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プロローグⅡ ~ 異世界……ですか? ~ (2)

本日2回目投稿です。

よろしくお願いします。

 長方形の短辺。つまり宗一郎の真向かいに当たる場所に座っていたのは、まだ若い――20代と思われる女性だった。


 日本人らしい墨を混ぜたような長い黒髪。

 柳の影から出てきそうな青白い肌。

 腕は細く、長い指には一切の装飾の跡がない。

 まるで就活生が着るようなグレーのスーツに、白いシャツ。スカートから伸びた太股はゆったりとした曲線を描き、ピンヒールにまで続いている。

 シャツからはち切れそうになっているのは、豊かな胸。そっとのぞき込めば、谷間が確認できるぐらいの大きな乳房が、スーツを襟から張り出していた。


 議場にいる女性の3人目。

 第103代内閣総理大臣、黒星あるみである。


 国の代表の中でもっとも若いあるみは、うつろげな顔を持ち上げる。

 やや細い黒目から放たれる眼光に、一同は息を飲んだ。

 半縁の眼鏡が緩衝材にならなければ、1人ぐらいは心臓発作を起こして、絶命させるぐらいの強い眼光。そんな――フルフルに言わせれば――中二的な妄想を抱いてもおかしくないほど、少女には静かな気迫のようなもの感じた。


「ロシア大統領……」

「な、なにか?」


 小さく静謐とさえいえるのに、精神の奥まで突き刺さるような声だった。


「それは我が国の法律において、おそらく想定していないであろう“異世界”という場所に、彼が渡航することを引き留めることが出来るか、ということでしょうか?」


 それとも……。


「日本国において、犯罪を犯したこの不埒者を、貴国やアメリカでさえ手を焼いているのに、日本一国の力で――それも警察だけで拘引することは可能かどうかと、お伺いですか?」

「前者だよ、お若い首相殿。ま、後者を達成できる自信があるならなさるがいい。私は止めない」

「ならば、拘引は難しいでしょう。貴国はどうかはわかりませんが、我が国には渡航の自由というものが認められています」

「なるほど。詮のない質問でしたな」

「はい。実に、不毛でした」

「ところで、君は彼が“異世界”に行くということにおいて、どう思っているのかね?」


 質問したのは、別の人間だった。


「どう思っている――というのは、随分と抽象的な言い回しですね。国家主席」


 少女といっても差し支えない若いあるみは、身体を向けて睨んだ。

 国家主席は視線を合わそうとはせず、議場にかかった絵の方を向いていた。


「しいて言うなら、ロシア大統領が仰ったこととほぼ同じ意見です。彼が望むのであれば、我々には阻む手段がありません。たとえ、核を持ってきて脅したところで、結果は変わらないでしょう。彼がいなくなった後のことについては、混迷が予想されますが、彼の責任を問うても詮のないことだと考えます。彼は我々に考えろと言っているのです。ならば、そうすればいいだけのこと」

「ほう……。随分と宗一郎先生の肩を持つのですな」

「あなたこそ、随分と棘のある言い方をするのですね。国家主席」


 福顔が少し歪んだ。


「なに……。公人としての意見はそうでしょう。しかし私人としてはどうでしょうか?」

「仰っている意味がわかりかねます」

「いやね。まだゴシップ記事程度の扱いですが、あなたと宗一郎先生の間で何やら睦みごとがあるようでしてな。確かあなたと宗一郎先生は同い年と聞いています。つまりは若い。そしてあなたは女で、なかなかの美貌の持ち主だ」


 横目で主席は、若い首脳の胸を値踏みする。


「男女の仲になっていてもおかしくない」

「彼は犯罪者です。公人である私と接点があるはずがない」

「接点などいくらでも作れるでしょう。……彼は魔術師でしょう? 官邸で寝ているあなたの寝込みを襲うなんて造作もないことだ」

「侮辱していると受け取っていいのでしょうか。国家主席」


 あるみの顔が怒りに歪んだ。


 その時だった。


 トタ……。


 軽い――しかし議場では異質な音が、静かに響いた。


 いつの間にか、宗一郎が長いテーブルの上に立っていた。

 ニヤリと笑う。


「国家主席よ」

「はひ」


 血色の良かった国家主席の顔が、一瞬にして真っ青に染まった。

 宗一郎はその張り出した肩を2回、ポンポンと叩く。


「お前……。若い女性首相をいじめるのに夢中で、オレの存在を忘れてはつげんしたな?」

「め、滅相もない!」

「じゃあ、寝込みを襲うというのはなんなんだ? 侮辱か? さっきもうちの首相が尋ねていたな? どっちだ?」

「いや、それは…………そのぉ……。言葉の微妙なニュアンスというか」

「ニュアンスか。でも、さっきの発言は女性に対しては失礼じゃないか? どうだ? ドイツの首相」


 急に促されて、ドイツの首相はハッと顔を上げる。

 小さく頷き「仰るとおりかと」と答えた。

 すぐ斜め隣にいる東南アジアの女性代表も、大きく頷いていた。


「謝罪を……。国家主席」

「い、一国の元首が、他国の首相に頭を垂れるなど、どれほど政治的影響が……」

「じゃあ、私人として謝ればいい。難しいことではない。子供でも出来ることだ」

「ぐ……。うう…………」


 青白い顔が一転、今度は赤くなっていく。

 ひたすらポーカーフェイスの福顔が、赤鬼になったように歪んでいた。


「は、発言を――――」

「おいおい。座ったままで謝るのか? 土下座とはいわんがな。せめて立ってするもんだろう?」

「んぐ!!」


 エラのように張り出した面の皮が震えているのが見えた。


 男性の代表たちは、やや神妙な面持ちで。

 女性の代表は、少し怒りを含んだ顔で国家主席の謝罪を見つめている。


「こ……このたび――」

「方向が違うだろ? あっちだ」


 宗一郎に向いていた頭を、あるみの方へと向ける。


 そして三度、国家主席は謝罪の言葉を口にした。


「いきすぎた発言を撤回する。……どうかこれで許してもらいたい」


 頭を垂れた。

 全身が痙攣しているように震えていた。


「これで手打ちだ。いいな、あるみ」

「私の下の名前で呼ばないで下さい。宗一郎」



 「「「「「「「「「「「「 え? 」」」」」」」」」」」」



 一同――瞠目した。


 頭を下げた国家主席も、細い目を広げて呆気にとられている。


「み、ミスタースギイ……」


 おずおずと手を挙げたのは、アメリカ大統領だった。


「再確認したいのだが。本当に2人には何もないのだな?」

「何もないということはないぞ。何故ならオレ達は――――」


「元恋人同士だからな」「単なる幼なじみです」


 …………。


「おい! 思わせぶりにかぶせてくるな。恋人同士だったのは事実だ」

「記憶にございません」

「な――。政治家みたいな返事するな」

「政治家ですよ。それも総理大臣です。あなたの国の。もっとも迷惑を被ったものの1人です」

「それは悪かったな、あるみ」

「だから、下の名前で呼ばないで下さい。セクハラで訴えますよ、この中二病患者」

「中二病ではない。中学生と一緒にするな! オレの魔術は本物だ」


 明らかに男女の痴話喧嘩らしきやりとりが、国というよりは世界の行く末を占う大事な会議場で繰り広げられる。


 代表のある者は、口をポカンと開けて固まり、ある者は顔を覆い、何度も首を振っている。南米の代表は、腹を抱えて笑っていた。


 しかし、一際オーバーアクションだったのは、中国国家主席だった。


「ほれみたことか! やはりそうではないか!」


 机をバンと叩き、ロシア大統領に視線を向けた。


「大統領! どう思いますか? 日本は現代最強魔術師という世界最高の兵器を手懐けている。軍事力が落ちた我々や貴国を攻め入るかもしれませんぞ!」

「……ふむ? どうですかな? 黒星首相」

「それはない」


 代わりに答えたのは、宗一郎だった。

 元の席につくと、ゆったりと腰を落ち着ける。


「オレとあるみが付き合っていたのは、そいつが政治家になる前だ。ちなみに、一応弁護しておいてやると、あるみはオレの計画には大反対だった。おかげで、恋人関係が解消させられたほどにな」

「あなたには聞いていない、宗一郎先生。私は黒星首相に尋ねているのです」


 先ほどの謝罪の強要が、相当悔しかったのだろう。

 宗一郎を指さして怒鳴ると、あるみに向き直った。


 若き女性首相は、俯き加減な状態から顔を上げ、眼光を光らせた。


「もし、宗一郎を私的に利用できるなら、今頃あなた方の首はないはずですが」


 ヒートアップしかけた議場が、一気に零下まで落ち込んだ。


 代表たちは一応に顔を青ざめ、固まる。


 その中で唯一肝の据わったロシア大統領は。


「確かに」


 と笑った。


 国家主席は脱力し、ストンと自分の席に尻をつけた。

 そんな主席に追い打ちをかけるように、あるみは声をかけた。


「国家主席……。出来れば、今度は公人としての謝罪を」

「なんだと!」

「宗一郎は兵器などではありません。犯罪者ではありますが、我が国の国民です。兵器というは、明らかな人権侵害だと思いますが」

「んっ――――くぅ――――」


 国家主席は強く奥歯を噛む。拗ねた子供みたいにそっぽを向いた。


 そしてようやく議場は、落ち着きを取り戻す。

 発言したのは、アメリカ大統領だった。


「議題が議題だ。……緊急に国連議会を開き、今後の対応を考えるべきと考えるが」

「少し考えたのですが、ミスタースギイがいるように見せかけるということは出来ないでしょうか? 情報操作を行うのです」

「ムッシュ、アフリカ代表……。それは一定期間、効果はあると思うが、長期的なスパンでは建設的ではない」

「それなら、まず常任理事会を開くべきでしょう。情報を持っている者は少ない方がいい」

「なるほど」

「賛成だ」


 議場がまとまりかけた時、宗一郎は立ち上がった。


「後は任せるぞ。いいな」

「ああ……。待ってくれ、ミスタースギイ」


 呼び止めたのは、アメリカ大統領だった。


 立ち上がって近づくと、握手を要求した。


「“異世界”というものがどういうところかは知らないが……。幸運を。出来れば、我が世界に有益なるものをもたらさんことを」

「それは、オレが帰ってくる前提の話ではないか」

「信じているからね」


 軽い抱擁をして離れる。

 次に握手を要求してきたのは、ロシアの大統領だった。


「私としては戻ってきてほしくない。出来れば向こうに定住して、ドラゴンでも狩りながら、ゆっくりスローライフを楽しんできてほしい」

「土産はドラゴンの頭がいいか?」

「はは……。それは悪くない」


 各国の首脳や地域の代表と挨拶を交わす。

 奇異な光景だった。


 約3年間、宗一郎は脅迫に近い方法で各国の首脳を利用した。

 先ほどのような不遜な物言いもしたし、無茶もいった。


 だが、首脳たちは、引退するメジャーリーガーのファンのように、宗一郎と握手し、サインを求め、別れを惜しんでいた。


 彼らもまた、心の奥底ではヒーローと認めていたのだ。


 しかし、ついぞ国家主席と、日本国内閣総理大臣の姿は、彼の前に現れることはなかった。



ちなみに、これはフィクションであり。実在の人物や団体などとは関係ありません。あしからずご了承ください。


本日3話目は18時です。

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