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プロローグ ~ 最強を倒す準備は出来ているか? ~ (4)

本日、最後の投稿になります。

 宗一郎は腕を広げた。


「理想? 理念? 恒久平和? 第三勢力? 権力闘争? 利権? 家族? はっ! 実につまらん理由だ。……人が『不可能』と謳うことを達成すること以上に、甘美なものがあるなら教えてくれ」

「…………ッ」


 魔術師は呆然としていた。

 今にも顎の筋肉が緩み、だらしなく口を開けてしまいそうになるほど、呆気にとられている。


 すでに勝利したかのように笑みを浮かべる主人を見て、フルフルはサイドテールを揺らして肩をすくめた。


「ご主人って人間の中では相当変わってるスけど、ホントに実現してしまうのが恐ろしいスよね。そもそも因果の操作なんて、悪魔も出来ない中二能力も、その発想がなせる技術だし」

「うるさい、フルフル……。中二能力というな。因果操作はオレが自ら考案し、作成したオリジナルだ」


 宗一郎は魔術師に向き直る。

 ひえ、と小さく悲鳴を上げると、炎の化身状態を解除して、尻餅をついた。


「ちょちょ、ちょっと待てよ。あ、あんたのでたらめさはよくわかったよ。な! 最強はあんたのもんだ。今までのことは水に流してくれ」

「今さら、命乞いか……」

「わあわあ! 待て待て! 落ち着けって! ……なあ? こういうのはどうだ? 俺とあんたが手を組むんだ。あんた、あれだろ? 世界を支配したい系なんだろ? 俺の実力は見たはずだ。後ろにいるムッチリねぇちゃんよりも、使えるぜぇ」

「かもな」

「こらぁ! ご主人! フルフルがいくら心広い系の悪魔といえど、さすがに今の発言は見過ごせないッスよぉ」

「お前はいつから心が広くなったのだ。冗談だ。……お前を下僕にしてこき使うぶんにはかまわんと思っているが、残念ながらパートナーにするつもりはない」

「ご主人……」


 悪魔は目を潤ませる。


「ああ、見えて割と使えるのではな、あの悪魔は」

「割とってなんスか? 一言余計ッス」

「ああ、そういうことね」


 魔術師はポンと手を打つ。すると、下品な笑みを漏らした。


「ああいうのが好みなら、いくらでも探してやるさ。……黒人、白人、イエローも、あんたと同じジャップだって用意する。そういう趣味があるなら、ガキだって連れてきてやるよ。……そりゃあ、よりどりみどりさ。――実は、俺もさ。この組織に入ったのはそれが目当てでさ。そりゃあ良いおもいさせてもらったぜぇ、シシシシ……」


 出っ歯を突き出して笑う。


 その光景を、虫けらのように宗一郎は上から睥睨していた。


 空気を察した魔術師は、いけねっていう感じで口を隠す。


「お気に召しませんか?」


 つい敬語で尋ねてしまった。

 宗一郎はゆっくりと首を振り、笑う。


「いや……。お前のような下種野郎と会えて、むしろ喜んでいるぐらいだ」

「なんだ、そうなのか。じゃあ――おでば!!」


 奇妙な声を上げて、魔術師は吹っ飛んだ。

 長い出っ歯が折れ、ひしゃげた鉄板の上を転がると、さらに地下へと落ちていった。


「て、てめぇ! 調子に乗るなよ!」


 啖呵を切る男になおも冷たい眼差しを向ける。


「助かったよ。……お前が、殺してもかまわん側の人間で」


「てめぇええええええええええ!」


 魔術師は叫んだ。


 再び炎の化身へと姿を変える。


「手を出すなよ。フルフル」

「はいはい。言わずともそうするッスよ」


 熾天使は突っ込んでくる。


 炎の手を伸ばし、再び宗一郎を拘束した。


「どうよ! 今度こそ燃え散れ!!」


 雄叫びを上げる。

 火が柱となって天井に突き刺さった。

 宗一郎を取り巻く炎が一層燃え上がる。


 その中でまだ"自称"最強魔術師は、溜息を吐く。


「なかなか熱烈な抱擁だが、ちと飽きてきた」


 ふっ――――ッ!


 蝋燭の火が消えるように、魔術師を包んでいた炎が消滅する。


 歯が欠けた間抜けな面が露わになる。

 その表情は驚愕に歪んでいた。


「驚く事でもあるまい。……お前の魔術体系と術式、真名は暴いているのだ。お前の術式に割り込むなど造作もない。なあ、カスマリムの眷属」

「ひ、ひやああ!」

「魔術体系をオレの因果の中に取り込み、再計算するなど因数分解を解く方がよっぽど難しく思えるぐらいだ」

「待ってくれよ! 命だけは勘弁してくれ!!」


 魔術師は命乞いする。

 宗一郎から手を離し、一歩、二歩と後ずさると、倒れ込むように土下座した。


「立て、魔術師」


 魔術師は顔だけを上げた。

 色眼鏡のレンズが片方だけ欠けて、つぶらな男の瞳が見えていた。


 許してくれるのか?


 そんな身勝手な予測はあっさりと覆る。


 ストールを乱暴に引っ張り上げると、宗一郎は男を持ち上げた。


 すると――。


 パリッ!


 何かが弾けた。

 今度は宗一郎が炎にくるまれる。

 魔法円が宿る魔眼を大きく見開き、魔術師を睨む。


 男は迫り来る炎におののき、何度も手ではたいた。


「どうだ? 自分の炎を目の前にする感想は……。なかなか良いものではないか?己が作り上げたものを、己自身の目で確認するのは――」

「ひぃ……ひや…………びゃああああ!!」


 火を初めて見た猿のように騒ぎ立てる。

 口から唾を巻き散らかし、一心不乱に浸透する炎の波に抗おうとする。

 男の精神はすでに崩れ、理性が飛んでいた。


 眼鏡は溶けてねじれ、ついに原型をなくして消滅する。


 さらけ出された男の瞳は「へ」の字になって歪み、血走っていた。


「1つ冥土の土産やろう」

「ひぃあ…………。は、はあ! ぎゃ、ぎゃあああああ!」


 まともな返事を得られるはずもない。


 宗一郎は一度息を吐き。


「俺は不可能という文字以上に、お前のような下種が嫌いだ」


 と吐き捨てた。


 炎が魔術師を包み込む。


 口から蛇のように入り込んだ炎は、食道をこがし、肺を食い破る。

 もはや悲鳴すら上げることも出来ず、やがてだらりと手を垂らした。


 炎の塊となった魔術師を、ぼろ切れみたいに投げ捨てる。


 人の原型すら留めることが出来ず、ついにはただの黒い肉塊となって朽ちていった。


 宗一郎は目を切ると、翻った。

 シャツの襟を正す。


「さて、フルフル……。これで終わりだな」

「そうッスねぇ、ご主人。これで願い通り、この地球上からは兵器という兵器はなくなりましたよ。コングラチュレーション!!」


 どこから飛び出したのか、クラッカーの紐を引く。

 広い空間に軽く煙が上がり、破裂音が虚しく響き渡る。


 頭にかかった紙テープを鬱陶しげにどけながら、改めて向き直った。


「喜んでいる暇はないぞ。次の計画を実施する」

「えー! ちょっとは休みましょうよ。……ほら、優勝パレードとかしたくないスか? 道頓堀とか飛び込んでみたいじゃないスか!」

「却下だ。悪魔のお前にはなくても、オレには寿命というものがある。1分1秒も無駄にはできん!」

「ああ、もう――! ホントご主人はぁ、意識高いんスから。上司に嫌われますよ」

「それは、オレを御しえる上役がいればの話だ」

「そうッスよねぇ。……ご主人みたいなのって、上司にも部下にもいてほしくないッス」

「そうこうしているうちに、30秒も無駄にしたぞ! さあ、フルフル行くぞ」

「はい! ――ってどちらへ?」


 宗一郎は腰に手を当て、無邪気な悪童のように微笑む。



「むろん、異世界へだ!」




ここまでお読みになっていただきありがとうございます。

プロローグはもう少し続きます。


※明日も、7時、12時、18時の投稿予定です。

 一気に異世界まで行きますよ!

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