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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝Ⅱ ~ 現代にて ~
55/330

外伝Ⅱ ~ 最強の女たちの談笑 ~ ④

外伝Ⅱ ラストです。

よろしくお願いします。

 窓から見ていたあるみは息を飲む。


 炎は大蛇のように蠢き、少女の身体を絞り尽くすように這いずり回る。

 周囲の温度はさらに上がっていき、火に触れてもいないのに、残った草花が燃えていく。


 次第に空気は渦を巻き、それに沿うような形で炎が空へと昇っていった。


 たっぷり1分は経っただろうか。

 あるみは青ざめながら、人間が焼かれる様を見ているしかなかった。


「そろそろか……」


 男は手を離す。


 ごとりと何か地面に落ちた。

 人の形らしきものが、炎の化身のつま先に触れる。


「はっ! あ――――はっはっはははははははははは!!」


 大口を開け、高らかに哄笑を浮かべる。


「ははは……。見たか! 見てるか? 杉井宗一郎! てめぇの師匠は丸焦げだ!次はてめぇだからな! 覚悟しな!」


 その場にいない最強魔術師に、宣戦布告するかのように吠えた。


 しばらく無邪気な子供のようにはしゃぐと、「さてと」とギロリと睨んだ。

 視線の先にいるのは、血の気の引いた少女の顔。

 日本初の女性首相だった。


「次はてめぇだって言いたいとこだけどよ。……あんたが死んじまうと、自称最強野郎の伝言係がいなくなっちまう。だから、ちょぉっと楽しませてもらって。あいつを呼び出す人柱にでもなってもらおうかな」


 舌なめずりをし、男はログハウスに侵入しようと、ノブに手をかけた。


「何を楽しませてくれるのかしら」

「そりゃあ……。楽しませるって、俺のどら息子をだな…………ああん!」


 振り返る。


 とんがり帽子に、黒マント。

 やや旧世代の魔女ッ子コスに身を包んだ少女が立っていた。


 何故か、満面の笑顔を浮かべて……。


「ひぃいいいいいい!!」


 思わず悲鳴を上げた。

 瞳を見開き、幽霊を見るかのように怯える。


「お、お、お、おま――――」

「そんなに驚かなくてもいいでしょ? お互い超常現象を扱うんだし。幽霊を見たって(ヽヽヽヽヽヽヽ)人が生き返ったって(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)、驚くような事じゃない」


 ゆっくりと近づいてくる。


「ど、どうして――?」

「あら、質問かしら? 勉学に熱心な教え子は嫌いじゃないわ。特別にレクチャーしてあげる。簡単なことだしね」


 猫の目を細める。



「あんたより私の方が強いからに決まってるじゃない」



 さも当然といった様子で――。

 男の額に青筋が浮かぶ。


「なんだと! このアマぁ!!」


 再び燃やそうと手を伸ばした。

 アカリはその手をあっさりと受け止める。


 噴き出す炎が少女の方に向かっていかない。何か特別な力でキャンセルされているかのように消えてしまう。


「てめぇ、何をしてんだ?」


 炎の向こうに、男の青ざめた姿があった。


「質問の多い教え子ね。ちょっとは自分で考えたらどう?」

「なにぃ……」

「でも、まあ……ヒントぐらいは教えてあげてもいいわ」


 ヒント1つ目。


「さっき私は最強だと言ったけど、あなたが言う最強とは少し違う。唯一無二の存在だからこそ、私は最強でいられるのよ」


 ヒント2つ目。


「あなたたちは私が宗一郎の師匠だと思っているけど、本当は少し違うの。確かにこの世界の魔術知識を教えて、あいつにわかる通り教えたのは私だけど、あいつが魔術師になれたのは、本人の努力よ」

「はあ! 訳わかんねぇよ! 単なる自分自慢と弟子自慢じゃねぇか!?」

「確かにね……」


 ふふ……アカリは微笑んだ。


「でも、簡単なことよ。つまり、私はあなたや宗一郎とはまた別次元の人間だということ……」

「ああ!!」


 凄む教え子に、やれやれと首を振る。


「ここまで言ってわからないなら、あんた相当な馬鹿ね。そのおつむでどうやって魔術の秘奥に辿り着けたのかしら」


 ますます男は怒髪天を衝くといった感じで、魔力のゲインを上げる。

 しかし、纏う炎が膨らむだけで、アカリはやはり涼しい顔だ。


「これも簡単なことよ。単に私は魔術師でないだけ」

「は?」



 “私はね……。魔法使いなのよ――”



「は! アニメの見過ぎだろ!! 家に帰って、プ〇キュアでも見てろや! ――ちびっ子が!!」


 あ――。


 と口を開けたのは、家の中から戦況を確認していたあるみだった。


 途端、アカリの態度が変わる。

 余裕の笑みを浮かべ、優しくレクチャーしていた教師の顔が一転、熱がふっと冷めたかのように表情がなくなった。


「今なんつった? クソザル……」

「ああ! ぐ――」


 突然、腕をかいくぐり、炎の中に飛び込むと、男の喉元を正確に握りしめた。


 女性の(かいな)とは思えない尋常じゃない力に、ゆっくりと息を止められていく。


 両手で掴み、振りほどこうとするもビクともしない。


「な、に……ぃ…………いき、なり……」

「だから、今なんて言った? クソザル野郎」

「なんだぁ? プリキュ…………」

「ちげぇよ。そのもっと後だ」


 態度から声音、言い方まで違う。


 喉を絞られながら、男とは必死に声を出す。


「ち……び…………」


 アカリの瞳が一層苛烈に燃え上がった。


「サラマンダー!!」

「カゲカゲ!」


 火蜥蜴が躍り出る。

 男の顔にべたりと貼り付くと、そのまま押し倒す。


 慌てて逃れようとするが、サラマンダーの拘束から逃れられない。


「くそ! こんなことをして俺を焼こうとしても無駄だぞ!! 俺は熾天使の力を借りてるんだ! こんな蜥蜴程度の炎で!!」

「私ね。実は魔法使いって言っても、そのサラマンダーしか召喚することは出来ないのよ」

「なにぃ……」

「けどね……」


 “あんたやうちの弟子が束になってかかってこようとも勝つ自信はあるわよ”


「な――」

「サラマンダー! 消し炭にしなさい!」

「カゲカゲ!」


 火蜥蜴を纏う炎が数十倍に膨れあがる。


「さあ、どっちが熱いかしら。私の炎とあなたの炎を――」

「や、やめ――」


 獄炎を思わせる業火が渦を巻く。


 赤い光が野原はおろか、世界のすべてを朱色に染めた。


 酸素を貪り、男の悲鳴すら奪う。

 男が纏っていた炎すら消し飛ばし、さらにその内側へと肉薄する。


 一瞬で炎の刃は、男の身体を炭に変える。

 さらにその黒く炭化したものですら、食い尽くす。


 残ったのは、ただの塵――。

 それも熱風に煽られると、炎を上げて燃え散っていった。


「もういいわ……。サラマンダー」


 火蜥蜴は男がいた場所から離れる。


 唯一残ったものは、男の影だけだった。


 ふー、と息を吐き、アカリは額の汗を拭う。


「宗一郎に『不可能』と言うのと同じで、あなたにそのワードを言うのは自殺行為ですね」

「べ、別に気にはしてないのよ。背だって、まだ伸びてるし。胸だって――」

「はいはい……。まあ、とにかくありがとうございました」

「別に礼を言われるようなことはしてないわ。どうやら私が目的だったみたいだし。巻き込んで悪かったわね。どこの国の人間かわかる、あるみ?」

「いえ。さすがにどこの諜報員かは……」


 アカリは軽く首を振る。


 マッチ箱を取り出し、中にあるすべてのマッチ棒を放り投げる。

 サラマンダーは炎の舌を伸ばして、ぺろりと飲み込む。


 満足したようにゲップを鳴らすと、そのまま消えてしまった。


「そうじゃない……。世界はまた変わろうとしている。宗一郎が作り上げた世界から」

「それはそうです。……宗一郎の変革は急すぎ過ぎました。揺り戻しがあることは、彼も承知の上です」

「それでいいの?」

「え……?」


 アカリは真剣な表情で尋ねた。

 そしてログハウスの玄関に刻まれた男の影に目を落とす。


「これからきっとこんな馬鹿者が増えるわ。そして魔術や、私の魔法に手を出すものが現れる。そうすれば、きっと悲しむ人が出てくる。あなたや宗一郎のようにまた兵器によって、理不尽に家族が失う人が現れるはず」

「……それは――」

「宗一郎はきっかけを与えてくれた。……そしてやることをやって、あなたに託して異世界に行ったんじゃないの? あなたならきっとこの世界をよくしてくれると信じて」


 2人の間に風が通り抜けていく。

 秋にしては生ぬるい風だった。

 まるで異世界の奥から流れ込んできたような暖かい空気だ。


 何か宗一郎にも責められているような気がした。

 あるみは俯く。


「――らしくないわよ、あるみ」

「私も…………そう思います……」

「なら、少しでもあなたらしくいられる場所にいなさいよ。私は好きよ。あなたが国会とかで演説してる姿……」

「選挙にも行ってない癖に……」

「だって、私は永遠の16歳だからね」

「何ですか? どこかの声優みたいに……」

「ねぇ……。あいつが戻ってきた時、この世界がすっかり変わってたらさ。宗一郎はどう思う?」


 目に浮かぶようだ。


 きっとあの意識の高い男はこういうのだろう。



「ならば今度は、世界征服でもするか……」



 ぽつりと呟いた。


「何それ……?」

「宗一郎なら……。そういうかと思って」


 ぷ……。


「あはははははは……。確かにいいそう」


 お腹を押さえ、あるみを指さしながらアカリは大笑いする。


「いいじゃない。……なら、あいつが帰ってくる前にあるみは世界征服をしてしまえばいいのよ」

「そうですね……」


 あるみはやっと顔を上げて。


「悪くない」


 眼鏡の奥から鋭い眼光が飛ばした。


 その顔を見て、アカリはほっと息を吐いた。


「やっぱあんたはそっちの方がいい。恋する乙女より、男を見下している方があんたには合ってる」

「私は女王様じゃありませんよ」

「あれ? 違った?」


 バキューン!!!


 アカリの毛が1本、中空を漂った。


「ちょ、ちょっと……。照準が近いっていうか、人の家の方で気安く発砲しないでくれる」

「あなたの方こそ、内閣総理大臣を侮辱するような発言は控えてもらいますか。……名誉毀損で訴えますよ」

「ハハッ。魔法使いを捕まえれるもんなら、してみなさいな」


 むむむ、と睨み合う。


 あるみの目には、とんがり帽子の少女の顔が。

 アカリの目には、眼鏡をかけた大和撫子が。


 互いの顔が映り、次第に破顔していく。


「ふ、ふふふ……」

「ぷ、あははは……」


 軽やかな笑声が、室内に渦巻いた。


「全く何をしているんだろ。私たち……」


 アカリは涙を払い。


「同感です」


 あるみは眼鏡を外して目を拭った。


 ひとしきり落ち着いた時、アカリは切り出した。


「ねぇ。宗一郎が異世界に行く前、あいつはなんて言ってた?」


 あるみは瞳を閉じる。

 脳裏に、あのジャングルでの出来事を思い出す。

 そして最後に会った時の宗一郎の顔を、瞼の裏に映した。


「約束をしてくれました」

「なんて?」


「絶対に戻ってくる――と」


 アカリは満足そうに笑った。


「なら、いいじゃない。……あいつがそう言うなら、それはきっと絶対よ」

「……うん」


 そして同じくあるみも口端を広げ、笑みを浮かべた。


「さて……。お茶会の続きをしましょうか? あ。そうだ。フランスへ行った時にいいシャンパンがあってね」

「あなた、16歳って言ってませんでした。総理大臣としては未成年の飲酒は……」

「ぶー。固いこといわないの」

「さあ、入った入った」

「お酒は駄目ですからね」

「はいはい」


 パタリと静かにログハウスのドアが閉められる。


 蝋燭の明かりが灯る。


 最強の魔法使いと。

 最強の日本権力と。


 最強の女たちの談笑は、明け方まで続いた。


異世界もので、現代の話をするのは御法度なのかなあ、と思いつつも、

外伝としてやってみましたがいかがだったでしょうか?

ご要望があれば、またどこかで2人が活躍する話を書こうと思います。


さて、明日から本章再開です。

第3章は先に告知しましたが、タイトルは『最強帝国編』。

果たしてどんな話になるのか、光に包まれた宗一郎は?

ライカ、フルフル、クリネはどうなったのか?

様々な「?」を残し、第三章へとなりますが、

楽しみにお待ち下さい。


新たな章は明日18時に更新予定です。

今後も『その現代魔術師は、レベル1でも異世界最強だった。』を

よろしくお願いします。

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