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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第3章 最強帝国編

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第15話 ~ お邪魔するわよぉ ~

今週は2話投稿ではありませんが、長めです。


第3章第15話です。

よろしくお願いします。

 結婚の儀が行われる2日前……。


 マトーが治めるハイリア城に、轟音が鳴り響いた。


 約10メートルの高さもある巨大な鉄門が、あっさりと吹き飛ばれる。厚さ2メートル四方の閂は真っ二つに折れた。


 守備隊は慌ただしく動き、槍や弓を構える。


 まだ土煙が舞う入口に浮かんだのは、2つのシルエットだった。


 構え! という号令とともに参集した弓兵が矢を引く。


 土煙から不審者が現れた瞬間、兵長は「放て!」と命じた。


 無数の矢が2人の男女に向かっていく。

 矢尻が刺さる音が、いまだ戦の残響が残る城に響く。

 しかし肉を貫く音はしない。すべて土、もしくは城門に刺さる。回避場所もないほど放たれたはずなのに、何故かすべての矢が男女を避けるように広がった。


 城門前に突如として咲いた“矢”の花……。

 それを避けながら、何食わぬ顔で2人は歩いてくる。


 男は見慣れない格好をし、ズボンのポケットに手を入れていた。

 女も前裾がスカートのように長いこと以外は男と似たような格好をしており、まるで子供が兵隊の行進を真似するかのように大きく手と足を振って歩いていた。


 2人に共通するのは顔だ。


 不気味と称せるほど、その口元は薄く笑い、戦場にありながら談笑している。


「いやー、ご主人! なんか異世界に来る前の戦場を思い出しますね」

「ロシアの空挺部隊に喧嘩を売った時か? それとも人民解放陸軍を根絶やしにした時か?」

「アメリカも凄かったッスよねぇ。イギリスとフランスとの連合軍を組織して……。もう兵器の見本市ッスよ。あの時は、いい目の保養になったッス」

「現代世界が懐かしいか?」

「うーん。そりゃあ、新作のゲームがやれないのはおしいッスけど、こっちこっちで面白いッスからね」

「そうか」


 2人がこうして談笑している最中も、矢や槍。あるいは投石が打ち込まれる。

 だが、不思議なほど当たらない。


 兵士の一部が、あまりの不気味さに離脱を始める。

 兵長はそれでも手を振るい、号令を絞り出すが、すべて無駄に終わった。


「そろそろいいだろう」

「やるッスか?」

「殺すなよ」

「よーし」


 女が進み出る。


 手をかざした。

 光芒が閃き、二重の円に、同じく三角。魔術文字が刻まれた魔法円が浮かび上がる。


 突如、吹いてきた風に乗せ、呪文を呟く。

 それはまさに悪魔の寝息のようであった。


「我、悠久なる悪を貫く者。心臓を智と説く者よ。我の左手に宿りて、裁きの槍を伐たせ!」


 黒雲が天を満たす。

 大きな怪物が空を転げ回っているような音が、響いた。


 そして――。



 【雷天必撃】!



 蒼雷が突き刺さる。

 一拍遅れて、轟音が広がった。


 大気を弾くように落ちた雷は、誘導されるように兵士の脳天を貫く。


 ひっ、という悲鳴すら上げられず、棒立ちになると膝から崩れ落ちた。

 多少意識があった兵長は、ふらふらと足を引きずりながら一歩二歩と歩み寄る。


「な、に……も……」


 最後まで質問をいえず、やはり倒れてしまった。


 兵士たちの脈を確認した男は、女に振り返った。


「相変わらず無駄な演出だな」

「何を言っているッスか? ここはファンタジーの世界ッスよ。これぐらいデフォっスよ。デフォ!」


 現代最強魔術師の杉井宗一郎と、その悪魔はフルフル。


 2人は顔を合わせ、そしてやはり不敵に笑みを浮かべた。






「はいは~い。お邪魔するわよぉ」


 城内に侵入したフルフルが、目に付いた部屋の中に入る。


 複数の女性の悲鳴が上がった。


 シックな黒と白地のエプロンドレスを着た女たちが、後ずさりし、部屋の角へ固まった。皆、10代20代の若い娘で、ついでにいうと美人だ。


 むろん、フルフルが反応したのは、娘たちの容姿ではなく着ているものだ。


「おほー。メイドさんだぁ。……いやー、帝都のお城にもいたッスけど、こっちはスタンダードな黒と白ッスねぇ。しっかりカチューシャまでついてるし。ポイント高いッスよぉ。これがあのボンボン(マトー)の趣味なら、主とはいい酒が飲めそうッス」


 と舌なめずりする。


 突如入ってきた可愛い娘に、一瞬呆気にとられていた給仕たちだったが、その仕草を見て、再び震え上がった。


「ああ……。別にそんなに怖がらなくてもいいッスよ。本当なら写メ撮って、インスタに投稿したいところッスけど、あいにくとスマホがまだ壊れたままなんスよ」


 メイドたちには理解出来ない言葉を話す。

 それが呪文のように聞こえて、さらに態度を硬化させた。


 そんな給仕たちの態度を敏感に察した闖入者は、めんどくさそうに頭を掻いた。


「うーん。……フルフルは、メイドさんたちの主の部屋を教えてほしいだけなんスけどねぇ」

「……あ、主は不在です」


 生唾を飲みながら、答えてくれたのは1番年長っぽい給仕だった。

 それでも20代後半といったところだが、どうやらここのメイド長らしい。


「それはわかってるッスよ。……だから、主がいない間に、主が隠してるスケベな本とかを見つけておきたいんスよ」

「スケベな本?」

「エロ本ッスよ! エロ本! わかんないッスか。ジャパニーズエッチな本ッス」


 下手くそな英語で外国人に語りかける日本人みたいにフルフルは説明した。


 メイド長は首を傾げる。

 たとえわかっていたとしても、同じような反応だっただろう。


「ともかく、主がいる場所に案内してほしいッス」


 メイド長はもう一度喉を鳴らす。


 他のメイドたちの制止を振り切り、一歩前へと進み出た。


「もし……主の部屋を教えたら、この子たちの命は保証してくれますか?」

「そりゃあ保証しろと言われれば、保証するッスけど……。絶対に殺すなと、ご主人からキツく言われてるッスから。無用な心配ッスよ」

「わかりました」


 メイド長はこれから死地へと赴く騎士のような顔つきでフルフルを通り過ぎ、入口で振り返った。


「こっちです」

「かたじけないッス!」


 フルフルは少々おどけながら敬礼した。




 フルフルはメイド長に先導されながら、主であるマトーの自室に向かう。


 途中、廊下の角で宗一郎と鉢合わせした。


 メイド長は悲鳴を上げ、びっくりして飛び上がる。

 体勢が崩れそうになるのを支えたのは、宗一郎だった。


「失礼」


 ゆっくりと起き上がる。

 メイド長は不謹慎にも頬を染めた。


「またどさくさに紛れて、フラグを立てて……」

「何の話だ?」

「何でもないッスよ。ご主人が、鈍感系主人公であることはよくわかってるッスから」

「それよりも、マトーの部屋は見つかったのか?」

「今から、こちらの方に案内してもらうッスよ」

「ふむ」


 宗一郎はメイド服を着た女性を見やる。


「ハイリヤ家で給仕長をしております」


 自ら給仕長と紹介した女性は、居住まいを正し、侵略者に対して毅然と会釈を向けた。


「わかった。頼もう」


 それ以上何も聞かず、宗一郎は先導する給仕長の後を追った。




 広い城だった。


 帝都にある城ほどではないが、それに匹敵するほどの大きさだ。


 長い廊下を進み、角を曲がる。

 給仕長はまた「ひっ」と声を上げ、飛び上がった。

 倒れそうになる給仕長を、宗一郎はまた支える羽目になる。


 わざとやってるんじゃないッスかねぇ、とフルフルは口を尖らせた。


 曲がったところには、兵士が壁に寄りかかるように倒れていた。


「案ずるな。寝ているだけだ」


 宗一郎が説明する。

 確かに寝息らしきものが聞こえる。


 給仕長はほっと胸をなで下ろす。

 1つ心を落ち着かせようと窓外を見ると、今度は大量の兵士たちが倒れているのが見えた。


 また「ひいぃいい!」と長めの悲鳴を上げる。


「だから、そう何度も驚くな。……あの兵士も寝てもらっている。家臣も、城に出入りしている商人やその関係者もすべてだ」

「な、何故そんなことを? あ、あああなたたちは、この城に何をしにきたのですか?」


 宗一郎とフルフルは絶妙なタイミングで目を合わせた。


「探し物をな」

「探し物?」


 給仕長は目を瞬かせる。


「こちらも質問したい。……最近、いやここ半年以内にしぼって、マトーの周りに妙な人間や同居人が増えたことはないか?」

「さ、さあ……」

「メイド長なんスよね? 人が出たり入ったりは、わかるんじゃないッスか?」

「なにぶん出入りが激しい城でして……」

「たとえば、ダークエルフとか――」


 給仕長の表情が一変した。


「心当たりがあるのだな?」

「……は、はい」


 顔に出てしまったことを悔いるように項垂れた。


「話をしてくれないか?」

「出来れば、主には……」

「わかっている」


 宗一郎が頷くと、メイド長は重い口を開いた。





 給仕長がその女のエルフを見たのは2回だけ。


 初めはマトーとともに城へやってきた時。

 2回目はマトーと密談をしている時だった。


「率直に申し上げて、気味の悪い方でした」


 と述懐する。


 マトーからは最初、参謀として働いてもらうと紹介を受けたが、城ではあまり見かけなかったという。帝都にある屋敷に住んでいるというのが、もっぱらの噂だった。


 一見身ぎれいに見えるが、ボロのようなドレスを纏っていて、怪しい光を持つ目を持ち、家臣や給仕の間では怖がる人間もいたという。そもそもそんな人間が、側女ならまだ納得は出来るものの、参謀と紹介を受けた事に、同席した家臣長も首をひねった。


 2回目。2人が密談をしている時、マトーは非常に怒っていたという。それはエルフの女にではなく、別の者に対してだった。

 飲み物を持ってきた給仕長は、自分たちに非礼があったのではと思い、それとなく尋ねてみたが、主人は「下がれ!」と苛立つばかりだったという。


「それ以降、私はあの方を見ておりません」


 と締めくくる。


 横で聞いていたフルフルはニヤリと笑って。


「まさに家政婦は見たッスね」


 宗一郎を見つめる。

 主人は何やら考えている様子だった。


「ところで、その方が何かしたのでしょうか?」


 給仕長は不安げな顔で尋ねる。


「確証はないが、皇帝に毒を盛った嫌疑がある」

「そんな! 皇帝陛下は老衰だとうかがっておりますが」

「ふふん。……事実はいつも闇の中ッスよ」

「その家臣長はどこにいる?」

「それが……。1ヶ月ほど前に、暇をもらっておりまして」

「連絡はとれているのか?」

「実は……」


 胸に手を置き、首を振った。


「他に目撃者はいないッスかね。……そういえば、マトーの家族や親戚はここに住んでいないんスか?」

「大旦那様は、ここより北の地で長男バロ様と静養中です。……お2人ともご病気がちでして。マトー様が成人なされると、すぐに家督を渡したほどですから。他のご兄弟は、帝都で働いておられます」

「ではマトーがいない間、誰がこの領地を仕切っている」

「叔父のカターシュ様です。ですが――」


 バツの悪そうな顔をする。


「控えめに言っても、放蕩が過ぎる方でして。ほとんどお城にいらっしゃいません。マトー様がいる時は、城にいて仕事をされるのですが」

「兵のことはともかく、領地のことはどうなる? 決裁権が持つ人間がいなければ、経営が成り立たないだろう」

「それは――」


 叱られた子供のように、給仕長は宗一郎から目をそらす。


 ――何とも呆れた領地経営だ。


 宗一郎は心の中で肩を竦めた。


 これが今のオーバリアントの実情なのかもしれない。

 外征することもなくモンスター以外にこれといって脅威のない世界なら、領主の仕事の半分もないことになる。

 内政も、事務屋や政策に強い家臣を配置すれば、あとは判子を突くだけだ。ひどいところなら、その判子を突くことすら、家臣に任せている可能性もあるだろう。となると、かなり腐敗が進行している可能性が高い。


 ハイリヤ家ほどの由緒正しい家柄がこうなのだから、他の領地も似たようなものだろう。


 モンスターとレベルシステムのぬるま湯制度によって、政治が堕落し、国の国力を下がることまで見抜いていたなら、プリシラに対する評価をもう少し引き上げるところだが、そこまで考えていたとは思えない。


「わかった。……とにかく主人の部屋に案内してくれ」


 やれやれ、と宗一郎は息を吐いた。



いつかキチンとした形で、メイドキャラを出したいッス!


明日も18時更新になります。

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