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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第2章 最強モンスター編
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第4話 ~ ライカ・グランデール・マキシア! 不肖の身だが、パーティーのリーダーを引き受ける! ~

第2章第4話です。

よろしくお願いします。

 結局、出て行ったほとんどの冒険者が、席についた。


 マフイラは静かになったのを見計らって、ドラゴンの特徴について説明をはじめた。


「ドラゴン種の名前はオーガラスト……。典型的な大型の竜種です」


 別の職員がオーガラストを描いたイラストを広げる。


 長い首に、徳利のような形の胴。手足は短いものの、その先には獰猛な爪が付いている。胴体よりも大きな羽根は、強い浮力を得るためだろう。黒色の鱗は、イラストからでも硬さが伝わってくる。


 アジア圏などで想像する龍というよりは、どちらかと言えば西洋の方で想起されるドラゴンに近い。


「オーガラストなら、うちのパーティーとやりやったことがある」


 手を挙げたのは、重戦士とは別の冒険者だった。

 格好からしてナイトだろう。


「だが、せいぜい12000ポイント程度の《体力》だったはずだ。200万もダメージを与えて、死なないなんてまずあり得ない」


 ナイトの主張に、他の冒険者も頷き、「そうだ」と声を上げた。


「ギルド側が嘘をついてるんじゃねぇか」「200万の《体力》なんてありえねぇ」「証拠を見せろ。証拠を!」


 数こそ少ないが、方々からヤジが飛ぶ。


 その程度で怖じ気づくマフイラではない。

 毅然とした態度を変えず、ふっと息を吸い込んだ。


「疑うなら、やめればいい」


 宗一郎だった。


「…………」


 自分の言葉を代弁されて、マフイラはキョトンとする。


「証拠が欲しいというなら自分で探せ。第6次討伐に参加したヤツを捕まえて、状況を聞けばすむ。単独で挑んで、自分の目で確認するのもいい。どうせ死んだって生き返るのだからな」


 ヤジを叫んでいた冒険者たちの手が下がる。


「そもそも本質を考えろ、貴様ら……。ギルド側が嘘をついてメリットがあるのか? こいつらの仕事は、依頼されたクエストの斡旋だ。そのクエストが達成できなければ、ギルドの信用はなくなる。中間業者にとって信用は金よりも大事だ」


 マフイラが深く頷いた。


「貴様らに依頼を達成して欲しいからこそ、こうして説明会を開き、提案を行っているのだろう。……何度でも言おう。疑うなら、時間の無駄だ。とっととここから出て行って、自分の力でオーガラストを倒せばいい」


 場内がしんと静まり返った。


 ぐうの音も出ない――というよりは、冒険者もわかってはいた。

 ただ賞金が山分けになると聞いて、遠路はるばるやって来た冒険者は、怒りの矛先が欲しかっただけなのだ。


 宗一郎はふと視線に気付き、顔を上げる。

 壇上のマフイラと目が合う。


 慌てて視線を避けると、眼鏡のズレを直した。


 そして「ごほん」と咳払いをする。

 微妙な雰囲気の説明会の流れを変えようとした。


「では、説明の続きを――」

「1つ聞きたいッス」


 元気よく手を挙げたのは、フルフルだった。


「あっ……。はい……。どうぞ」

「魔法の中には、敵モンスターのステータスを覗くものがあるッスよね。その数値から《体力》がわからないんスか?」


 他の冒険者はニヤニヤと嘲笑を浮かべた。

 そんなことも知らないのか、という感じだった。


「フルフル殿。……モンスターの中には、ボス種というものが存在しています。最初にあなた方が出会ったスペルヴィオもそうです。ボス種のステータスは、覗くことは出来ません。おそらくそのオーガラストもそうなのでしょう」


 横に座ったライカが説明する。


「そこの姫騎士様が仰るとおりです。ちなみにご説明申し上げますと、そのボス種を倒さない限り、洞窟の封印はできません」


 なるほどな――と、宗一郎は腕を組んだ。


 それから説明会は順調に行われた。


 終始オーガラストの特徴や、攻撃パターン、弱点、攻撃タイミング。他にもフィールドとなる地形などかなり精緻な情報が公開された。


 集まった冒険者は少しふてくされながらも、ギルド側から提供される情報に耳を傾け、そのあと何事もなく説明会は終了した。


「では、400人のパーティーを率いるリーダーを決めたいのですが……。どなたか立候補される方は――」


 マフイラは冒険者を見回した。


 立候補がないということは彼女自身も予想はしていた。

 リーダー自体は名誉職だけであって、報酬がその分上乗せされるわけではない。

 自分のパーティー以外、見知らぬ400人の冒険者ばかりだ。連携など期待できるはずもなく、ただ徒労に終わる可能性もある。


 ならば、リーダーなど決めなくていいかといえばそうではない。


 これだけの人数で動くのだから、意志決定権を持つ人物は絶対に必要だ。

 集団が意志統一出来なければ、単独で挑むとあまり変わらない。


 だが難しい職務であることには間違いない。


 宗一郎も同じ事を考えていた。


 隣を見る。


 姫騎士が辛そうに顔を傾け、膝に置いた拳を赤くなるまで握り込んでいた。


 ライカの真っ直ぐな性格なら「帝国の民草のため! 私が指揮をしよう」と真っ先に言うところだろう。


 しかし今の彼女は、出かかった本心を堪えているように思えた。


 ――なるほど……。


 宗一郎は目を細める。


 そしてすっと手を挙げた。


 マフイラの顔がパアと輝いた。


「すまない。立候補というわけではないのだが、推薦したい人物がいる」

「はあ……。それは――」

「こちらの方だ」


 指し示したのは、横に座るライカだった。


 姫騎士の瞼がみるみる開かれていく。


「そ、宗一郎殿……」

「このお方はマキシア帝国の姫君ライカ・グランデール・マキシア……。そして500人以上の近衛兵を率いる長でもある」


 “おお……”


 冒険者がどよめく。


「この度、ウルリアノ王国との摩擦を考慮し、兵を出せない帝国の名代として、今回のドラゴン討伐に参加されている」

「そッスよ。皆の者、頭が高い! ひかえおろう!」


 フルフルが今にも葵の御紋を持ち出すような勢いで、声を張り上げる。


 宗一郎は少々頭を抱えたが、冒険者の動揺を沈めるのに一役買ったことを考慮して不問に付した。


 ライカは慌ててフルフルに詰め寄る。


「フルフル殿」

「いいじゃないッスか! 別にライカも助ける気でいたんでしょ?」

「そ、それはそうなのだが……」

「ライカ姫……。どうかお願いします」


 マフイラは壇上から降りると、頭を下げた。

 他の職員も頭を垂れている。


 求心力を期待出来るという点で、ライカほどの人材はいないだろう。


 皆の視線がライカに集中している。

 姫騎士は胸に手を置いた。若干、震えている。


 心境に予測はつくが、宗一郎は推薦を取り下げようとはしなかった。


「ライカ……。オレもついているぞ。だから心配するな」

「勇者殿……」


 真っ白い顔に、朱色が灯り、ぼんやりと宗一郎を見つめる。


 その腰布が引かれる。


「お姉様。クリネもおります。どうか安心して指揮を」

「クリネまで――」


 薄いピンクの唇を噛む。

 姫騎士は決断した。


「ライカ・グランデール・マキシア! 不肖の身だが、パーティーのリーダーを引き受ける!」


 細剣を引き抜き、天に向かって突き上げた。


「「「「「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」


 怒声とも言うべき絶叫が巻き起こる。


 ライカ! ライカ!

 マキシア帝国万歳!

 姫騎士様がいれば、かつる!


 口々に声を上げ、お通夜のような説明会の雰囲気を一気に吹き飛ばされる。


 士気高揚した周囲の中で、ライカだけは下を向き、落ち込んでいるように見えた。


 その姿を、宗一郎は横目で確認していた。


言い忘れておりましたが、第2章は割とシリアス展開です。

外伝で遊んだぶん、ここで取り返します!


明日も18時投稿です。

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