第12話 ~ そういちろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!! ~
サブタイが月並み。
第2章第12話です。
よろしくお願いします。
フロアの大歓声は、外で治療や休憩を取る冒険者にも聞こえていた。
「どうやら……。ご主人がやったようッスね」
フルフルは満足そうに笑う。
傍らで寝ていたクリネも上体を起こした。
「こうしてはいられませんわ。……お姉様と勇者様をお迎えしなければ」
「あーあー。あんまり無理しちゃダメッスよ。心配しなくても、ロリキャラはいつかロリコンの王子様に抱きしめられる運命なんですから」
「な、何を言っておられるのですか?」
「いずれわかるッスよ。……ちょっと様子を見てくるッス。クリネはここで大人しくしてるッスよ」
クリネを女性の神官に任せて、フルフルはフロアへの出入り口に向かう。
そこには人だかりができていた。
フロアの入口に人が集中して、中に入れないのかと思ったが、そうでもない。 全く前が進まない――というより、誰も入っていこうとしなかった。
「どうしたんスか?」
不思議に思い、近くにいる冒険者に話しかける。
戦士と思しき男は、肩を竦めた。
「わからねぇ……。ただ、何故かフロアに入れないんだよ。わからねぇけど、弾かれちまうんだと。まるで、ここと竜がいるフロアに壁ができちまったような感じだ」
「なんと――」
常にケラケラと笑っているフルフルの顔が、珍しく神妙な顔つきに変わった。
背中で歓声を聞きながら、宗一郎はオーガラストから目を離さなかった。
なんとなくこれで終わるとは思えなかった。
確信はない。
ただの勘だ。
レベルアップというシステムを、世界に広め定着させてしまった女神のことだ。このまま素直にエンディングロールとは考えにくい。
どこかで自分たちに干渉してくるはずだ。
「おい! ちょっとみんな聞いてくれ!!」
勝利の美酒に酔いしれる冒険者たちの中で、一際大きな声が響いた。
第一部隊の魔法士だ。
ちょうどフロアと、休息所を敷いたフロアを繋ぐ出入り口付近にいた彼は、手を振り、アピールした。
宗一郎も気になり、竜から目線を切って振り返る。
「出入り口から向こうに行けないんだ!」
「なんだと?」
ライカの形の良い眉がピクリと跳ねた。
大股で出入り口に近づく。
出ようとするが、何か靄がかかり、その先に手を伸ばすことも、足を踏み入れることもできない。
「なんだ……。これは――?」
宗一郎がオーガラストを打倒した時以上に、ライカは驚いていた。
「じゃあ。それって私たちフロアから出られないってことですか?」
質問したのはマフイラだ。
「おい! 魔法をぶち当ててみろ!」
提案したのは、第1のパーティー長だった。
出入り口付近の魔法士を一旦下がらせ、呪文を唱えさせる。
同時に、三属性の魔法を放った。
オーガラストから一気に5000ポイントものダメージを与えた魔法。
その衝撃は出入り口付近の壁をえぐる。
だが、結局向こうと繋がることはなかった
「どういうことだ……」
ライカは目を剥き、立ちすくむ。
――嫌な予感が当たったな。
宗一郎は肩を怒らせながら歩き出す。
出入り口に向かい、脱出路を確保しようと考えた。
しかし――。
突然、地響きが起きる。
脆くなった天井が崩れ、冒険者たちに降り注いだ。
「落ち着け! 神官! 防護の神秘を」
ライカが慌てて指示を送る。
神官を中心にして密集し、防御態勢を取る。
ライカの元に行こうとしていた宗一郎の前にも、崩れた岩壁が落ちてきた。
それを魔術が籠もった手で払う。
だが、ふと気配に気付き、振り返った。
……時には遅かった――。
いつの間にかオーガラストが起き上がり、その口内を赤く光らせている。
「しま――――」
慌てて因果律操作を展開したが、計算が間に合わない。
無情にも炎息が放たれた!
赤い炎に、あっさりと宗一郎が飲み込まれる。
ライカはその瞬間を目撃していた。
「そういちろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
姫騎士の絶叫が洞窟の中に響き渡った。
宗一郎が炎に飲み込まれる瞬間を、複数の冒険者が目撃していた。
マフイラは息を飲み、眼鏡の奥の目を見開いた。
ガードやアタッカーたちは盾や武器を取り落とし、神官は手を組んで祈り、魔法士たちはフードを上げた。
ブレスが止む。
炎の中から現れたのは、炎の化身だった。
熾天使カスマリムの力を直前で発動していた。
「「「「おお……」」」」
冒険者はどよめく。
しかし様子がおかしい。
纏っていた炎が消える。中から現れたのは、重度の火傷を負った宗一郎の姿だ。
上半身のスーツはすべて消し飛び、体皮の水分が蒸発し、白い煙のようなものが上がっている。
「なんで! 肉体に干渉しているの!」
マフイラが悲鳴じみた声で指摘する。
オーガラストの攻撃は《体力》が減っても、身体に直接的な影響を及ぼすことはない。
宗一郎はレベル1なので、間違いなく《死亡》と判定されるだろうが、肉体的に無事なはずだ。意識はなくなるが、教会で復活することができる。
それがオーバリアントのルール。
女神プリシラが与えた力だ。
だから――何度も言うが――身体を著しく損じることはまずあり得ない。
しかし、今はその理由を探っている場合ではない。
金髪が揺れる。
ライカは冒険者の間を縫って駆け出した。
同時に動いたのは、オーガラストだった。
長い首をもたげ、体躯を冒険者の方へと向ける。
状況に気付いたのは、マフイラだった。
指揮官の心境を瞬時に理解した彼女は、自ら指示を出した。
「魔法士! 弓使い! 槍使い! 体勢が整ったものからでいい。竜に撃ちまくって! 指揮官と勇者殿を助けろ!!」
マフイラの激しい言葉に、バッカーたちは我に返った。
それは他のガード、アタッカー、ヒーラーにも伝播する。
皆、慌てて陣を敷き直した。
バッカーたちの用意が出来る。
「撃て!」
マフイラの号令とともに、魔法、矢、槍が飛んでいく。
オーガラストの巨躯に3種の攻撃が1度に突き刺さった。
が――。
「ひっぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!」
きかん! と言わんばかりに嘶く。
怯む様子もない。
「攻撃が効いていないの!? 物見!」
マフイラは振り返る。
「全弾命中してます!!」
「そんな――」」
オーガラストの口内が光りを帯び始める。
「神か――」
言いかけて、マフイラは言葉を止めた。
ちらりと、火傷を負った宗一郎を見る。そしてもう一度、攻撃が効いていないオーガラストに振り返った。
勘――。
エルフの勘といえばいいのだろうか。
不確かであることは百も承知だったが、自分の中にある警鐘が激しく訴えかけていた。
「全員! ブレスの射線上から退避しろ!!」
え? と皆の顔が動く。
「聞こえなかったの! 射線から逃げて!!!」
悲痛な叫びにも似た指示に、冒険者たちは慌てて応じた。
「来る!!」
マフイラもまた退避する。
幸い、宗一郎とライカの方に向いてない。
シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
鋭い音ともに、赤の光芒が閃いた。
皆が慌てて逃げる中、射線から逃げ切れなかった神官の1人が、防護の神秘を使った。だが、あっさりとブレスは防護を突破し、一瞬にして1人の人間を消滅させてしまう。
それを目の前で見ていたマフイラは「あ」と声を上げたが、遅い。
悔しそうに唇を噛み、目を逸らすしかなかった。
やはり――そうなのだ。
――オーガラストに攻撃も防御も通じなくなっている……。
それは、まさに裸で竜に挑むのと同義だった。
が、悲観ばかりしていられない。
なんとしても、このフロアから脱出しなければならない。
「大丈夫!!?」
マフイラは頭を抑えながら、後方を見やった。
落盤で、数人の冒険者が岩の下敷きになっている。
だが、思っていたよりも軽微だ。
ブレスの直撃を浴びていれば、もしかしたら第1部隊は壊滅していたかもしれない。
マフイラはライカの方を見た。
宗一郎に必死に声をかけているが、目を覚まさない。
おそらく2人は使いものにならない。
なら、ここからは――自分たちでなんとかするしかなかった。
早いもので第2章もいよいよクライマックスッスよ!
明日も18時です。
近況
カクヨム様の方で『俺のラノベは魔導書じゃない!』を掲載しています。
よろしければ、こちらもよろしくお願いします。
こちらは来週火曜日、完結予定です。