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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第55話 ~ フラグ的なこと ~

2018年7月10日に『アラフォー冒険者、伝説になる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』に発売されます。こちらもよろしくお願いします。

「おおおおおおおお!!」


 宗一郎の裂帛の気合いが響く。

 ピュールの魔法剣で袈裟に斬ると、赤い判定がなされモンスターが消滅した。

 周りを見渡すも、次の相手はいない。

 ヘラヘラと笑う悪魔フルフルがいるだけだった。


『馬鹿な!』


 新女神の引きつった声が、伽藍となった城の内部に響く。


 驚愕に歪む顔が見えるようだった。

 宗一郎の表情がほころぶ。

 次はお前だといわんばかりに、剣を掲げた。


 だが、ラフィーシャの驚きはもっともだった。


 モンスターのほとんどが、レベル300を越える化け物ばかりだ。

 加えて、世界のモンスターのほとんどが天空城砦に集結している。

 レベルを上げることなどできないはずだ。


『一体、どうやってレベルを……』


 新女神の疑問に、笑声で答えたのはフルフルだった。

 腰に手を当て、大きな胸をぷるりと振り上げる。


「甘い! 甘いッスよ、ラフィーシャたん! ゲーマーを舐めたらダメっす!」


『げ、ゲーマーですって……?』


「経験値を上げられないなら、上げる方法を考えるのがゲーマーっす。それでもダメならデバックルームに入って、内部情報を書き換えるだけっス」


『????』


「お前の話はわかりにくいわ!」


 宗一郎はフルフルの頭を叩いた。

 悪魔は盛大に顔からずっこける。

 だが、本人はいたって嬉しそうだった。


 ラフィーシャの対決にあたり、宗一郎が考えたのは、さらなるレベルアップだ。

 今から踏み込むのは敵の居城。

 そこには多くのモンスターがいる。

 魔力が底を尽きかけている今、レベルの強さが何よりも肝心になる。


 だが、モンスターがいないオーバリアントでこれ以上の経験値を望むのは難しい。


 では、どうやって宗一郎たちはレベルアップしたのか。


「簡単な話だ、ラフィーシャ」


 今やオーバリアントは新女神の力が隅々まで及んでいるように見えるが、実際はそうではない。

 モンスターは撤退させることに成功したが、旧女神プリシラが作ったゲーム世界は、いまだ世界に爪跡を残し続けていた。


「その1つが固定モンスターだ」


『固定モンスター?』


「特定の条件下、もしくは場所にしか現れないモンスターのことッスよ」


 例えば【エルフ】にいたニンジン型のモンスターなどがそうだ。

 だが、すでに【エルフ】への道は閉ざされている。

 そうなると別の固定ボスを探さなければならない。

 できれば、レベルが高く、たくさんの経験値を稼げるモンスターがいい。


「そこに白羽の矢が立ったのが、オーガラストっスよ」


『オーガラスト……。まさか――』


「そうだ。俺たちが戦ったのは、チヌマ山脈にいたオーガラストだ」


 この異世界に来て、初めて宗一郎が手こずった相手。

 あの特別に強化されたオーガラストを倒し、宗一郎は経験値を稼いだのだ。


 しかも、あの場所は完全にゲーム世界の中でバグっている。

 1度倒したことによって正常化したかに見えたが、再びやってくると何食わぬ顔で存在した時には、さしもの勇者も驚いた。


「しかも、精神と時の部屋の機能付き。修行するにはもってこいの場所っスよ」


 ボス部屋は時間の流れが違う。

 その性質を利用し、宗一郎とフルフルは倒しても復活し続けるオーガラストをとにかく周回しまくった。


 そうしてレベル300という超高難度のモンスターを、一撃で葬ることができる強さを手に入れたのである。


『ぐ……ぐ……。そんな――』


「ゲーム世界を甘く見過ぎたな」


「ふふん。ゲームに関しちゃ。フルフルの方が1歩も2歩も上ッスよ」


『ふふふ……。あははははははは!』


 ラフィーシャは突然笑い出した。

 気が触れたのか――いや、そんな安い精神ではない。

 このダークエルフの女神は。


『そうこなくちゃね、勇者様。私の遊び相手としては、まずは合格かしら』


「俺はお前とゲームに興じるつもりも、ダンスの相手をするつもりもない。降りてこい、ラフィーシャ。決着をつけてやる」


『それは興ざめというものかしら、勇者様。大ボスは一番最後。それがゲームの醍醐味でなくて』


「確かに……。開始早々ボスアタックとか勘弁してほしいッスよ」


 フルフルは深く頷く。

 その薄紫の頭を宗一郎はまた叩いた。


 再度、天井を睨んだ。


「登ってこい、ということか?」


『勇者様に登ってこいなんて恐れ多くていえないわ。登ってこれるものなら、登ってこい――かしら?』


「良かろう」


『上の階には麗しのお姫様もいるわ。助けにきてあげて、王子様』


「まなかがいるのか?」


『心配しないで。丁重に扱っているから。直接会えるのを楽しみにしているわ』


 新女神の気配が消える。


 宗一郎はようやく剣を下ろし、鞘に収めた。


「まなか姉……」


「大丈夫ッスよ、ご主人。ドラ○エの竜王だって、王女を殺さずドラゴンに守らせていたんスよ。人質には手を出さない。これが悪の美学ッス」


「こんなところまで来てゲームか、お前は」


「プリシラたんもいっていたでしょ」



 あんたも楽しんでよ。



「折角のゲーム世界ッスよ。遊び尽くさないと損ッスよ」


 岩のように固まっていた宗一郎の顔が綻ぶ。

 口端を緩めると、鼻で笑った。


「初めてだな。お前の意見を聞いて、一理あると思ったのは」


「おお。それは良いことッス。むふふふ……これはフラグッスね。このままセッ○スするッスか。危機的な状況の中で男と女が交わる。ハリ〇ッドではありがちな展開っすけど、生存意欲を高まっているからこそ――」


「黙れ、淫乱悪魔」


 思いっきりフルフルの頭を鞘に納まった剣で殴る。


 ぷかっと大きな瘤が浮き、悪魔は蹲った。

 宗一郎は剣を腰に提げ直すと、口を開く。


「だが、まあ……。このごたごたが終われば、考えてやらんわけでもないな」


「――――!」


「どうした? 嬉しくないのか?」


「い、いや~~。その……むしろ気持ち悪いというか」


「う、うるさい! 異世界に来てから、お前には一応世話になってきたからな。なんらかの形で報いてやりたいと思っただけだ」


 主人の顔が真っ赤になる。

 フルフルは思わずクスリと笑った。

 悪魔的ではなく、普通の生娘のように純粋な笑顔だった。


「でも、いいッスよ。フルフルはご主人の契約悪魔ですし。ご主人に力を貸すのは、契約上の義務ッスから」


「なんだ。お前なら、飛びついてくるのかと思ったが」


「フルフルだって、したい時としたくない時があるッスよ。それに――」


「それに?」



 そういうフラグ的なことは立てない方がいいッス。



 フルフルはそれ以上いわず、心の中で留めた。


 やがて悪魔は笑う。

 1つ誓いを立てた。


 ――ご主人は必ず守るッスよ。



 ◇◇◇◇◇



 天空城砦の廊下を1人の少女が歩いていた。


 黄金色の長い髪。

 褐色の肌。

 青色の瞳は、つり目と相まって強い光を帯びていた。

 だが、もっとも彼女を特徴的に見せているのは、頭から出た狐のような耳。そしてお尻から出たふわふわの尻尾だった。


 手にはトレー。

 葉野菜やゆで卵をパン生地で挟んだ料理が載っていた。


 つと足が止まる。


 わずかに微震を感じたのだ。

 賊が城に入ったことは知っている。

 だが、天空城砦に自由に出入りする身でありながら、彼女は動こうとはしない。

 少女が従う人物は、他にいるからだ。


 とある部屋の前で立ち止まる。

 ノブを回そうと思ったが、寸前のところで引っ込めた。

 部屋の主にノックをしてほしいと、うるさいぐらいいわれているからだ。


 こんこん……。


 ノックをすると人の声が返ってきた。

 涼やかな声だ。

 少女の耳がピクピクと反応する。

 そしてようやくドアノブを回した。


 部屋は戦争をするための城砦とは思えないほど、家具が一揃え備えられていた。

 書棚には本も並んでいる。

 まるで貴族の屋敷のようだ。


「いらっしゃい、ルーベル」


 ソファに座った部屋の主は、穏やかに笑みを浮かべた。

 ここでは囚人にも関わらず、余裕さえ感じる。

 その態度も雰囲気も、出会った当時のままだった。


 一体、こんな小さく弱い身体のどこに、このような胆力があるのか。

 ルーベルには不思議でならなかった。


 読んでいた本を仕舞う音に、ルーベルはようやく我に返る。


「あら。サンドウィッチね。よかった。ちょうどお腹が空いていたの」


 そういうと、黒星まなかはお腹をさすった。


本日18時頃に『ゼロスキルの料理番』という新連載が始まります。

誰もがスキルが使える世界で、唯一スキルを使えず虐げられた主人公が、誰も思いつかなかった料理で、SSクラスの姫騎士、神獣、聖霊たちの舌を唸らせていく飯ものです。

今のなろうの流行からは離れていますが、とっても面白く美味しいお話なので、是非読んで下さい!

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