ダークエルフの方だろう。


「だから、どうだというのだ。……陛下には先見の明があったのだ。お前がいつか兵を裏切り、民衆を虐げる愚帝になるのではないか、と――」

「それもこれも、貴様が現れたからだろうが!!」


 マトーの力が増大する。

 ベヒモスによってブーストした宗一郎を押し切る。


 溜まらず、弾かれた宗一郎は後退し、マトーから距離を置いた。


「俺とて、一領の君主だ。民のために力を尽くすという信念に、揺るぎはない。今にして思えば、帝国を破壊するという野望も、アフィーシャによって吹き込まれた甘言かもしれぬ。……しかし、お前も見たはずだ!!」

「なんだと?」

「外征がなくなり、危機感がなくなった兵士を! 懐に入れる金のことしか考えていない家臣を! 領地を放り出し、放蕩を続ける君主を!! モンスターに対して、抜本的な解決策を見いだせない世界を!!!!」

「…………」

「俺は……。俺はこの世界を腐らせ、そして腐らせていく者を許せぬ!」


 突然、始まったマトーの独演……。

 沈黙した戦場で、ライカも、ロイトロスも、兵士たちも、耳を傾けた。


「その最たる例が、前皇帝陛下だ! 外征を中止し、かといえばモンスターに対し反抗することもなく、軍事費は年々下がっていく一方だ。それでも内政に邁進するかと思えば、家臣の引き締めをすることもなく、政治の腐敗を見逃し続けた。帝国は! 最強を誇ったマキシア帝国は、前皇帝陛下にすでに破壊されていたのだ!」


 力一杯、拳を握り、大きな声で訴えた。

 そしてなお続ける。


「俺が破壊するのではない! 取り戻したいのだ! かつて栄華を誇った帝国を!最強と言われた国を、今一度取り戻したいのだ!!」

「しかし、マトー殿! あなたは間違っている! あなたがした事は単なる――」

「黙れ! 小娘!! 俺をこうさせたのは、マキシアの血を引く者のせいだと言っているのだ!」

「皇族の人間として反省はする! しかし、あなたがやったことは間違いなく犯罪だ!!」


 ライカの反論に、周りにいる兵士も口々に異を唱える。

 対して、マトーはさらに罵声を浴びせ、周囲は騒然となった。


 だが――。


「ふふ……」


 突然、笑声が一同の耳朶を打つ。

 帝国のあり方を決める野外の議場で、場違いともいえる笑い声が響き渡る。


「あはははははははははははははは……」


 腹を抱え、一種狂気じみた笑声を上げたのは、宗一郎だった。


「な……なにがおかしい!」

「いやいや……。これが笑わずにいられるものか」


 宗一郎は涙を払いながら言った。


「よもや……。貴様の考えに共感してしまうとはな」

「そ、宗一郎……?」


 思わぬ言葉に慌てたのはライカだった。


「事実ではないか? 現にオーバリアント最強の国といわれながら、たった1人の人間の侵略すら止められなかった」


 ロイトロスと兵士たちは息を呑む。


「領地経営を半ば放棄し、ただそこで取れた農作物を数え、ピンハネするしか脳がない家臣……」


 ぐう、とマトーが唸る。


「モンスターのいる世界が当たり前に受け止め、順応していく国」


 ライカは胸に置いた手をギュッと握りしめた。


 宗一郎はまた声を上げて笑った。


「一体、マトーが言ったことに何の間違いがあったのだ?」


 ……………………………………………………………………………………。


 重い――実に重い空気が、周囲の人間たちにのしかかった。

 暗い顔で俯き、自然と構えていた武器を下げる。


 宗一郎はマトーに向き直る。


「だから、世界を取り戻すか……。なるほどな。なんとも――」



 “意識の高いことだ……”



 いつも自分に向けられている言葉を、マトーに言い放った。


「オレにこんなことを言わせたのは初めてだ。誇っていい。お前は、ここにいるものの中で、もっとも気高く正しい」

「貴様……。一体何を言いたい?」


 宗一郎は肩を竦める。


「言葉通りだ。……だが、故にお前とオレは対立する」

「…………」

「意識が高い者同士だからではない。オーバリアントを破壊する。共有の願望を持ち、決して人には頼らないと覚悟を決めているからこそ……。お前もオレも自身の手で成し遂げたいと思っているからこそだ。違うか?」


 マトーは長い沈黙の後。


「かもしれぬ……」


 肯定した。


「そうであろう。こんな傲慢でわがまま――子供じみた考えで、世界を変えようとしている。誰が理解する? 共感しようとする? 故に我々は敵だ。世界の敵なのだ、マトー……。そしてオレとお前も敵同士なのだ」


 “勇者(ヒーロー)は1人しかいらない。1人だからこそ勇者(ヒーロー)でいられる。”


「永遠に敵を作り続け、ゆくゆくは間違った世界を壊そうとする。……望む者がいる限り。間違った世界(オーバリアント)を正そうと願う人間がいる限り、勇者は戦い続ける」

「もうよい、勇者……」


 マトーは声音に怒気はなかった。


「お前の言葉は気持ち悪い。今さら、ご託を並べる必要はあるまいよ。……貴様がいうように、オレとお前は敵だ。それだけで良いのであろう」

「確かに……。異世界に来て、初めての理解者がいたのでな。ついお喋りになってしまった」

「続きをしよう。その口を塞いでやる」

「ああ……。お前と語らう事が出来なくなるのは、少々惜しいがな」


 同時に構える。

 今から戦うというのに、両者の表情は笑っているように見えた。


 マトーは10本の足を石畳に突き刺し――。

 宗一郎もまた地面を蹴って、走り出す。


 2人の距離はあっという間に縮んだ。


 マトーは前肢を振り上げる。

 全身全霊の一撃。残像すら残さず、ただ鋭く空気を切り裂く。


 とった!!


 マトーは思った。


 宗一郎は――――かわした。

 左足を軸足にして、キュッと腰を回転させて半身になる。


 顔面に風圧を受けながら、その体勢から1歩右足を踏み込んだ。


 一閃――。


 最速の動作で斬り合った2人が止まった。


 宗一郎は斬り上げた姿勢で。

 マトーは手を前に出し、前肢を伸ばした状態で固まっている。


「み、見事……」


 呟いたのは――マトーだった。


 縦に真っ二つになった胴がずれる。

 どす黒い血が噴水のように吹き出し、宗一郎の顔を濡らした。


 2つに割れた巨体が、重い音とともに石畳に倒れる。


 一瞬、間があった後……。


 周辺は割れんばかりの歓声に包まれた。


マトー、ご臨終。

そこはかとなくいいヤツで終わってしまいましたが、

いかがだったでしょうか?


さて、第3章もクライマックスです。

お楽しみ下さい。


明日も18時更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
[良い点] 自分はロードス島戦記からファンタジー、ラノベにハマったので 完全なる悪ってあんまり好きじゃないです まあ、完全懲悪の話自体は好きですがw 悪には悪の理由や理想があり それがマイノリティ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ