第4話 ~ 魔界漫才はよそでやってくれる ~
弾3章第4話です。
まさかの伏線回収w
「オレたちが生み出した、だと……」
プリシラは怨念めいた顔で、ギッと宗一郎を睨み付けた。
「そうよ」
「オレがモンスターを自力で倒したからか?」
「違うわ。そんなの些細な事よ。想定にはなかったけどね。……まさか自分の世界の人間が、モンスターを自力で倒すとは思わなかったけど」
「じゃあ……」
宗一郎は困惑するだけだ。
全く心当たりがないからなのだが、プリシラの顔はさらに不機嫌になっていく。
「あなたたちがイベントモンスターって呼んでるものね。たぶん、あなたたちは私の差し金とか思ってたんでしょうけど、私から見てもあれは予想外の現象なのよ」
「なに!?」
「さっきも言ったけど、私がいじったのはレベル、ステータス、復活、ゴールド……現実世界に転用が出来そうなゲーム要素を抽出して、オーバリアントを回していたの。イベントモンスターなんてまどろっこしいものなんて作るはずはないわ。そもそもモンスターを倒すための力だしね」
「なら――。何故、イベントモンスターがいるのだ?」
プリシラは長く息を吐いた。
熱くなりはじめた頭を冷やすように……。
「だから、あんたたちのせいだって言ってんの!」
「全く身に覚えがないぞ。オレたちが何をしたと――」
「あの~」
おずおずと手を挙げたのは、フルフルだった。
「さっきから“オレたち”って言ってるスけど……。フルフルも含まれるんスか?」
「当然よ。むしろ諸悪はあなたにあるっていっても過言ではないわ」
今度はフルフルを睨み付けた。
「え? ええええ? フルフル、何もわかんないッスよ! 身に覚えがないッス!全然……。ねぇ、ご主人……」
主人はジト目で睨んでいた。
明らかに疑っていた。
「ちょ! ご主人! なんスか! その猜疑心の塊みたいなまなこは!」
宗一郎はフルフルの肩に手を置いた。
「とっとと吐け……。何をした!!」
「ひぃいいいい!!! フルフル、ご主人の従順な下僕なのにぃ!!」
「心配するな。貴様に対する信用度などゼロどころかマイナスだ」
「なんスか! その日本の金利みたいな評価は!」
「さあ……。吐け! さもなくば、聖書を48時間に渡って読み聞かせてやるぞ」
「ぎゃああああああ! ちょっと待つッス、ご主人! 本当にフルフルは何も知らないんスよ! そもそもご主人は、目の前の女神と従順な下僕の言葉……どっちを信じるッスか!?」
宗一郎は首を回す。
片や頬杖をつき、ムスッとした顔でこちらを睨む女神。
片や手を組み、天使のように顔を輝かせた悪魔。
勝負は一瞬だった。
「…………」
宗一郎は女神を指さす。
「なんでッスか! さっきの感動の再会はなんなんスか! フルフルの涙を返して下さいよ」
「……だいたいお前、オレに隠しごとをしてないと言い切れるか!?」
「フルフルは一切やましい事はしてないッス。せいぜい、ご主人が寝ている時の寝顔を写メで取ったり、添い寝したり、たまに淫夢とか見せて精液とか吸い取ったりしてませんから!」
「信用できるかああああああああああああ!!!」
パンパンと手が叩く音が聞こえる。
プリシラだ。
「はいはい。そこまで……。魔界漫才はよそでやってくれる」
「「誰が魔界漫才だ(ッスか)!!」」
2人は声を揃えた。
プリシラは前髪を掻き上げて、気を取り直す。
「まあ、その子がわからないのも無理はないわ。私もこの状況の発生源に至るまで気付かなかったしね」
「発生源?」
「最近、ようやく発見してね。……やっとからくりに気付いたのよ」
そしてプリシラは、1機の携帯ゲーム機を取り出したのだった。
「あ゛あ゛!!」
とんでもない大声を出して驚いたのは、フルフルだった。
プリシラが出してきた携帯ゲーム機を指さす。
埃と泥にまみれた本体の画面は沈黙しており、おそらくもう壊れて動かなくなっているのだろう。
「フルフルのゲーム機!!」
素っ頓狂な声で叫んだ。
「お前、スマホどころか携帯ゲームまで!」
「いやいや、落ち着くッスよ、ご主人! 思い出してほしいッス!」
「何を!?」
「ご主人が異世界に行く時の話ッス。話数で言うと、第7部分の『行くッスよ! ご主人! 異世界へ!』を思い出してほしいッス」
「お前、何言ってんのだ?」
部分? そしてそのサブタイみたいな台詞はなんだ?
「ご主人があるみ様と喋ってて、暇だったからRTAやってたッスよ。某RPGの!」
「あ!」
宗一郎は思い出した。
異世界に行く際、一度フルフルに急かされた時、ゲーム音か何かが聞こえてきていたような気がする。
「いや――。待て。それとどう関係がある。今のオーバリアントと」
「そうッスよ! ソースを教えてほしいッス!」
「まだわかんない? あんたも魔術の端くれでしょ。どうやってこの異世界に来たのか、忘れたわけ?」
「異世界に来た?」
「呪術も魔術も一緒でしょうが……」
“あ?”
思い……出した……。
あの日、あるみに語った事を。
その魔術の理論を。
“魔術において、その体系、術式、真名は重要の要素だが、もっとも重要なことは人間の概念イメージを総括する要素を押さえることだ”
“そうした概念イメージを、儀式の中に組み込むことが、魔術にとってとても重要なことなのだ”
「私の呪術もその理論において構成されている。……私の概念イメージはもちろん“ゲーム”よ」
「まさか……」
宗一郎の背中を流れる冷や汗の量が、次第に多くなっていく。
やっと気付いたか、というようにプリシラは「はあ」と息を吐いた。
「そのまさかよ。……この世界にかけたられた呪術の設定に、あんたの悪魔が持っていたゲーム機の内容が加算されてしまったのよ」
目の前のコンソールを叩く。
よく見ると、それは巨大なアーケードゲームだった。
…………………………………………………………………………………………。
2人は沈黙した。
ぐうの音も出ないとはこのことだろう。
確かにプリシラのシステムは、いくつかの欠陥がある。
カカやヤーヤの例がそれだ。
だが、確かに危うさはあったが、バランスがとれていた事は、宗一郎も評価はしていた。
その危ういバランスを根底から蹴飛ばしてしまったのは、宗一郎たちだった。
そしてオーガラストとの一戦。
多大な犠牲を出した原因も、自分にあったということになる。
知らなかったといえば、確かにそうだろう。
しかし、それを見て見ぬ振りが出来るほど……。
宗一郎の意識は低くなかった。
「これでも私を倒そうって思うなら、どうぞご勝手に……」
打ってこい、と言わんばかりに、腕を広げた。
しかし、先ほどまで向け続けていた敵意を、宗一郎は収めた。
ずっと臨戦態勢だった拳を下ろす。
「わかった。今はお前を裁かないでおこう」
「今は……ね。あんた、自分が何しでかしたかわかってるの?」
「お前こそわかっているのか? 元凶は貴様だろう。そこに偶然、我々が関与してしまっただけだ。言ってみれば、オレたちは被害者であって、過度に責任を負う立場ではない」
「…………」
「だが、見て見ぬ振りはできん。放っておくと、どうなるかわからんし、貴様を殺して、呪術を完成させるわけにもいかない。……だから、今はは生かしておいてやると言っているのだ」
「チッ」
女神は舌打ちを隠さなかった。
「それで? お前……。オレの身体を使って、何をしようとしていた?」
ずっと最初の質問に戻る。
どこかの王と謁見する光景。
城外に出て、モンスターと戦闘し、敗れる様を思い出す。
「わかったわ。……その代わり、今後は私の指示に従ってもらう」
「承服出来る指示ならばな」
「ホントむかつくわ。……あんたと私は絶対に馬が合わないわね」
「そいつは光栄だ」
ふん、と鼻を鳴らして、宗一郎はプリシラを睨んだ。
問題の『プロローグⅢ ~ 行くッスよ! ご主人! 異世界へ! ~』はこちらになります。
http://ncode.syosetu.com/n7907dd/7/
明日も18時更新です。