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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第2章 最強モンスター編
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第3話 ~ 尻穴に牛乳瓶ツッコむぞ! ~

第2章第3話です。

説明会(回)になります。

 店主に言われて、ライーマードにあるギルドにやってきた。


 そこには多くの冒険者でごった返し、まさに足の踏み場もない状態になっていた。帝都ほど広くないギルドのフロアに、むさ苦しい男達が集まり、アイドルのライブ会場のような様相を呈している。


「スゴい人ッスね」


 漂ってくる男臭さに、フルフルは恍惚とした表情を浮かべた。


「お姉様」

「クリネ。私にぴったりとついているんだぞ」


 姉の腰布を掴んだ妹は、首を縦に振る。


 ――これほど冒険者が集めて、何をしようというんだ?


 すると、本来なら受付を済ませるカウンターに、眼鏡をかけた職員が昇った。

 どうやらエルフらしく、耳介が横に張り出していた。

 マフィとは違って、背丈は成人と一緒ぐらい。

 眼鏡があるおかげで、年を取っていそうな感じはするものの、見た目はライカよりも年若く見える。


 エルフの職員は呪唱する。

 古代エルフ語。マフィが図書館で使っていた言語と同じだ。


 長い文言の後、職員の口元に数センチ程度の魔法陣みたいものが浮かび上がった。


「あー、あー、てすてす……」


 一際騒がしいギルドの中で、職員の声が響き渡る。

 声を大きくする魔法だろう。


 おそらくエルフの魔法を見るのは、初めてなのかもしれない。

 集まった冒険者は、職員が持ち出した不思議な魔法に、自然とお喋りをやめた。


「みなさん、お待たせしました。これから第7次ドラゴン討伐の説明を行いますので、奥の会場で受付して下さい。入った方は、討伐における注意点をまとめた資料を必ず受け取って……あと、席は前の方から詰めて座って下さいね」


 まるで失業保険の説明会でも始まるかのような言い回しだった。


「あ! ちょっ……」


 フロアに滞留していた冒険者の群が、一斉に動き出す。

 その流れに沿って、宗一郎たちも会場に入り込んだ。


 資料をもらい、後ろの方に座る。

 すでに前の席は、むさい戦士系の冒険者によって埋め尽くされていた。


「み、見えない!」


 クリネは背伸びする。

 その微笑ましい光景を見ながら、他の冒険者たちはニヤニヤ笑っていた。


「おいおい。子連れがいるぞ」「父親、結構若いなあ」「母親はどっちだ?」「そりゃあ。姫騎士の方じゃねぇの。似てるし」「じゃあ、もう一方は愛人かな?」「うわー、それはマジ引くわ」「ケラケラ……」


 笑い声が聞こえる。


 少々目障りだが、騒ぎを起こせばさらにめんどくさい事になる。


「ご主人……。フルフルは愛人でもいいッスよ」


 それに、めんどくさいヤツなら横に座っている。

 フルフルは宗一郎と無理矢理腕を組み、大きな胸を押しつけた。


 それを見ていた冒険者は「おお……」と声を上げ、羨望の眼差しを向ける。


 むろん、宗一郎の鉄拳が悪魔に振り下ろされた。


「うおお。……そろそろ頭が割れて生まれそう」


 ――エイリアンか、お前は!!


「お姉様」

「なんだ、クリネ?」


 椅子にきちんと座ったクリネが、足をパタパタさせながら尋ねた。


「よろしいのでしょうか? 私たちの目的は魔王城の偵察です。……聞いてしまったとはいえ、あまり道草を食うのはどうかと?」

「もっともな意見だがな、クリネ。大事の前の小事というだろう。ライーマードは自治区とはいえ、その市民は広義でいえば帝国国民だ。民草が困っているのに、守る側の皇族がそれを見過ごしてはいけない」

「そッスよ、クリネ殿下! 民が困ってるんス! ……それに、ドラゴン退治なんてwktkイベント、絶対外せないッスよ!」

「お前はどっちかというと後者が大事なのだろう」

「あったり前じゃないッスか。……だって、フルフルはゲーマーっスよ」


 ――お前は悪魔だろ……。


 宗一郎が溜息を吐くと、先ほどの眼鏡エルフが登壇した。

 口元には、まだ拡声の魔法が展開されている。


「みなさん、当説明会に参加いただきありがとうございます。ライーマードのギルドの副長のマフイラと申します。司会進行と説明をさせていただきます。よろしくお願いします」


 マフイラは頭を下げた。

 帝都でもエルフは見かけることは多かったが、宗一郎が知るエルフはマルルガントのマフィだけだ。

 まともに会話するマフイラを見て、少し感慨深い気持ちになった。


「では、まずはじめに当ギルドの長官の方から挨拶を――」


 宗一郎は「おいおい」と思った。


 こんなにも冒険者が殺気だった中で、長官の長い挨拶なんて聞かせるつもりらしい(長いかどうかわからないが)。


 きっと「引っ込め!」とか「お呼びじゃねぇんだよ!」とかヤジが飛んでくるはずだ。


「――と思いましたが、やめます。きっとあなた方から『引っ込め!』とか『お呼びじゃねぇんだよ!』とか『尻穴に牛乳瓶ツッコむぞ!』とヤジが飛んでくるでしょうか」


 ――エスパーか! ……そして最後のはなんだ!


 やめるなら、最初から挨拶なんて言う必要もなかったのではないか。

 ここで宗一郎は1つの推測に至る。

 実は、エルフは変わり者ばかりなのではないか、と……。


 あまり考えたくないことだったので、一瞬でその推測は振り払う。次会うエルフがまともである事を祈った。


 登壇したマフイラのノリについていけないのは、宗一郎だけではないらしい。


 冒険者も呆気にとられながら、静かに司会者の言葉に耳を傾けた。


「では、説明会を始めさせてもらいます。まず軽く経緯の方――」


 発端は、2ヶ月前のことだ。

 チマヌ山脈を切り裂くようにしてあるファイゴ渓谷。その谷を縫うようにしてある帝国と、ウルリアノ王国を結ぶ街道の外れに、洞穴が発見された。


 そこはモンスターの巣になっており、度々街道に出てきては、行商人や冒険者を襲った。


 そこでライーマード自治区は、ギルドに依頼し、モンスターの排除と洞窟の封鎖を要請。たちまちモンスターは駆逐されたものの、洞窟の最奥で1匹のドラゴンが確認された。


 ドラゴンの排除を行おうとした冒険者だったが、あえなく返り討ちにあった。

 それから6度に渡って、ドラゴン討伐の遠征隊を組んだが、結局倒せず、洞窟の封印も出来ていない状況なのだという。


「ここからが本題ですが、今回の《クエスト》……。あなた方全員に挑んでもらいます」


「?????????????????????????」


 少し言っている意味がわからなかった。

 何しろ、ここにいる全員はそのためにいるからだ。


 マフイラはキラリと眼鏡を光らせる。


「ピンときてない様子なので、言い直しましょう」


 つまり――!


「ここにいる400人すべてを1つのパーティーと見なし、ドラゴンを討伐してもらいます」

「な――」


 “なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!”


 冒険者全員の声が、狭い会場を突き抜けていった。




 ギルド側の耳を疑う提案に、1人の冒険者が立ち上がる。


 大盾を持った重戦士だ。


「ちょっと待て! だったら、報酬はどうなる!」

「皆さんに山分けということになります。おそらく、1人当たり10万ゴルドガ(1ゴルドガ=10円)ぐらいの収入になるとお考え下さい」

「ドラゴンを倒した際にもらえるゴールドの分け前はどうなるんだ?」

「ギルドが適性価格で査定し、買い取らせていただき、皆様に分配させてもらいます」

「パーティーの指揮権は誰に?」

「それは皆さんにこれから話し合って決めて――」

「誰がやるんだよ。こんなの軍隊じゃん」

「ドラゴン以外のモンスターのゴールドの扱いどうなるんだ?」

「てんでバラバラ。これなら単独で挑んだ方がマシだって」

「賛成! 困ってる商人はいくらでもいんじゃんよ。そこから個人依頼に切り替えてもらえれば……」


 冒険者が口々に喋り、会場は騒然となる。

 主催者であるギルド側が「静粛に」と注意喚起するものの、一向に収まる気配はない。終いには立ち上がり、会場を後にするものが現れはじめた。


「じゃあ――!!」


マフイラは声を上げた。

 魔法であるにかかわらず、拡大された声は、マイクのハウリングのように鋭い音を立てて会場に響く。


 出て行こうとしていたものも足を止め、振り返った。


 しんと静まる中、マフイラはにこやかに笑った。


「やめましょう……」


 冒険者全員が閉口した。


「各々のパーティーで対処していただいて構いません。もちろん、ソロプレーもありです。もし打ち倒していただけるなら、4000万ゴルドガをその方、もしくはその方たちにお支払いいたしましょう。ギルドに依頼されてきているのは、ドラゴンの討伐です。400人のパーティーを組むというのも、ギルド側が提案しているだけですから」

「だったら、それでいいじゃねぇか……」


 声を上げたのは、最初に質問した重戦士だ。

 パーティーに向かって「行こうぜ」と促すと、数人の冒険者が立ち上がる。



「ギルド側がそう提案してきているということは、それだけドラゴンが手強いということか?」



 皆の視線が一点に向かう。

 変わった格好をした男だった。


 宗一郎だ。


「は! 何を今さら! オレたちはこれでもドラゴン種を何度も――」

「第六次に投入したドラゴン討伐隊は、約200人でした」


 マフイラは、ずれた眼鏡を直した。


 200人! と冒険者の間に動揺が走る。


「それでも、ドラゴンは倒せなかった。……そこの方、お名前は?」

「杉井宗一郎だ。……宗一郎でいい」

「宗一郎様。先ほどの質問にお答えしましょう。ドラゴンは決して手強くありません」

「…………」


 宗一郎は何も言わない。ただ眉間に皺を寄せた。


「何故なら、200人の精鋭冒険者のうち、《体力》が「0」になり、教会で復活したのは10%程度でした」

「残りの90%はどうしたんだ?」


 職員の言葉に呆然としながら、重戦士は尋ねた。


「逃げ帰ってきたんですよ。おめおめと、ね……」


 場内に戦慄が走る。


「な、何ビビってんだよ、お前ら! 第6次の連中が臆病風に吹かれて帰ってきたってことだろ?」

「単純なヤツは気楽でいいな」

「なんだと!」


 笑った宗一郎の方を向いて、重戦士は歯を剥き出した。


「わからんのか? ……つまり、200人の冒険者が剣も折れ、《魔力》がなくなるまで攻撃を加えても、ドラゴンは倒せなかった(ヽヽヽヽヽヽ)――そういう事だろ? 副長殿」

「ご理解が早く助かります」


 マフイラは眼鏡のレンズを光らせた。


「つまり、ドラゴンの攻撃力はさほどのものでもない。……問題はでたらめに《体力》があるということだろう」

「ちなみに概算ですが、第6次討伐で加えた攻撃ポイントは『232万8350』ポイントでした。――しかしながら、ドラゴンを倒すまでに至らなかった。もし、あなたが個人でこの攻撃ポイントを超えられるというなら、どうぞ会場から出て行って下さい」

「そ、そんなの倒せるわけねぇだろ……」


 重戦士は顔面蒼白になり、すとんと椅子に腰をつけた。


 それでも会場から出て行くものはいた。

 皆、首を振り「そんな化け物、倒せるわけがねぇ」「400人で当たって、10万ゴルドガじゃあな」と声が聞こえる通り、割りに合わないと判断した連中だった。


 だが、そんな連中もマフイラは逃しはしない。


「いいのですか? ここまで来たというのに諦めて……」


 会場を出て行こうとする冒険者の耳がぴくりと動く。


「あなた方がどこから来たのかは存じませんが、4000万ゴルドガという巨額の報酬の噂を聞き、はるばる帝国の最果てまでやってきたのでしょう? その旅費をどうやってペイするつもりですか?」


 冒険者が一斉に振り返る。

 再びマフイラの眼鏡が閃いた。


「取らぬドラゴンの皮算用とでも申しましょうか……。おそらく、ドラゴン退治のために装備を整えてしまったのではないですか? 借金までして」


 何人かの肩がびくりと震える。


「ライーマードの商人はたくましいですよ。殺し屋を雇ってでも、あなた方を地の果てまで追いかけるでしょう。死体もねぇ。しかるべき場所では割と高値で売れるんですよ。人が簡単に復活するようなこの世界では、珍しいものですから。その手の好事家は少なくありません」


 皆の顔がみるみる青くなっていく。


「さあ、どうしますか? 今ならまだ……間に合いますよ」


 マフイラはそこで初めて笑みを浮かべる。


 それは体の良い――脅しだった。


別にマフイラだけじゃなくて、割と宗一郎の周りは変な人が多いと思いますけどね。


明日も18時です。


※ カクヨム様にて投稿しています。

  「俺のラノベは魔導書じゃない!」の2話目を投稿しました。

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