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第24話 ~ いい言葉ッスね…… ~

第3章第24話です。

よろしくお願いします。

「あはん……。フルフルちゃん、最高だわ。感じちゃったかしら」


 真っ赤な唇についた血反吐を拭いながら、アフィーシャは着地する。


「いやいや、アフィーシャたんもなかなか……。フルフルのお股がびしょびしょッスよ」


 フルフルも同じく血反吐を吐き出し、その場から立ち上がった。


 両者は睨み、歯を剥き出して――笑う……。


 ――まあ、お股以上に、背汗の方がびしょびしょッスけどね……。


 胸中で付け加えた。

 額にも汗を掻き、その顔には珍しく冴えがない。

 手にはバスターソードを振るい、真面目に構えをとる。


 対して、アフィーシャの方はというと、ドレスはボロボロ、白い肌にはあざを作り、ダメージとしてはフルフル以上と見受けられた。


 しかし、表情には余裕があり、本当に感じているのではないかと思うほど、上気していた。


 外で主が肉弾戦を行っている一方で、フルフルはレベル戦を挑んでいた。


 第1優先事項は、ダークエルフの捕獲。

 【体力】を削り、教会送りにするのがもっとも効果的と判断した。


 前半、フルフルの一方的な展開だった。

 悪魔の体力と膂力、スピードを活かし、アフィーシャを圧倒した。

 優勢のままうまくいくかと思われたが、潮目が変わったのは後半だった。


 フルフルが与えたダメージは、おそらく5000以上。たった10分ほどの邂逅で、これほどのダメージを与えたフルフルも希有だが、そのダメージ量に耐えたアフィーシャも稀な存在だった。


 理由は明白だった。


 チリーン……。


 涼やかな音色が、戦場にこだました。


「またッスか……」


 ぼろぼろだったアフィーシャの身体が回復――いや、元に戻っていく。


「便利かしら? レアアイテム『時の風鈴』……。鳴ってる間の時を戻すことが出来るアイテムよ。ある特定のダンジョンに存在する野盗型のモンスターが落とすゴールドを加工して作られるのよ」

「ふにゅ~。『時〇砂』ッスか? ……厄介ッスね」


 『時〇砂』は戦闘ターンを1ターン戻すことが出来るのに対して、その効果はオリジナルよりも優秀。ターン制ではないので、能力としてはそこに落ち着いたのだろう。


 アイテム系の効果も、あの色違いボーカロイド(プリシラ)が設定したみたいだが、相当某大作RPGが好きらしい。


 同じゲーマーとしての浪漫は感じるが、ゲームのアイテムというのは現実に使われると厄介なものばかりだ。しかもオリジナルではゴミみたいな能力だったからなおさら腹が立つ。


 ――まあ、リメイク版では神アイテムっスけど……。


 などと考えていると、ゲームがしたくなってきた。

 現代世界に帰ったらシリーズ通してRTAをやることを心に決め、フルフルは戦いに集中する。


 だが、先に攻撃してきたのは、アフィーシャの方だった。


 【三級炎魔法】プローグ・レド!


 片手を掲げると、炎の塊がひねり出された。

 フルフルに向かって、射出するともう片方も掲げて、呪唱した。

 次いで、もう片方も掲げる。


 【必中の神秘】アログ!


 必中が約束された炎弾が、フルフルを追尾する。

 こうなると、盾受けするしかない。道具箱から龍神の盾を取りだし、装備する。対オーガラスト用に購入したものだ。炎耐性が高く、魔法の受け値もいい。


 炎弾が盾に触れた途端、爆発する。

 フルフルは部屋の壁に叩きつけられるも、ピンピンしていた。

 すでに激しい戦闘のおかげで、マトーの自室は半壊寸前だ。


 アフィーシャのジョブは、その主人と同じくスペルマスター。能力は、レベルこそマトーには及ばないようだが、魔法の戦術性は彼女の方が上だ。

 しかも――。


 チリーン……。


 時の風鈴。

 レアアイテムの効果によって、【体力】【魔力】ともに無尽蔵。大胆な戦術が可能となっていた。しかも、自分には恩恵が全くないところに憤りを覚える。


 ラスボス戦の長時間、低レベル攻略と思えば、楽しくないわけでないが、悠長にしている主に怒られる。


 部屋の外がにわかに騒がしい。

 騒ぎを聞きつけ、屋敷を守る兵が集まってきているのだろう。


 めり込んだ壁からフルフルは脱出する。

 追撃があるかと身構えが、爆煙の向こうにダークエルフの姿はなかった。

 ガラスが吹き飛んだ窓の方を見ると、アフィーシャが枠に足をかけていた。ゴスロリ少女は、フルフルの方を見ると目を細め、唇を歪めた。


「逃げるッスか!?」


 フルフルの叫声に、アフィーシャはスカートを摘まみ一礼する。

 そして窓から飛び降りた。

 場所は2階。少なくとも10メートルはある。


 しかし、フルフルが窓の外を覗くと、アフィーシャは屋敷の裏口へと走り去っていく。その足取りに迷いもダメージもない。


「いたぞ!」


 背後で兵士が叫ぶのが聞こえた。


 フルフルは珍しく舌打ちすると、自身も飛び降りる。

 柔らかな芝生に降り立つと、エルフの後を追った。




 アフィーシャはどんどんと人気のないところへと向かう。


 マトーの元へと行き、助力を求めるかと思ったが、フルフルの勘は外れた。


 考えてみれば、彼女はダークエルフ。

 オーバリアントで忌み嫌われし種族。

 マトーの屋敷に無断で侵入していたフルフル以上に、その存在を知られてはいけないのだろう。真っ先に逃げたのも、そういった理由からだ。


 アフィーシャの足は速かった。

 身体的な能力と言うよりは、魔法によるブーストだろう。


 帝都の地理に明るいらしく、迷路のようになっている帝都の裏路地を駆け抜けていく。その判断に迷いはない。


 それでも悪魔であるフルフルなら簡単に追いつくことは出来た。

 そうしなかったのが、彼女がどこに向かうか興味があったからだ。

 誘い出されているという感覚は、常にあった。


 小一時間以上の大追跡は、終わりを告げた。


 アフィーシャが入っていったのは、帝都郊外にある潰れた魔法工房だった。

 如何に怪しい場所だ。それにこうした廃屋を、帝国は率先して潰して更地するようにしている。浮浪者や野盗などの住処にならないよう治安維持の観点からだ。


 潰れた魔法工房など、破壊対象の最優先事項になるだろう。


 それでもまだあるということは、見てくれはともかく工房が稼働しているか、帝国でそうした意志決定をする人間を抱き込んだか、あるいはその両方か。

 が、今は考えても仕方ないことだ。


 アフィーシャは工房の地下へと向かう。


「どうして悪役の方は、地下基地が好きなんスかね……」


 ハイリヤ領での一件を思い出しながら、フルフルは薄紫の髪を掻き上げた。

 階段を下りていく。


 果たして目の前に現れたのは、巨大な空間そしてモンスターだった。


「ぬぬ……」


 フルフルは身構える。

 眼前に居並ぶモンスターの姿に見覚えがないものばかりだからだ。

 いや、見覚えがないというわけではなく、覚えているモンスターの特徴に1カ所もしくは複数――記憶とは違う箇所があったのだ。


 中には、マトーの領地内で見た蜘蛛型のモンスターも存在した。


「キメラっスね」


 普段はあっけらかんとして、終始笑みを浮かべている陽気な悪魔が、珍しく眉間に皺を寄せて、顔を曇らせた。


「天界ではそういうのかしら? 私は合成獣って呼んでるんだけど」

「名前なんてどうでもいいッス。……これも、アフィーシャたんのご主人のお城にあったものも、アフィーシャたんの仕業ッスか?」

「ああ……。あれを見たのかしら? やだわ。すっごく不細工だったから。……ねえ、フルフルちゃん。あれをどうしたのかしら? アフィーシャ、すっごく気になるかしらぁ?」


 紅い瞳を燃え上がらせ、顔を上気させながら、さも嬉しそうに尋ねる。

 フルフルは沈黙した。


「……もしかして殺しちゃったのかしら? あは! もったいない……。ねぇ? 知ってたかしら……? あれって、マトーの屋敷の家臣長なのよ」


 口角が耳まで裂ける。


「あれは忠実な番犬だったのに。命を懸けて、マトーに忠誠を誓うと約束したから、望み通りにしてあげたのに。……そう。殺しちゃったのかしら? 残念」


 言葉では無念を伝えながら、アフィーシャは笑っていた。


「ここにいる子たちもそうよ。私の言うことを聞く忠実なモンスターたち……。もちろん、素体は人間とモンスターの合成。凄いかしら? ゴミと屑を掛け合わせて、こんなに素晴らしいものを作るなんて、アフィーシャ最高……」

「へぇ……。アフィーシャたんは、こんなことをしてどうするッスか?」

「決まってるじゃない。……人もモンスターも、シルバーエルフのクソどもも、みんなまとめてぶっ潰してあげるの。最高じゃないかしら?」

「それは楽しそうッスね」

「でしょでしょ、かしら? フルフルならわかってくれるって思ってたわ。だって、あなた……私と同じ匂いがするんだもの」


 ――フルフルは、そんな趣味はないッスよ。


「ん? 何か言ったかしら?」

「何でもないッス」

「そ。どう、フルフル? ……私と手を組まないかしら?」

「いいッスね。……でも、お断りッス?」

「あら、どうしてかしら?」

「主人を怒らせると怖いッスから」


 アフィーシャはやれやれと首を振った。


「もう……。主従関係なんてどうでもいいじゃないかしら。私にはわからないわ。人に屈服させられることを由とするなんて。私なら我慢できない」

「その点については、激しく同意ッスよ。フルフルも契約がなかったら、部屋に引き籠もってゲームしていたい方ッスから。こんなめんどくさい仕事はご免被るッス」

「ゲーム?」


 アフィーシャは首を傾げるが、フルフルは構わず言葉を続けた。


「それに割に合わないッス」

「割に……合わない、かしら??」

「たとえ、アフィーシャとフルフルが手を組んで、このキメラ軍団を組織しても……。さらにそこに帝国や他の国――オーバリアントのすべての存在が、ご主人の敵に回ったとしても、勝てないッスからね」

「そんなバカな、かしら……。一個人がそんな戦力を持つなんて。夢のまた夢……。不可能(ヽヽヽ)というものかしら」


 アフィーシャのある言葉に、フルフルは反応する。


 憮然とした態度で、ダークエルフの説明を聞いていた悪魔は、ようやく笑みを浮かべた。



 “いい言葉ッスね……”



 言葉も……。その顔も、主とそっくりだった。


「うちのご主人はね。……そんな不可能を可能にしてしまう人間なんスよ。何せうちのご主人は、意識が高いッスから……」


 アフィーシャの顔から笑みが消える。

 いや、フルフルの凄冷とした笑顔の時点で、一歩後退しおののいていた。


「こ、交渉決裂かしら……」


 喉の奥から言葉を絞り出す。

 フルフルは首を振った。


「アフィーシャたんが大人しく捕まってくれるなら、交渉の余地はあるッスよ」

「それはご免被るかしら……」


 アフィーシャは手を振り下ろす。


 キメラたちが一斉に動き始めた。

 フルフルに向かって、突進していく。



 ――事後承諾でも許してくれるッスよね、ご主人……。



 キメラの動きはすぐに止まった。


「ちょっとぉ! あなたたち、何を――」


 突然、立ち止まったキメラに叱咤するアフィーシャも、口を噤んだ。


 フルフルの身体が肥大していく。

 纏っていた黒い服を突き破り、木の成長を早回しで見るかのように縦に、横に伸びていった。


 手には鋭い爪。頭の上には立派な角が生え、2つ、3つと叉を増やし伸びていく。背中からは蝙蝠のような羽根を伸ばし、可愛らしい顔も、見る間に獣へと変わっていく。


 その禍々しさは、どんなモンスターやキメラよりも、群を抜いていた。

 アフィーシャは思わず尻餅を付いて倒れる。


 黒い霧を吹きだし、変身途中のフルフルは、大きな顎門を動かした。


「それに個人的に恨みもあるッスよ、アフィーシャたん」

「な、なによ、かしら……?」


 化け物は薄く笑みを浮かべた。



 “お前はフルフルの大好きなメイドたんを泣かせたッス……”



 天地すらひっくり返りそうな吠声が、暗い地下室に響き渡った。


アフィーシャ、好きなんだけどなあ……。


明日も18時なります。

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