第63話 ~ どんなチート設定ッスか!? ~
終章第63話です。
ルナフェンは手を掲げる。
フルフル、そしてブローチの中にいるアフィーシャは身構えた。
何やら呪文を唱えると、光が閃く。
壁伝いに走り、城全体へと広がっていった。
おそらく探索系の魔法だろう。
彼本来の力ではない。
旧女神プリシラが残したRPG世界の魔法だ。
もし、ルナフェンが本来の力を持っているのであれば、フルフルはすでに今ので消滅していたかもしれない。
堕天したとはいえ――悪魔として認めたくないが――ルシフェルの力は強力だ。
72柱の悪魔の1人であるフルフルすら、足元にも及ばない。
抗することができるとすれば、階上へと向かったベルゼバブぐらいだろう。
「ベルゼバブも来ているのか……」
「!?」
「海上にはクローセルもいるな。元天使と悪魔たちが、異界の地に揃い踏みしたわけか。ふふ……。まるで神々の黄昏だな」
「どっちかというと、失楽園じゃないスかね」
「ふむ……。なるほど。さすがは悪魔か。よく口が回る」
「元天使に褒められても、嬉しくないッスよ」
「相変わらず、お前たちは悲しい存在らしいな」
かつての天使と悪魔は睨み合う。
沈黙を破ったのは、ブローチの中で暴れるアフィーシャだけだ。
「ちょっとどういうこと? あなたたち、知り合いなわけ?」
「簡単にいうと、この方はご主人の世界の神様ッス」
「神……!?」
「ぞんざいに過ぎる言い方だな、フルフルよ。我らも人も、主の下にあるのだ。むろん、悪魔であるお前たちもな」
「うっへぇぇぇ! そういう言い方をするから、嫌いなんッスよ、天界の連中って。……そもそも、その主の怒りに触れたのはどこのどいつッスかね」
「一時の過ちだったのだ。今なら、主の行動は適切だったと理解している」
「と・に・か・く! ヤバいヤツってことはわかったかしら」
アフィーシャは強引に締めくくる。
「で――。あなたは敵なのかしら? 神さまなら味方?」
「残念ながら、敵ということになる、ラフィーシャの妹よ」
「私のこと……」
「聞いてはいる。そして見つけたら、殺してもいいと」
「天使とは思えない物騒なものいいッスね。そんなにラフィーシャちゃんのアソコは気持ちよかったッスか?」
【爆裂神風】!
スッとルナフェンは手を掲げる。
瞬間、暴風が吹き荒れ、フルフルの身体を吹き飛ばした。
壁に叩きつけられると、ダメージ判定がなされる。
一気に、1割以上の体力が削られた。
だが、それ以上に衝撃が凄まじかった。
RPG世界とはいえ、壁の当たり判定は現実と変わらない。
壁に叩きつけられたり、上から(魔法による構造物でない)瓦礫が落ちてくれば、リアルダメージを受けることになる。
フルフルはカッと喀血し、鮮血が地面に点々と垂れた。
それでも、悪魔は笑う。
黄金の瞳を光らせた。
だが、ルナフェンもまた憤っていた。
白黒が反転した目を細め、悪魔を蔑む。
「汚らわしい言い方をするな、淫夢め。俺は俺の目的で動いている。その点で、ラフィーシャと利害が一致したに過ぎない」
「またまた利害が一致なんて言葉を……。天使っぽくないッスね」
「これでも、すでに堕天していてな」
「今度は開き直りッスか」
「貴様の方こそ、あの男の魂が欲しくて従っているだけだろう」
ルナフェンは喝破する。
フルフルは立ち上がった。
血反吐の付いた口元を拭い、大剣をゆらりと構える。
「そうッスよ。フルフルは悪魔ッスからね」
フルフルは地を蹴った。
呪文を唱える。
【技量増加】!
【対属性耐性増加】!
【衝撃吸収】!
【敏捷性増加】!
【詠唱破棄】のスキルを使い、一気に4つの魔法を稼働させる
フルフルはさらに加速。
敵の懐に潜り込んだ。
ルナフェンもまた応戦する。
【竜族付与】!
ギィン、と乾いた音が鳴る。
フルフルの大剣を受け止めたのは、ルナフェンの太い腕だった。
ダメージ判定はなされるが、すぐに回復する。
「このっ!!」
【剣嵐闘舞】!
重たい大剣をまるで細剣のように軽々と振るう。
刃がルナフェンに向かって乱れ飛んだ。
嵐のように襲ってくる大剣に対して、元天使は軽々と対応する。
カッと剣をかち上げた。
フルフルが体勢を崩した隙を見逃さない。
ポンと、ふくよかな胸に手を置いた刹那――。
【龍掌】!
一喝――!
途端、フルフルは再び吹き飛ばされた。
だが、咄嗟に大剣を地面に突き刺す。
ぎゅううううう、と煙を吐きながら踏ん張ると、ルナフェンの一撃に耐えた。
衝撃はなんとか魔法と剣で吸収出来たが、今度は2割も削られた。
しかし、何故か悪魔の瞳は爛々と輝いていた。
「随分と嬉しそうだな、悪魔よ」
「いや、嬉しいッスよ。なんかボス戦って感じじゃないッスか」
「ボス戦? ああ……。まあ、一応この城では俺がそうだがな」
「ははん。だから、地下の方に来たッスね?」
「どういうことだ?」
「古来よりラスボスっていうのは、城の上にいることよりも、地下にいることが多いんッスよ」
「何故、城の主が地下に潜る必要がある。堂々と最上階で待ちかまえていればいいものを」
「さあ、それはわかんないッス。でも、それがゲーマーの浪漫なんスよ(※フルフルの個人的な見解です)」
「異界に来てまで、ゲームの話か。相変わらず、怠惰だな」
「堕天使にいわれたくないッス。あと、その言葉……。最近では悪役の台詞なんスよ」
「よくわからん」
「あと、もう1個言いたいッスけど、その【竜族付与】って魔法はひどいッスよ。ボス専用魔法だとしても、全ステータス向上、全属性耐性付与、さらに自動回復付きって、どんなチート設定ッスか!?」
「恨むなら、俺をそう設定した旧女神を恨むんだな」
「プリシラちゃんも、大概ッスね。パラメーターの設定を間違えたんじゃないスか」
お互い構える。
そして再び2合目に突入しようとした矢先、その声は響き渡った。
「何を手こずっているのかしら、ルシフェル?」
癇に障るような口調、そして声。
忘れもしないラフィーシャのものだった。
だが、今まで新女神は声だけの存在だった。
それ自体を疑問視してきたわけではないが、もしかしたらと思うこともあった。
が――フルフルは主に先んじ、目撃する。
オーバリアントを混沌に貶める新女神の姿を。
それは天女のような衣を纏い、うっすらと笑みを浮かべて唐突に現れた。
「こんにちは。フルフルちゃん」
血のような赤い髪の女が、ルナフェンに寄り添う形で降臨した。
本日18時より新作が公開されます。
『英雄村の「普通」の村人ですが、王都ではなぜか優しくされます』というタイトルです。
英雄の故郷の村の普通の村人が、村を飛び出し、王都で住み始めたら、実は最強だったというお話です。
良ければ、そちらも応援よろしくお願いします!




