表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

304/330

第65話 ~ その頃には、ルシフェルはゲーマーになってくるかもしれないッスけどね ~

終章第65話です。

 フルフルとルナフェンは、再び対峙する。


 新女神によってかき乱された空気が、ピンと張りつめていった。

 大剣を構え、フルフルは一瞬たりとも目の前の堕天使から目を背けない。


 横で2匹の化け物の対峙を見ながら、アフィーシャはいう。


「その化け物はあんたに任せていいかしら?」


「アフィーシャたん?」


「私はその間、ここの制御陣を止める。あんたはそいつを引き留めておいて」


「…………」


「心配しなくても、今さら逃げたりしないかしら。悪趣味な城、とっととぶっ潰すに限るわ。身内の恥部をこれ以上、世界に知らしめることはない」


「わかったッス。信じてるッスよ、アフィーシャたん」


「……? いやにあっさりね」


「そりゃあ。フルフルは悪魔ッスからね」


 薄く唇を歪める。

 その酷薄な顔を見て、アフィーシャはゾッとした。

 彼女は勇者の世界の【太陽の悪魔(バリアル)】といわれているそうだ。

 アフィーシャは、その一端を垣間見たような気がした。


 やがてフルフルに背を向ける。


「頼んだわよ」


「ああ……そうだ。アフィーシャたん」


「まだ何かあるの?」


「時間稼ぎっていったッスけど、別に倒してしまってもいいッスよね」


 アフィーシャは目を細めた。


 フルフルの黄金の瞳が輝いていたからだ。

 ネタ的な意味で。


 ため息を吐く。


「あんた、それを言いたかっただけで、この空気を作ったでしょ」


「あれ? バレたッスか。ぬはははは……」


「ともかく頼んだわよ。あと、別に倒してし(ヽヽヽヽヽヽ)まってもかま(ヽヽヽヽヽヽ)わないかしら(ヽヽヽヽヽヽ)


「了解ッス」


 ようやくアフィーシャはその場を後にする。


 最後まで相容れない悪魔とダークエルフ。

 だが、この時――お互いの思いは、奇しくも一緒だった。


 ――生き残るッスよ、アフィーシャたん。

 ――死ぬんじゃないわよ、淫乱悪魔。


 アフィーシャの足音が遠ざかっていく。

 それを確認した後、フルフルは気持ちを入れ直した。


「お優しい堕天使様ッスね。アフィーシャたんが離れるまで待ってくれているなんて。悪役の美学ってヤツッスか?」


「なんだ、それは?」


「天使の割りに、無能なんスね。ロボットの合体とか、ヒーローが変身してる時とか、攻撃はしないっていう暗黙の掟ってヤツっスよ」


「人間の娯楽の話か。俺が堕天した後、随分人間も堕落したと見える」


「昔とそう変わらないッス。強いて言えば、ポジティブな平行線ッスかね」


「言い得て妙な言い方だな」


「後退はしていないだけ、マシじゃないッスか」


「変わったな、フルフル。悪魔もそうなのか?」


「いや、フルフルは何も変わらないッスよ。変わったのは、契約者だけッス。そういう意味では、今回のご主人は随分変わっている(ヽヽヽヽヽヽ)ッスけどね(ヽヽヽヽヽ)


「その言葉を聞いたら、さぞかし勇者は『お前だけにはいわれたくない』と憤慨したであろうな」


「ちげぇねぇッス。さてさて、そろそろ昔話はやめにしないッスか? 台詞がライトノベルみたいに多くなってきたッスよ」


「よかろう。異界の地で天使と悪魔が戦う。これは神々の黄昏その“外典”といったところか」


「最初にいったはずッスよね。これは失楽園だって。それにこれはフルフルたちの話じゃないッス。神さまも悪魔も、いつの世も脇役でしかない。主人公はいつだって、勇者なんスから……」


 言葉の戦争は終結する。

 まるで絵巻物の次巻を紐解くように、武による戦争が始まった。


 残念ながら、ギャラルホルンの角笛はない。


 ただ2人が蹴る音だけが、動力炉の低音に混じって、静かに響いた。


 闇と光が交錯する。


 ギィンッ!


 甲高い音が響き渡った。

 フルフルは大剣で、ルナフェンはその太い腕で受け止めた。

 両者互角――と思われたが、均衡は崩れる。


「うおおおおおおおお!!」


 ルナフェンが吠えた。


 フルフルの大剣を弾く。

 体勢が崩れたところを、すかさず拳打を繰り出した。


竜崩拳(ドラゴニア・ブレイク)


 悪魔の鳩尾にクリーンヒットする。

 衝撃が可視できるほど、空気が歪んだ。

 そのままフルフルは吹っ飛び、外壁に突っ込む。


 瓦礫のシャワーを浴びる。

 それでもフルフルは立ち上がった。

 ルナフェンよりも圧倒的に細い身体を、ゆらりと動かす。

 口内に溜まった血を、ガラガラと音を立ててうがいをすると、べっと吐いた。

 鮮血が線を引く。

 人間であれば、すでに意識が朦朧としていただろう。


 削られた体力ゲージを【常時回復】の魔法によって回復させる。

 だが、リアルのダメージはかなりでかい。


「主の魔力を使って回復させないのか?」


「しばらく見ないうちに随分と意地悪になったんッスね、堕天使様は。出来ないってわかってる癖に質問するスか?」


 ルナフェンの言うとおり、悪魔であるフルフルは主から魔力を借りて、自分の肉体を修復することができる。


 だが、それが今できないのは、火を見るよりも明らかだった。


「神格など当に剥がれた。ここにいるのは、この世界の魔王よ」


「くくく……。らしくなってきたじゃないスか」


 フルフルは大剣を構えた。

 乱れた息を整える。

 それを見て、ルナフェンは息を吐いた。


「先ほどの攻撃で、俺とお前のレベル差は十分わかったはずだがな。俺が天界から離れている間、悪魔の質も落ちたものだ。いくらゲームのルールに守られていようと、物理的な衝撃波まで殺すことはできないのだぞ」


「そんなこと百も承知ッスよ。でも、それじゃあ面白くないじゃないッスか」


「面白くない?」


「旧女神プリシラたんは、ご主人様にこういったそうッスよ」



 あんたも楽しんでよ。



 主人からその言葉を聞いた時、フルフルのゲーマー魂が震えた。


 だから、フルフルは決めたのだ。

 その遺言に従い、ゲーム世界を全力で楽しむ、と。

 ご主人は、オーバリアントを救うことを目的としていることは知っている。

 でも、フルフルからすれば、世界の命運などどうでもいいのだ。


 プリシラが残した類を見ないゲーム世界を楽しむ。


 契約などという野暮な誓いではない。

 ゲーマーとゲーマー。

 ゲームが好きであるという誇りに、共鳴した1つの誓約だった。


「楽しんでるッスか、ルシフェル」


「なに?」


 フルフルは地面を蹴る。

 真っ直ぐルナフェンに向かった。


「何度、来ても無駄だ!」


 先ほどと同じく、フルフルの剣を受け、カウンタースキルを発動させる。


 ルナフェンは拳を握った。

 フルフルは大剣を振り下ろす。

 それを受け止めると、すかさずスキルを放った。


 【竜崩拳(ドラゴニア・ブレイク)】!


 先ほど悪魔の肉体に大ダメージを与えたスキル。

 決まった、と思われた。


 タッ!


 フルフルはバックステップでかわす。

 【竜崩拳】は拳だけではなく、広範囲に衝撃波を与えるスキルだ。

 だが、フルフルはその範囲外にうまく逃げおおせる。


 一旦距離を取った。


 だが、これも想定済みだ。


 ルナフェンの口内が赤く光った。


 【竜咆鋼波(ドラゴニア・バスター)】!


 紅蓮の刃が飛ぶ。

 それは炎ではない。

 もはや極大のレーザー兵器だった。


 離れたフルフルを狙い打ちする。


 ころり……。


 すると、フルフルは前回りした。

 小刻みに何度も回る。

 いつの間にか、ルナフェンの前にいた。


「な――!」


 魔王の顔が歪む。

 一方、フルフルは歯を見せ笑った。


十王雷撃(テン・ペスト)】!!


 それは大剣の業の中で、もっとも威力あるスキルだった。


 ルナフェンは必死に反応する。

 だが、遅い。

 魔王の肩口を抉った。


「ぐあああああああああああ!!」


 初めて悲鳴が上がる。

 フルフルは好機とばかりに、スキルを使用した。


青獣突牙(インプルス)】!


 身体を大きく弓なりにしならせる。

 そのまま大剣をルナフェンに突き入れた。


「いくッスよぉぉぉおおぉぉおおおおお!!」


「うおおおおおおおおお!!」


 見事、ルナフェンの胸を貫いた。

 魔王は吹っ飛び、壁に叩きつけられる。

 まるで先ほどのフルフルの焼き直しを見ているかのようだった。


「な…………ぜ…………?」


 朦朧としながら、ルナフェンは立ち上がる。

 2つの最上級スキルによる攻撃。

 おかげで体力ゲージが6割ほどもっていかれた。

 リアルダメージも決して低くない。


 だが、それよりも何故フルフルが【竜咆鋼波(ドラゴニア・バスター)】をかわしきれたのかがわからなかった。


「ふははは。ゲームはレベルがすべてじゃないんスよ」


「どういうことだ?」


「新女神もルシフェルも、この世界がゲームだって理解してないッスよ」


「何がだ?」



「ローリング中は、無敵判定――。これ、ゲーマーの常識ッス」



「な、なに?」


「驚いたッスか。なら、もっと驚かせてやるッスよ。その頃には(ヽヽヽヽヽ)ルシフェルは(ヽヽヽヽヽヽ)ゲーマーにな(ヽヽヽヽヽヽ)ってるかもし(ヽヽヽヽヽヽ)れないッスけ(ヽヽヽヽヽヽ)どね(ヽヽ)


 大剣を構えると、悪魔は不敵に笑うのだった。


気がつけば、8000ptまであとわずか。

ここまでお読みいただいた方、ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ