第68話 ~ 怖いよ。けど、怖くない ~
終章第68話です。
よろしくお願いします。
肩口まで伸びたやや薄い紫色の髪。
種族の特徴をよく受け継いだ褐色の肌。
胸とお尻の大きい艶めかしい肢体。
そのラインに、ピッタリと貼り付く変わった服装を着用している。
子供のような悪戯っぽい笑顔には、大きな眼鏡が置かれていた。
海洋国家アーラジャの若き当主ドクトル・ケセ・アーラジャ。
その補佐をする参謀役。
そして今、新女神を叔母に持ち、片やその妹を母に持つダークエルフ。
パルシアが天空城に降り立った。
「あなた、どうしてここに?」
「そうか。エルフの魔法で飛んできたのかしら?」
「さすがは叔母さん。その点、ママは察しが悪いなあ」
3人のダークエルフは、世界の命運が決まる戦場で睨み合った。
不意に地を蹴る音がする。
シャッと薄暗い地下で、剣線が閃いた。
強い金属音が鳴り響く。
死角からの攻撃にも、ラフィーシャは対応した。
赤い瞳をギロリと動かし、女神に楯突く不埒者を睨む。
「そういえば、あなたもいたのよね、元首」
「くぅ……」
顔を歪めたのは、ドクトルだった。
ラフィーシャがパルシアに気を取られているうちに攻撃したが、あえなく不発に終わる。
女神に殺意が渦巻いた瞬間、ドクトルは大人しく引き下がった。
途端、魔法が放たれる。
火柱が上がり、辺りを煌々と照らした。
1歩遅ければ、ドクトルは消し炭になっていたかもしれない。
ラフィーシャは薄く微笑む。
「ドクトル元首に、パルシアか……。何をしにきたと聞くまでもないかしら。……なるほど。弔い合戦といったところかしら」
「ご明察だよ、叔母さん。あそこには悪いヤツが一杯いたけど、良い人も一杯いたんだ。それを根こそぎ殺すなんて」
「アーラジャ、そしてお前が荷担したグアラル王国の無念……。晴らさせてもらうぞ」
「ぬけぬけというかしら。自分の胸に手を置いてみなさい。あなたたちだって、同じことをしようとしていたじゃないの」
「ボクたちは【太陽の手】を使うつもりはなかった! ただ政治的駆け引きの材料として使っていただけだよ」
「いけしゃあしゃあと……。【太陽の手】を他国にばらまいたことは、事実じゃない」
「うっ……」
「確かに、お前の言うとおりだ、ラフィーシャ。だが、俺たちが罪を犯したといっても、お前の罪が消えるわけではない」
「随分な開き直りかしら」
「何とでもいえ……。お前を打倒するという意志は変わらない!」
「ドクトル……」
「パルシアは、そこで休んでいろ。ここまで連れてきてくれただけで十分だ」
「いや、ボクも戦うよ。だって、ボクたちは運命共同体なんだろ」
天空城の高度はかなり高い。
ドクトルを担ぎ、そこまで飛行魔法で上がるのは至難の業だった。
パルシアの疲労は濃い。
それでも、横にドクトルがいるだけで、愛を知ったダークエルフは笑顔でいられた。
ダークエルフとは思えない生気に満ちた顔に、叔母と母は少し驚いていた。
「パルシア、あなた――」
「再会を祝したいところだけど……。ママにはママのやるべきことがあるんでしょ?」
「ちょ……。まさか2人でラフィーシャを抑えるというの?」
「分が悪いのはわかってるよ。ボクはアフィーシャの子供だからね。でもね。ぼくは学んだんだよ。人の強さはね。たとえ、絶望の最中でもこうして地に足を付けて、戦えることだって。――ま、らしくないとは思うけどね」
「相手は女神よ。怖くないのかしら?」
「怖いよ。けど、怖くない。側にドクトルがいるからね」
2人の出会いは最悪だった。
でも、彼らの心は、紆余曲折を経て、1つになった。
やるべきことは決まっている。
パルシアが知恵を出し、ドクトルが手足となり動く。
それは今も昔も変わらない。
「心配しなくてもいいよ。割と勝算はあるんだ」
「行くぞ、パルシア」
「うん!!」
力強くダークエルフの娘は頷く。
2人は同時に駆けだした。
「正面から? 自殺行為かしら?」
ラフィーシャは手を掲げる。
死ね、という言葉を添えて魔法を放った。
すると、パルシアはドクトルの手を掴んだ。
かつては少年だった男の横顔を見る。
「ドクトル! ぼくを信じて!!」
【雷陣覇暁】!
青白い光が炸裂した。
パルシアの母の肌を何度も焼いた極大魔法。
雷精を帯びた特大の顎門が、今娘までも喰らった
光に包まれる。
「…………」
眩い光にアフィーシャの目を閉じられることはない。
ただ光の中に娘が消えて行く姿を見ていることしか出来なかった。
対して、姉の顔は醜悪に歪んでいた。
羽虫でも嬲るかのように満足げな笑みを浮かべている。
「まったく……。あの子たちは何をしたかったのかしら。時間稼ぎにもなっていないじゃない」
くるりとラフィーシャは妹に向き直る。
「さて。ちょっとした催しだったけど、これで終わりのようね。座興としては、なかなか楽しかったけど……。終わりかしら、アフィーシャ」
アフィーシャは後ずさりする。
足を引きずりながら、入口に向かって後退をはじめた。
「馬鹿ね。今さら尻尾を巻いて逃げるのかしら?。いいわ。10数える間だけ待ってあげる。1……」
2……。3……。4……。
天空城の動力炉の横で、テンカウントが響いた。
その間も、アフィーシャは逃げる。
ただ必死に……。その短い生を貪るかのように。
「あはははは……。無様ね。私の誘いを断るからこうなるかしら」
「…………」
7……。
8……。
9……。
「さあ、これで終わりよ」
ラフィーシャの手に魔力が渦巻く。
最後はエルフの魔法でトドメをさそうというのだろう。
手の平には火塊がセットされた。
「さようなら、アフィーシャ」
10……。
「やあああああああああ!!」
どこからか声が聞こえた。
上を見る。
暗い空間に舞うように浮かんでいたのはドクトル、そしてパルシアだった。
衣をはためかせ、真っ直ぐラフィーシャに向かって急降下してくる。
「なにぃ!!」
ラフィーシャは顔を歪めた。
慌てて、手に握った火塊をパルシアたちに向ける。
しかし、その耳朶に冷たい声が響いた。
「脇が甘いかしら、ラフィーシャ」
目玉を目一杯動かす。
視界の端にいたアフィーシャを見つめた。
その手には、自分と同じくエルフの炎を――。
「しまった!!」
一瞬の判断の迷い。
身体が硬直する。
それが仇になった。
アフィーシャは魔法を放つ。
さらにパルシアが続いた。
親子によるダブル攻撃。
それは見事、新女神に突き刺さった。
「おのれぇぇぇぇぇええええ!!」
ラフィーシャは呪詛を吐く。
素早く魔法を唱えると、自分にかかった炎をキャンセルした。
親子の息の合った連携。
さらに一拍遅れ、現れたのはドクトルだった。
刃を閃かせ、煙を吐く女神に肉薄する。
袈裟に切り裂いた。
自称神の肉体から血がほとばしる。
「ちっ!」
ドクトルは舌打ちする。
思ったよりも、女神の反応が速かった。
ドクトルが持つ短剣は、ラフィーシャの肌を浅く切り裂いただけだ。
もう1歩踏み込む。
ドクトルは追撃を決意した。
「ふざけるな!!」
罵声が響く。
ラフィーシャは手でなぎ払った。
ドクトルの顔面を捉えると、アーラジャの元首は紙のように吹き飛ばされた。
「ドクトル!!」
パルシアは叫ぶ。
すかさずフォローに入った。
吹っ飛ばされた相棒を受け止めると、一緒に壁に激突する。
「痛たたた……。大丈夫、ドクトル?」
「すまん、パルシア。だが、うまくいったな」
「うん。ちょっと自分でも驚いているよ」
「何故だ!?」
叫んだのは、ラフィーシャだった。
火傷で肌は真っ赤になり、さらに切り裂かれた傷口からは血が垂れている。
それでも新女神の戦意は落ちるどころか、増していた。
「簡単だよ。……この世界の呪いを研究していたのは、何も叔母さんだけじゃないってことさ」
「なにぃ?」
「たとえ、叔母さんが女神でも、ぼくらよりもうんとレベルが高くても、その法則外にいれば、干渉はされない」
「まさか――。あなたたち、旧女神の呪いを解いたというのかしら?」
これにはアフィーシャも驚いた。
パルシアは親に誉められた子供みたいに、満面の笑みを浮かべる。
「そうさ。ボクたちにはゲーム世界の力は通じないのさ!」
最近、少しずつブクマが増えてきて、嬉しい限りです。
完結する頃には、9000ptぐらいにはなってるかな。
これからもよろしくお願いします!




