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プロローグ ~ 最強を倒す準備は出来ているか? ~ (3)

本日3話目。

「ちょちょちょちょ! なになに?? 今の???」


 と呆気にとられる天使に、宗一郎は不敵な笑みを浮かべる。


「驚く事もあるまい、魔術師……。いや、もう天使と呼んだ方がいいのか? まあ、どっちにしろ、オレの敵であることに変わりはないがな」


 そして目に注目しろといわんばかりに、片目に手を置いた。


「お前も魔術師の端くれなら、『邪視』という言葉を聞いた事があるだろう? そうだ、イービルアイ……つまりはバロールに代表されるような『魔眼』のことだ」

「何それ? お兄さん? 魔眼持ちなの?」

「そうだ。一応、こいつを授けたヤツの顔を立てて、フェルフェールの魔眼と呼んでいるがな。まあ、名前はさして問題ではない」

「ちょっと、ご主人! その言い方はあまりにヒドいッス!」

「黙れ、フルフル。……魔術師よ。ここからが本題だ」


 一旦静まっていた魔眼が、再びボウと明るくなる。

 浮かんだ魔法円は、よく見ると先ほどフルフルが描いた幾何学模様と酷似していた。


「《フェルフェールの魔眼》は、秘密にしてることを暴露させる効果を持つ。本来なら、男女の不義を見抜くために使われたようだが、この魔眼の恐ろしいところは、秘密が秘密であるほど、効果は大きい――ということだ」

「ちょっ! それって――――」


 何かを悟ったように、熾天使は一歩退く。


 宗一郎の口端が、耳に届くのではないかと思うほど広げられた。


「見た目の割にはさといな、魔術師。賢き者は嫌いではないぞ。……そうだ。この魔眼の能力は、男女の不義を見抜くことにあらず。…………秘奥とされる魔術の体系を知るものなのだ」

「ちょっ――。それチート過ぎ!!」

「故にカスマリムの眷属よ」

「バレバレかよ」

「なめるなよ、魔術師。……魔術の体系、術式をきちんと頭に入れておけば、真名を暴くなど造作もないことだ」


 自分の頭を指でつつく。

 抱擁せよとでも言うように、大きく手を広げた。


「ここで死ぬか。それとも命乞いをしてみるか。うまくやれば、下僕ぐらいにしてやるぞ」

「あ――。なら、いっちょ命乞いしてみるかなあ。でも、お兄さんみたいな意識高い系の上司はちょっとノーサンキューな……」

「うむ。よくわかるッスよお」


 フルフルが大きく頷く。


「黙れ、フルフル。さあ、どうする? 魔術師……」


 一歩一歩、宗一郎は近づいていく。

 魔術師は、都度下がる。


 炎の向こうにある顔は、敗着を予感した棋士のように歪んでいた。


 2人がちょうど広い空間の中央に辿り着いた時、つと魔術師の動きが止まる。


 肩や腕、足、胸――炎が次第に消え、再び魔術師が姿を表す。

 衣服に一片の焦げ目もついていない。

 ただ色眼鏡の奥から、宗一郎を見つめた。


「観念したか?」

「いーや、それはないね」


 すると、魔術師は何かのボタンを掲げた。


「これなんだかわかるよなあ? あんたなら……」


 宗一郎は眉をひそめる。明らかに不機嫌だった。

 説明はなくとも、想像ぐらいならつく。


 自爆装置……。

 付け加えるなら、基地と地中海を繋ぐ人類最悪の架け橋になるスイッチ。

 喜ぶのは、宗一郎の斜め後方で涎を垂らしながら、1000発の核爆弾の同時点火を待っている悪魔ぐらいなものだ。


「もっとも愚かな選択だな、魔術師」

「自爆なんて考えてねぇぜ。俺様は炎の化身ちゃんだからよ。たとえ、核が爆発しようが、さっきの炎形態になれば、全然よゆー」

「もう少し……。頭がいいと思ってんだが」

「いやいや、頭いいじゃん。あんたは死ぬ。俺、生き残る。心配すんなよ。最強の名前は引き継いでやんよ」


 宗一郎は一歩踏み出し、手を伸ばした。


「かっ! 馬鹿が!!」


 魔術師は再び炎の化身となる。

 そして躊躇いもせず、ボタンを押し込んだ。


 光が閃く――。


 人間の眼球を破壊してしまいそうな光の波。


 次いで左右の耳道をつなげてしまうかのような轟音。


 しかし、感覚一切が無意味だった。


 瞬間的に発生した熱は、太陽核の熱量に匹敵。

 人を紙くずのように燃やしてしまう。


 人類がこれまで体験したことのない照度の光、そして熱が、地下100メートルの地中で炸裂した。


 基地の上にある500万トンもの土をあっさり跳ね飛ばし、震度7以上の大地震が襲う。

 地は割れ、熱砂は衝撃破によって上空1000メートル付近まで吹き飛んでいった。


 巨大な噴煙が舞い上がり、ドクロのようなキノコ雲は大量の放射能をまき散らす。



 ――――はずだった。



 宗一郎は、骨すら残らずこの世から消えているはずだった。

 だが、一対の影は立っていた。


 炎の化身となった魔術師は呆然と見つめている。

 宗一郎の手の上に浮かんだ1個の光球を。


 核爆弾やミサイルの姿はどこにもない。

 いつの間にか、立っている地面も崩れかけていた。


 しかし、2人の魔術師は向かい合っている。

 核から放たれたエネルギーは、歪められ、すべて宗一郎の光球の中へと吸い込まれていく。まるで上質な布団クリナーのように無音で、淡々と熱と光をなめとった。


「…………」


 魔術師は初めて口を閉じて、沈黙した。


「ようやく黙ったな。魔術師よ」


 涼しい顔に笑みが浮かぶ。

 すると、光球を持つ手に力を入れた。

 宗一郎の握力に抗することもできぬまま、1000発の核のエネルギーは握り潰された。


 後に残ったのは、わずかに残った塵だけだった。


「あんた、何をした?」

「何をとは心外だな、魔術師よ。オレは魔術師だぞ。魔術以外に何を使おうというのだ。核分裂反応なんて、魔術の秘奥の理論の前では、子供の算数みたいなものだろう。オレの因果の操作の前では、造作もない」

「で、でも核の力を押し込むなんて! んな――不可能だろ!」

「不可能……」


 今日一番の笑みが浮かぶ。

 邪悪というか、無邪気と評すべきか……。

 表情筋に一切の妥協を許さず、まさに悪魔じみていた。


「良い響きだ。……そして忌々しくもある」

「なにぃ……」

「オレはな。『不可能』『無理だ』という言葉が嫌いで、魔術師になった口でな」

「は――?」

「それを聞くと、どうしても達成をしたくなるんだよ」


 フルフルは大きく息を吐き出す。


「相変わらず、ご主人は意識が高いッスねぇ……」

「うるさいぞ、フルフル」


 魔術師が拳を握り、声を上擦らせた。


「ま、まさかとは思うけどよ。世界中の武器の完全撲滅なんていう絵空事を思いついたのも、それが理由じゃないだろうな?」

「なんだ……? やはり賢いな……。まあ、それに免じてというわけではないが、答えてやろう――」



 “それ以外に、何の理由があるというのだ……”




次が本日ラストです!


※ 本日21時に投稿します。

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