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プロローグⅡ ~ 異世界……ですか? ~ (1)

今日もよろしくお願いします。

「異世界…………ですか?」


 長方形に並べられた机を囲むのは、主要国や地域の要人たち。有り体に言えば、大統領、首相クラスの国の代表たちだ。

 その短辺――入口からもっとも離れた場所に座るのは、若い男だった。


 名実ともに現代世界で最強魔術師となった杉井宗一郎。

 その口から漏れた言葉に、代表たちは呆気にとられ、汗を拭った。


「ムッシュ杉井。伺いたいのですが、それはどこにあるのですか?」


 終始、仏頂面していた宗一郎は薄く微笑む。

 質問したフランス大統領は、馬鹿にされたと思ったのだろう。ぐっと奥歯を噛みしめると、こみ上げて来た怒りを抑えた。


「今のは謝罪しよう。何? 少し感慨深くなったのだ。まさか最初の質問が場所の質問だとはな」

「感慨深くとは?」


 東南アジア諸国の代表が、身体ごと宗一郎の方を向いて尋ねた。

 ちなみに、代表の中には3人の女性がおり、彼女がその1人だ。代表団の中でも若い方だが、おそらく40は過ぎているだろう。


「あんたたちと初めて出会った時のことを思い出したのだ。その時のお前らなら、きっとオレの言葉を聞いて、病院に行った方がいいとまず答えたんじゃないか?」

「ソーイチロー。あの時のことは謝罪する。……魔術が本当にあると信じていいのは子供の時までだ。見ろ。年老いた老人ばかりじゃないか。1人を除けばね」


 ラテンのノリ――とでもいうのだろうか。ジョークを交えながら、陽気な調子で話すのは、南米の代表だった


「つまりは、我々はこう言いたいのだ。魔術という現象が公になった今――君の口から“異世界”というトールキンやミヒャエル・エンデの小説に出てくるような単語が出てきても、何も驚かない」


 追従したのは、鮮やかなブルーストライプのスーツを着た英国首相だった。


 その言葉には、妙に得心する部分があったらしい。

 宗一郎は楽しそうに「そうか」と何度も頷いた。


「では、改めて尋ねたい。ミスタースギイ」


 手を挙げたのは、アメリカ大統領である。


「異世界とは、この世界にあるのか?」

「実に異な質問をするな、プレジデント。“異”世界なのだから、この世にあるはずがないだろう」

「スギイ殿……。それは天国とか地獄という意味なのですか?」

「妙に楽しそうに聞こえるのは、気のせいかな? 国家主席殿」


 鋭い眼光を飛ばすと、福顔の国家主席はさらに表情を和らげて「これもジョークですよ」と手を広げた。


 各国の首相から僅かばかりの失笑が漏れる。


 全世界の武器を無力化する。それは勿論、国の武器を取り上げたり、破壊することだ。

 むろん、その被害額は些少なものではない。

 国家財政を揺るがしかねないほどの額に相当する。


 中国は被害額こそアメリカやロシアには遠く及ばないが、各国の中でも特に宗一郎に対して強硬な姿勢を見せていた国だ。結局、宗一郎に一番煮え湯を飲まされ、ここに参加している。

 ブラックジョークの1つや2つ言わなければ、平静を保つことすら難しいのかもしれない。


 あのポーカーフェイス(福顔)をはいだら、どんな鬼の形相を見せてくれるのか。楽しみではあるが、そんなことに割いてる時間ない。


「質問をよろしいですか?」

「どうぞ。ドイツ首相」


 2人目の女性代表。といっても、東南アジアの代表と比べれば、かなり年老いた老女だった。


「素朴な疑問なのですが……。あなたはその異世界から戻ってくることは可能なのですか?」


「知らん」


 議場は騒然となる。

 隣同士で顔を見合わせる者。ごくりと唾を飲む者。首筋に浮かんだ汗を気にして、襟元を正す者。水を飲む者。ただ黙っている者。

 十人十色――様々な反応を示す。


 その中で、ドイツ首相は静寂を求めた。


「お静かに……。各国および地域代表の方々」

「いや。しかしですね、ミスタースギイ。あなたがいなくなるということは、どういうことかおわかりですか?」

「ほう。説明してもらおうか。アフリカ代表」


 実年齢よりも若く見える黒人の代表は、おもむろに立ち上がる。

 代表団の全視線を浴びながら、窓際に立つと、シャッシャッと小気味よい音を立てて、ブラインドを上げた。


 夜の摩天楼が、窓外に広がっていた。

 ヘリコプターが旋回し、時折強い照明を議場に向ける。


 アフリカ代表はそっと窓を開けた。

 数センチほどしか開かなかったが、それだけで十分だった。


「SoooooooooooooICHIRooooooooooo!!!」

「Fuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuuu!!!」


 入ってきた空気に混じって、聞こえてきたのは人の歓声だった。


 宗一郎! ソーイチロー! SOICHIRO!!


 何度も宗一郎の名前を連呼している。

 まるで自分の想いよ届け! と言わんばかりに、声を張り上げていた。


 階下に目を移す。多くの人がビルの周りの歩道はおろか車道にまで溢れ、集まっていた。見える範囲の道ばたは、すべて覆い尽くされている。目をこらすと、向かいのビルから一生懸命に手を振っている人間がいた。

 ざっと見ても、100万人は下らないだろう。


 「SOICHIRO」という文字や、「LOVE 宗一郎」と書かれたプラカードも見える。中には、宗一郎の顔写真を貼ったカードに、「宗一郎 真剣冨士山」と訳のわからない日本語を書いているものまである。


 内容はともかく、それは宗一郎という男を讃えたものであることは間違いなかった。


「見て下さい! この歓声を! ここはアメリカですが、私の国ならこの十倍――いや、百倍の数であなたを歓待したでしょう」


 アフリカ代表は半ば興奮気味に語る。


「世界にある武器を消滅させる――それを聞いた時、私も絵空事のようにしか思わなかった。ティーンエイジャーの頃に抱く夢のようなものだと。不可能だと思った。しかし、あなたはわずか3年で成し遂げてしまった」


 宗一郎は黙って聞いている。


「武器を消滅させたからといって、地上から暴力はなくならない。それは確かです。しかし、テロが横行していた我が国では致死率が下がり、犯罪の件数が激減した。あなたに、自衛のための最低限の武器の携帯を許可を出してもらい、治安も安定し、外国企業の進出も増えている」

「何が言いたいのだ、アフリカ代表?」

「今、ここで――この世界で、あなたをなくすのは惜しいと言っているのです! いや! あなたはこの世界に必要な人間だ!」


 わっと声が反響するほど、アフリカ代表を語気を強めた。


「私には異世界がどういうところで、魔術という絶大な力を持つあなたが、何故帰って来れないというのか。検討も付きません。しかし、これだけは知ってもらいたい。あなたがいるからこそ! 今の世界は成り立っているのです!」


「知ったことか……」


「は?」

「ミスタースギイ! それは些か不穏当な発言ではないですか? アフリカ代表――いや、この場の全員が思っているはずです。……今、聞こえている民衆の声が、あなたがいなくなった途端、翻る可能性があるということです」


 噛みついたのは、ドイツ首相だった。

 追従したのは、お隣の国の大統領だった。


「ムッシュ、スギイ。……我々はあなたのおかげによって、最低限の武器しか持っていない。今、この群衆が大挙して押し寄せ。『あなたを出せ!』と要求されれば、我々には為す術がない。最悪……。政治がコントロールを失い、無政府状態になることだってありうる」

「そうなれば、あなたに責任を取ることできるのですか?」


 言葉尻こそ穏やかだが、国家主席の細い目から鋭い光が放たれている。


 それはすべての代表にも言えた。皆、自分よりも若い男を睨んでいる。殺意すら感じられた。


 宗一郎は表情を崩すことはなかった。

 仏頂面のまま――人差し指を1本立てて、代表に見えるように掲げた。


「1つお前たちは勘違いしている。お前たちは、オレが世界の王か何かだと思っているようだが、別にオレはお前らの国や地域に、圧力をかけたわけでもコントロールしたわけでもない。犯罪は犯したがな」


 代表の顔が、一様に苦虫をかみつぶしたように歪む。


 そうだ。宗一郎の行動は国や地域の正式な手続きを踏んだものではない。義戦であったとしても、犯罪は犯罪なのだ。


 それでも彼に従うのは、皆それぞれ――宗一郎の魔術の絶大な力を恐れているからだ。中には彼を崇拝する者がいるが、自尊心の塊のような政治家たちにとっては、面白くない存在であることに違いない。


「オレは自分の目的を果たしたいだけだ。本来なら、黙って異世界に行ってやってもよかったのだ。しかし、それでは不憫であろうと思い、オレの名前で貴様らを招集した。オレがいなくなった後の世界をどうするか話し合ってもらうためにな。……これでも少しは気にはしているのだ。有り難く思え」


 その言い方は、まさに王の所作だった。


 代表団は表情こそ変える者は少なかったが、そろそろ腹で茶が沸かせるほど煮えくりかえっていることだろう。


「先ほどから黙っておいでですが、大統領。あなたの意見をお聞かせ下さい」


 実に丁寧な英語で、アメリカ大統領が話しかけたのは、ちょうど向かい側に座った白人種の男だった。

 牛革の椅子に浅く腰掛け、背もたれに寄りかかるように座っていた男は、膝の上で弄んでいた手を机の上に出した。


 代表団を一瞥した後、初めて議場上でロシア大統領は発言した。


「私は、彼が“異世界”とやらに行きたいのであれば、それでいいと思っている」「よろしいのですか? ロシア大統領。混迷の時代が続くかもしれませんよ」


 静かに横やりを入れたのは国家主席だ。


「混迷ならもうしている。何の外交的な手続きも踏まずに、政治家でも官僚でも、財界人でもない人間に我々が呼び出されている時点で、すでにおかしいのだ。その張本人が出て行くという……。むしろ歓迎すべき事態だと思うが? まあ、我が牢屋を招待できなかったのは、痛恨の極みだが、政治としてはプラスの方が大きいと見ているがね」

「余裕ですな。あなた方が保有する武器は、絶頂期の1万分の1もないのですよ」

「それはあなたの国も一緒でしょう、プレジデント。国力豊かなアメリカのことだ。すでにミスタースギイに黙って、兵器工廠を新築しているのではないですか?」

「ははは……。それはないですよ、大統領。神に誓えます。そんなことをして、ミスタースギイの怒りを買えば、私の命がない」

「でしょうな」


 ロシア大統領は改めて椅子の上で姿勢を正し、語りかけた。


「各国代表の方々……。こう思えばいい。息子が突然、バックパッカーになって世界を巡りたいと言い始めたのだと。世界を回りたい。1周してみたい。男なら一度は思い描く夢だ」


 議場に、笑声が漏れる。


「しかし、引き留める権利はない。あるとすれば、彼の父か母か、もしくは彼の国の代表者だ。……日本国首相。1つ伺いたい。彼は“異世界”へと行くそうだが、貴国の法律によって彼を引き留めることはできるのかね?」


 隣に振り返った。


 各国首脳たちの視線が、今度は宗一郎とは真逆の方を向く。



次の話は12時になります。

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