第7話 ~ 宗一郎様。見ちゃいましたよ、私…… ~
第2章第7話です。
よろしくお願いします。
洞窟に入ると、途端に進軍速度が鈍る。
モンスターはさほど強くない。
問題なのは、天井に張り巡らされた氷柱だ。外の雪が中に入り、水になって氷柱を作ったらしい。大きいものは成人男性ぐらいの大きさがあり、小さくても二の腕ぐらいはある。
脳天に刺されば、絶命は免れない。
魔法や弓などで落とせば済むが、今から200万ポイント以上のダメージを与えなければならないため、余計な消費は抑えたかった。
天井に近い部分では、槍や斧でたたき落とせるが、そうでないところでは上を見て進まなければならない。
間の悪いことに、地面は滑りやすく、上と下――両方気を付けなければいけなかった。
当然、不満は出たのだが、冒険者の多くは気にせず進んだ。
経験のある冒険者がいるだけあって、こういった洞窟のトラブルには慣れっこらしい。
すてん、と足を滑らせながらも、談笑をしている冒険者もいた。
「宗一郎様……」
ライカとともに先頭付近を歩いていた宗一郎の背中に、声がかかる。
振り向くと、眼鏡のエルフが軽く手招きしていた。
もう片方の手を口元に当て、「むふふ」と笑みを浮かべ、白い息を吐いている。
嫌な予感がしつつ、宗一郎は近づいていった。
改めて見ると、マフイラは少年ような容姿をしている。
あまりの起伏のないスレンダーな体型と、肩の辺りで切りそろえたショートカットがそう思わせるのだろう。
でも、眼鏡に隠れてはいるが、目鼻立ちはぱっちり、そしてくっきりとしており、魅力的な容貌をしている。
もしかしたら、伝説の――眼鏡を取ったら美人――なのかもしれない。
「ふふふ……。宗一郎様。見ちゃいましたよ、私……」
あら、奥さん――という感じで、手招きした手の平をぴょこぴょこと振る。
「何がだ?」
「ライカ様が、宗一郎様の胸の中で寝ているところですよ」
嫌な予感は的中した。
「……」
「大丈夫です。……私の心の中の映像として留めておきますから」
「そうしてもらえると助かる」
「で――。お2人はどういうご関係で?」
――傷を広げる気が満々ではないか。
「どうもせん。向こうは姫君で、こっちは従者ってだけだ」
あまり大事にはしたくないので、皆にはそういう風に話してある。
勇者などと言えば、また厄介な事になる。
帝国での一件で十分懲りていた。
「またまた……」
「本当だ」
「それは嘘でしょ。勇・者・様」
「――――!」
宗一郎はマフイラの顔を見つめた。
エルフの職員は、目を細め、にんまりと笑った。
その顔を見たかったと言わんばかりに。
対外的には宗一郎が勇者であるということは公表されておらず、マキシアの重臣と一部の諸侯しか知らされていない。先も言ったが、冒険者たちにも言っていない。
そもそも彼が勇者かどうかということを判断するための旅なので、何もまだ発表できない状況だ。
だがら、マフイラが知っていることに、素直に驚いた。
マフイラは眼鏡のズレを直すと、切り出す。
「これでもギルド職員なので。……情報は色々と――と言いたいところですが、あなたのステータスを見るまでは気付きませんでした」
「お前、勝手に――」
「そのことについては謝罪します。でも、気付かないあなたも悪いのですよ」
気付かない、というよりは、《魔性》が低い宗一郎にとって、レベルで得られる魔法を防ぐ手段を持たないという方が正しい。
事前に予測できればいいが、不意打ちだとどうしても回避が遅くなる。
「他にも何人か、あなたがレベル1であることを知っているようですね。素性もなんとなく気付いているんじゃないですか? 帝国最強のスペルマスターを倒したという噂は、隣国にまで響いてましたから」
――そこでまで伝わっているのか……。
あれから2ヶ月経ったが、飛行機や車、インターネットがない異世界で、そこまで情報が伝播しているのは予想外だった。
「それでなんだ? レベル1の自称勇者が、お姫様といちゃついているのが許せない。士気にもかかわるので、自重してくれとでもいいたいのか?」
「まさかまさか。そんな野暮なことはいいませんって……。むしろ、私は応援するほうですから」
「楽しむ――の間違いじゃないか? その顔……」
「ありゃ? ばれちゃいましたか」
なはは……マフイラは後頭部を掻いた。
「ところで、宗一郎様は、今回のオーガラストの件どう思っているのですか?」
恋路や、宗一郎の正体よりも、その所感を聞くのが、彼女にとって本命だったらしい。途端に、顔を引き締め、声音を変える。
「それはオレの台詞だ。ギルドとしてはどうなんだ?」
「あらら……。ですよねー。まあ、私も気になってちょっと方々のギルドに問い合わせてみたんですよ、今回と同じ事例がないかとね?」
「ほう」
「で――。結構、返事がかえってきたんですよ」
マフイラが眼鏡のズレを直すと、ピカリと光らせた。
「こことは真逆のマキシア帝国の西の向こうに、ローレスト三国のある町に1体。帝国の南西――ドーラ海峡を挟んだ海洋国家アーラジャの南に3体。ウルリアノ王国から遥か南の山にも1体。……で、最後にこれは未確定情報なんですけど、あなた方が目指しておられた南の城にも1体もしくは複数体いるそうです」
「随分とばらけているのだな」
「ええ……。しかも、これは情報の一部ですから、今後増える可能性が出てくると思います」
「……他のギルドの対応は?」
「特に何も……。もちろん依頼はしているそうなんですが、達成はされていないそうです。こことは違って、実害が少ないそうで」
「なるほど。噂にも聞かなかったのは、それでか……。何か共通点は?」
「《体力》が出鱈目に高いということと、割とここ最近確認されたこと以外、特には……」
宗一郎は少し考える。
確認してみるまでわからないが、おそらくここと同じイベントモンスターだろう。
気になるのが、オーガラストと同じ最近になって確認されたことだ。
気付いていたが、自分たちがこの世界にやってきた日とだいたい符合する。
この一致を偶然と片付けるわけにはいかない。
これが宗一郎たちを意識しての女神の行動なのか、それとも気まぐれなのかはわからない。だが、何か1つピースが当てはまらない
レベルシステムによって人はモンスターがいる世界でも生き抜くことが出来るようになった。結果的に、モンスターが緩衝材となり、人同士の戦争も行われなくなった。
歯がゆい限りだが、これがプリシラの狙いというなら見事と言わざるえない。
故に、今回のオーガラストの件は、宗一郎から見れば些か度が過ぎた行動のように映る。
力を分け与えたこと以外に、慎重に暗躍してきた女神にしては大胆すぎるのだ。
「宗一郎様……!」
気がつくと、目の前にエルフの女の顔があった。
「おお、わあああ!!」
驚いて、宗一郎は仰け反る。
「どうしました?」
「あ、いや……。考えごとをしていた」
「何を?」
「些末なことだ。……女心と秋の空というヤツだな」
「?」
結局は、女神に会ってみないとわからないということだ。
見返してみて、結構重要なこと喋ってる回だと気付いた。
本日はこれまでです。
お付き合いいただきありがとうございます。
明日は18時投稿です。
※ 2月26日より始まりました
「その現代魔術師は、レベル1でも異世界最強だった。」ですが、
あっという間に連載から1ヶ月となりました。
評価、ブックマークをいただいた方、お読みいただいた方
改めてお礼を申し上げます。
おかげさまで当初の目標よりも、ポイントを伸ばすことになり、
月間入りもさせていただきました。
皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
何か「ん? お前、連載やめるのか?」って流れになってますけど、
ご心配なく……。当初決めていた目標として、
毎日投稿ときちんと「完」を付けることを目標に日々頑張っております。
今後も応援よろしくお願いします。