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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第2章 最強モンスター編
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第1話 ~ 久しぶりのふ・た・りっ・き・りッスね ~

第2章のはじまりです。

オープニング的なシーンと、少し今までのお話をまとめる感じで書いてみました。

よろしくお願いします。

「とりゃあああああああああああああ!!」


 裂帛の気合いとともに、魔物の群に突進したのはフルフルだった。


 その口元には笑みが浮かんでいる。


「フルフル殿! あまり突出しないで!!」


 豹柄の一角獣の腹に赤い致命判定を刻みながら、ライカは叫んだ。


「お姉様も行って下さい! クリネが援護します」

「頼んだ!」


 姫騎士もフルフルの後を追った。


 クリネが呪唱する。


 【三級風系魔法】オイフ・ズレパンティ!


 可愛らしい花蕾の杖から、獰猛な風の鎌が飛び出す。

 姉とフルフルの頭上を飛んでいくと、待ち構えるモンスターたちの中心部に炸裂した。


 1本の風の鎌は、さらに複数の刃へと分裂。

 広がると、全体にダメージを与える。

 赤いダメージ判定が、モンスターの身体を切り刻んだ。


 致命傷までに至らない。

 せいぜい半分……。

 モンスターは体勢を立て直し、クリネに向かって襲いかかる。


 が――。


「行くっスよ」


 【戦士スキル】両手持ち! 乱れ切り!


 複数のモンスターに斬りかかるスキルを発動。

 大半がこれによって絶命する。


 さらに――。


「くらえ!」


 【姫騎士スキル】華裂剣撃!


 細剣による突きが、華のように乱れ()いた。

 一定範囲内のモンスターにダメージ判定を当てる技だ。


 効果範囲はフルフルのスキルよりも狭いが、致命ボーナスが付くため、体力を残していたモンスターも死に至らしめる効果がある。


 14、5体いたモンスターが、わずか一合の間に全滅してしまった。

 相手のレベルは決して低くない。

 70~80といったところ。並の冒険者なら歯が立たないだろう。


 しかし3人は見事な連携によって、ほぼ無傷で勝利した。


「なんとか片付いたッスね」


 フルフルは額の汗を拭う。

 その横で、ライカも細剣を鞘にしまった。


「さすがに、私でも一撃では倒すのが難しくなってきたな」

「クリネちゃんさまさまッスね。クリネちゃん、大丈夫でちゅかぁ!」


 フルフルは幼女に抱きつこうとするが、すげなくかわされた。


「子供扱いしないで下さい。クリネは、フルフル様よりレベルが高いんですよ」


 プンプンと頬を膨らませながら、魔法の杖をいずこかへと収容した。

 消したり出したり出来る便利な杖らしく、魔性補正も高い。まるで魔法少女の杖みたいだった。

 ちなみに、こちらも貴族の方から貢――……いただいたものだという。


「それよりもお姉様。……宗一郎様の援護を――」


 ライカはやや苦笑を浮かべて、ゆっくりと首を振った。


「あの方には必要ないよ」


 クリネが振り返る。


 そこにあったのは、50体近いモンスターの死体。

 四肢や首が切られ、壊され、はたまた焼き尽くされた無残な遺体が、草原に倒れていた。


「ひっ――」


 クリネは思わず息を飲む。


 普通、モンスターは“倒す”と消滅してしまう。

 しかし“殺す”となると、経験値も生体鉱石ももらえず、ただの肉塊が残ることになる。


 この死体の数々は、もちろん後者を選択した結果によるものだ。


 ゆらりと影が揺らめく。


 スーツ姿の男が、袖を正した。


 ライカ達に振り返ると、ポケットに手を入れ近づいてきた。


「お疲れ様ッス! ご主人!」


 フルフルは少しふざけるように敬礼した。


「お、お怪我はありませんか?」


 クリネはまだ震えている。


「心配ない。だいぶ戦闘になれてきたからな。力押しではオレには勝てんよ」


 余裕の言葉を聞いて、ライカは息を吐く。


「さすがは勇者殿だ。……今度、手合わせを願おう」

「それはいいが。手加減はせんぞ」


 ニヤリと笑う。


 本気と取ったのだろう。

 クリネは姉をかばうように手を広げた。


「ダメです! お姉様を傷つけるのは反対です」

「心配するな、クリネ。冗談だ」


 フッと宗一郎の顔が綻ぶと、ライカとフルフルも声を出して笑った。


 クリネだけが「え? え?」と戸惑っている。

 赤面し、顔を俯けた。


「ひ、ひどいです。みなさま……」

「ごめんごめん。みんな、クリネが可愛いから、からかいたくなるのだ」

「だったらもう少し優しくしてください」


 すると宗一郎はクリネの頭に手を置く。


「クリネ。……お前には助けられているな。ありがとう」


 勇者からの労いの言葉に、クリネの顔がさらに赤くなる。

 そして出会った時と同じように、姉の後ろに隠れた。


「ムフフ……。相変わらずご主人は罪作りな男ッスね」

「なんのことだ?」

「なんでもないッスよ。……ハーレムへの道、まっしぐらッスからね」


 ぷぷぷ……と笑った。


「さあ、陽が暮れる前に次の町へ行こう」


 ライカが号令を掛けると、再びパーティーは歩き始めた。






 帝都ハーシュから歩き続けて、10日目。


 宗一郎たちは宿場町を訪れていた。

 かなり小さな町というよりは村で、数件の宿と民家ぐらいしかない。

 道具屋はあるが、品揃えは壊滅的で、主婦が家事の片手間にやってるような状況だった。


 とりあえず食糧などを買い込み、別々の宿にはなったが2部屋を確保した。


 一方の宿には、ライカとクリネ。もう一方には、宗一郎とフルフルである。


「ご主人……。久しぶりのふ・た・りっ・き・りッスね」


 予想通り勘違いした悪魔は顔を近づけてくる。

 宗一郎は蠅でも叩くかのように、顔面にチョップを食らわせた。


「ふご! 乙女の鼻面を叩くなんて! 親にも殴られたことないのに」

「黙れ! それにそのネタはもうやっただろ」

「珍しい。ご主人が的確なツッコミを」


 これだけ下僕がボケだと、ツッコみも自然と鍛えられるというものだ。


「それより話を聞け」

「なんスか? 愛の告白ッスか? もしかして結婚……。別にそんなことをしなくても、フルフルはお股を広げてお待ちしてるッスよ。早くフルフルに熱い白濁としたスペルマをそそ――」

「子守唄に賛美歌でも聞かせてやろうか? ビッチ悪魔……」

「うげえぇええええ! それだけは勘弁ッス」


 フルフルは慌てて耳を塞いだ。


 ようやく大人しくなったところで、話を始めた。


「ライカがいないのはいい機会だ。……オレが帝都の図書館に通って、掴んだ情報をお前と共有しておきたい」

「ほうほう……。それで――」

「まあ、大方の予想通りといったところだ。……が、今後何かの参考にはなるだろう」


 情報を整理するにも、良い機会だと宗一郎は考えていた。

 宿の経営をしながら、図書館で勉強していたため、1ヶ月間落ち着く暇がなかったのだ。




 ――まずレベルやステータスについてだ。


 結論として、これらの概念がオーバリアントで生まれる可能性は非常に少ない。

 そもそも現代世界においても、コンピューターRPGが爆発的に社会に浸透したことにより、キャラクターが経験値を得て、強くなる――または強さが数値化されるといった概念が生まれた。比較的、現代でも最近なのだ。


 オーバリアントで行われているゲームは、ひどく原始的なものが多い。

 トランプ、オセロ、チェス、バックギャモン――これらと似たようなルールで行われるものばかりだ。他にもオーバリアントには、様々なゲームや賭け事などがあったが、レベルやステータスの温床となるものは存在しなかった。


 またオーバリアントには大まかに54の公用語が存在するが、そのどれにおいても、元となる言語もなかった。


 つまり、レベルやステータスはオーバリアントとは別の世界から持ち込まれたものであると、ほぼ確定していいだろう。


 ――そしてこの世界で使われる魔法や、オレ達にもかかっている呪いのことだ。


 これも結論からいうと、外部から持ち込まれたものだ。

 オーバリアントで生まれたものではない。


 この世界にも昔から「魔法」というものがあった。

 だが、習得が難しく、また技術的にエルフが独占をしていたため、あまり浸透せず、60年前にプリシラが顕現したことにより加速度的に使い手がいなくなっていった。


 今ではオーバリアント固有の魔法を使えるのは一部のエルフだけだ。


 一応、習得を試みてはみたが、一朝一夕というわけにはいかない。おそらく数十年という単位での修練と、身体の構築が必要になるだろう。

 人間よりも長大な寿命を持つエルフが、主流となっているのも頷ける話だ。


 ちなみに言っておくと「フェルフェールの瞳」でコピーするのも無理だ。


 例え使用できても、おそらく魔法の負荷に身体がついてこない。

 それに効果もあまり期待出来ない。圧倒的に魔術が上だ。一部の魔法においては、魔術よりも特異な能力を示すが、全体的に未開発の技術だろう。


 むろん、世界をゲーム化するなんてことは、おそらく出来ない。

 断言していい。


 ――で、この呪いを解呪できるか否かだが……。


 残念だが、やはり術者を見つける以外に方法はないと言わざる得ない。


 いくつか知っている術式もあるが、多くがオレの頭にないものだ。

 現代に帰って、師匠の書庫でも漁れば出てくるかもしれないが、現状それは出来ないからな。




「ほへ……? どういうことッスか?」 


 最後の一言に、フルフルは反応した。


「なんだお前、気付いてないのか? なら、一度現代に帰ってみろ」

「ああ……。はいはい」


 フルフルは目をつむり、集中した。


 …………。


「はれ?」


 目を開けて、首を傾げる。


 再度、きつく目をつむり、集中する。

 顔を真っ赤にして、現代への転移を試みたが、結局不発に終わった。


「戻れないッス!」

「クローセルも似たようなことを言っていた」

「クロたんもッスか?」


 宗一郎は神妙に頷く。


「オレがパズズなどの力の一部を借り受ける分には問題ないが、この世界に召喚してしまうと、戻れなくなるらしい」

「ええええええ!! そ、そんな! もうすぐ新作のゲームが発売されるのに、どうしたらいいんスか!」

「……諦めろ」


 冷淡に言い放つ。

 フルフルはテーブルに顔を埋めて、むせび泣いた。


「心配するな。オレも似たような状況だ」

「ご主人なんてどうでもいいッスよ。……ゲームを返して下さい、うぇーん」

「お前……。 オレが主だってわかっているのか……」

「まあ、でも……。今はテレビゲームよりも面白い世界にいるからいいッスけどね」


 ひょこりと顔を上げて、立ち直る。


 フルフルのこういうところが羨ましく思う。


「やっぱり呪いの影響ッスか?」

「ああ。何度か転移を試してみたが、強制的に発動を解除されるようになってる。オレが組んだ術式をスペルキラーするなんて、早々出来ないはずなんだがな」


 異世界にいる魔法士というならまだ納得できる。が、それを成し遂げているのが、自分と同じ現代世界の呪術師というのだから腹が立つ。


「つまりオレ達は、否応でもレベルという力を与えた女神に会わなければならなくなったということだ」

「つまり、この世界でリアルゲームに参加する大義名分が出来たというわけッスね。ひゃほおおおおおおおおい!!」


 フルフルは万歳三唱して喜ぶ。


 すると隣の部屋から「うるさい!」と苦情が来た。


 時間はすでに夜中の1時を回ろうとしている。


「そろそろ寝るか。他にも色々とあるが、おいおい説明してやる」

「じゃあ……。あなた、今日は上になる。それとも私が下……?」



 1分後……。



「さむ! 寒いッスよ! ご主人! 外、寒いッス!」


 布団で簀巻きにされたフルフルが、窓の外につり下げられていた。


「お前は、そこで寝ろ!」

「なんなんスか、この状況! まるで美女にもっこりしようとした凄腕始末屋みたいになってるじゃないスか!」

「黙れ!」

「じょ、冗談ッスよ。寝込みなんて襲わないッスから。側でずっと視姦するだけならいいでしょ」

「…………」


 パシャリ……。


 宗一郎は窓を閉める。


 フルフルのくぐもった声がかすかに聞こえたが、耳栓をするとそのままベッドに横になった。


「ご主人……! カム・バアアアアアアアアアアアアアアアク!!」


 異世界の小さな宿場町で、少女の絶叫が響き渡るのであった。


神〇明さんの声が聞こえる(幻聴)


明日も18時に投稿します。

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