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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝 ~ それぞれの1ヶ月 ~
38/330

外伝 ~ イセカイでオシオキカイ ~ 後編

外伝ラストです。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

 一方、宗一郎は例の用心棒と対峙していた。


「雇い主がピンチなのに助けにいかなくていいのか?」


 余裕の笑みを浮かべながら、尋ねる。


 しかし男は構えも、殺意も解こうとはしない。


「お構いなしか……。よっぽどオレに倒されたのが、気に入らなかったのか?」

「アド ドギハ ユダン ジデダ」


 初めて用心棒は口を開く。ひどいだみ声。自ら潰したのかもしれない。

 オーバリアントの暗殺者のある一族は、一人前になると自ら喉を潰すと本で読んだことがある。万が一捕まって、雇い主の情報が漏れないようにするためだ。


「油断ね。なら、今度はするなよ」


 言われるまでもない!

 気迫とともに、用心棒は地面を蹴った。


「魔王パズズよ。偉大なる王の風よ。オレの足に刻印をうがて!」


 風の王の力を両足に宿らせる。

 持ってきた剣を引き抜いた。


 2人の中間地点で、火花が閃く。


 場所が交錯する。


 お互いに背を向けた状態から翻る。


 わずかに用心棒が笑ったような気がした。

 その腹から血が漏れている。


 しかし用心棒は黒装束の向こうにある落ちくぼんだ目で、宗一郎を見据えた。


 正確には、敵の頬に刻まれた一筋の血の線だ。


 宗一郎は傷に手を当て、付いた血を見つめた。


「こんな傷を付けただけで嬉しいのか?」

「――――!!」


 笑みを貼り付けたまま、宗一郎は再び駆け出す。


 慌てて用心棒はかぎ爪を構えた。

 だが、遅い。


 一瞬にして背後に回ると、剣で貫いた。


 胸から飛び出した剣先を見ながら、用心棒は大量の血を吐き出す。

 並の人間なら、その時点でショック死であっただろうが、信じがたい精神力で用心棒は首を後ろに回した。


「ナデ……?」

「何故、お前の毒が効かなかったのか――か?」


 用心棒は頷くことも、肯定の言葉も吐くことも出来なかった。

 しかし、その目は回答を望んでいた。


 用心棒のかぎ爪の先には、大型の猛獣すら一瞬で殺すことが出来る毒が仕込まれていた。なのに、何故宗一郎は無事なのか……と。


 それは宗一郎が現代最強魔術師であるということが、1番の的確な答えなのだが、用心棒の黄泉路の手向けとして説明をした。


「魔術師の体内とは、正確には人間のそれとは違う。別種といってもいい。……特にオレは、生来の魔術師でなかったため、魔術を使える身体ではなかった。そのために作り替えることからはじめた。たとえば、砒素や水銀などの毒を致死量ギリギリまで飲むといったことだ」


 用心棒の目が大きく見開かれた。


「他にも有毒は寄生虫を体内で飼ったり、ある時は脳の容量が10%まで収縮するほどの麻薬を浴びたり、それはそれは地獄のような苦しみを味わう。……我ながら生きているのが不思議なほどだったよ。実際、同じようなことをして死んだヤツはごまんといる」


 聞くだけ痛みを伴うような話を、宗一郎は半ば狂いながら笑みを浮かべた。


「だが、不可能を可能にする手段というのは、時として人間の死の寸前にあるものだ。つまり、まあ……死ぬ気でやれば、どんな苦難も乗り越えられるということだ」


 宗一郎は気付く。


 すでに用心棒は絶命していた。


 剣をゆっくりと引き抜く。

 用心棒の遺体は何も抗せず、背中から倒れた。

 血が硬い岩肌に広がっていく。


 宗一郎は血に濡れた剣を振り、そして鞘に収めた。


「さらばだ。用心棒……。異世界に来て、初めての命のやりとり。なかなか楽しませてもらった」


 ある意味、それは用心棒に向ける最大の賛辞だったかもしれない。


 踵を返し、宗一郎は終結した港の方へと歩みを進めた。



 ちょうど“バリアン”が、水平線から顔を出し始めていた。






 いよいよ帝都出立の時が来た。


 皇帝への挨拶も終え、イメを引き、東の門へと向かう。

 その道すがら、見知った人間に出くわした。


 カカとヤーヤである。

 傍にはクローセルもいた。


「お前たち、どうしてこんなところに?」


 宗一郎は珍しく驚いていた。


「クローセル。お前には宿の守りを任せたはずだぞ」

「も、申し訳ありません。我が主」


 クローセルは顔を青くし、傅いた。


「クロちゃんをいじめないで」

「く、クロちゃん?」


 ヤーヤはクローセルをかばうように立ちはだかる。

 どうやらすっかり打ち解けたらしい。


「そうだよ、宗一郎の兄ちゃん。クロちゃんは俺たちをここまで送ってくれたんだ。父ちゃんと母ちゃんのいい(ヽヽ)って言った」

「それならいいが……。お前達、何しにこんなところまで」


 宿があるのは西門だ。今、この場所はちょうど反対側に当たる。


「兄ちゃんたちを待ってたんだよ」

「オレたちを?」


 すると兄妹は顔を見合わせ「せーの」と合図した。


「「じゃーん」」


 2人の手の平から現れたのは、大きなくるみのよう木の実だった。

 合わせて7個ある。


「なんだ、これは?」


 訝しげに見つめる宗一郎の横で、ライカが声を上げた。


「それはティコの実ではないですか?」


 ん?

 それって、長靴一杯食べたいぐらい不味い実のことか?


 と思ったが、どうやら違うらしい。


「食べると《体力》が1ポイント上がる実ですよ、勇者殿」


 そう言えば、そんな木の実あると図書館で読んだことがある。


「兄ちゃん……。レベルを上げないで、旅をするんだろ? だったら、この実を食べなよ。ちょっとでも《体力》は上げておいた方がいいだろ?」

「オレはそんなドーピングみたいなことは……」

「いいじゃないッスか、ご主人……。折角、ショタとロリが捕ってきてくれたんですよ」


 ――お前はいちいちネタを挟まなければ喋れないのか!


「なら、お前が食べればいい」

「宗一郎殿……。子供の好意を無下にするのは如何なものかと思いますよ」


 ライカにまで忠告される。

 もちろん、宗一郎もわかっているのだ。が、気持ちの問題だ。


 確かにレベルは上げないといったが、ステータス上昇のアイテムを使わないとは宣誓していない。


 だが、意識の高い現代最強魔術師は、どうしてもこれが「ズル」に思えてしまってならない。


「ティコの実はある樹木に低確率でなる木の実なのです。この2人も相当苦労して、捕ってきたのでしょう」


 確かに……。

 見れば、2人の手は泥や切り傷だらけになっていた。


「わかった。……ありがたくいただこう」


 半ば溜息まじりで、宗一郎はとうとう降参して、受け取った。


 やった! という感じで、兄妹は顔を見合わせる。


 早速、口の中に入れてみた。


「まっず!!」


 思わず吐き出しそうになって、慌てて口を塞いだ。


 昔、中国で一葉茶という苦いお茶を飲んだことがあるのだが、これはその茶葉を直接噛んだような味だ。とにかく苦い!!


 カカとヤーヤが大口を開けて笑っている。

 どうやら2人の目的は、これにあったらしい。


 だが――。


 ピロン! とSEが頭の中で響いた。


 ステータスを見ると、「14」だった《体力》が「15」に変わっていた。


「おお!」


 思わず歓声を上げる。


「さ。どうぞ。……あと6つありますぞ、宗一郎殿」

「な、なんか罰ゲームみたいに思えてきたのだが」

「だから、好意ッスよ! 好意!」

「むむむ……」


 残りのティコの実を凝視する。

 すると、一気に言った。



      「 まっっっっっっっずぅぅ!!! 」



 これが漫画なら、見開き一杯叫んでいたことだろう。


 涙目になりながら、それでも宗一郎は喉に詰まらない程度には咀嚼し、飲み込んだ。

 ライカが水筒を差し出すと、乱暴にひったくる。

 ごきゅごきゅと音を鳴らし、貴重な水を飲み干してしまった。


「ぷはあああああああああああああ! まずいぃいいい!」

「もう一杯ッスか?」

「いらんわ!」


 喉元を通り過ぎたが、あの味が口内に残っている。

 おそらく3日間は、どんなものを食べてティコの実の味がするだろう。

 そう思うと、突然胃が痛くなった。


 甲斐あって、《体力》は「21」になった。


 レベルが一桁違うだけで、ワンパンで瞬殺される程度の数値だが、気休めぐらいにはなるだろう。


「カカ……。ヤーヤ……」

「うん」

「なに? お兄ちゃん」


「ありがとな」


 小さな頭を撫でる。

 2人はくすぐったそうに笑った。


「そうだ。父ちゃんから預かってきた。路銀の足しにしてくれって」


 カカは腰布から路銀袋を取り出す。

 重さからして、かなりの量だった。


 一旦袋を受け取った宗一郎だったが、その中から数枚、硬貨を取り出す。残りはそのままカカに返した。


「え? それだけでいいの?」

「言っただろ? 金は返してもらうと」

「あ……」


 カカは思い出した。

 両親を生き返らせてもらったお金を、まだ返していなかったのだ。


「後の金はお前が好きに使え」

「でも――」

「なんでもいい。妹のために使うもよし、両親のために使うもよし、自分の将来のために使うもよし。お前が選ぶがいい。……金を何のために使うのがいいのか。お前はこの1ヶ月間で学んだはずだ」


 もう一度、カカを撫でる。


「では、オレ達は行く」


 宗一郎は翻った。


「兄ちゃん!」

「いい宿屋の店主になれ。……オレが作った宿を超えるぐらい、皆が幸せになるような宿屋を作れ。お前が、それを達成する時には、この世界をもう少しマシにしておいてやる」


 去って行く宗一郎の後ろ姿を見ながら、カカは言い様のない感情がこみ上げ、目頭が熱くなった。

 自然と涙が出て、何度払っても止まらない。


 寂しいのもある。

 悲しいのもある。


 でも、何か違う。


 カッコいいのだ……。

 カッコ良すぎて、感動して、涙が出てる。


 あの横にいつか並んで歩いてみたい。

 けど、自分はまだちっぽけで、そのレベルにはない。

 それを自覚して、悔しくもある。


 だから……いつか…………いつか――――!


 あの人みたいになる。

 胸を張って、宗一郎の横に立てる人物になるのだ――と。



「そういちろおおおおおおおおおおおおおお!!」



 今出せるありったけの声で、カカは叫んだ。


「また会おうねぇええええええええええええ!!!!」


 カカは、ヤーヤとともに大きく手を振った。


 宗一郎は振り返らなかった。


 ただ片手を挙げ、子供の声に応えていた。


ここまでお付き合いいただき誠にありがとうございます。


思ったよりも長く外伝が続きましたが、

少しでもオーバリアントの空気に触れていただきたく、

書かせていただきました。いかがだったでしょうか?


明日からは本編に戻ります。

題して「最強モンスター編」です。

さて、どんな最強モンスターが出てくるのか。

そして主人公がどう無双するのか。

皇帝から出された宿題は? 主人公とライカの関係は? クリネは活躍するの?

などなど、盛りだくさんな展開になっております。


どうぞお楽しみ下さい。


明日は18時からになります。

よろしくお願いします。


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