第21話 ~ ラミパス、ラミパス、ルルル…… ~
第3章第21話です。
よろしくお願いします。
「抜き足……。差し足……。千鳥足……ッス」
マトーの屋敷の廊下を進むのは、褐色肌の少女だった。
頭からほっかむりを被り、金色の瞳を爛々と輝かせている。
宗一郎の悪魔フルフルだ。
言葉通り音を立てず歩いているのだが、口に出ていれば潜入も何もあったものではない。ちなみに最後の一言は、完全に悪ふざけである。
それでも不思議と見つかっていない。
警備が極端に少ないのだ。
おそらく大半の兵士が、前戦に駆り出され、今頃ご主人と戦っていることだろう。
本来なら従者として戦いに参戦しなければならないが、今のフルフルにはやるべきことがある。
だが、スニーキングミッションも楽しいが、どちかと言えば乱戦で無双するゲームの方が好きだ。
「あ。もちろんMGSは神ゲーっスよ」
一体誰に言ってるかわからない独り言を呟く。
フルフルの役目には3つの優先事項がある。
第1に、ダークエルフを捕縛すること。
第2に、マトーが皇帝に毒を使ったという証拠を見つけること。
第3に、ダークエルフとマトーが互いに関与していた証拠を見つけること。
すべてを抑えるというのは難しい。
特に第2優先事項は、すでに隠滅されている可能性が高い。
よしんば発見したとしても、それが前皇帝に使用されたものかどうか、オーバリアントの人間に説明することは難しい。現代世界にあるような試験片や分析機器を見せたところで、首を傾げるだけだろう。
マトーの工作による帝国にいる家臣のほとんどが、マトー派だ。
前皇帝の口添えによって、幾人かの有力な諸侯や元老院などが味方してくれているが、下手な証拠を出すのはかえって逆効果になる可能性が高い。
故に、第1優先事項を見つけることが肝心だ。
ダークエルフとマトーに接点があったというだけで、状況はひっくり返る。
それほどダークエルフと国の重役を担う者が付き合う事は、オーバリアントでは罪深いものだとされている。
魔女狩り並みの迫害だが、マトーを追い込むためにはその方法しかなかった。
宗一郎が帝国を侵略するのは、最終手段になる。
すでに内部協力者のおかげで、帝城の捜索は終えている。他にもマトーと関係がある諸侯や貴族、大商人の調べは済んでいた。
残るはマトーの屋敷のみ。
これまで何度か調べにいったが、分厚い警備とエルフの魔法による結界が張られていて、フルフルでも潜入は不可能だった。顔が割れているマトーに見られれば、逆につけ込まれる恐れがある。
その主は今いない。作戦通りだった。
「おっと……」
フルフルは忍者のように飛び上がった。
天井にへばりつき、警備兵をやり過ごす。少なくなったとはいえ、警備が完全になくなったわけではない。
「だが、逆に言えば、やはり何かあるってことッスね」
極力音を立てず、廊下に降り、先を行く。
探索するうちに、2人の警備兵を立てている部屋を見つけた。
あからさまに怪しい。屋敷の構造から考えても、マトーの自室かもしれない。
「さーて、どうするッスかね?」
フルフルは思案し、ピカリと頭の上に電球が光った。
すると自分の胸の谷間に手を突っ込む。「どこやったッスかね」とぶつぶつ言いながら、しばしもぞもぞとまさぐった。
あった、と言って、取り出したのはピンク色のコンパクトだった。
そして手を天に向かってかざした。
「テクマクマヤコン……。テクマクマヤコン……」
悪魔はピンク色の光に包まれた。
マトーの自室を警護任務についていた2人の兵は、主から誰も通すなと言われていた。むろん、そのつもりはないが、少し頭の片隅ではそう念を押した主の事が気になっていた。
ちらりと窓の外を見る。
さすがにここから戦線がどうなっているか確認は出来ないが、主のことは気になっていた。
ごとり……。
何か倒れる音が聞こえて、1人の兵が廊下の角に視線を向ける。
もう1人も気付いたらしく、眼で合図を送る。
持っていたショートスピアを構えながら、2人は徐々に近づいていく。
女が倒れているのが見えた。
2人は足が早くなる。
「じ、持病の癪が……」
顔を上げ、苦しそうに呻く。
妙な格好をした女だった。桃色の地の一枚布を下から上まで覆ったような着衣で、腰には大きなこれまた布製のベルトのようなもので止めている。髪の毛も同じく見た事がない髪型で結われ、金のアクセサリーのようなもので差し込まれていた。
それは現代世界でいう着物、頭は日本髪なのだが、オーバリアントの人間から見れば、奇妙な格好であったことはいうまでもない。
もちろん、2人の兵の反応は。
「怪しいヤツめ! 引っ捕らえてやる」
――だった。
「え? ちょっと待つッスよ! そこは油断するところでしょ!」
先ほどまで苦しそうにしていた女は、がばっと跳ね起き、抗言した。
しかし取り付く島もない。兵は槍を構えて、襲いかかってくる。
「んもう!」
女――フルフルは慌てることなく、むしろ頬を膨らませて槍を回避する。
2人の槍を掴むと、電撃を流した。
一瞬の間だったが、槍を伝って電撃が兵士たちの体内を駆け巡る。
あっさり2人の兵士は昏倒した。
「全く……。この世界の人は、ノリがわかってないッス!」
フルフルは元の格好に戻り、コンパクトを再び胸の谷間に押し込みながら。
「ラミパス、ラミパス、ルルル……っていうの忘れたッス」
もう一度、コンパクトを取り出してやり直した。
「お邪魔するわよ~」
恒例の挨拶とともに、マトーの自室へと踏み込む。
煌びやかな趣味の悪い部屋を見せつけられるのかと思いきや、こちらは案外と普通だった。少々拍子抜けだったが、領内の城で見た悪魔も呆れさせるような部屋を見るよりは遥かにマシだ。
ともかく、気絶させた兵士2人を自室に運び入れ、捜索をはじめた。
箪笥、クローゼット、本棚、小物入れ、壷……。
それっぽいところは探したが、あっさりと見つけさせてはくれない。
その間、時間は刻々と過ぎていく。
屋根裏や隠し通路の有無も確認するが、それらしきものはない。
どこか別の場所だろうか、と思った時、視界に映ったものを見て、まだ探していないところがあることに気付いた。
ベッドの下をのぞき込む。
真っ暗だが、悪魔のフルフルにとっては関係ない。
「何をしているのかしら?」
「うーん。エロ本ッスよ。エロ本。……もしくは薄い本ともいうッス」
「エロ本? 薄い本って何かしら?」
「そりゃあ……。夜のおかずに決まってるッスよ」
「食べ物なの? 本なのに?」
「違うッスよ。いや、でも本の中の女の子は男という野獣の食い物に……。ああ、なんか説明してたら、フルフルたぎってきたッスよ。ちょっと今から、マスかいていい……」
――ん?
フルフルは慌てて起き上がった。
突如、視界に現れたのは、真っ黒なゴスロリ少女。
極薄の紫の髪を2つにし、足先まである長い縦ロールを形成している。
その立派な縦ロールを揺らし、少女は少し首を傾げた。
「あなた、だあれ……かしら?」
ミステリアスな赤い瞳で、フルフルをのぞき込んだ。
ゴスロリ少女の肌は、フルフルと似て褐色だった。
自分と特徴が似ているが、悪魔ではないことはすぐにわかった。悪魔同士は目に見えないネットワークでつながっているからだ。
不意に少女の長い耳介が動く。
マフイラやマフィとそっくりな特徴……。
しかし、その容姿も、纏う雰囲気もシルバーエルフと呼ばれる彼女たちとは真反対だった。
間違いない。
この少女がダークエルフだ。
宗一郎が示した第一目標にして、捕獲対象。
見つけた瞬間に、その行動を取らなければいけない。
なのに、フルフルの第一声は――。
「とりあえず、写メ撮っていいッスか?」
だった。
「写メ?」
「あ! そうだ! まだスマホ、壊れたままだったああああ!!!」
顔を覆い、絶叫した。
幾度とオーバリアントで繰り返してきたアクションだった。
「聞いていた以上に、変わった子かしら。……フルフルちゃん」
「ほへ? フルフルの名前を知ってるッスか?」
「もちろん。……あの勇者の従者なんでしょ?」
「いやぁ、こんなカワイ子ちゃんに名前を覚えてもらってるなんて、フルフルも偉くなったもんスね」
ダークエルフとおぼしき少女の前身をなめるように見つめる。
フルフルとしては、定番の金髪縦ロールが好きだったが、白に近い紫髪もいいなあ、と口元を緩ませる。ドレスの趣味もよく、黒というところがよくわかってる。
「グッジョブっス」
親指を立てる。
フルフルの反応に、少女は首を傾げるだけだった。
「あ、あのぅ……。お名前を聞いてもいいッスか?」
「名前? アフィーシャよ。上も下もないわ。単なるアフィーシャ。よろしくね。フルフルちゃん」
「アフィーシャちゃんッスか。可愛いッス。ショーケースとか入れて、毎日24時間ぐらい眺め――いや、視姦していたいッス」
涎を垂らしながら、いきなり危ない趣味をカミングアウトする。
人が聞けばどん引きするような発言にも、アフィーシャは大きく紅眼を開き、口元を緩めた。
「面白い人かしら。……私も好きよ。人を標本みたいするの」
「お互い気が合いそうッスね」
フルフルが中小企業の社長みたいに「がっはははは」と笑えば、アフィーシャも口元に手を当てお嬢様みたく「おーほっほっほっほ」と声を上げた。
「というわけで、アフィーシャちゃん。……フルフルに大人しく捕まってくれないッスかね」
「残念だけど、私は人の命を弄ぶのは好きだけど、自分の命を弄ばれるのは嫌いなのよ」
「それは……。残念ッスね」
フルフルは肩を落とした。
だが、2人の間の空気がピリピリとし出したのは、その瞬間からだった。
和やかな少女の会話が続いていたマトーの自室が一転――。2匹の猛獣が睨み合うような殺気に包まれた。
「抵抗すると痛いめ見るかもッスよ」
「実は、割と痛いのは好きなの」
「やっぱり気が合うッスね。でも――」
「人を痛めつけるのは、もっと好きッス」
「人を痛めつけるのは、もっと好きかしら」
2人の声が揃った。
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