表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝 ~ それぞれの1ヶ月 ~
31/330

外伝 ~ その現代魔術師、異世界で温泉宿を経営する ~ ④

宿屋経営4話目です。

よろしくお願いします。

 姓はダンドリー。

 父の名前はハシュー、母の名前はカララというらしい。


 そのダンドリー家を連れて来たのは、帝都校外にある緑豊かな牧草地だった。

 かなり帝都からは外れていて、城門がすぐ傍にそびえている。


「あの……。宗一郎様、オラたちをこんなとこさ連れてきてどうするんだ? オラたち、家畜の世話をしたことなんて――」

「ここに宿屋を建てるのだ?」

「はあ? いや……。ここさ校外ですよ。誰も泊まりになんて」

「やったことがあるのか?」

「以前、商売仲間が試しに校外に宿を作ってました。けど、みんな武器防具屋が揃ってる帝都の中心部に泊まってしまって。商売にならんかったと……」

「ほう……。それは良いことを聞いた」

「だから、こんなところで宿屋を商売さするのは不可能かと……」


 ピクリ……。


「今、なんと言った?」

「だから、場所が悪い。不可能ってぇ――」


 ――――!!


 宗一郎が浮かべた悪魔じみた笑顔に、一同は絶句した。

 カカもヤーヤも、思わず漏らしてしまうほど、表情を引きつらせている。


「ふん。俄然やる気が出てきた。……絶対に成功させるぞ。いいな?」

「「「「は、はい!!」」」」


 4人はピシッと直立し、返事をかえした。


 ――もしかして、オラたち……。悪魔と契約してしまったんじゃないか?


 動悸が収まらない胸を押さえながら、ハシューは思った。


 おもむろに宗一郎は手を掲げた。

 そして呪唱する。



「48の軍団を指揮する悪霊の侯爵クローセルよ。

                荒れた海より、その大いなる姿を現せ!」



 するといきなり地面が光り始めた。


 二重円の中に、2つ三角。そして羽根のような紋様と文字が浮かび上がる。

 突如現れた魔法陣から、水柱が立ち上り、飛沫が天高く舞った。


 ザアアアと潮が引くような音を立てると、水柱が弾け、中から人が現れる。


 しかし、それは人と形容してもいいのか迷う。


 浅黒いというよりは、グレーに近い肌。ポニテに結われた水色の髪。

 目は金色で、ぱっちりと開き、耳はエルフのように尖っている。


 四肢こそ人間のそれだが、二の腕や太股、頬の一部に魚鱗が貼り付き、よく見ると手には水かきがついている。


 遠くから見れば、見目麗しい美女だが、所々で人間の姿を逸脱していた。


「久しぶりだな……。クローセル」

「お呼びになるのを一日千秋の思いでお待ちしておりました」


 クローセルは持っていた三叉戈を横に置き、傅いた。


「フルフルとは違って、お前は主人に対する礼がわかっているな」

「もちろんでございます。ところで、その淫乱悪魔はどこに?」

「今頃は、どこぞでモンスターに欲情していることだろう」

「主を置いてですか? なんと……。沈めてやりましょうか?」

「言動が物騒なのは相変わらずだな。良い。オレが指示したことだ」

「そうですか……。残念です」


 心底残念そうに息を吐いた。


「ところで、久しぶりにお前の力を借りたい」

「なんなりと……」

「温泉を掘ってほしい」

「おんせん?」


 質問したのは、ヤーヤだった。

 母親の方を向いて尋ねるが、カララも首を振った。


 オーバリアントには風呂という文化はあるが、それは火で水を炊くだけだ。

 だから温泉というものを知らない。

 火山によって熱せられた水があるということは、知っているようだが、それに浸かることまでは、考えなかったらしい。


 ちなみにこれらのことは、図書館でオーバリアントの生活様式を調べて会得した知識だ。実は、帝都の地形から見て、前々から温泉が出るのではないかと考えていた。


 簡単に温泉について説明する。


「そ、そんな水が、地下に!」


 ハシューは驚嘆した。


「そうだ。そしてここに一大温泉宿を作り、客を呼び込むのだ」

「「「「 温泉宿! 」」」」

「主……。では早速――」

「うむ。取りかかれ」

「ハッ!」


 クローセルは敬礼する。


 すると身体に水を纏い、天高く跳躍する。


 さらに水は渦巻き、先端をドリルのような形状に変化させると、地面に突き刺さった。

 けたたましい音を立て、大地がゴリゴリ削られていく。


 ダンドリー親子は、目を剥きだして摩訶不思議な光景を凝視していた。


「よし。クローセルが温泉を掘り当てる間、お前達は地主を捕まえて、土地を買収する準備をしろ。お前たちも商売人の端くれなら、なるべく安く買い叩けよ。お金は明後日持ってくるといっておけ」

「と、父ちゃん」


 若干怖じ気つきはじめたハシューに、子供の視線が向けられる。


 ハシューは一度唾を呑むと、腹をくくった。

 もう二度と、子供にスリなんてさせたくなかった。


「わ、わかりました」

「父ちゃん、オレも行くよ」


 走り出したハシューの後をカカが追いかける。


「宗一郎さん。オラたちはどうしたらいいだ?」


 残ったカララとヤーヤが宗一郎を見つめる。


「お前達はこのお金で、紙と筆記用具をありったけ買ってこい」


 ゴールドではなく、金貨が入った財布を渡す。


「紙と筆記用具なんてどうするんだべ?」

「それも後で説明する」

「わ、わかっただ」


 カララとヤーヤも中心部へ向かって走り出す。


「さて、忙しくなるぞ」


 宗一郎は、口端を広げて笑った。






「――というわけだ……」

「そんな問題があるのか」


 宗一郎の話を聞き、皇帝は小さく頷いた。


 椅子に頬杖をつくのはお馴染みの光景だが、別にめんどくさがっているというわけではなく、考える時に自然と出てしまうポーズなのだろう。


 宗一郎は久しぶりに城に帰還すると、すぐ皇帝に謁見を申し出た。


 しかし許されたのは、謁見の間での会談ではなく、皇帝の自室だった。

 最近、体調が思わしくなく、伏せっているらしい。

 日を改めると言ったが、皇帝の方からお呼びがかかった。


 最初に少しやつれた顔を見て心配したが、本人から病状を聞いて安堵した。


 本人曰く――。


「最近、娘成分が足りてなくてのう……」


 ライカはともかく、クリネも最近どこかに出かけていないらしい。


 宗一郎は溜息を吐きながら、娘より長生きしそうだと胸中で結論づけた。


 初めこそよろよろと聞いていた皇帝だったが、宗一郎が冒険者として亡くなった親と、その子供の話を始めると、真摯に耳を傾けはじめた。

 話が終わる頃には、子煩悩の父親ではなく、一国の皇帝の面構えに変わっていた。


「なるほど……。私が作った法律に、そんな問題点があったとはな」

「陛下が作った法律に問題はない。子供には教育を受ける期間が必要だ。11歳以下の労働を禁じた法律は、名案だったと思う」

「ふふ……。宗一郎殿に褒められるのは、悪い気はせんな」


 初めて出会った時に比べれば、やや不遜な態度で宗一郎は評した。

 しかし皇帝は特に何もとがめなかった。むしろ2人でいる時は、くだけたものいいで語ることを皇帝の方から望んだのだ。

 それほど2人には深い信頼関係が出来つつあった。


「問題は、共働きの冒険者の子供の保証を誰が担うかということだ。さしあたり、両親を2人とも失った子供の経済的な援助は必要だろう」

「そう言うからには、宗一郎殿には何か良い案があるのか?」

「少し例は違うが、パーティーが全滅して、誰も生き返らせるものがおらず、そのまま死んでしまうというケースがあるそうだ」

「ほう……」

「だから、ギルドもしくは大きな教会にあらかじめ掛け金を支払っておき、万が一全滅した場合、少なくとも誰か1人を生き返らせてもらう保険システムが必要だろう。先ほどの親子の例も、誰か責任ある大人が、両親のどちらかを生き返らせることが出来れば、問題なかったのだからな」

「寄付金の前払いか……。なるほど。言われてみれば、そんな制度が今までなかったことが不思議なぐらいだ」


 ――同感だな。


「よし。早速、試験的に運用するよう指示を出そう。……それで、宿の建築代金を一時的に肩代わりする件だが」

「難しいか?」


 さすがに建物と土地の代金は、小遣い程度というわけにはいかない。


 皇帝は静かに首を振る。


「一時的に、帝国が運用するということならどうだ? 代表はそなたでよい」

「つまり、帝国名義で建物と土地を買って、後は好き勝手やっていいということか。売上の何パーセントを上納すればいい?」

「借金さえ返してくれればいい。これも帝国の試験運用ということにする。……“おんせん”というのには、余も興味がある。是非、湯治させてくれ」


 つまり、借金をきっちりと返してくれれば、帝国は何も言わないから好き勝手やってくれということだった。


「必ずやご期待にお応えしよう」


 宗一郎は深々と一礼した。


 と――頭を下げた状態で、顔だけを皇帝に向けた。


「そこで早速、お願いがあるのだが」

「うん?」


 皇帝は眉をぴくりと上げたのだった。






「おお! 宗一郎殿! お元気そうで何よりですじゃ」


 謁見が終了し、廊下を歩いていると白髪白鬚の老兵が声を掛けた。


 帝国近衛兵副隊長――つまりはライカの部下。

 ロイトロスだ。


「ちょうど良かった、ロイトロス。今からお前に会いに行くところだったのだ」

「はあ……。それは――」

「お前がライカから預かっている兵の一部を借り受けたい」


 ロイトロスは一瞬呆気にとられた後、ぶるぶると髭を振った。


「わ、私の一存では……」

「陛下の許しはもらっている」


 先ほど部屋で書いてもらった覚え書きを示した。

 しっかりと国璽の判も突かれている。


 国璽が押されている書類など、外交の場以外で見た事なかったロイトロスは、顎が外れそうになるぐらい驚いた。


「そ、そういうことであれば……」

「助かる。招集は5日後。場所は西の郊外の城門前だ。よろしく頼む」

「は! わかりました!」


 ロイトロスは最敬礼し、思わず声を張り上げた。


着々と準備してますよ


明日も18時になります。


※ 近況

  カクヨム様にも新作を投稿始めました。

  よろしければこちらも読んでやって下さい。

  https://kakuyomu.jp/works/1177354054880563884

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ