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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第2章 最強モンスター編
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最終話 ~ オレのライカに何をした!!! ~

この話が最終話かどうか信じるか信じないかはあなた次第です。


第2章最終話です(本当)。

よろしくお願いします。

「くっ……。うう…………」


 宗一郎はゆっくりと目を開ける。


 視界に見えたのは、硬い岩肌だった。

 洞窟の地面だと気付くのに、数秒の時間を要す。


 静かだ……。


 何か遠くの方で耳鳴りのようなものが聞こえる以外、何も届いてこない。

 誰もいない無人島の浜辺にうち捨てられたような気分だ。


 手を動かしてみる。

 かろうじて握り込むことができた。

 だが、身体全体が痺れ、いうことを効かない。


 ふと……。


 ――何故、こうなったのだろう……?


 疑問が脳裏でもたげた。


 そして――。


 宗一郎は弾かれるように起き上がる。


 飛んでいた記憶の一部が、大津波のように押し寄せ自分の頭の中で開かれた。


 周りを見る。

 先ほどのだるさから比べれば、嘘のように身体が動く。

 常時展開している自動回復の魔術のおかげで、火傷の大半が回復していた。


「どうなった!?」


 周囲を巡る。


 だが、始めに情報として飛び込んできたのは、臭いだった。


 肉が焼けるような――。


 焼き肉のような食欲をそそる臭いではない。

 得もいえぬ不快な臭気だった。


「――――!」


 宗一郎は目玉がこぼれそうになるほど、凝視した。


 無数の人が倒れていた。


 あるものは瓦礫に挟まれ。

 あるものは爪のように鋭利な刃に切り裂かれ。

 あるものは原形がわからなくなるほどにまで潰され。

 あるものは真っ黒に炭化していた。


「あ……。あ……」


 言葉が出ない。


 ――嘘だろ……。


 胸中で呟いた。


 視界に映ったのは、冒険者が全滅した姿だった。


 それもやられ方がおかしい。

 この世界ではダメージ判定されても、肉体的に欠損することはないはず。


 だが、明らかに死んでいるように見える。

 しかも……この臭い……。


 現代世界で幾度となく嗅いだ死臭そのものだ。


 ――まさか……。ライカも…………。


 頭の中に、金髪を揺らした美しい姫騎士の姿を思い描いた。


 ゴフゥン……。


 地響きが聞こえた。


 振り返る。

 巨大な漆黒の竜が、翼を広げて立っていた。


「ぎぎぎぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」


 濁った声で嘶く。


「あ――」


 その手に握られたものに、宗一郎は注視した。


 猛禽の足のような手に握られていたのは、金髪の少女だった。


「ライカ……!」


 立ち上がる。

 膝や太股に激痛が走った。まだ完全に治りきっていないのだ。


 しかし宗一郎は――。


「魔王パズズよ。偉大なる王の風よ。オレの足に刻印をうがて!」


 風の王の力を得る。

 両足に楔を打ち込まれたような痛みに耐えながら、地面を蹴った。


「魔王パズズよ。偉大なる王の風よ。オレの手にも刻印をうがて!!」


 さらにパズズの力を、自身の手に宿らせる。

 風の手刀を作ると、一気にオーガラストに肉薄した。


 竜の口内が光る。


 ブレスが鋭い音を立てて、射線上のものを吹き飛ばした。

 だが、易々と宗一郎はかわす。


 竜の前でジャンプした。

 狙うは、姫騎士を捉えた腕。


 シャッ――――!!


 太い幹のような腕があっさりと切り裂かれる。

 血しぶきを上げながら、竜は悶え、悲鳴を上げた。


 腕の中から、姫騎士が零れ落ちる。

 宗一郎は回り込むと、なんとかキャッチする。

 腕を襲った激痛に顔をしかめると、膝立ちになってなんとか支えた。


「う――――」


 姫騎士が呻く。

 意識がある。


 ひとまずホッとした。

 だが、美しい金髪から鮮血が流れた。

 支えた手に生暖かい感触が感じる。

 腕を上げた。

 おびただしい血がついていた。


 宗一郎の顔が歪む。


 そして。


「七十二の一鍵にして、悪霊を統べる治癒医ブエルよ。汝の力をもて、このものを癒やせ」


 呪文を唱え、ライカの胸に手を当てた。


 光の粒子が姫騎士に取り憑き、傷を癒やしていく。

 身体中の裂傷や、打撲、内臓に至るまですべて回復させていく。青白かった少女の顔が、次第に赤みを帯びてくる。

 頭からの出血の癒え、元の美しい金髪に戻る。


「っく――――!」


 くらりと、目眩がした。

 倒れそうになる身体をなんとか支える。


 悪魔の力は、なんらかの代償が伴う。

 ブエルの代償は単純明快。己の命――つまりは体力だ。


 まだ倒れるわけにはいかない。


 目の前に、打ち倒すべきものがいる。

 何よりこの先には、宗一郎が「つまらない」と吐き捨てた世界を作った張本人がいるのだ。


 絶対に退くわけにはいかない。


「来い! フルフル!!」


 盟友にして従者。契約者にして悪魔の名前を呼ぶ。

 だが、何も起こらない。


 あのおちゃらけたゲーム好きの悪魔が、降臨することはなかった。


 ――召喚が阻害されているのか……。


 《フェルフェールの瞳》を起動させる。


「――――!!」


 見た瞬間、驚いた。


 フロアに無数の術式が埋め込まれていた。

 複雑――というよりは乱雑に、でたらめに……。

 まるで子供のらくがきのように混沌とし、これで術式が起動できているのか不思議に思うほどだった。


 それが外部からのコントロールを一切受け付けなくしているらしい。


 意図的と言うよりは、どちらかと言えば偶然の産物に思えた。


 これではフロアの向こうの悪魔も助けに来れないわけだ。


 考えるのはやめだ。


 ライカをそっと地面に下ろす。


 つま先を一歩、腕の痛みに悶えるオーガラストに向けた。


「オレの仲間に何をした?」


 竜の赤い目が、憎々しげにちっぽけな一人の人間に向けられる。


 宗一郎は歩き出す。


「マフイラに何をした?」


 対して、竜は威嚇するように嘶いた。


 しかし人間の歩みは止めない。


 宗一郎は、ぎょろりと目玉を動かし――オーガラストを睨んだ。



オレの(ヽヽヽ)ライカに何をした!!!」



 叫んだ瞬間、宗一郎は跳躍した。


 そして激しい怒りをぶつけるとともに、呪唱した。



「72の悪霊を従えし、強大にして偉大なる王アスモダイよ!!」



 72の悪魔の中で最強のカード。

 対して宗一郎が願ったのは。




「お前の力を!!! すべてくれ!!!!!!」




 瞬間、宗一郎の身体に変化が現れた。


 身体が膨張する。

 ひ弱とも映る宗一郎の筋肉が増幅し、あっさりと残っていた衣服を破いた。

 だが、膨張は止まらない。さらに体色まで変化し、肌色から、目の前の竜の鱗のように黒色へと変わっていく。


 薄い体毛は鋼にように硬くなって伸び上がり、顔面の形状も変わっていく。

 口は裂け、鋭利な牙が剥き出しになる。耳介は悪魔のように禍々しく波打ち、瞳から虹彩が消え、血のような赤い光が宿った。


 そこにいたのは、もはや杉井宗一郎ではない。


 1匹の人の形をした魔獣だった。


「ぶあっ!!」


 短い雄叫びが上がる。


 たったそれだけで、フロア全体の空気を波のように振動させた。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」


 オーガラストも負けじと嘶く。

 が、突如現れた魔獣と比べれば、明らかに迫力に欠けていた。


 雄叫び合戦で負けた竜の口が、赤く閃く。


 そうはさせじと、魔獣――宗一郎は、上下の顎を手で掴んだ。

 動き止めてから、その顎にヘッドバッドを喰らわせる。


 相当な頭の硬さと、膂力に、あっさりと竜の顎がへし折れる。

 ひしゃげた顎を掴んだまま、ただの力でオーガラストを持ち上げ、地面に叩きつける。


 竜の長い首が地面に埋まってしまった。

 犬神家の一族で、湖畔で逆さまになった佐清(スケキヨ)を彷彿とさせる姿となったドラゴン。

 足や翼、腕を動かしても、抜け出すことは出来ない。


 そこに魔獣のだめ押しが入る。


 埋もれた首に向かって、スタンプした。


「きぃいいいいいひゃああああああ……」


 オーガラストンのもの悲しい嘶きが、地面から響いてきた。


 魔獣は無理矢理手を突っ込み、引っ張り上げる。

 毒々しい紫の血を流した竜の首は、半分ぐらいのところで千切れかかっていた。


 それを女神に見せしめるかのように掲げる。


「ばほッ!」


 そして再び打ち倒した。


 地面がえぐれる。

 衝撃で隆起するほどだ。


 だが、それでも魔獣の攻撃は止まらない。


 今度は執拗に腹を殴る。

 硬い皮膚を突き破り、竜の内臓が顔を覗かせた。

 盛大に血の雨を浴びながらも、魔獣は殴り続けた。


 そしてオーガラストの反応がなくなる。


 トドメだ……。


 そう言わんばかりに、離れた。


 顎を大きく開ける。

 口内に光が帯びる。


 予告も、長いためもなしに、それは解き放たれた。



 ピカッ!



 光った瞬間、オーガラストは真っ白な炎に包まれる。

 一瞬にして体皮は焼失。さらに体躯が崩れ落ちていく。


 低い唸りが聞こえた。

 しかし、それも次第に止んでいく。

 断末魔らしいものもなく、最強のモンスターは跡形もなく消えてなくなった。


 残ったのは、塵と炭化してボロボロになった皮膚組織だけだった。


 戦いは終了した。


 歓声はない。

 耳が痛いくらいの沈黙だけだ。


 魔獣の身体が収縮していく。

 体色も人のそれへと戻っていった。


 現れたのは、杉井宗一郎という魔術師。


 そして俵でも倒れたかのような軽い音を立てて伏した。


 朦朧とした意識の中で、顔を上げる。


 視界の向こうには、ライカの顔があった。


 ――よかった……。


 ホッと息を吐く。


 ふと何かが崩れる音がした。

 全身に身震いが走る。まさかと思って振り返った。遅れて全身に釘を打ち込まれたような激痛が襲ってくる。


 見えたのは、ぽっかりと空いた穴だった。


 宗一郎たちが入ってきた出入り口とは逆側。

 ちょうど最初にオーガラストが眠っていた後ろの壁だ。


 状況として、自分の身体の回復と、まだ息がある仲間の治癒を優先だろう。


 だが、無性に気になった。


 今すぐ行って確かめねばならぬ――そんな使命感が、腹の底で渦巻いた。


 身体にむち打ち、重い足を引きずりながら一歩ずつ穴に向かって歩いていく。


 一体そこに何があるのか……。

 確証はないが、1つだけ確信出来るものがあった。


 それはこの世界の秘密――。

 もしくは、女神そのものとの対面……。


 だが、そうなれば不利は目に見えていた。

 戦闘になれば――の話だが……。


 穴をくぐり抜ける。


 そこは真っ暗な暗闇。


 ただ1本だけ蝋燭が灯り、わずかに周りを照らしていた。


 その側には椅子。そして――。



 腰掛ける人の姿があった。



 その人は宗一郎に気付いた。


 最初は怖がっている様子だったが、意を決し立ち上がる。


 宗一郎の目が大きく見開かれる。


 暗闇にぼんやりと浮かび上がったのは、見目麗しい少女だった。


 色素が全くない――シーツを広げたような白い髪。

 肌も白く、手も足も、肩も何もかもが細い。

 胸、臀部ともに未発達ともいえるほど主張が少ないが、全体的にバランスがとれた美しいプロポーションを誇っていた。


 以前、ライカが晩餐で見せたような純白のドレスを身につけ、闇に浮かぶ双眸は薄いピンクに彩られ、不思議な光を讃えていた。


「お前は……」


 宗一郎には何か見覚えがあった。

 だけど、思い出せない。


 魔術師が苦悩していると、先に手を差し出したのは少女の方だった。


 そしてこう言ったのだ。



「ああ! たすけだしてくださるかたが ほんとうにいたなんて まだ しんじられませんわ!」



 何かの台詞をそのまま読んだような言い方。

 しかし、以前どこか聞いた事がある文言だった。


 無反応の宗一郎を見て、少女は首を傾げる。


「どうしました? ゆうしゃさま……」

「お前は何者だ?」

「なにもの? わたしは? なに……。ああ! たすけだして ほんとうにい わたしを おしろへ」

「何? 城?」

「わた、わたしは なに……もの…………」


 その時、急に少女から光が発せられた。

 暗闇が一気に白く染まった。

 凄まじい光に、思わず宗一郎は目をつぶる。


「ぐお! なんだ!!」


 宗一郎の手が泳ぐ。

 目の前の少女を捕まえようとするが、それ以上前にいけない。


「くそ!!」


 光はさらに拡大し、横穴を抜け、ライカたちがいるフロアをも包み込む。


 さらに光は洞窟を透過し、ファイゴ渓谷をすっぽりと包んでしまった。


「ぐあああああ!!!」


 目が焼かれる!

 溜まらず宗一郎は叫び声を上げる。


 身体が熱い。

 何かに焼かれるように腕が、足が、胴が、頭が消滅していくような感覚を得る。


 ――まずい!


 何かの魔術か? いや呪術か?


 判然としない。

 《フェルフェールの瞳》を起動しようにも、目を開けていられない。


 それでも手がかりを残すまいと、宗一郎は力を振り絞り、少女に向かって手を伸ばす。


 細い腕の感触が、手の平から伝播した。


 ――掴んだ!!


 次の瞬間。


 ブチン……。


 という音が聞こえた。

 まるでテレビを消したかのように意識が暗転する。



 そしてとうとう……その意識が戻る事はなかった。





というわけで、第2章がこれにて終了です。

思わせぶりな終わり方で申し訳ない…。

もちろん、まだまだ続きますよ。


さて明日からですが、外伝をお送りさせていただきます。

タイトルは『現代にて……』サブタイトルは『最強の女たちの談笑』と題して、

4話(なはず)に渡ってお送りします。


タイトルを見て、なんとなく気付いた方もいらっしゃるかと思いますが、

主人公はプロローグでちらっと出てきた宗一郎の幼なじみ黒星あるみ。

そしてほんの1文ですが出てきた宗一郎の師匠で、新キャラ清川アカリの

2人でお送りする予定です。


宗一郎が異世界へ行った現代世界はどうなっているのか?

宗一郎は如何にして、意識の高い現代最強魔術師になったのか?

そして今、あるみは何を思うのか?


という部分を、2人が語る話になります(無双シーンもご用意しておりますよ)。


本章である第3章は来週から再開予定です。

章タイトルは『最強帝国編』。


え? 1章と変わらないのでは? と思われた方鋭い!

でも、今度は帝国の前に最強がある――これが1つのみそでして……。


ちょっとピンとこない方も、もしやと察しのよい方も、

楽しみに待っていて下さい。


明日は2本掲載です。1本目は明日12時。2本目は18時の予定です。

これからもよろしくお願いします。


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