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第28話 ~ 俺の愛を受け入れる気になってくれたか? ~

第3章第28話です。

よろしくお願いします。

 ――一刻も早くアフィーシャと合流せねば!


 ダークエルフの少女を脳裏に浮かべながら、マトーは帝都内を走っていた。


 次第に空は分厚い雲に覆われ、帝都は闇に覆われようとしている。

 湿度が上がり、急に肌が冷えてきた。


 マトーはそんな天気の変化を気にせず、魔法を駆使しながら帝都を駆け抜けていく。戦のために戒厳令を敷かれた帝都は、薄気味悪いほど静まり返っていたが、物陰や建物の窓から人の気配がした。


 マトーは焦っていた。顔には大量の汗をかき、隈取りは剥がれ、油で固めた髪はざんばらとなって揺れている。着物も、重い鎧も走りながら脱ぎ去り、すでに皇帝と自ら称した男の姿はなかった。


 街を警邏していた兵士が誤って追いかけるほど、マトーは変貌していた。


「くそ!!」


 悪態を絞り出す。

 兵士を撒こうと、裏路地に入ろうとした瞬間、何かにぶつかった。


「きゃっ!」


 女の悲鳴が聞こえた。

 見ると、白に近い薄紫髪の少女がお尻をペタンと付けて倒れていた。


「アフィーシャ!」


 マトーは叫ぶ。

 間違いない。オーバリアント広しといえば、こんな変わったドレスを着ているエルフの女など2人といるはずがなかった。


 アフィーシャは一瞬、ぽかんとマトーを見つめる。

 どうやら向こうも走ってきたらしく、額には汗が浮かび、ドレスには引っ掻いた後があった。


「もしかして、マトー……?」


 小首を傾げた。

 まだ信じられないらしい。


 その時、後ろから兵士が迫った。


「いたぞ! 怪しいヤツめ!」

「うるさい!」


 マトーは炎魔法を呪唱すると、兵士2人を薙ぎ払った。

 強烈な魔法にたちまち兵の【体力】は削られ、即死する。


 皇帝おとこが自国の兵をあっさりと倒す様を見て、アフィーシャはようやく確信を持てた。


 マトーは振り返り、細腕を抱く。


「お前、どうしてここに?」

「あ、あなたの屋敷で、勇者の下女に襲われて……。あなたこそどうしてここに?戦争は? 侵略者はどうなったのかしら?」

「それはもうよい……。それよりも逃げるぞ」

「逃げるってどこに逃げるのかしら?」

「どこか遠くだ。あの勇者ばけものが及ばない場所――であれば、国外でも良い。亡命してでも、私は……」

「じゃあ、帝国をぶっ潰すというあなたの目的はどうなるのかしら?」


 アフィーシャの声は、井戸の底の水のように冷たく沈んだ。


「再起を図り、いずれ私は戻ってくるつもりだ。だが、アフィーシャ……。お前が望むのであれば、2人で静かに暮らすという選択肢もある。……俺はお前さえいてくれれば、それで――」


 エルフの少女はおもむろに立ち上がった。

 膝に付いた汚れを払い、マトーに向き直る。


「陛下……」


 と両手を伸ばす。


「おお……。やっと俺の愛を受け入れる気になってくれたか?」


 マトーは目頭を熱くしながら、アフィーシャを抱きしめた。

 少女は唇を差し出す。


 濡れそぼった小さな唇を見ながら、マトーはゆっくりと顔を近づけた。


 柔らかな感触が触れる。

 同時に、2人は激しく求め合った。

 お互いの口を食むように、何度かお互いの前歯を鳴らして情欲をぶつけ合う。

 すでに息の限界が来ているにも関わらず、マトーもアフィーシャも身体を、頭を引き寄せ、さらに求める。


 耐えきれず、マトーは大きな舌を入れようとした。

 瞬間、何やら気色悪い感覚が自身の舌を伝った。何事かと思い、弾かれるようにアフィーシャから離れる。


 口内に何か蠢く感触があった。


「かは! はっ!」


 マトーは蹲り、吐き出そうとするも、逆にそれは食道を降りていく。

 息が詰まる。喉を這い回られ、言いしれぬ痛みが襲う。なのに、悲鳴を上げることすら出来ず、激痛は脳にまで達し、頭を抱えた。


「あふぃ…………。あふぃ、ゃ……」


 手を伸ばし、アフィーシャに助けを求めようとする。

 当の少女は。


「うふふふ……」


 薄気味悪い笑みで、這い蹲る皇帝を見下ろしていた。


「言ったかしら? 陛下……。私の望みは帝国の破壊。しいてはオーバリアントの滅亡……。静かに暮らす? 悪くないけど、そんなのつまらないかしら」


 そっとマトーの顎に手を置き、狂気に彩られた赤い瞳を燃え上がらせる。


「私の望みは、破滅。帝国の、オーバリアントの……そして、あなたと私も含めた自殺なのよ」


 瞬間、マトーの身体に変化が起こる。


 下半身が突如、大きく膨れあがった。脚衣は一瞬にして弾け、肉が葡萄のように膨張していく。マトーは涙と涎を垂らし、半狂乱になりながら自分が変わっていく様を見つめていた。


 痛みはない。だが、いっそ気絶してしまいたいと思えるほどの醜い姿に、尚も首謀者である少女に助けを求め続ける。


 肉は小さな平屋ぐらいの大きさまで膨れあがると、次第に形を帯びてきた。


 大きな涙滴型の腹部。それに対して短めの頭部。そこには無数の赤黒い複眼が、点々と付いていた。細く鋭利な10本の足を持ち上げ、立ち上がると、目の下から牙を剥きだした。


「な、なんだ、これは――」


 ようやく声を絞り出したマトーは、己の変わり果てた姿を見つめる。

 裸身は血が抜けたように青ざめ、下半身は完全に巨大な蜘蛛の化け物と一体化していた。


「ステキかしら……。マトー」


 2メートルの化け物となったマトーを見上げ、アフィーシャは目を細める。


「素晴らしい! 力が漲ってくるようだ!」

「そう。じゃあ、頑張って……。私の可愛い陛下」

「ふふふ……。ふははははははははは……」


 高笑いを浮かべながら、蜘蛛の化け物は表通りに現れる。

 その地響きを聞いて、警邏の兵士が集まってきた。


「どけ! 雑魚ども!!」


 前肢を振り上げると、鎌のよう振り払う。

 兵士の鎧はおろか、肉と骨を引きちぎり、胴体をぶった斬る。


 暗闇が降りた帝都に、血しぶきが舞う。

 家の中からその光景を見ていた家族が揃って、悲鳴を上げた。

 それを見て、マトーは黙れという風に、家屋ごと薙ぎ払う。真っ二つになった家は一瞬で崩れ、人の気配が消えた。


「凄い! これなら勇者に勝てる」


 自国の兵士を、民草を殺したというのに、マトーは自身の力に酔いしれるだけだった。


 マトーは元来た道に向き直った。


 自分が得た力を確信に変えるため。


 次期皇帝は強い殺意を纏い、勇者を探して前進を始めた。






「くそ! どこへ行った!」


 眉間に皺を寄せ、宗一郎は吐き捨てた。


 完全に見失った。

 腐っても帝国国民といったところか。地の利はマトーにあった。

 諸侯の家柄とはいえば、マトーは遊び人としての側面がある。違法な風俗店が建ち並ぶ裏路地には詳しいのかもしれない。


 対して宗一郎は1ヶ月ほどしか帝都に暮らしたことがない。

 マルルガント周辺の地理には詳しいが、北側の地域はさっぱりだ。


 ロイトロスのところに戻って、兵を組織してもらい探す手はずを整えてもらった方がいいかもしれない。


「およ? ご主人じゃないッスか?」


 聞き慣れた声が、上空から聞こえた。


 悪魔の姿になったフルフルが、建物と建物の狭い隙間から顔を覗かせていた。


「おまえ! その姿――!」

「あ。しまった」


 と言って、美少女の姿になり、宗一郎の目の前に着地した。


「オレの命令無しに悪魔になるなと言っているだろうが」

「ごめんッスよ。やんごとなき事情ってヤツっス」

「やんごとなき事情……」


 訝しげに従者を見つめる。


「はいッス。アフィーシャたんを見つけたッスよ」

「あふぃ……なんだと?」

「ダークエルフッスよ。やっぱりマトーの屋敷にいたッス。それに帝都郊外に例のキメラの研究所があったッス」

「ほう……。それで、そのダークエルフは確保出来たのか?」

「それが……」


 両人差し指をつんつんとさせながら、叱られた子供みたいに主人を上目遣いに見つめた。


「逃げられたのか?」

「面目ないッス」

「まあ、いい。こっちも人を見失った。……もしかして、そのアフィーシャという女と合流しているかもな」

「それってマトーっスか? ……な~んだ? ご主人も大ポカやってるんじゃないッスか」

「黙れ、フルフル」


 悪魔をたしなめる宗一郎。


 爆音が数キロ先の方から聞こえてきたのは、その直後だった。


 一旦、表通りに出る。

 白煙が上がり、家が傾く音が聞こえた。ちょうど宗一郎が走っていた方とは逆だ。


 戒厳令が敷かれている状態で、あんな騒ぎを起こす人間など1人ぐらいしか思い当たらない。


「くそ! あっちか! いくぞ、フルフル!!」

「あいあい」


 合流した勇者と悪魔は、急ぎ現場へと走っていった。


GWなので、まとめて複数本投稿、おらぁ!!

――ってしてあげたいのですが、だいぶストックに余裕がないので、

1日1本投稿で許してつかーさいm(_ _)m


その代わり、もう1つの連載の方がGW後半に投稿できるよう

頑張っているので、そちらを期待いただければと思います。


というわけで、明日も通常営業18時更新です。

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