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第11話 ~ 俺達は運命共同体のはずだろ? ~

第3章第11話です。

よろしくお願いします。

 マトーが目を覚ましたのは、宗一郎たちが部屋を出て行った後だった。


 まどろむ視界の中で、何か黒いものが揺れている。

 それが何か一瞬理解出来ず、思わずロングソードを探して手を這わせる。


 むろん、剣などない。


「お前か……」


 ほっと胸をなで下ろし、深く壁に寄りかかる。


 座った状態のまま、顎を挙げ、目の前に立った存在を見下した。


「お前と言われるほど、私たちは仲が良かったかしら」


 少し甲高い声が耳朶を打つ。


 眼前にいるのは、異様な雰囲気の少女だった。


 白に紫を少し加えた程度の髪色。その髪を2つに留め、足先まで届くほどの縦ロールにしている。肌は褐色。細い手足はやや筋力に乏しく、お世辞にも胸も尻も魅力のある数値を感じないが、女子として平均的は体付きをしていた。

 長めの前髪からのぞく片目は常時大きく見開かれ、真っ赤に染まり、血のそれを思わせる。歯茎までむき出した口には、大きな犬歯が突き出ていた。


 だが、少女を異様というには、これだけの言葉では足りない。


 何より目を引くのは格好だった。


 やたらと攻撃的な黒のコルセットドレスを下地に、スカート部分にパニエを入れ、フリフリとしたレース模様、胸元には蝶型のリボンがあしらわれている。手にはサテンのような滑らかなロンググローブ。足には西洋人形が身につけていそうな先の丸まった茶色のブーツを履いていた。


 現代世界で言うなら、ゴスロリ衣装なのだが、オーバリアントの人から見れば、ただ装飾をやたらとついたドレスにしか見えない。まるでドレスで出来たボロを纏っているように見えて、マトーは好きではなかった。


「俺達は運命共同体のはずだろ? アフィーシャ」

「運命共同体ね……。まあ、そういうことにしといてあげようかしら」


 屈んだ時にずれたミニハットの位置を修正しながら、アフィーシャは言った。


「信用ならんか、俺は?」

「違うわよ。……あなたが信用できないんじゃなくて、ダークエルフを信用するあなたが信じられないの」


 ピコピコと尖った耳介を動かした。


 アフィーシャもエルフだ。

 それは帝都大図書館(マルルガント)の司書長マフィや、ライーマードのギルド副長マフイラが、シルバーエルフと呼ばれるものであるに対して、アフィーシャはダークエルフという種族に分類される。


 見分け方も一目瞭然で、シルバーエルフが金やブラウンなどの明るめの髪に、白い肌というのに対して、ダークエルフは紫や灰色などの薄暗い髪、肌も正対的な褐色や黒などである。


 個体数においても極端で、シルバーエルフがエルフ族全体の7割を占めるのに対して、ダークエルフは1分にも満たない。純血のダークエルフともなれば、1厘もないという状況だ。


 理由として、彼らが群を作らず、個人行動が多いこと。


 オーバリアントの歴史上――大きな戦の中で、必ず彼らは暗躍し、度々人間たちの手によってエルフ狩りが行われてきた結果だった。


 それによって、自分すら信用ならない存在だと思っているダークエルフたちは、自ら孤立を深め、今のような状況になっている。


「ダークエルフらしい答えだな」


 マトーの回答は、種族のすべてを知った上での回答だった。


「ところで、俺を吹き飛ばした連中は、どこに行った?」

「皇帝のところに行ったと思うわ」

「なるほど。情に訴えるつもりか……」

「違うと思うわ……。他はともかく、あの勇者様は違う考えだと思うかしら」

「随分と似非勇者を買っているのだな」

「嫉妬かしら?」


 アフィーシャのにぃと口を歪めた。


 その醜悪な顔を見ていられないという風に、顔を背けた。


「どうするのかしら?」

「放っておけ……」

「あら」


 水晶のような紫の瞳が怪しく光る。


 口元を薄く開いた。


「皇帝はもう……。――助からん」






 ドアをノックする音が部屋に響き渡る。

 ついで少女の沈痛な声が、扉の向こうから聞こえて来た。


「お父様。クリネです。入りますよ」


 合図をまたず、重そうな木製のドアが開かれる。


 反応したのは皇帝ではなく、側に控えた老典医だった。


「おお。クリネ様……。ライカ様のご様子――」


 尋ねかけた御典医は言葉を止めた。

 クリネが引き連れた中に、ライカがいたからだ。

 それに見慣れない男女が2人。


 典医はあれが噂に聞く勇者とその下女だと察した。


「父上のご容態は?」

「誠に申し上げにくいのですが……」


 軽く首を振る。


 クリネは胸に手を置き、大きく息を吸い込む。

 熱くなった目を冷やすように瞼を閉じた後、開いて口を動かした。


「わかりました。少し外していただけますか?」

「はい……」


 本当にすまなそうに典医は部屋を出て行く。

 そんな彼にライカは一礼した。


 クリネが進み出ると、一行もついていく。


 大家族でも住めるような広い部屋。

 そこには各地の諸侯からのお見舞い品だろうか、花や装飾具、珍しい民芸品などが置かれている。


 だが、たくさんの献上品すら部屋の一部でしかない。

 マルルガントの一部を切り取ったように本棚が並び、棚には本だけでなく、拙い民芸品などが並んでいる。大事な骨董を並べているような感じだ。よく見ると、気に入ったといっていた畳が並べられている場所もあった。


 また――とかく絵が多い。かすかに室内は絵の具の匂いがしていた。


 B4サイズぐらいの割と小ぶりな額に入った絵が、何枚も壁にかけられていた。

 机の上には描きかけの絵もあり、絵具が整理されて置かれている。おそらく皇帝自ら描いたものなのだろう。


 絵のモチーフは、家族、城内で働く衛士や果ては召使いたちだ。


 ライカやクリネはもちろん、ロイトロスや、ハイリヤ家の一員とともにマトーを描いているものまである。


 絵の中の人々は、みな笑っていた。


 ――なるほど、な……。


 何度か入った事がある皇帝の自室を改めて覗いた時、部屋そのものが皇帝の夢なのだということに気付いた。


 家族や城内、城下町の人々。そして遠い異国の献上品は、まだ見ぬオーバリアントに住む人間を現しているのだろう。


 世界を統一する。

 平和にする。


 きっと皇帝の夢は、そんな末法くさい代物ではない。


 おそらく……。

 ただ彼の夢は、こうして世界の人と等しい立場で、笑いながら語り合いという事なのかもしれない。


 部屋の様相を見て、宗一郎は改めて皇帝の懐の深さを思い知った。


 残念なことに今それを悟るとは、己がどれだけ未熟であるかを痛感させられた。同時に、モンスターなき世界で、リーダーシップをとれるのは、マキシア皇帝しかいないと確信した。


「お父様。失礼します……」


 天蓋付きのベッドから垂れる薄い布を引く。


 厚手の赤い布団をかけられ、柔らかな枕に頭を預けた皇帝の顔が露わになる。


 金色の髪には白髪が交じり、出会った時と比べれば数段顔が青白く、頬はこけ、精悍さは微塵もない。


 率直に言って、一生会いたくなかった――マキシア皇帝の弱り果てた姿だった。


 その瞳がおもむろに開く。


 濃い緑色の瞳から放たれる眼光は強い。

 一気に皇帝の顔から生気が溢れてきたような気がした。


「お父様、起きてらっしゃったのですね」


 クリネは天蓋を支える柱に薄い布を縛りながら言った。


「うむ……。久しぶりに強い覇気を感じてな」

「覇気……」


 皇帝は目だけを動かす。

 その瞳に、天界の服装を着た男を映し出した。


「久しいな。勇者殿……」


 宗一郎は一度目を伏せた後。


「オレをまだ勇者と呼ぶか、皇帝よ。おめおめと何も成果を得られず、帰ってきた無様なオレを……」

「悔いているのか?」

「当然だ」


 奥歯を噛み、珍しく宗一郎は悔しさを滲ませた。


「事の顛末はライカやクリネ、フルフルから聞いておる。そう気に病むことはない。失敗は誰にでもある。それに約束を守ってくれた」


 首を動かし、穏やかに宗一郎を見つめる。


「我が娘たちを無事に帝都まで帰してくれた。……それ以上のことを望むのは、些か贅沢というものだ」


 もし……。

 という仮定は、宗一郎は好きではない。


 だが、もし(ヽヽ)皇帝が自分の父や上司であったならばと思う。

 おそらく豊かな人生を送れたかもしれない。

 それと同時に、絶望したかもしれない。

 これほど懐の大きな人間の後を継ぐというのは、あまりに酷なことであるからだ。


 それほど、皇帝は深く広い器の持ち主だと感じた。


 故に、今から切り出そうとしている提案の重さが、次第にプレッシャーになり始める。スーツの裏でシャツがじっとりと濡れていく。


「――して。今までどこにいた? そなたのことだ。……後悔のあまり穴蔵に閉じこもって無為な日々を過ごしていたというわけではないのであろう」


 宗一郎は頷く。


「オレはプリシラに会った」


 最初の一言でフルフルを除くその場すべての人間が驚かされた。


 そして話を始まった。


ゴスロリ少女きたああああああああああああああああああ!!!!


明日は18時です。

よろしくお願いします。

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