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第13話 ~ 私は何の喜びも感じていない…… ~

第3章第13話です。

ちょっと短めですが、よろしくお願いします。

 30日後。


 結婚の儀は、しめやかとはほど遠く――盛大に執り行われた。


 日取りの前後の3日間を祝日にし、国倉(こくそう)も解放され、酒と肉が帝国民に無料で振る舞われた。


 前皇帝の喪が明けたばかりで、不謹慎だという声は少なくなかった。歴代の皇帝を見ても、最速の喪明けからの結婚である。次代の皇帝の即位は急務ではあるが、他国からの干渉が少ない時代で、さほど急ぐことでもないことは明らかだ。

 モンスターが城壁を越えてやってこないことは、民衆はわかっていたし、急な結婚の儀に首を傾げるものもいた。


 しかし、大多数の帝国民は歓迎ムードだった。

 皇帝崩御の後、鬱屈した気持ちをどこかで吐き出したいという気持ちが多かったこと。何よりマトーのハイリヤ家によるプロパガンダが功を奏した。


 民衆の人気は、皇帝の生命線だ。

 最初から躓くわけにはいかないという、マトーの戦略であった。


 当日、続々と帝国民は城の周りに集まる。

 前夜祭で歌い、踊り、半ば酔っ払った民衆たちは、今か今かと新しい皇帝と皇妃の姿を待ち望んでいた。


 葬儀後に初めて、民衆に笑顔が戻ったといえるほど、笑い声が絶えなかった。


 帝城では粛々と結婚の儀の準備が行われていた。

 各地の諸侯、家臣、同盟国の特使、ギルドの関係者などが、次々と入城していく。


 城の中にある大聖堂に、述べ1200人以上が参列した。


 刻限となり、予定通り結婚の儀は始まった。


 花道が開かれる。


 花吹雪が聖堂に入り込む中、マキシア帝国でもっとも気高い新郎新婦が現れた。


 慣例に則り、先に現れたのは婿の新郎であるマトーだった。

 例の隈取りは相変わらずで、獅子の鬣のような髪の毛もさらにカツラを付けて量を増やし、本物の獅子のように見せていた。

 しかし容貌の派手さから比べれば、格好は地味だ。


 黒地に、赤の刺繍が施された上下。同じデザインが施された膝下まである長いブーツ。腰に巻いた金のベルトこそ燦然と輝き、多少そのシンプルさを緩和している。だが、いつも派手な黄金の鎧を纏うマトーの服装を知るものからすれば、明らかにイメージとは違う。


 本人も幾分顔が冴えない。

 帝国に代々伝わる典礼用儀式着でなければ、おそらく一生着ることはなかっただろう。ちなみに黒と赤は、マキシア帝国を象徴する国旗の色である。


 それでも、女性陣からは――控えめだが――悲鳴が上がる。

 闘技場での一件で、1度は地に落ちた人気だが、やはり皇帝となることが決まってからは、名誉を回復しつつあった。


「おおっ!!」


 マトーの登場以上に、聖堂がどよめく。


 やはり結婚の儀の主役は、彼女であった。


 新婦ライカ・グランデール・マキシアが花道に現れる。

 傍らには妹のクリネが付き添い人として立っていた。


 マキシア帝国の習慣として、新婦の衣装はドレスと見なされるものであれば、どんな色でも許される。それが黒や、帝国では不吉とされる橙色であっても、問題にはならない。皇妃の結婚においても同じである。


 故に結婚式において、新婦が何の色のドレスを着てくるかというのは、1つの見所なのだ。何故なら、その色は、新婦の今の心情を表しているからだ。


 人気なのは、情熱や喜びを表す赤やピンクが選ばれる。


 しかしライカが選んだのは。



 真っ新な純白だった。



 その意味は、現代世界でも同じように「無心」であった。


 当然、列席者は意味を考える。


 無心となり、夫である皇帝を支えていくと捉えることも出来る。

 だが、多くの者はこう受け取る。


 “この式に、私は何の喜びも感じていない……“


 と。


 最初こそどよめき、その姿に目を眩ませるものもいたが、次第にその意味を理解し、聖堂の中に妙な緊張感が走った。


 クリネに付き添われながら、ライカは新郎の横に立つ。


 マトーがそっと薄いベールの上から声を掛けた。


「そのドレスの色は、俺への当てつけか?」

「別に……。白が好きなだけです」


 ライカは浮かない顔で、前を向いたまま答えた。

 そしてそっと夫となる男の腕に手を置く。


 マトーはふんと鼻息を荒くすると、花道を歩き出した。


 オーバリアントでは『ゴート』と呼ばれるパイプオルガンを鳴り響く。


 大人しかった参列者たちも、ようやく今が結婚の儀の最中であることを思い出す。一拍遅れ、新しいカップルに祝福と万雷の拍手を送った。


 プリシラ教の大司祭が待つ壇上へと上がる。


 後の口上と進行は、現代世界とさほど変わらない。


 お互いに誓い立て、短い問答であったが、滞りなく進む。


「では、誓いのキスを……」


 司祭は手を合わせて、2人に促した。


 お互い向かい合う。

 マトーがライカのベールをそっと上げた。


 新婦は目をつむる。


 新郎が手を乗せると、パートナーの小さな肩は震えていた。

 鎖骨が軋むほど力を入れ、その震えを止める。

 痛みに悲鳴を上げそうになったが、ライカはなんとか堪えた。


 次期皇帝は薄く笑う。


 初めてこの女を支配できたと確信した。


 マトーの顔が少女の無垢な唇に向かっていく。



 バン!!



 いきなり聖堂の扉が開いた。

 再び花吹雪が室内に舞い込んでいく。


 激しい音に、皆の視線が一斉に入口の方へと向かった。


 マトーも身体を止め、ライカも片目を開けて入口の方を見やる。


 1人のシルエットが浮かび上がった。


果たして、そのシルエットとは……!!!!


明日も18時更新になります。

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