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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第69話 ~ バイバイ……。ママ……。 ~

終章第69話です。

よろしくお願いします。

 オーバリアントは非常に特殊な世界だ。

 ゲーム世界と現実の物理法則が混じり合った世界観。

 複雑ではあるが、人間の身体を傷つけることにおいて、大まか4つの手段が採られる。


 1つは魔法・スキル、ゴールド製武器による攻撃。

 これは完全なゲーム世界の力なので、人間に触れてもダメージの判定がなされるだけだ。だが、例外はある。


 それが2――物理的衝撃だ。

 風属性魔法による叩きつけなどが、該当する。

 土属性魔法を使った落とし穴なども一緒だ。

 これはリアルダメージの判定を追うことになる。


 最後に、魔獣が落とすゴールドを使った武器による攻撃。

 これもダメージ判定となり、体力ゲージが減るだけ。

 「0」になったとしても、ただ棺桶に入るだけだ。


 しかし、ゴールド製ではない武器は、その限りではない。

 これが最後の4つめ。


 ドクトルが新女神を傷つけることが出来たのは、彼が持つ武器がゴールド製ではなかったからだ。


 しかし、ラフィーシャが放ったゲーム側の魔法。

 対し、2人が無傷で切り抜けることが出来たのは、説明が付かなかった。


「本当に……。あのプリシラの呪いを解いたというのかしら?」


 ラフィーシャは忌々しいとばかりに顔を歪める。

 その表情を愉快そうに見つめたのは、パルシアだった。


「あれれ? 女神様、怒ってるの? ぼくみたいな若輩ものに先を越されたから。ぷぷぷ……。ダッさ!」


「パルシアァァァァアアアア!!」


 腹に渦巻いた憤りを呪文にぶつけた。


 【炎邪竜槍滅ドラゴニック・ブロード・ランス】!


 炎属性の魔法を解き放つ。

 もちろん、属性最高級の魔法だ。

 槍と喩えるにはあまりに大きな炎槍だった。

 フルフルが見たら「おお! 波動砲ッスか!!」と大変喜んだことだろう。


 向かってくる2人組に突き刺さる。

 だが、属性を変えても結果は同じだ。

 何食わぬ顔で炎のトンネルの中をくぐり抜けると、ラフィーシャに肉薄した。


 先手を取ったのは、ドクトルだ。

 得意の短剣をコンパクトに振るう。


「ちっ!」


 ラフィーシャは、一旦後ろに下がる。

 キュッと足を止めた瞬間、炎は横からやって来た。

 顔を歪めながら、新女神は仰け反る。

 間一髪のところで回避に成功した。


「おしい!!」


 指を鳴らしたのは、パルシアだ。

 さすがはアフィーシャの子供にして、ラフィーシャの姪だった。

 癇に障るようなことをやらせれば、オーバリアントで1番だ。


 ラフィーシャは走る。

 パルシアに迫った。

 まずは頭を潰すべきだと考えたのだ。

 だが、横からドクトルが割り込む。

 速い――。

 彼はすでにゲーム世界から離脱した人間だ。

 魔法による強化(ブースト)は得られないはず……。


 シャッ!!


 剣閃が光る。

 また紙一重のところで、ラフィーシャはドクトルの短剣をかわした。

 もはや分析している暇はない。

 パルシアを諦め、一旦離れる。


 1度火がついた怒りを静めた。

 冷静にならなければ、足を掬われる。

 相手は馬鹿な人間どもではない。

 自分と同じ種族が相手だ。しかも、妹の娘。

 他に何を隠しもっているかわからない。

 こちらが傷つかず、確実に潰す方法を考えなければならなかった。


「ママ、今のうちに制御陣を――」


「わかってるかしら」


 パルシアたちがラフィーシャの相手をする間、アフィーシャはかなり回復していた。

 制御陣に取り付く。

 次々と天空城(ワンダーランド)の動力を落としていった。


「おのれ!」


「行かせないよ、叔母さん。もうちょっとぼくの面倒を見てよ」


 まったく可愛げのない姪だった。


 だが、このままでは制御陣が攻略される。

 美しい我が城が、本当に落ちてしまう。


 己を奮い立たせても、女神に糸口が見えない。

 現実世界のラフィーシャは、少し魔法が使えるエルフという程度なのだ。

 こうして前線に出られるのも――忌々しい限りだが――ゲーム世界の恩恵に他ならない。


 ――ゲーム世界……?


 ラフィーシャは薄く笑みを浮かべる。

 その冷笑に危機を察したのは、パルシアだった。


「行くよ、ドクトル!!」


「ああ……!」


 2人が先制する。

 距離を取ったダークエルフに迫った。

 すると、ラフィーシャは道具袋から何かアイテムを取り出す。

 実行の判定が為されると、光り輝いた。


 瞬間――。


 ウィィィィィン!

 ウィィィィィン!

 ウィィィィィン!

 ウィィィィィン!

 ウィィィィィン!


 突如、けたたましいサイレンが鳴り響く。


「【獣の目覚め】か……」


 モンスターの闘争本能を呼び起こす魔法アイテム。

 音で魔物をおびき寄せ、気を引いている隙に、エンカウントを回避するためのものだ。


 ごごごごご……。


 地鳴りがする。

 壁面が派手に破かれた。

 土煙とともに現れたのは、大小様々なモンスターだった。


「まずい!!」


 叫んだのは、パルシアだ。

 津波のように襲いかかってきたモンスターを見て、戦慄した。

 慌てふためく姪を見ながら、愉快そうに笑ったのはラフィーシャだ。


「ふふふ……。これならどうかしら、パルシア?」


「まったく……。叔母さん、最高だよ。悪知恵を働かせたら、世界一だね」


「パルシア!」


「わかってる! ぼくたちで抑えるしかない」


 望みは薄い。

 何故なら、宗一郎たちとは違って、パルシアもドクトルもあまりレベルが高くない。一方、向かってくるモンスターたちは、レベル300以上の強者だかり。

 現実世界においても、その膂力は2人を軽く凌駕する。

 そもそもゲーム世界は、人間とモンスターの力を均等化するための手段だった。


 旧女神の恩恵がない2人は、単なるモンスターの餌でしかない。


 パルシアは手を掲げる。

 エルフの魔法で応戦した。


 だが、モンスターは構わず突っ込んでくる。


 その彼女の前に影が覆い被さった。


「ドクトル!!」


 短剣を構えたドクトルが立っていた。


「逃げろ! パルシア!!」


「ダメだよ……」


 背後を見る。

 まだアフィーシャは作業の真っ最中だ。

 彼女に力を借りれば、この危機を乗り越えることが出来るだろう。

 だが、作業から離れれば、動力を切るのが遅れてしまう。

 【太陽の手(バリアル)】を大量に保有した化け物(ワンダーランド)を、街や都市がある陸地に近づけるわけにはいかなかった。


 これ以上、アーラジャやグアラルの惨劇を繰り返すわけにはいかない。


 ドクトルは走る。

 表皮を硬い鱗で覆われた象のようなモンスターに向かっていった。

 大きく跳躍する。

 その首裏に着地すると、迷わず短剣を振り下ろした。


 ギィン!!


 硬い音が響く。

 ドクトルの短剣が折れたのだ。


「くそっ!!」


 ドクトルの短剣の材質は鋼だ。

 異世界の生物であるモンスターには、まさしく()が立たない。

 アーラジャの元首は舌打ちする。

 変わりに拳を打ち付けようとしたその時、何者かに振り上げた腕を掴まれた。

 そのまま天井へと舞い上がる。


「ヘル・ファルコンか!!」


 ドクトルが見上げる先にいたのは、黒と赤のけばけばしい色をした怪鳥だった。

 鳥系でも最強クラスに上げられるモンスター。

 当然、そのレベルも新女神によって鍛え上げられていた。


 ヘル・ファルコンはドクトルの腕を締め上げる。

 激痛が走った

 モンスターに持ち上げられた時に、肩の骨が外れたのだ。

 おかげで思うように動かない。


 ドクトルは残った片方の手で魔法袋をまさぐる。

 1本の投げナイフを取りだした。


「表皮が無理でもここならどうだ!!」


 ドクトルはナイフを投げる。

 見事、ヘル・ファルコンの瞳に突き刺さった。

 突如訪れた強烈な痛みに、モンスターは姿勢を崩す。

 自分を傷つけた()を空中に放り投げた。


 モンスターの束縛からドクトルは逃れる。

 だが、中空へ放り出された元首になす術はない。


「ドクトル!!」


 迎えに来たのは、パルシアだった。

 エルフの魔法を駆使し、空中でキャッチする。

 だが、勢いのあまり2人して壁に叩きつけられた。


「痛ててて……。大丈夫、ドクトル?」


「ああ……。今はな……」


 ドクトルは手を差し出す。

 パルシアは元首の手にそっと手を置いた。

 力強く握られ、引っ張り上げられる。

 そのままドクトルはパルシアの腰に、パルシアはドクトルの首に手を巻き付けた。


「ドクトル……。愛してるよ」


「ああ……。俺もだ、パルシア」


「良かった……。やっとわかったよ。これが、この気持ちが愛なんだ」


 2人はそっと口づけをする。

 そして前を向いた。

 轟音を立て、モンスターがやってくる。


 2人は握った手をぎゅっと握りしめ、1歩も動かなかった。



 バイバイ……。ママ……。



 ガシャアアアアアアアンンンン!!


 盛大な音がする。

 モンスターたちはドクトルとパルシアをなぎ倒した。

 さらに勢いを保ったまま外壁に突き刺さる。

 いかな新女神が設計した城とて、膨大な重量を誇るモンスターの突撃に抗うことは出来ない。


 石や土、あるいは金属をまき散らし、そのまま城の外へと投げ出された。


 そのモンスターの群の中に、島国出身の元首と島国出身のダークエルフがいた。


 見た目こそまだ無事のようでも、すでに圧迫された内臓はぐしゃぐしゃだった。

 当然、意識などない。

 しかし、彼らの握った手は、永遠に離される事はなく、やがて彼らの故郷ともいえる海へと没していった。


もうちょっと活躍させたかったけどなあ……。

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