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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第3章 最強帝国編

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第9話 ~ 戻ってきたぞ…… ~

サブタイがネタバレ過ぎるw


第3章第9話です。

よろしくお願いします。

「あの方……?」


 再びマントが翻る。

 予想通りの反応だった。マトーの顔が怒りに変わる。隈取りがさらにその感情を増幅し、醜悪に見せていた。


 マトーは、ライカの喉元を掴む。

 乱暴につるし上げた。


「あの方とはどなたのことだ? ええ!? 皇女殿下!!」


 虹彩を細め、唾を飛ばした。


 ライカは応答しない。

 答えたくないというよりは、マトーの締め付けに抗うので精一杯だった。


 それでも公爵家の次男は、執拗に問い詰めた。

 誰だ!? と。


「それはアレか? ……世界を救うと豪語して置きながら、火吹き蜥蜴(オーガラスト)1匹すら満足に狩れない勇者様のことか!! は! まだあの男に未練が残しているとはな」

「ち、ちが……」

「何が違うというのだ。この売女皇女が! それとも何か? 悲しみに暮れる振りをしながら、ここで男と密会でもしているのか? そんなに身体が寂しいのか!? だったら――」


 マトーの手がライカの白いドレスにかかる。

 闘技場で戦いの後、晩餐会で見せたあの白いドレスだ。今でも気に入っていて、度々着用していた。


 そのドレスの布が裂かれる。


 何本かの繊維が切れると、一気に――。


「おやめください! マトー様!!」

「――!」


 マトーは強い眼差しを後ろに送る。


 ライカよりも濃い金髪の少女が、杖を構えて立っていた。


「くり、ね……」


 朦朧としながら、ライカは妹の名を呼んだ。


 クリネは姉よりも濃い緑色の瞳をキッと見据えている。

 肩で息をしているが、概ね落ち着いているようにいた。むしろ獲物を狙う狩人のように堂々としている。


 花蕾が付いた杖の先は、静かにマトーに向けられていた。


 幼いもう1人の皇女殿下の――殺意混じりの――闘気に、帝国最強のスペルマスターは全く物怖じしない。


 蛮行こそ止めたが、手をライカから離すことはなかった。


「聞いてなかったッスか? ライカから離れるッスよ」


 クリネの後ろから現れたのは、茶褐色の肌をした少女だった。

 手には何体とモンスターを屠ってきたバスターソードを握っている。


「あの浮浪者ゆうしゃの下女か……。まだライカの周りをウロチョロしていたのか!」


 忌々しいという風に、マトーは吐き捨てる。


「クリネ皇女もこんなところにいて良いのですか? 陛下の容態……。あまりよろしくないのでしょう?」


 少女の小さな眉がピクリと動いた。

 唇を噛むが、態度は変わることはなく毅然としていた。


「父上なら……。自分の容態を重んじるよりも、娘が暴漢の手にかかっていることの方が問題視したでしょう」

「俺を暴漢と呼ぶか……。全く皇族の姫君たちは、少々口が悪いのではないか。俺が皇帝になった暁には、真っ先に教育長を馘にせねばなるまい。そして俺好みの女に調教してやろう」

「卑猥な……。あなたのようなものが皇帝になるなど、帝国も終わりです」

「言うなあ、クリネ殿下……」


 マトーは睨む。しかしその口元は笑っていた。


「少々お強くなられたからといって、皇帝になるものに対する礼儀がなっていないのではないか?」

「あなたの方こそ皇族に対する礼儀がなっていないのではないですか?」


 クリネはあくまで態度を崩さない。

 杖を向け、いつでも呪唱できる体勢を作る。


 そんな小さな勇者を、塵虫でも見るかのようにマトーは目を細めた。


 そして――。


「衛兵……。そいつらを捉えろ」


 部屋の外に待機していた衛兵を呼ぶ。

 長い槍を携えた2人の衛兵は、部屋の中を向く。


「し、しかし……」


 小さな皇女殿下を一瞥しつつ、衛兵は反論する。


「何をしている? 俺は未来の皇帝だぞ。それは揺るがぬ事実だ」

「聞いてはなりません! この男はまだ皇帝ではない。あなたたちに命令を下すことのできる地位や身分ではないのです!」


 皇女と公爵家の人間に挟まれ、右往左往する。

 そんな衛兵を一喝したのは、やはりマトーだった。


「聞いていなかったのか? ……俺が皇帝になったら、お前の馘を飛ばすことなど造作もないのだぞ。それともあらぬ嫌疑をかけて、お前たちの親族か恋人を牢獄に繋いでやろうか!」


 衛兵の顔が一気に青ざめる。


「皇帝は、そんなことはできません。聞く耳をもたないで!」

「殿下……」


 手に持った槍をギュッと握り込む。

 そして、その切っ先は小さな皇女へと向けられた。


「何をするのです! 離しなさい!!」

「申し訳ありません」

「こ、こら! やめるッスよ! ……幼女は大切に――」


 ドアがパタリと閉まった。


 喧騒が離れて行く。


 部屋はしん――と静まり返った。


「ようやくだな……」


 マトーは振り返る。


 ライカが親の仇でも見るかのように睨んでいた。


「そんなに睨むな。……お前の手前。あれでも穏便に済ませたのだぞ? 今の俺に武器を向けたのだ。本来は極刑も免れぬ」

「あなたは皇帝ではない」

「何度も言わせるな。俺はもう皇帝だ……」


 マトーはドレスを掴み直す。


 その繊維が1本1本、縦に切れていくのを見つめた。


「さあて……。静かになったところで、良い頃合いだ。楽しませてもらおう。お堅い姫君の身体を――」


 唇を強く噛み、少し潤んだ瞳をマトーに向ける。

 ライカは叫んだ。


「クッコロ!!」


 そして目をつむった。

 観念するように……。


 だが――。



「相変わらずわかりやすいゲスっぷりだな……。マトー殿」



 声が聞こえた。


 部屋にいた2人の両目が、同時に大きく開かれる。


 窓がいつの間にか開いていた。


 外気が突風となって部屋になだれ込んでくる。


 カーテンが揺れ、マントが揺れ、そして金色の髪が揺れた。


 暗い窓外に、人が姿を現す


 風とともに、部屋に滑り込むと。


 カツーン……。


 革靴の音を鳴らして、着地した。


 マトーは手を離した。

 ライカはそのまま脱力するようにぺたりと絨毯に尻餅をつく。


 赤くなった鼻頭を手で覆い、緑眼から涙が溢れた。


 風で乱れた髪を後ろになでつけ、ズボンのポケットに片手を入れる。

 刀剣のような鋭い瞳を前方に、そして口端を広げて笑みを浮かべた。


 突然、部屋の扉が開かれる。

 衛兵を振り切って現れたのは、クリネとフルフルだった。


 部屋の中の状況を見て、怒りに燃える2人の顔からすっと感情が消えて行く。

 残ったのは、驚きと喜びだった。


「ご主人!!」


 フルフルの声が静まり返った部屋に響き渡る。


 男はふんと鼻を鳴らし、呟いた。


「戻ってきたぞ……」


 その言葉通り――。


 現代最強魔術師――杉井宗一郎の帝都凱旋だった。


おそらく第3章は今までの本章の中で、最長になるかもです。


明日は18時に更新します。

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