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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第2章 最強モンスター編
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第5話 ~ オレがいなかったからだ ~

第2章第5話です。

よろしくお願いします。

 波乱の説明会が終了し、ギルドから出るとバリアンが東に沈む頃合いだった。


 宿を探すがてら、早めの夕食を取ることになった一行は、「久しぶりにまともなものが食える」と談笑していると、最後尾のライカが突然立ち止まった。


「どうしたッスか? ライカ……」


 フルフルが尋ねるが、返事はない。

 ライカは唇を結び、肩をふるわせた。


「なぜ――」

「…………」

「何故だ、宗一郎殿? 何故、私を推挙した」

「お前以外に、誰があの荒くれ冒険者たちをまとめるのだ?」


 しかし! とライカは食い下がる。


「それとも他に、適した能力を持つものがいるのか?」

「……ならば、私は宗一郎殿を――」

「オレはダメだ」

「何故ですか? 実力、知力ともに申し分ないではないですか!」

「レベル1の冒険者に誰がついて来る」

「宗一郎殿はそれでもマトー殿を……」

「仮にオレが帝国最強のスペルマスターに勝ったと触れ込んだとしても、すべての冒険者が信じるという保証はない」

「確かにそッスね。……ご主人を指揮官なんかにしたら、ドラゴン倒す前にギスギスしちゃうッスよ。意識が高すぎて……」


 フルフルが2人のやりとりにちゃちゃを入れる。

 意識的にどうかはわからないが、彼女なりに場を和ませようとしているのだろう。


「ライカ……。人をまとめる者に1番必要なこととはなんだ?」

「それは冷静な判断能力と、統率能力ではありませんか?」

「違うな。それはどっちかと言えば、参謀の仕事だ」

「では――」

「ドラマ性だよ」


 ライカはきょとんとして「ドラマ……性?」と眉間に皺を寄せた。


「『このリーダーならついて行きたい!』という状況を作り出すことがもっとも必要なのだ。特に身分や立場が違う者たちをまとめるなら、尚更だ」

「私にそんなドラマなど……」

「戦で指揮をする際、陣頭に立つのが王である時と、貴族である時、どちらが兵の士気が高い?」

「それは王であろう」

「わかってるじゃないか。……そうだ。王はその国の頂点。貴族は領民の頂点だ。背負っているものが明らかに違う。そんな人間が陣頭に立って戦うからこそ、兵士は奮い立つものだろう」

「私がマキシア帝国の姫君だからか……」


 声のトーンとともに、ライカの視線も落ちていく。


「むろんそれだけではない。……お前の指揮能力も考慮しての人選だ」

「だが、私は――」

「スペルヴィオとの戦いで、兵を失った事を悔いているのだな……」


 ライカの緑色の瞳が、大きく見開かれる。


 もう約2ヶ月前にもなる。

 宗一郎とライカが初めて出会った時のことを、姫騎士はまだ強く引きずっていた。


「お姉様……。まだ……」


 心配そうにクリネは姉に寄り添う。


「そうだ。私は怖いのだ。また皆を全滅させるのではないか、と……」


 胸を押さえる。

 あの時のことを思い出すと、心が張り裂けそうになる。


 いくら耳を塞いでも、仲間達の悲鳴が聞こえてくるような気がする。


 結果的に全員が復活した。

 でも、いまだ真正面から近衛兵たちを見つめることが出来ない。

 心の中では責められているのではないかと思っていたから。


 宗一郎に付いてきたのも、もちろん彼の行く末を見届けるためだが、半分は少し兵たちから距離を置きたいと思ったからだった。


 そして……。もしかすれば、この旅において何か成長できるのではない。

 そんな淡い期待を持っていた矢先の出来事だった。


「……カ…………。…………お姉様!」


 慌ててライカは顔を上げた。


「すまぬ。聞いていなかった」

「お姉様……。大丈夫ですか? 顔が真っ青です」


 眉の八の字にして、クリネが心配している。

 そんな妹に、ライカは「大丈夫だ」と即答できるほどの自信はなかった。


「――――!」


 不意にライカの頬に人の手が触れた。

 無理矢理、角度を変えられる。


 目の前に現れたのは、固い髪を後ろになでつけた男の顔だった。


「ライカ? ……お前の目の前にいる男は誰だ?」

「……そ、宗一郎殿」


 そう――。宗一郎の顔があった。

 いつになく真剣な表情を見て、ライカは思わず見とれてしまう。


 乙女の顔が赤くなっていくのを見ながら、質問をした。


「何故? あの時、全滅したかわかるか?」

「そ、それは……。私の指揮が悪かったから――」

「違うな」


 宗一郎はゆっくりと首を振った。


「じゃあ――」


 ライカは反射的に顔をさらに近づけて問う。


 宗一郎は答えた。



「オレがいなかったからだ」



 真顔で。

 はっきりと。

 さも当たり前のように。

 自分の不在が敗因だと言い切った。


「ふ、ふざけておられるのか?」

「そう思うか?」


 ライカは思わなかった。

 宗一郎の顔はひたすら真剣だったからだ。


「お姉様。……クリネもおります! だから、安心して指揮を!」

「みんなの美少女アイドル悪魔! フルフルちゃんも忘れないでほしいッスね!」

「クリネ……。フルフル殿……」


 瞬間――。


 ライカの目から涙が溢れてきた。


「あ、あれ……」


 細い指の先で何度も何度も拭ったが、涙が止まることはなかった。


「み、皆の命……。私に預けてくれるか?」


 しばらくして泣き止んだライカは問う。


「もちろんです。お姉様」

「右の幼女に同じ!」

「散らすつもりはないが、異論はない」


 鼻水をすすり上げ、まだ震える唇についた涎を袖で拭う。


「相わかった! 皆の命、存分に使わせてもらう!」


 すべての悩みを振り払った時、姫騎士の顔から苦悩は消え失せていた。






 夜――。

 宗一郎たちは再び宿を別れて寝ることになった。

 ライーマードは大きな町だが、主な産業は交易だ。商人たちはたいてい旅費を浮かせるため、商人ギルドに寝泊まりしたり、付き合いのある商人の家に泊まったりするので、比較的宿屋が少ない。


 それにドラゴン討伐のおかげで冒険者が集まったことから、どこの宿屋も満席状態だった。


 前に入った宿場町と同じく、なんとか2つの宿で部屋を確保した。

 ちなみに、組み合わせも前回と同じだ。


「宗一郎……。今日は、蝋燭にする? 鞭にする? それとも三・角・木・馬?」

「聖句が書かれた五寸釘にしてやろう」

「ちょっ! タイムっス! それだけはやめてほしいッス!」


 といういつものやりとりを終えた後、フルフルは切り出した。


「ところで珍しッスね、ご主人……」

「何がだ?」

「てっきりめんどくさがって、ドラゴン討伐に参加しないと思ってたッスよ」

「そのことか……」

「しかも、ライカに発破までかけて……。らしくないッスよね。フルフルが知ってるご主人なら、絶対『1人でやってやる!』とか意識が高いことを言いそうなものなのに」

「だろうな」

「ほらほら……。やっぱなんかあるんスね」


 フルフルは八重歯をむき出して笑った。


「しっかし、不思議ッスよね。230万もダメージ当てて死なないドラゴンなんて……。その倍の数で挑んで、本当に倒せるッスかね」

「なんだ? ……お前はとっくに気付いていると思ったがな」


 近くのワインセラー――オーバリアントでは『ビルグ』という――で買ってきた酒を、グラスに注ぐ。


 1つをフルフルに渡し、芳醇な香りを楽しんだ後、宗一郎は口に入れた。

 あまり期待していなかったが、素朴な味わいが良い風味を生み出していて、なかなか美味い。異世界土産にはちょうどいいと思った。


 フルフルも口を付けると「おお!」と声を上げて驚いた。


「――で? 何がッスか?」

「お前、ゲーマーだろ? 何か気付かないか?」

「ゲーマー……?」


 しばしフルフルは腕を組み、首をひねる。


 そして――。

 ピカリ! と何かが閃いたようで思わず乗り出した。


「もしかしてイベントモンスターっスか?」

「正解だ」


 宗一郎は椅子に座って、ワイングラスを掲げた。


「RPGではよくある――イベントをこなしていないと倒せない敵だ」

「あれッスよね。某有名RPGの3作目序盤に出てくるバハムートのことッスよね」


 宗一郎は頷く。


「だから、第6次討伐の冒険者たちは、ボス種なのに逃げることができたんスかね。つまり、これでイベントクリアしたんスか?」

「どうかな? いなくなっていれば、万々歳だろうが……。そうはうまくいかないと思うぞ、この一件は……」


 ワインを口に付ける。


「じゃあ……。倒せないってわかってるなら、ライカがやることは無駄じゃないッスか? ライカ、また落ち込むッスよ」

「言ったろ。オレがいると――」

「ですけど……。いくらご主人が強いといっても、230――――ああッ!!」


 フルフルは大声を上げた。

 宗一郎は薄く微笑む。


「そっか! ご主人には関係ないんスね!」

「そうだ」

「正解したので、フルフルにニャンニャンしてもらっていいッスか」

「却下」

「ぶー」


 フルフルは口を尖らせる。

 宗一郎は「ふふ……」と声に出して笑った。


「もう! 何がおかしいんスか、ご主人? フルフル、そんなにおかしな事を言いましたか?」

「十分変な事をいっていると思うが……。ところでフルフル――」


 と改まって、自分の悪魔の名前を呼んだ。


「仮にオレが倒せないはずのイベントモンスターを倒してしまったら、一体誰が困ると思う?」

「ん? おかしくないッスか? 誰も困らないと思うッスけど。むしろ喜ぶ人の方が多いと思うッスけど」

「1人だけ困るヤツをお前は知っているぞ」

「1人……?」


 あ…………。


「女神ッスね!!」

「正解だ!」


 クイズ番組の司会者みたいに、宗一郎は悪魔を指さした。


「つまりご主人は、オーガラストを無理矢理倒せば、女神がなんらかの動きを示すかもしれない――そう思ってるんスね」

「しかも、衆人環視の元でな」

「なるほど。そのための冒険者ッスか。……確かに、イベント手順を踏まず無理矢理倒されたら、女神も焦るでしょうねぇ。かと言って、何食わぬ顔でオーガラストを復活させれば、冒険者がいぶかしむかもしれない、と――。そんなとこッスか? さすがはご主人ッス」

「まあな」

「でも、そんなにうまく行くッスかね。倒しても、スルーされて、ただ単に『ドラゴンを倒しました』ってだけになるかもしれないッスよ」

「むろんだ。……だが、まあ――その時はその時だな」

「虎穴に入らずんば虎児を得ず――ってヤツッスね。フルフル……。俄然やる気が出てきたッスよ。――というわけで……」


 フルフルはこれ幸いとお酒を飲んで赤くなっている宗一郎に近づく。


 宗一郎の胸に辺りをつっ――――と、指を這わせた。

 はあ、と主人に甘い息を吹きかけ、豊満な胸を押しつけた。


「ご主人……。今から英気を養いませんか……」



 1分後……。



「さむ! 寒いッスよ! ご主人! 外寒いッス!」


 布団で簀巻きにされたフルフルが、窓の外につり下げられていた。


「ちょ! なんかこの状況見たことあるッスよ。――てか、フルフル同じこと言ってるし。地の文そのままだし! コピペだめッスよ! 某リケジョ並じゃないッスか!」


 ピシャリ!


 宗一郎は窓を閉めた。


「リアクションなしッスか! お願いッス! せめて床の上でいいッスから! フルフルをお部屋の中で寝かしてほしいッスよおおおお!!!」


 悪魔の嘆願は結局、朝日を見るまで聞き入れられることはなかった。


 ちなみに翌朝、またライカに「フルフル殿の声が聞こえたのだが」と尋ねられるまでが、テンプレだった。






 翌朝――。


 谷へと向かう街門前に、多くの冒険者が集結していた。

 その彼らの前に、1人の少女が現れる。


 細剣を引き抜き、掲げると、迷いのない澄み切った声で、高らかに叫んだ。


「出発!!」



 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!



 冒険者の怒声とも、雄叫びともとれる声が、まだ霧がかったライーマードの町外れに響き渡る。



 こうしてドラゴン討伐が幕を開けたのだった。


ライカにフラグを立てていくぅ……。


明日土曜日は2話投稿です。

1本目は12時。2本目は18時です。

よろしくお願いします。

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