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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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最終回 ~ 私たちの勇者 ~

最終回です。

 その日のマキシア帝国の天気は快晴だった。

 月並みだが、雲1つなく、胸の空く青空がどこまでも広がっている。

 太陽(バリアン)は高く上り、代わらずオーバリアントに光を与え、新緑が輝き、風が大地を撫でていた。


 平和だ。


 かつてオーバリアントは未曾有の危機にあった。

 世界大戦が起こり、各地で武力衝突が起こった。

 しかし、マキシア帝国、ウルリアノ王国、ローレスト三国の尽力によって、戦争は短期に終結。

 後に、上記六ヶ国の呼びかけで、世界国家機構を設立され、エジニア王国と中立地帯を除く、64の国が参加することとなった。


 初代総裁には、マキシア帝国皇帝ライカ・グランデール・マキシアが就任。

 父の意志を受け継ぎ、モンスターも、争いも、そして人種・種族の垣根を越えて、オーバリアントの次の発展に尽力することを誓った。


 そして、2年……。


 ライカの姿は、執務室にあった。

 側には、ブラーデルが立ち、美しい指先から描かれるサインを待っている。


「しかし、エジニアも頑固ですな」


「彼の国とサリスト王国は、モンスターが生まれる前から争ってきた。そうそう溝は埋まらないだろう。だが、いつか……。わかってくれる日が来る」


「そうですな。ところで、陛下。今日の定例会議にて、『オーバリアントの次の発展』とありましたが……。あの言葉の真意をお聞かせください」


「言葉通りの意味だ、ブラーデル。オーバリアントは次の段階に来ている」


「それは?」


「この平和をどう維持するかだ」


「具体的な方策はあるのですかな」


 ライカの美しい金髪が横に揺れる。

 しかし、マキシアの女帝の言葉に、些かの迷いもなかった。


「我々は、学ばなければならない。如何に平和を維持していくか」


「ならば優秀な教師が必要ですな」


「目星はついている。来月にでも会いに行くつもりだ」


「ほう……。それは楽しみですな。ところで陛下、折り入ってご相談したいことがあるのですが……」


 ブラーデル・ハル・ピュースは、この時に引退を申し出て、後進に未来を託す。

 享年82歳。最後は、家族とライカに看取られ逝く。


 ゼネクロ・ベゼル・マリリガ。

 ブラーデルの引退後、ライカを支え、世界国家機構の各国のまとめ役として尽力。

 その後、15年に渡って、要職に就き、引退の2年後、息を引き取る。



 ◆◇◆◇◆



 1ヶ月後――。


 ライカの姿は、王都近郊の墓地にあった。

 1つの墓に腰を下ろし、祈りを捧げている。

 墓標には「帝国の黒豹(アヴクリア・バルス)、ここに眠る」と刻まれていた。


 瞼を持ち上げる。

 顔を上げたライカは、墓標に笑いかけた。


「行ってくる、ロイトロス。私の生き様を草葉の陰からでも見守っていてくれ」


 すっくと立ち上がる。

 金髪を揺らしながら、その場を後にした。


 ロイトロス・バローズは、エジニア王国との交戦の折り、深手を負う。

 一時は回復したものの、戦線復帰間近と思われたが、容態が急変。

 そのまま魂が抜けたように亡くなったという。


 奇しくも、宗一郎がラフィーシャを打ち倒した次の日だった。


 今際の際の言葉「陛下、今からそこに行きます」だったという。



 ◆◇◆◇◆



 ライカの他にも、1人。

 皇族の人間が墓に参っていた。

 クリネ・グランデールだ。


 姉のライカよりも少し濃いブランドの髪。

 パッチリとした緑の瞳は、姉と言うより父カールズにそっくりだった。


 やがてすっくと立ち上がる。

 背が少し伸び、顔つきも大人っぽくなっていた。

 淡い唇には、色気のようなものが漂っている。

 墓標を見ながら、ライカと同じく薄く微笑みかけた。


「行って来ますね、ジーバルド様」


 すると、一陣の風が舞う。

 鍔の広い帽子がふわりと浮き上がり、青い空へと渡り鳥のように消えていった。

 髪がくしゃくしゃになる。

 まるで、ジーバルドに撫でられているようだった。


「ぐす……」


 1つ鼻を啜る。

 泣きそうになるのをこらえ、クリネもまた歩き出した。


 クリネ・グランデール。

 ゼネクロと同じくライカを支え、主に外交面で活躍。

 折衝役として、各国を飛び回る。

 生涯未婚を貫くが、3人の養子をもらい、立派に育て上げる。

 享年90歳。



 ◆◇◆◇◆



 ライカの目の前には、1機の装置があった。

 忌々しい天空城から唯一回収した魔導装置だ。


「これで本当に異世界に渡ることが出来るのですか、お姉様」


「ああ。すでに実験は成功している」


「そうそう。大丈夫だよ、クリネちゃん」


 横からぴょんと顔を出したのは、ローレス王国の王女ローランだった。

 白く長かった髪をばっさりと切り、肩の辺りで切りそろえている。

 そのせいか、今まで子供っぽかったのが、余計に子供っぽく見えるようになってしまった。


 ローランは装置を指差しながら説明する。


「次元トンネル装置は完璧だよ」


 ラフィーシャの遺産。

 次元トンネル装置。


 ライカたちはこれを天空城から回収し、すでに数度使用している。

 この先の世界にいる人間と、交渉を行うためだ。

 それを主に担っていたが、ローランだった。


「……………………!」


「『起動するわよ』っと司書長様はおっしゃっておりますが、よろしいですか、陛下?」


 確認したのは、帝都にある大図書館マルルガントの司書長マルフィアミ。

 そして、その部下マリエラだ。


 エルフの魔法に詳しい彼女たちがいなければ、装置を動かすことすら出来なかっただろう。


「ああ。頼む、マルフィ」


 友人のエルフを愛称で呼ぶ。


 マルフィアミは早速、起動コードを入力する。

 装置は自動的にオーバリアントに流れる魔力を吸い込んでいく。

 その力を変換し、人1人通れるほどのトンネルを作り上げた。


 意を決し、ライカ、クリネの2人が入る。

 それをマルフィアミ、マリエラ、そしてゼネクロが見送った。


 しばらく真っ暗な空間を歩き続ける。

 すると、光が見えた。

 2人に襲いかかると、悲鳴を上げた。


 すると、次に聞こえてきたのは、鳥のさえずりだった。

 だが、空気が違う。

 若干薄汚れているような気がする。

 明らかにオーバリアントと違っていた。


「ライカ・グランデール・マキシア陛下ですね」


 声が聞こえた。

 ライカは薄く目を開ける。


 立っていたのは、女性だった。

 艶のある長い黒髪。

 うっとりするほどの白い肌。

 線は細いものの、大きな乳房が白いシャツからはみ出しそうになっている。


 特に鍛え込まれた身体ではない。

 闘争という言葉に無縁であったのだろう。

 しかし、黒縁の眼鏡の奥から放たれる眼光は鋭かった。


(似ている。私の愛した人に……)


 そこではたとライカは気付いた。

 その人間が、どういう人間なのかを。


「もしかして、あなたが黒星あるみ総理ですか?」


「はい。私は日本国第104代内閣総理大臣黒星あるみです。お初お目にかかります、マキシア陛下」


「こちらこそ。よろしく頼む。ああ……。そうだな。出来れば、ライカと呼んでほしい。どうもあなたには、初めて会ったような気がしないのだ」


「奇遇ですね。私もです」


「やっほー! あるみちゃん、元気だった?」


 元気良く手を挙げたのは、ローランこと黒星まなかだった。


 元気? という質問に対し、一国の女首相は頭を抱える。


「一昨日も会ったでしょう」


「ええ? いいじゃない。一昨日ぶりの姉妹の再会なんだから。プンプン」


「お姉様、異世界に行って随分子供っぽくなりましたよね」


 あるみは肩を竦める。


 すると、ライカに向き直った。

 先に口を開いたのは、あるみの方だ。


「ようこそ、地球へ。ようこそ、日本へ。歓迎いたします、陛下」


「ああ。学ばせてもらおう。平和維持するためにはどうするか」


「それは私もたった今、学んでいるところです。共に学びましょう。私たちは世界は違えど、同じ志を持った同士なんですから」


 あるみは手を差し出す。

 すると、ライカは力強く握った。


「ところで、宗一郎くんは?」


 まなかが尋ねる。

 すると、あるみの顔が曇った。


「ああ……。実は――」


「はは……。さすがは勇者だね」


「そうです。宗一郎は、私たちの勇者ですから」


 3人の乙女たちは、空を見上げる。

 その空の下にいる1人の男を、想うのだった。



 ◆◇◆◇◆



 どじゃぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあんんんん!!


 盛大な金属音が鳴り響く。

 分厚い金属の扉がひしゃげ、黒い床に転がった。

 濛々と煙が部屋の中に入っていく。

 室内にいたのは、銃器を構えた男たち。

 様々な種類の銃口を、開いた扉の向こうに向けていた。


 現れたのは、1人の男だった。

 後ろに撫で付けた固い黒髪。

 茶色の虹彩は鋭く、歪めた唇の端からは白い歯がこぼれている。


 時代錯誤のダークスーツに、赤いシャツを合わせ、首からは宝石が付いたペンダントがぶら下がっていた。


「まったく……。オレがいない間、随分舐めたことをしてくれたではないか」


 男の声が響く。

 銃口はもう見えているはずだ。

 しかし、男は無造作に近付いていく。

 全く恐れをなしていなかった。


 すると、男の影からもう1人現れる。


 女。しかも、絶世と呼べるほどの美女だった。

 ツーサイドアップにした薄紫の髪。

 褐色の肌には張りがあり、男と会わせた黒いスーツの奥には、今にも零れそうな大きな胸が揺れている。


 明らかに成人女性。

 しかし、口からはみ出た八重歯は、どこか子供っぽく。

 なのに、金色に光る瞳は、どこか超自然的な存在を感じさせた。


「仕方ないッスよ、ご主人。人間ってそういうもんッス。諦めて、ゲームしてた方がいいッスよ」


「だからって、戦場のど真ん中でスイ○チをするな!!」


 男は女が持っていた携帯ゲーム機を叩き落とした。


「ぎゃあああああああああ!! スマ○ラがぁぁぁぁああああ!!」


 おいおいと泣き始める。


「おい。ちょ! 泣くな! わかった。またゲーム、買ってやるから」


「え? マジッスか? どうしたんスか? ご主人。なんか最近優しいッスよ。もしかして、惚れたッスか? セックスするっスか?」


「うるさい! 真面目にやれ! じゃないとゲーム機、買ってやらんぞ」


「よーし! やる気出てきたッスよ。テロリストの皆さん、覚悟するッス!!」


 女はファイティングポーズを取る。

 およそ戦場でするような会話ではなかった。


 男もそれを見て、薄く笑う。


「行くぞ、フルフル!」


「いつでも良いッスよ、ご主人!」



 さあ! 最強を倒す準備は出来ているか……!?


ここまでお読みいただきありがとうございました。

本編はここまでです。この後は、あとがきになります。


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