第7話 ~ 何を笑っている…… ~
第3章第7話です。
よろしくお願いします。
目を開けた。
赤い煉瓦張りの床が見えた。
すぐにあの城の中だとわかった。
「おお そういち ! ゆうしゃの ちをひくものよ! そなたのくるのをまっておったぞ。」
玉座に座った王をのぞき見る。
最初は気付かなかったが、確かに気色が悪い。
ちゃんと栄養を摂れていないのだろう。まるでゾンビのように顔が青かった。
一体いつから『ロール・プレイング病』が発症したのかは知らないが、早く処置をしなければ、間違いなく死んでしまう。
「……りゅうおうをたおし、そのてから ひかりのたまをとりもどしてくれ!」
長い文言が続く。
宗一郎は身体を動かそうとするが、金縛りにあったかのように動けない。
イベントの最中動けないのは、仕様なのだろう。
「では また あおう! ゆうしゃ そういち よ!」
やっと王の台詞が終わり、解放される。
思った通り、身体が自由になった。
宗一郎は王からの贈り物を完全に無視して、階下に降りていく。
人と一切会話せず、城を出て、街中を通り過ぎていく。
ふと胸に手を当てると、鼓動が早くなっていることに気付いた。
――焦るな……。
自戒すると、城門をくぐった。
フィールドに出ると、宗一郎の歩幅が大きくなる。
やがて駆け足になり、全力で走り出した。
出現する低レベルのモンスターをすべて相手せず、街道を突き抜けていく。
ふとその時、とんがり帽子をかぶったあのゴーストと出会った。
「そういち」を殺したモンスターと同種だ。
逃げようとするが、ゴーストに回り込まれる。
「にげる」のコマンドは、素早さと運のパラメーターによると昔、ライカから聞いた事があった。
ライカ…………。
金色の美しい髪の少女が脳裏をよぎった。
ふと顔を上げる。
気付いたら、雨が降っていた。
土砂降りの雨だ。
しかし、ゴーストの笑い声が聞こえた。
何かすべてを知って、宗一郎を笑っているように見えた。
耳障りだった。
「何を笑っている……」
「ピキッ!」
それが鳴き声なのか、何か身体を動かして出した音なのかはわからない。
ゴーストの嫌らしい目つきが、宗一郎の顔を見て徐々に変わっていった。
「目障りだな」
突如、宗一郎の周りに炎が渦を巻いた。
蛇のように全身に這いずり回ると、紅炎がすっぽりと魔術師の身体を隠してしまった。かろうじて見えるのは、憎悪に歪んだ瞳だ。
「ピキィイイイイイイイイイイ!!!」
力量の差に気付いたのか。
ゴーストは悲鳴を上げながら、逃げ去ろうとする。
だが遅い。
宗一郎は追いかけると、ゴーストの尻尾を掴んだ。
「だから何を笑っている……」
問いかけるが、ゴーストはすでに笑っていない。
顔は青ざめ、目は白く向きそうになりながら、大口を開けて叫んでいる。
つまり恐怖に歪んでいた。
炎の蛇が宗一郎の腕から巻き付いていく。
蛇腹に絡め取られたカエルのようにモンスターの意識が遠のいていく。同時に、霊体は燃えた側から炭なり、焼け落ちていく。
身体が半分消えたところで、すでにゴーストは息絶えていた。
それでも魔術を緩めない。
溶けていく蝋をじっと観察するかのように、ゴーストの身体が消滅していく様を見続けていた。
炎の身体を叩く雨が、そんな宗一郎を制しているように見えた。
やがてゴーストは消えた。
残った灰や消し炭も、雨に流されていく。
暗く、雨降る闇の中で、男は1人だった。
流れていく灰を見ながら、呟く。
「八つ当たりとは……。我ながららしくないな」
胸に手を当てる。
やはり鼓動は早い。
一歩進めようとした足が止まった。
前に行かない。
宗一郎は目をつむる。
――そうだな。らしくない……。
「ふう……」
ったく……。
異世界に来てからというもの。
何かとらしくない自分を見つけてしまう。
今一度問おう。
オレは何者なのか、と……。
勇者?
違うな。
魔術師?
答えとしては正解だが――だが足りない。
杉井宗一郎……?
そんなの当たり前だ。
応えよう……。
オレの名前は杉井宗一郎。
現代世界で最強と言われた魔術師だ。
「最強ならば……。そして魔術師であるなら……。それなりの戦い方があるだろうが――」
何故、忘れていた。
……ったく。
まだまだ未熟のようです。我が師匠殿……。
そんなことを言うと、目に浮かぶ。
「あんたはまだ、最強を名乗るには早すぎる」
とんがり帽子と黒マントの少女が、笑っている。
ふっと纏い続けていた炎を払う。
いつの間にか雨が止んでいた。
雲が晴れ、月のない空に、無数の星が瞬く。
宗一郎は気を取り直して言った。
「プリシラ聞こえるか……」
一拍おいた後、「なに?」と耳元で囁く声が聞こえた。
もちろん、女神の姿はない。
「提案したいことがある……」
宗一郎は話を始めた。
本日の更新はここまでです。
お読みいただきありがとうございます。
明日も2本投稿します。
1本目は12時。2本目は18時です。
よろしくお願いします。




