第83話 ~ ラストバトルといこうではないか ~
どうぞ皆様がお好きなラスボス曲を流しながら、
お楽しみ下さい。
(※ 個人的にはロマサガ2が好み)
ルナフェンの瞳が光る。
魔法瓶よりも遙かに太い腕の筋肉が盛り上がった。
肩を覆っていたパットが弾け飛ぶ。
瞬間、魔王の身体が大きく膨らんだ。
廊下の天井を突き破る。
尚もルナフェンは肥大していった。
顎を大きく張り出し、頭から生えていた角はサーベルのように伸びていく。
胸は城門のように鋼鉄に進化し、同時に腹もせり出した。
漆黒の翼は羽根をまき散らしながら、さらに横へと広がっていく。
ついに廊下の壁をぶち抜いた瞬間、床は自重に耐えきれなくなっていた。
轟音を立てて、廊下が崩れる。
「まなか姉、逃げろ!!」
「宗一郎くん!!」
ローランに向かって、風の魔法を打ち込む。
王女は吹き飛ばされ、廊下の奥へと消えていった。
一方、宗一郎とルナフェンは、真っ逆様に落ちていく。
「くっ!」
宗一郎は魔術を使う。
足にパズズの力を集約した。
風の力は、すべての衝撃を吸収する。
ふわり、と天使のように降り立った。
宗一郎は顔を上げた。
かなり落とされたらしい。
天井が見えない。
どうやら城1階の大広間のようだ。
明かりはなく、薄暗い空間が広がっていた。
ガンッ!!
突如、一緒に落ちてきた瓦礫が弾け飛ぶ。
宗一郎は振り返った。
ゆっくりと巨体が持ち上がる。
臭水のような匂いが立ちこめると、暗闇の中でポッと炎が輝いた。
「――――ッ!!」
さしもの現代最強魔術師も息を飲んだ。
それは巨大な竜だった。
曲刀のような牙。
ただ立っているだけなのに、床に食い込んでいく鋭い爪。
腹は大きく、その気になれば山すら飲み込めそうだ。
「ふおおおおおおおおおおおおおお!!」
吠声を上げる。
何層にも重なった音の層が、瓦礫を弾く。
周囲の大柱すら吹き飛ばしてしまった。
ばっと翼を広げると、より体躯の大きく見えた。
ギョロリと紅蓮の瞳が動く。
宗一郎を睨み付けた。
「それがお前、真の姿というわけか……」
宗一郎が尋ねる。
ルナフェンの声が、直接魔術師の頭に響いた。
『そうだ、勇者よ。旧女神風にいえば、そういう仕様ということらしいがな』
「なるほど。あいつらしい……」
『さあ、勇者よ』
ゲーム世界のラストバトルといこうではないか……。
宗一郎は肩を竦めた。
まったく……。
どいつもこいつも……。
メメタしすぎるだろう!!
竜となったルナフェンが、吠声を上げる。
それはまさしく開戦の合図となった。
宗一郎は突っ込む。
足にパズズの魔術を打ち込んだままだ。
驚異的な速力に、ルナフェンはついていけない。
『小癪な……!』
口内が光る。
間髪入れず炎息を放った。
薄暗い城内1階がたちまち紅蓮に包まれる。
宗一郎は回避に成功していた。
竜のサイドを取る。
パズズの力を全力発揮!
ミサイルのように飛び出す。
「アガレス……。かつての力天使よ。お前の打ち破る力を、オレに示せ!」
宗一郎の拳が赤光に染まる。
渾身の力を込めて振り抜いた。
見事、ドラゴンの顎を捉える。
「なにぃ!!」
宗一郎の顔が驚愕に歪んだ。
タイミングも魔力の放出も完璧だった。
防御されたり、バフがかかった様子もない。
もし、これが竜種最強オーガラストであるなら、間違いなく吹き飛ばされていたはずだ。
しかし、竜は立っていた。
微動だにしていない。
一瞬、ルナフェンと目が合う。
瞼を細めた表情は、怒っているようでもあり、笑っているようでもあった。
口内が光る。
紅蓮の炎が宗一郎に向けられると、発射された。
たちまち勇者は炎に包まれる。
ダメージ判定がなされ、体力ゲージがみるみる減っていった。
「くっ!!」
回避する。
巨大な炎から抜け出した。
一旦距離を取る。
『無駄だ、勇者よ。お前の魔術は我には効かぬ。考えてもみよ。アガレスは我が眷属。さらにいえば、我より下位の守護天使だ。その力が通じぬのは道理』
「本当にルシフェルなのか……」
いや、そうとしか考えられない……。
2度も天使クラスの魔術を防がれたのだ。
これはまさに奇跡的な所業だろう。
失楽園後のルシフェルの所在は、神学者の中でも意見が分かれるところだ。
まさか異世界で本当に魔王をやっているとは……。
いや……。
今は、それを議論する場ではない。
今やるべきことは、魔王を倒し、一刻も早くラフィーシャに追いつくことだ。
何故、新女神を庇うのか、検討もつかないが……。
宗一郎は道具袋から回復薬を取りだした。
一気に呷る。体力ゲージが80%にまで回復した。
魔術が無理であれば、答えは1つだ。
ゲーム側の力を使って、叩き伏せるだけ。
魔法を唱える。
【鉄身鉄心】!
勇者固有の魔法だ。
全ステータスに加え、弱体耐性も向上させる。
上昇値、汎用性すべて――強化バフでは最強を誇る。
だが、これに追随するほどの魔法があった。
【竜族付与】!
すかさずルシフェルもバフ系の魔法を唱えた。
その効果は【鉄身鉄心】と変わらない。
魔王が使える固有魔法だった。
この状態で、バフを剥がすのは、不可能だといっていい。
封印系魔法に対する効果も、弱体耐性向上によって、かかる可能性はほぼ0%に近い。
お互い後出来ることは――。
正面から殴り合い。
それ以外の選択肢はなかった。
宗一郎は今一度床を蹴る。
足にパズズの守護を纏っていた。
スピードで攪乱しながら、大柄な魔王の視界に入ろうとする。
ルナフェンは笑った。
『それも少々ずるいのではないか?』
竜の指先が光る。
瞬間、パズズの守護が剥がれた。
これはゲーム側の魔法ではない。
ルシフェルとしての力だ。
宗一郎の動きが一瞬鈍る。
好機とばかりに、ルシフェルは炎息を吐いた。
火塊が散弾銃のように飛び散る。
降り注ぐ炎弾を宗一郎は、なんとか回避した。
パズズの力が剥がれても、勇者は攻勢の手を止めない。
手を掲げた。
【爆砕炎】!
ルナフェンの顎の下付近が赤くなる。
瞬間、収束した魔力が弾けた。
大爆発が巻き起こる。
任意の場所に炎弾を打ち込める魔法だ。
汎用性こそ高いが、その威力は最強クラスの中では見劣りする。
事実、魔王のゲージは5%しか減少しなかった。
だが、宗一郎は突っ込む。
勇者の狙いはダメージではない。
ルナフェンの顎を上げること。
それによって、炎息による反撃を封じることが出来る。
2秒にも満たない間隙――。
宗一郎にとっては、十分すぎる時間だった。
【千歩】!
消える――。
1秒で竜の懐に潜り込んだ。
すかさずスキル名を唱えた。
【獣進連撃】!!
攻撃行動がセットされる。
宗一郎は剣を振り上げると、そのまま連撃技へと突入した。
獣王の突進を思わせる一撃は、魔王の喉元を抉る。
ダメージ判定が、ルビーのように強く輝いた。
『おおおおおおおおお!!』
ルナフェンは押される。
アガレスの力ですら押し切れなかった竜が、仰け反った。
ノックバック判定だと気付くと、宗一郎はさらに押し込んだ。
【剣嵐闘舞】!
【双龍激斬】!
連撃系の2連撃。
ドラゴンの巨体が折れる。
――いける!!
宗一郎はとどめといわんばかりに魔法を唱えた。
【雷霆の陪審】
単体系雷属性最強魔法。
大樹の根本を思わせるような巨大な光が降ってくる。
そのまま魔王に叩きつけられた。
『うぉおおおおおおお!!!』
魔王ルナフェンの悲鳴が、天空城ワンダーランドに突き刺さった。
終章第83話でした。
まだ続きます!




