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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第57話 ~ 私のゲームのボスキャラにならない ~

『アラフォー冒険者、伝説になる~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』が、

7月10日に発売されました。是非、週末のお供にお加えください。

よろしくお願いします。

 通されたのは、城の中にある居住区だった。


 そこにはルーベルと同じ出身の獣人たちが住んでいる。

 彼らは城の清掃や整備の人員として雇われていた。だが、モンスターが押し掛けてからは、ルナフェンの命令で待機が命じられていた。


 食糧の備蓄などは十分だったが、獣人たちは不安な日々を過ごしている。

 悲壮感が漂う一方で、ルーベルが帰ってきたことは久方ぶりの良い出来事だった。


 彼女の親類や村の人間が集まってくる。

 じゃじゃ馬娘の帰郷に拍手を送り、手荒い歓迎をするものもいた。

 ルーベルは泣いて喜んでいた。


「(なんだ……。ちゃんと心を許せる人たちがいるじゃない)」


 村人たちに揉みくちゃになるルーベルを見ながら、ローランは思った。


 彼女の父母は、獣人狩りにあった時に亡くなったと聞いた。

 いつもどこか人と一線を引き、1匹狼を気取っていたが、きちんとルーベルには帰る場所があったらしい。旅をするうちに、妙な母性本能に目覚めたローランは、ほっと胸を撫で下ろした。


「この方はどなただ、ルーベル?」


 村の代表者らしき獣人が尋ねた。


 ローランはそっとお辞儀をする。


「初めまして、ローランと申します。ルーベルさんとは懇意にさせていただいています」


「なんと! ルーベルの友達か」

「村で1匹狼を気取っていたルーベルに友達とはな」

「あれ? ローランってどっかで聞いたような……」


 どうやら村でもルーベルは、あんな感じらしい。

 想像すると、また笑気がこみ上げてきた。


「ぼ、ボクは友達なんて!」


「まあ、ひどい! では、私との関係は遊びだったのね。よよよ……」


「そ、そんなことはない。ローランはボクの友達で――――あっ!」


「ふふん。引っかかったわね」


「な! 騙したなあ、この詐欺師女!」


 詐欺師女というのは、ローランの蔑称だ。

 彼女がルーベルのことを聞き出すために、手を変え品を変え、時に強引な方法を使ってるうちに、『詐欺師女』という称号が生まれてしまった。


 ちょっとやりすぎたとローランも反省しているのだが、ルーベルはからかい安くて、あまりに面白すぎた。

 今でも、明らかに嘘泣きなのに、本気で慌てるのだ。


 人と群れてこなかったから、単純な嘘でも真剣に捕らえてしまうのだろう。


 ある意味、真摯で実直なところが出ていて、それがルーベルの長所につながっているといえる。


 しばし住居区は歓喜に包まれたが、1人の存在によって、途端に静かになった。

 突如、村人たちは膝を突く。

 ルーベルも同じくだ。

 何が起こったかわからないローランは、後ろを振り返る。


 【魔王】ルナフェンが立っていた。


「ローレス王国の王女ローラン」


「は、はい……」


「少し話がある。俺の部屋まで来い」


「る、ルナフェン! あまり乱暴なことは!」


 ルーベルが立ち上がる。


 すると、ルナフェンは一瞬笑ったようが気がした。


「手荒なことはしない。事情を聞くだけだ。心配ならお前もついてこい」


 通された部屋は割と普通の部屋だった。

 【魔王】というから、髑髏が付いた禍々しい玉座に座っているのかと思ったが、違う。


 執務用の椅子と机が一脚ずつ。

 応接用のソファも置かれている。

 オーバリアントで良く見るタイプの執務室だった。


 ただ調度品は変わっていて、子供が作ったような木彫りの像や絵、押し花が飾られている。

 どうやら、村の人間から贈呈されたものらしい。


 これだけを見ても、ルナフェンが慕われているのがわかる。

 とても【魔王】という異名に相応しいとは思えなかった。


 大きな身体をソファに沈め、まずルナフェンはローランにここに至るまでの経緯を聞いた。


 どうやらRPG病にかかった時に起きたことを、覚えていないらしい。

 ラフィーシャからも聞いてはいるのだが、それがすべてではない事は、薄々わかっているようだった。


「私もRPG病にかかっていたので、人から聞いた話なのですが……」


 前置きした上で、ローランは知る限りの世界情勢を伝えた。

 とりわけ印象的だったのは、【魔王】がある話に肩を落としたことだ。


「やはり、プリシラは死んだのか……」


「もしかして、お知り合いだったとか?」


 まさかと思って尋ねてみたが、ルナフェンは躊躇いがちに頷いた。


「知り合いというのも変だがな。この世界では、なんといった……。ああ、そうだ。好敵手といったか。彼女と俺は、いわばその……宗一郎と、ラフィーシャの関係に近いものがある」


 つまり、勇者とラスボスの関係だと話した。


 ローランは思い切って突っ込む。


「あの……。よければ、その辺りのお話を聞かせてもらえないでしょうか?」


「随分、昔の話だ。我々はラフィーシャが開いた異次元ゲートを通ってオーバリアントにやってきた。その頃は、我々は何も知らず、ただこの世界の住人を虐殺し、世界を自分たちのものにしようと考えていた。だが――」


「プリシラ様が現れた……」


「そうだ。彼女の力――呪術といったか――あれは圧倒的だった。我らが眷属たちは、あっという間に半数に減らされた。そして、その刃が俺にかかるのも、時間の問題だった」


 激戦の末、ルナフェンは負けた。

 死を覚悟した時、唐突にプリシラは刃を下ろし、こういったという。



『あなた、なかなか強いわね。私のゲームのボスキャラにならない』



 ローランは思わずソファの上でずっこけた。


 破天荒な性格で、ひどいゲーム狂だということは、宗一郎から伝え聞いていた。だが、まさか直前まで戦いを繰り広げていた相手を、自分の世界のボスキャラにしようなんて提案――現代世界にもオーバリアントにも、彼女ぐらいしかいないだろう。


 それを言うなら、ローランも大したものだった。

 単身で護衛も付けず、敵中に入り込んだのだ。

 ユカが聞いたら、さぞかし頭を抱えたことだろう。


 プリシラはルナフェンにこうも言ったのだという。



『あんたたちは被害者なのよ。私は助けにきただけ。あなたと、あなたの眷属を』



 そうして、ルナフェンたちはゲーム世界の悪役を演じることになった。

 少々気分の悪い役目ではあるが、自分とモンスター、そしてオーバリアントの住民と共存するためには、致し方ない方法だといえた。



『ゲームってね。勇者しか困っていないものよ。確かにイベントキャラの一部では困っている人はいるけど、命の危険性があるわけじゃない。でも、勇者は違う。自分で考え、行動しなければ、前にも後ろにも、生きることも死ぬこともできない。だから、私の世界では勇者はいらない。そうすれば、全人類みな幸せと思わない? 人間同士で斬った張ったやってるよりは、1000億倍マシだと思うわ』



「と、飛んでもない考え方ですね」


 さしものローランも引いてしまった。

 暴論といってもいい。

 だが、プリシラの狙い通り、モンスターの出現によって各国の諍いはなくなり、スキルや魔法の登場によって、命の保証がなされた。


 プリシラの言うとおり、昔よりも1000億倍マシな世の中が出来上がったのだ。


「側でその話を聞いていた俺はこう思った」


「それは?」


「あいつは多分、いつか勇者が現れて、自分が作ったゲームで遊んで欲しいのではないか、とな」


 ルナフェンは寂しそうに笑った。


 その印象的な表情を見ながら、ローランは話を変える。


「ルナフェン様。なら、私たちに協力していただけませんか?」


「協力?」


「またゲーム世界に戻すのです。プリシラ様が愛した世界に」


 緋色の眼は真剣に目の前の【魔王】に向けられていた。


 しかし、ルナフェンは首を振る。

 横にだ。


「それは出来ない」


「何故ですか?」


「プリシラの世界は素晴らしい。だが、彼女はもういない」


「けれど――」


「ラフィーシャと俺を引き離そうと思っているなら、やめた方がいい。我々は、嫌々ラフィーシャについているのではない。彼女の考え、行動を支持しているからこそ、この場に留まっているのだ」


「何故だ、ルナフェン! なんで、あんなヤツの言いなりに!」


 叫んだのは、横で聞いていたルーベルだった。


 【魔王】のことを心配する獣人の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。

 その胸中は、ルナフェンに伝わったらしい。

 また寂しそうな表情を浮かべた。


「我らは帰る。我らがいた世界に……」


「帰るってどうして?」


「これ以上、この世界の人間に迷惑をかけるわけにはいかない。我々が安住できる地を見つけてくれるならば、女神だろうと、悪魔だろうと、我々は従うだろう」


 ルナフェンは鋭く眼光を光らせるのだった。


こちらも引き続き更新していくので、よろしくお願いします。

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