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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第2章 最強モンスター編
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第10話 ~ それは褒めているのか……? 貶しているのか? ~

第2章第10話です。

少し閑話休題回です。

 時は、出立前までに遡る。


 ライカは宗一郎に1つの提案を行った。


「宗一郎殿……。出来れば、今回の戦――私に任せてもらえないだろうか?」

「どういうことだ?」


 宗一郎は目を細める。


「出来れば、勇者殿の力ではなく、冒険者――いや人間として、この大事を片付けたいと考えているのだ」

「…………?」

「ドラゴン討伐は人間の領分だ。……あなたの仕事ではないと思う」

「しかし、これは――」


 言い切る前に、ライカは静かに首を縦に振った。


「わかっている。もしかして、これも女神様の試練かもしれないというのだろう」

「気付いていたのか?」

「宗一郎殿と付き合うようになってから、色々と考えるようになった。すると、世界のあちこちに違和感があることに気付いた。……この出来事もその1つだと私は考えている」

「ならば、オレの力が必要なんじゃないか?」


 今度は首を横に振った。


「もしこれが女神の試練――いや、きまぐれ、悪戯だというのなら、私は見せてやりたいのだ。人間の力を、プリシラ様に……」

「そうか……」


 宗一郎としては悪くない提案だ。

 そもそも倒すだけなら、宗一郎1人だけで事足りる。

 400人の冒険者を引き連れる必要はない。


 だが、今回彼らを連れて行くのは、今のライカの思考がそうであるようにオーバリアントで起こっていることに疑問を持たせるためだ。

 討伐に行って、あっさり倒したのでは、彼らの中に疑念は浮かばない。


 ある程度のストレスが必要になる。


 それに見てみたい。

 人間が神が設定した状況に、どこまで食らいつくことが出来るか。

 それに対して、プリシラが一体どのようなリアクションを取るか……。


「わかった。だが、オレがもう無理だと思った時は、自分の判断で介入するからな」

「うむ。それでいい。……とくと人間の力を見てくれ」


 そう言ったライカの表情は、程よい感じで引き締まり、いい顔をしていた。






 そして、オーガラストの討伐戦が始まって、12時間が過ぎようとしていた。


 今、戦っているのはパーラーンが指揮する部隊。

 もうすぐ交代の時間が迫っていた。


 第一部隊がぞろぞろとフロアの入口付近に集まり始める。

 お世辞にもその士気は高いとはいえない。


 皆、疲れていた。

 3時間戦っただけなのに、冒険者の疲労の色は濃い。6時間の休息を取ったとは思えないほど、げっそりとしている。


 オーガラストとの戦いは激しい消耗戦になった。

 引いては前進し、前進しては引くの繰り返し。

 特に魔法士、神官の消耗度が半端ない。

 みるみる《魔力》が削られていく。3時間戦った後で、1%以上の魔力が残っているものは、数えるほどしかいなかった。


 精神的な負荷も相当なものだ。頭蓋骨をノミでごりごりと削られていくような感覚になる。


 あれほどの大型エネミーを相手にし、一瞬の気の緩みすら許されない緊張感の中で、3時間戦うのだ。どんな戦場よりも過酷だった。


 第三部隊まで指揮をしていたライカも例外ではない。

 さすがに、最初こそ陣頭指揮を取っていたが、ついに倒れてしまった。


 今は第四部隊の副長パーラーンと第三部隊の副長で、指揮経験もあるカーンが手分けをして、指揮を取っている。


 ライカが倒れたことに、さすがの冒険者たちも動揺を隠せない。

 精神的支柱である指揮官が、陣頭から外れる事態は、彼らの心理を深く抉ったようだった。


 そして何よりも、数値がすべてを物語っている。


 今、現在のダメージは「190万1751」。

 報告通りとはいえ、やはりオーガラストの通常の《体力》の200倍持っていた事実は、密かに楽観視していた冒険者の幻想を見事に打ち砕いた。


 だが、ここで退けば、今までの苦労は水の泡だ。


 第一部隊の面々は、気を引き締めた。


「大丈夫か? ライカ?」


 宗一郎が見舞う。

 冷や水に浸した布を額から外すと、ライカは起き上がろうとする。


 手で制し、寝ているように忠告した。


「情けない話だ……」


 姫騎士の目から涙が浮かぼうとしている。


「自分を卑下するな。……お前はよくやっている。そもそも作戦通りだろ。第3と第4はカーンとパーラーンに任せる手はずだった。予定通りじゃないか」

「本当は、ヤツが倒れるまで指揮を取っていたかった。やはりまだまだ未熟だな、私は……」

「自分の成長すべき点を見つけられているのは、悪い事じゃない。むしろ、己の未熟さを知らず、果たすべきこともしないまま、愚鈍な道に進む方が、よっぽど愚かだ……。そういう意味では、お前はまだまだだよ――」

「宗一郎。それは褒めているのか……? 貶しているのか?」


 2人は声を揃えて笑った。


「ヒューヒュー……。お熱いッスね」


 振り返ると、いやらしい笑みを浮かべた悪魔が近づいてきていた。

 その側には、クリネも付いてきている。


「お姉様……。大丈夫ですか?」


 膝をついて、心配そうに姉を見つめた。

 その小さな頬に、手で触れると、ライカは「ああ」と力強く肯定した。


 どうやら第1と第4の入れ替えが行われているらしい。


「そろそろ戻らないとな」

「あまり無理は禁物ですよ」

「わかってる。……でも、クリネの顔を見たら、疲れも吹き飛んだよ」

「あ……」


 ポッと少女の顔が赤く灯る。


「もうご主人ったら、一体いつの間に急接近したんスか?」

「なんのことだ?」

「またまたしらばっくれちゃって。……ライカ、さっき『宗一郎』って呼び捨ててましたよ」

「あれは……」


 珍しく宗一郎の顔が赤くなる。


「うひゃ! ご主人の顔が赤くなった。これは明日は、雷か槍が降ってくるッスね」


 ガチン……!!


「くぅ……。久々の愛の鞭ッス」

「嬉しいだろ」

「はい……。でも、痛い。もしくは気持ちいい」


 ――どっちだ!?


「ところで、戦況はどうだった?」

「ご主人に言われたとおり、さりげなく有利になるようにしといたッス」

「上出来だ。……お前も少し休め」

「ぎゃあああああ! ご主人が優しすぎる。ちょっと本物かどうか確認を……」


 フルフルは宗一郎の股間に手を伸ばした。


 ガツン!!


「これでも優しいか……」

「いえ……。いつものご主人ッス」


 涙目になりながら、大きな瘤が出来た頭を抱えた。






 フルフル曰く――。

 イベントモンスターというのは、イベント時では絶対倒すことが出来ない強さや体力を持っているだけであって、厳密には倒すことは可能な場合が多いらしい。


 もし今の状況がゲームに当てはめて考えるならば、女神はどれぐらいの体力を設定したのだろうか。


 たとえば、世界にいるすべての冒険者を集め、さらにレベルを最大値で設定――その攻撃力に耐えられる《体力》というなら、状況は絶望的と言わざる得ない。

 仮に倍の400万ダメージを与えたところで、痛くも痒くもないだろう。


 そこで気になるのは、イベントのクリア条件だ。


 イベントモンスター――宗一郎たちがそう思っているだけだが、仮にクリアする条件というものがあるなら、何が考えられるだろうか。


 第6次討伐部隊は結果的に逃げ出したが、オーガラストはまだ居座っている。

 おそらく、それが条件ではないのだろう。


 他にはどうだ?


 別のところでのイベントをクリアし、フラグを立てる必要があるとか、か。

 だが、その場合、オーバリアントにNPCなるキャラがいることになる。

 現在、12億人といわれるオーバリアントの総人口の中で、そのキャラを見つけるのは、海岸で特定の形をした砂粒を見つけるようなものだ。


 まだある。


 これが1番望みが高いかもしれないが、先例とさほど変わらない。


 つまり、特定の人物しか倒す事が出来ない。


 もっと言えば――。



 『勇者』という存在にしか倒せない……ということだ。



 だが、それならば何故、噂も聞かないのか。

 まだ最初の城の周りで、スライムと戯れているような状況なのだろうか。


 今、考えてもしょうがないことだ。

 あくまでも憶測の憶測であって、何一つ確定できていない。


 自分たちがやることはたった1つ。


 目の前のオーガラストを倒す事だけだった。




 そして、さらに16時間後……。


 すでにダメージは350万を突破していた。


他に倒せないイベントモンスターってどんなのがいたかなあ??


明日も18時更新します。

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