第5話 ~ AC版の天地が〇らう2で馬超は出てきたの? ~
第3章第5話です。
3章のプロローグ的な話は、明日で終わりです。
「ロール・プレイングって知ってるわよね」
とプリシラは切り出した。
食いついたのはフルフルだった。
「現実とは違う役になりきることッスよね。フルフルはTRPGとかも好きッスよ」
「そう――。で、どうやら私の呪術とあんたたちが持ち込んだゲームがハイブリッドしたことによって、最近オーバリアントの人間に『ロール・プレイング病』と称してもいい人格障害が起きてるの」
「「ロール・プレイング病……」」
「あんたはその人間たちにあったはずよ」
プリシラは宗一郎を指さす。
「あの城の中の人間たちか……」
おぼろげにしか覚えていない
だが、言われてみれば台詞や表情に作為的なものを感じた。
「あそこはかつてローレスト三国の一国であったローレスっていう国だったわ。ところがある日を境に、城とその城下町が『ロール・プレイング病』にかかって、城や街の人間にいたるまですべての人格が変わってしまった」
「…………!」
「一見、何の代わり映えもしてないんだけど、完全に商業や軍事は停滞してる状態……。健康状態も悪いわ。何せ水も食糧もとってない。生きてるのが不思議なぐらいなのよ」
「それはもう全世界で起こってるのか?」
「私が確認した限りでは、ローレスト三国の他の2カ国にも影響が出てる。その三国の一帯が顕著ね」
「イベントモンスターも、そのロール・プレイング病によるものッスか?」
「私はそう考えている」
「うーむ。面白そッスけど……。街の人全部がそうなっちゃうと気持ち悪いッスね。話しかけても、永遠と同じ答えが返ってきそうッス。……まさにバイオハザードッスよ」
「バイオハザード?」
「およ? 知らないッスか? そっか。プリシラちゃんがこっちに来る前ッスからね。あの後、ソニーがゲーム機を出したんスよ」
「ちょ! 何それ!! ソニーが!!!」
「バイオハザードはそのソニーのゲーム機で爆発的に売れたカプコンのキラーコンテンツっスよ!」
「ええ! カプコンって、ロッ〇マンとか魔〇村の!!」
「おお……。さすが、その辺りのレトロゲームは詳しいッスね」
「ねぇ! ちょっと教えてくれない! AC版の天地が〇らう2で馬超は出てきたの? あれの開発前に、異世界に転生しちゃったから無茶苦茶気になってたの!」
「え、ええ……。どうだったスかね……。フルフル、孔明伝しかやったことないッスから」
「ぐあああ! そのことだけがメチャクチャ心の残りなの! いや、それだけじゃないわ。ドラ〇エⅣもエンディングを見ずに放り出して来ちゃったし。エスタークが強すぎるのよ。F〇Ⅳなんて、まだ実機も見ずに来ちゃったわ」
「日本は不景気でしたけど、ゲーム業界は激動の時期ッスからね。あの頃は……」
わかるわかる、という風にフルフルは頷いた。
「フルフル……。あんたとは旨い酒が飲めそうだわ」
「いつでも受けて立つッスよ。朝まで寝かせない自信があるッス」
「むふふ……」
「うふふ……」
「「ふは――――はははははははッ!!」」
2人は突然、声を揃えて笑い出した。
「いい加減にしろ! お前ら! ゲームの話なら余所でやれ!!」
「うるさいわね。世界の命運よりもね。私にとって、残してきたゲームの方が気になるのよ」
――だったら、異世界に来るなよ、このダメ女神が!!
「ご主人はゲーマーの魂がわかってないッス。これだから意識が高い系の人は」
へらっと笑い、肩をすくめる。
――覚えていろよ、この悪魔……。
おほん! と咳払いし、宗一郎は気を取り直した。
「で――。解決の目処は立っているのか?」
今度はプリシラが肩をすくめる。
「それが出来るなら、こんなところであんたと悠長にお喋りなんかしてないわ」
「……! つくづく可愛げのない女神だ」
「なんか言った?」
「使えない神だな――そう言ったのだ」
「ムカ! べ、別に私だって、ただこの雲の上から手をこまねいて見ていたわけじゃないのよ」
「……最初の質問に戻るが、オレで何をしようとしていた?」
「イベントを進めようとしたのよ」
「……?」
宗一郎は眉根を寄せる。
「現状、ゲーム機に内在していた情報と、私の術式があまりに複雑に絡まりすぎていて、元の状態に戻すのは私でも不可能。呪術を切ることは出来るだろうけど、その場合人格変化を起こした人間がどうなるかわからない」
「つまり、お前の方でコントロールは不可能ということだな」
「はっきり言わないでくれる。……あんたみたいな上司が1番嫌いだったわ」
「馬が合わないのだろう、オレたちは」
「そうだったわね」
こめかみをひくひく動かしながら、プリシラは頷いた。
「けど、システムに潜り込んで意図的に『ロール・プレイング病』の症状を起こすことが出来る。まあ、元は私が組んだシステムだしね」
「おお……。なら、今度フルフルは無数の触手に絡まれる女賢者役とかやってみたいッス」
「お好みとあらば、武闘家の王女様で、お付きの神官とじいさんと3人で――」
「ふふふ……。プリシラたんはよくわかってるッスね」
「ほほほ……。フルフル、あんたも悪ね」
お代官と越後屋みたいに笑い出した。
宗一郎は無理矢理話を進める。
「つまり、お前……。オレに勇者の役をやらせて、イベントを進めようとしたな」
「そういうこと。あんたほど敵役はいないしね。ところが、こっちから遠隔操作してもうまくいかなくってね。……何度、やられたことか」
最初の街で回復役を買い込まず、レベルも上げず、装備も忘れて、新しい町へと突っ込めば、自ずとそうなるだろう。
この女神……。
どうやらゲーマーのようだが、ゲームは下手くそらしい。
しかも若干“腐れ”が入ってるようだし。
「つまり、勇者になってイベントをこなし、最終的にエンディングを迎えれば、自ずとその『ロール・プレイング病』は治るとお前は考えているのだな?」
「ご明察……」
「そうすれば、治るという確率は?」
「さてね。……私も確証があってやってたわけじゃない。手がないから、仕方なく外堀を埋めておきたかっただけよ」
「なるほどな」
大きく的が外れているとは思えなかった。
そもそもオーガラストを倒せなかったのも、勇者という役割を持った人間しか倒せなかったからだ。
それを宗一郎が無理矢理倒したため、なんらかの障害が起きたのだろう。
そう言えば――。
「オーガラストを倒してから、どれぐらい日にちが経っている?」
「1ヶ月近くッスかね。……あ! そうだ。ご主人、実は――」
「どうなの? 私に協力して、イベントを進める気になってくれたかしら」
フルフルの言葉を遮り、プリシラは尋ねた。
「仕方あるまい……。お前の手の上で踊らされているのは少々不本意だがな」
「そ……。なら、またローレスに転送してあげるわ」
「その前に確認だ。……イベントを進めるのはいいが、必ずしもレベルアップやここの流儀に則った戦い方をしなければならないのか?」
「それは大丈夫なんじゃないかしら……。あくまで勇者が魔物を倒すことが前提だし。ゲームもレベル1で倒してはいけないなんてルールはないはずだしね」
「ならいい」
「あんた、もしかして……。まだレベル1で攻略しようとか考えてる?」
「むろんだ」
「ああ! やだやだ」
銀色の髪を掻き毟った。
「縛りプレイならわかるけど……。あんたの場合、単純にレベルアップっていう努力を認めないところが気にくわないわ」
「何度も言わせるな。オレたちは――」
「馬が合わない。何度も言わなくてもわかってるわよ!」
馬が合わないという2人だが、絶妙な掛け合いを見せる。
「じゃあ、転送を――」
「はい! ちょっと待つッス!」
「なによ、フルフル……」
手を挙げたフルフルを、プリシラは鬱陶しげに見つめた。
「その前に、ご主人に聞いてほしいことがあるッスよ」
「なんだ?」
「実は…………」
フルフルは一瞬躊躇った後、意を決して言った。
「実は、ライカが結婚することになったッスよ」
………………。
「なに?」
我が耳を疑った。
ちょっと長めの説明回になりましたが、
ここまでいかがだったでしょうか?
ちなみに、残念ながら馬超は出てきません(五虎大将軍なのに……)
明日は2本あげる予定です。
1本目は12時。2本目は18時になります。