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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第2章 最強モンスター編
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第8話 ~ 今のは…………。少し……ずるい………… ~

第2章第8話です。

よろしくお願いします。

 現地に到着したのは、その2時間後のことだ。


「どうだ?」


 ライカが尋ねたのは、先行していた見張り役だった。


「ぐっすり寝ているよ」

「先制するなら今だな」


 ライカは呟く。


「ずっと寝ていてくれれば楽なんですけどね」


 マフイラは言う。

 それに応じたのは、ドラゴン専門のバロムだった。


「残念ながら、あいつにはあらゆる状態耐性がついてる。力押ししか無理だよ」

「楽をさせてくれませんね」


 マフイラは肩を落とした。


「よし! 各副長に通達。各部隊にいる弓使い、槍使い及び魔法を使うことが出来る職業をあるだけ集めてくれ」

「まずは遠距離から最大火力をくらわせるというわけですか? 確かに的は大きいとは言え、魔法や弓は回避されやすい故、攻撃回数が限られていますからね」


 説明を付け加えたのは、最強レベルの副長パーラーンだ。


「そうだ。ヤツが起きたら、一旦後方部隊を退かせ、マフイラが率いる第一部隊を中心に攻撃を加える。後は打ち合わせ通り、3時間ごとに部隊を交代させる。ただし、最初の戦闘においては何が起こるかわからない。突発的に交代を余儀なくされる場面も想定して、準備だけはしておいてくれ」


 4人の副長と、それを聞いていた宗一郎が頷いた。


 解散し、副長が部隊に戻っていく。

 宗一郎とライカだけがその場に残った。


「な、なあ……。宗一郎殿。クリネとフルフル殿は大丈夫だろうか?」


 クリネとフルフルは、宗一郎たちの位置から確認が難しいが、第4部隊パーラーンの指揮下に入っている。


 クリネについては、姉妹で激しいやりとりが行われた後、従軍することが決まった。帝都から付いてきてしまった理由と同じで、ほっとくと1人でここまで来てしまう恐れがあったからだ。


 宗一郎はライカに付かねばならず、お守りはフルフルに任せてある。


 ――まあ、はっきり言って、フルフルの側が一番危険なのだが……。


 幼女の貞操と、その観念が守られていることを祈るばかりだった。


「様子を見てきた方がいいか?」


 ライカは首を振った。


「もう時間がない。……それよりも、宗一郎殿。1つ……お願いがあるのだが?」

「なんだ?」


 ライカは大きな籠手の留め具を外す。

 腕から抜くと、細く白い手を差し出した。


「手を…………握って、くれぬか……?」


 宗一郎は一瞬首を傾げたが、ライカの手が微妙に震えているのを見て、すべてを察した。


 していた手袋を脱ぎ、外気に生の手をさらす。

 そしてそっと姫騎士の手を取った。


 冷たい……。


 氷のような――というが、血すら凍ってしまったのではと思うほど、ライカの手は冷たかった。

 確かに洞窟の中は氷点下に近い温度だが、それとは別種の冷たさがある。


「緊張しているのか?」

「なさ……情けない話だがな」


 ライカはもう片方の手を自身の胸に置いた。


「宗一郎殿に……。この胸の鼓動を聞かせてあげたいくらいだ」


 自嘲気味に笑う。


「心配するな。オレがいる」

「そうなのだが……。わかっていても、な――」


 次第に白い顔が、青白くなっていく。


 このままでは少し不味いかもしれない。

 思ったよりも、ライカはスペルヴィオとの一戦を引きずっていた。


 そもそも自分よりも年下の少女が、500人以上の近衛兵や冒険者を率いること自体、相当なプレッシャーなのだ。


 少し酷なことをしたかもしれない。

 出来れば、代わってあげたいと思う。


 けれど、それではライカ・グランデール・マキシアは一生そのトラウマを背負っていくことになる。


 そんなこと――――意識が高い現代最強魔術師が許すはずがない。


 だが、激励したところで効果がないことは、顔を見ればわかる。

 逆効果になるかもしれない。


 思案していると、横からマフイラが出てきた。


「ライカ様……。そろそろ――」


 振り返ると、冒険者たちが整列していた。


「わかった」


 するりと、宗一郎の手からライカの手が抜けていく。

 籠手を再び装備し、前を向く。


 その振る舞いは気丈であったが、宗一郎には無理しているのがバレバレだ。


 何か言わねば、と思った時、何故かひょんなことが口に出た。


「ライカ……」

「なんだ? 宗一郎殿」

「それだ」

「は?」

「その“殿”だ」

「何を言って……」

「そろそろ。オレ達も出会って、2ヶ月になる」

「そうなるな。あの時は――」

「……だ、だから、“殿”っていうのはやめないか?」

「いや……。しかし、宗一郎殿は勇者で……」


 身を乗り出して、反論する。


「確かにそうだ……。だが、オレがライカと呼び捨てているのに、お前が“殿”と尊称をつけているのは不公平だと思うのだ」

「そ、それは……そうかもしれないが……。ならば、なんと?」

「普通で良い。宗一郎で――――」

「いや、それはその…………。…………きはずかしいというか」


 ライカの青白い顔が、今度はみるみる信号のように赤くなっていく。


「駄目か?」

「そ、そそそそんなことはない、が――――。落ち着かないというか」

「一度、呼んではくれないか?」

「今、ここでか……!? そそそそれは、ちょっと御免被りたい。日を改めて、帰った時にでも……」

「今、ここで聞きたいのだ。オレは……」


 今、ここで聞けなければ、一生聞けない――そんな気がしたから。


 ――我ながら、自分らしくない心境だな……。


 フルフルがいれば「死亡フラグっスよ」と言ったかもしれない。


「で、では……。失礼して――」


 ごほん、ごほん、と何度もライカは咳払いした後。


「そ」



 “宗一郎……”



 綺麗な声が、凜と鈴のように響いた。


 宗一郎は満足そうに笑う。

 ライカは耳まで真っ赤になり、上目遣いで勇者を見つめた。


「どっちが緊張する?」

「な、なにが……!?」

「今から指揮をするのと、オレを尊称無しで呼ぶのとでは、どっちが緊張するのかと尋ねている?」

「こ、後者に決まっておろう! ――――あ!!」


 気がついた時には、手の震えが止まっていた。

 指先を触ると、少しだけ体温が戻っている。


「もう大丈夫だな」


 やんわりと宗一郎は笑みを浮かべる。

 一方で、ライカは赤くなった顔を隠すように深く兜をかぶる。


「今のは…………。少し……ずるい…………」


 頬を染め、少し恨みがましく宗一郎を睨み付ける。


 ――か、可愛い……。


 思わず呟きそうになった唇を慌てて押さえた。

 今度は、宗一郎が赤くなる番だった。


「宗一郎……。あ、ありがとう……。感謝する」

「あ、ああ……」


 ライカは礼を言うと、鞘から細剣を引き抜く。

 高らかに掲げると、号令を発した。


「行くぞぉ!!」


 冒険者は静かに己の腕を掲げた。




宗一郎(ヽヽヽ)……。グッジョブです!」


 にやりと笑ったのは、マフイラだった。

 宗一郎はまだライカの手の感触が残る指先を見つめていた。


 そしてギロリと睨む。


「言うなよ。特にオレの従者にはな」

「ああ……。説明会にいたあの元気な方ですね。おやおや……。もしかして、三角関係というヤツですか?」


 悪魔よりも悪魔じみた笑みを浮かべる。

 どうやら飛んでもないヤツに知られてしまったらしい。


 フルフルみたいに気安く殴れないから、さらに質が悪い。


「口止め料として、私も宗一郎って呼んでいいですか?」

「勝手にしろ!」


 思わず怒鳴ってしまった。

 それでもマフイラから笑みを消えない。


 絶対楽しんでいた。






「いた」


 ライカはオーガラストがいるフロアをのぞき込み、呟いた。


 宗一郎もそっと壁から顔を出す。


 そこには見事な巨竜が眠っていた。


「思っていたよりも、大きいな」


 自然と口に出ていた。


 全長30メートルはあるだろうか。

 おそらくシロナガスクジラよりは小さいだろうが、今は眠っているため正確なところはわからない。


 長い首に、鎧のような黒皮。蝙蝠のような羽根はたたまれ、身体全体を覆い隠していた。イラストよりも顎は大きく、鋭い牙が剥き出し状態で閉じられている。


 フゴッ、という寝息は発せられる度に、フロア全体が振動し、鼓動のように聞こえる。


 確かにこれが首を持ち上げ、暴れ出したらたまらない。

 宗一郎は粟立った腕を抑えた。


 異世界に来て、いくつかモンスターを見て来たが、これほどの圧迫感を感じるのは初めてだった。


 ライカはハンドシグナルで、第一陣となるマフイラに指示を出す。

 すると、彼女の部隊に振り分けられた重戦士たちがフロアの中に入っていく。それにナイトや竜騎士、魔法戦士などのアタッカーが続き、神官などの支援部隊が入る。

 最後に、特別に編成された魔法士や弓使いなどの中心とした部隊が入場していった。


 ライカ、それに宗一郎も後に続く。


「お姉様!」


 声が聞こえて、2人は振り返る。

 特別編成された部隊に、クリネもいた。


「ご武運を」

「うむ。クリネも気を付けてな」

「はい!」


 元気良い返事がかえってくる。

 そしてすぐに部隊に合流していった。


「妹の方が、肝が据わっているな」

「むっ! 茶化すな! 宗一郎!」


 ライカはむくりと頬を膨らませ、自身もフロアに入っていく。

 すっかり名前で呼ぶのを躊躇わなくなっていた。


 ――たくましいな……女…………。


 時々、男であることを後悔するぐらいに……。


 宗一郎は肩をすくめると、最後にフロアに入っていった。



この回ほど自分の文章力に絶望した回はありません。

誰かサブタイの台詞をいうライカを描いてくんねぇかなあ……。


まあ、気を取り直して!

いよいよ次回は竜討伐です。よろしくお願いします。


明日も18時投稿です。

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