第55話 ~ フラグ的なこと ~
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「おおおおおおおお!!」
宗一郎の裂帛の気合いが響く。
ピュールの魔法剣で袈裟に斬ると、赤い判定がなされモンスターが消滅した。
周りを見渡すも、次の相手はいない。
ヘラヘラと笑う悪魔フルフルがいるだけだった。
『馬鹿な!』
新女神の引きつった声が、伽藍となった城の内部に響く。
驚愕に歪む顔が見えるようだった。
宗一郎の表情がほころぶ。
次はお前だといわんばかりに、剣を掲げた。
だが、ラフィーシャの驚きはもっともだった。
モンスターのほとんどが、レベル300を越える化け物ばかりだ。
加えて、世界のモンスターのほとんどが天空城砦に集結している。
レベルを上げることなどできないはずだ。
『一体、どうやってレベルを……』
新女神の疑問に、笑声で答えたのはフルフルだった。
腰に手を当て、大きな胸をぷるりと振り上げる。
「甘い! 甘いッスよ、ラフィーシャたん! ゲーマーを舐めたらダメっす!」
『げ、ゲーマーですって……?』
「経験値を上げられないなら、上げる方法を考えるのがゲーマーっす。それでもダメならデバックルームに入って、内部情報を書き換えるだけっス」
『????』
「お前の話はわかりにくいわ!」
宗一郎はフルフルの頭を叩いた。
悪魔は盛大に顔からずっこける。
だが、本人はいたって嬉しそうだった。
ラフィーシャの対決にあたり、宗一郎が考えたのは、さらなるレベルアップだ。
今から踏み込むのは敵の居城。
そこには多くのモンスターがいる。
魔力が底を尽きかけている今、レベルの強さが何よりも肝心になる。
だが、モンスターがいないオーバリアントでこれ以上の経験値を望むのは難しい。
では、どうやって宗一郎たちはレベルアップしたのか。
「簡単な話だ、ラフィーシャ」
今やオーバリアントは新女神の力が隅々まで及んでいるように見えるが、実際はそうではない。
モンスターは撤退させることに成功したが、旧女神プリシラが作ったゲーム世界は、いまだ世界に爪跡を残し続けていた。
「その1つが固定モンスターだ」
『固定モンスター?』
「特定の条件下、もしくは場所にしか現れないモンスターのことッスよ」
例えば【エルフ】にいたニンジン型のモンスターなどがそうだ。
だが、すでに【エルフ】への道は閉ざされている。
そうなると別の固定ボスを探さなければならない。
できれば、レベルが高く、たくさんの経験値を稼げるモンスターがいい。
「そこに白羽の矢が立ったのが、オーガラストっスよ」
『オーガラスト……。まさか――』
「そうだ。俺たちが戦ったのは、チヌマ山脈にいたオーガラストだ」
この異世界に来て、初めて宗一郎が手こずった相手。
あの特別に強化されたオーガラストを倒し、宗一郎は経験値を稼いだのだ。
しかも、あの場所は完全にゲーム世界の中でバグっている。
1度倒したことによって正常化したかに見えたが、再びやってくると何食わぬ顔で存在した時には、さしもの勇者も驚いた。
「しかも、精神と時の部屋の機能付き。修行するにはもってこいの場所っスよ」
ボス部屋は時間の流れが違う。
その性質を利用し、宗一郎とフルフルは倒しても復活し続けるオーガラストをとにかく周回しまくった。
そうしてレベル300という超高難度のモンスターを、一撃で葬ることができる強さを手に入れたのである。
『ぐ……ぐ……。そんな――』
「ゲーム世界を甘く見過ぎたな」
「ふふん。ゲームに関しちゃ。フルフルの方が1歩も2歩も上ッスよ」
『ふふふ……。あははははははは!』
ラフィーシャは突然笑い出した。
気が触れたのか――いや、そんな安い精神ではない。
このダークエルフの女神は。
『そうこなくちゃね、勇者様。私の遊び相手としては、まずは合格かしら』
「俺はお前とゲームに興じるつもりも、ダンスの相手をするつもりもない。降りてこい、ラフィーシャ。決着をつけてやる」
『それは興ざめというものかしら、勇者様。大ボスは一番最後。それがゲームの醍醐味でなくて』
「確かに……。開始早々ボスアタックとか勘弁してほしいッスよ」
フルフルは深く頷く。
その薄紫の頭を宗一郎はまた叩いた。
再度、天井を睨んだ。
「登ってこい、ということか?」
『勇者様に登ってこいなんて恐れ多くていえないわ。登ってこれるものなら、登ってこい――かしら?』
「良かろう」
『上の階には麗しのお姫様もいるわ。助けにきてあげて、王子様』
「まなかがいるのか?」
『心配しないで。丁重に扱っているから。直接会えるのを楽しみにしているわ』
新女神の気配が消える。
宗一郎はようやく剣を下ろし、鞘に収めた。
「まなか姉……」
「大丈夫ッスよ、ご主人。ドラ○エの竜王だって、王女を殺さずドラゴンに守らせていたんスよ。人質には手を出さない。これが悪の美学ッス」
「こんなところまで来てゲームか、お前は」
「プリシラたんもいっていたでしょ」
あんたも楽しんでよ。
「折角のゲーム世界ッスよ。遊び尽くさないと損ッスよ」
岩のように固まっていた宗一郎の顔が綻ぶ。
口端を緩めると、鼻で笑った。
「初めてだな。お前の意見を聞いて、一理あると思ったのは」
「おお。それは良いことッス。むふふふ……これはフラグッスね。このままセッ○スするッスか。危機的な状況の中で男と女が交わる。ハリ〇ッドではありがちな展開っすけど、生存意欲を高まっているからこそ――」
「黙れ、淫乱悪魔」
思いっきりフルフルの頭を鞘に納まった剣で殴る。
ぷかっと大きな瘤が浮き、悪魔は蹲った。
宗一郎は剣を腰に提げ直すと、口を開く。
「だが、まあ……。このごたごたが終われば、考えてやらんわけでもないな」
「――――!」
「どうした? 嬉しくないのか?」
「い、いや~~。その……むしろ気持ち悪いというか」
「う、うるさい! 異世界に来てから、お前には一応世話になってきたからな。なんらかの形で報いてやりたいと思っただけだ」
主人の顔が真っ赤になる。
フルフルは思わずクスリと笑った。
悪魔的ではなく、普通の生娘のように純粋な笑顔だった。
「でも、いいッスよ。フルフルはご主人の契約悪魔ですし。ご主人に力を貸すのは、契約上の義務ッスから」
「なんだ。お前なら、飛びついてくるのかと思ったが」
「フルフルだって、したい時としたくない時があるッスよ。それに――」
「それに?」
そういうフラグ的なことは立てない方がいいッス。
フルフルはそれ以上いわず、心の中で留めた。
やがて悪魔は笑う。
1つ誓いを立てた。
――ご主人は必ず守るッスよ。
◇◇◇◇◇
天空城砦の廊下を1人の少女が歩いていた。
黄金色の長い髪。
褐色の肌。
青色の瞳は、つり目と相まって強い光を帯びていた。
だが、もっとも彼女を特徴的に見せているのは、頭から出た狐のような耳。そしてお尻から出たふわふわの尻尾だった。
手にはトレー。
葉野菜やゆで卵をパン生地で挟んだ料理が載っていた。
つと足が止まる。
わずかに微震を感じたのだ。
賊が城に入ったことは知っている。
だが、天空城砦に自由に出入りする身でありながら、彼女は動こうとはしない。
少女が従う人物は、他にいるからだ。
とある部屋の前で立ち止まる。
ノブを回そうと思ったが、寸前のところで引っ込めた。
部屋の主にノックをしてほしいと、うるさいぐらいいわれているからだ。
こんこん……。
ノックをすると人の声が返ってきた。
涼やかな声だ。
少女の耳がピクピクと反応する。
そしてようやくドアノブを回した。
部屋は戦争をするための城砦とは思えないほど、家具が一揃え備えられていた。
書棚には本も並んでいる。
まるで貴族の屋敷のようだ。
「いらっしゃい、ルーベル」
ソファに座った部屋の主は、穏やかに笑みを浮かべた。
ここでは囚人にも関わらず、余裕さえ感じる。
その態度も雰囲気も、出会った当時のままだった。
一体、こんな小さく弱い身体のどこに、このような胆力があるのか。
ルーベルには不思議でならなかった。
読んでいた本を仕舞う音に、ルーベルはようやく我に返る。
「あら。サンドウィッチね。よかった。ちょうどお腹が空いていたの」
そういうと、黒星まなかはお腹をさすった。
本日18時頃に『ゼロスキルの料理番』という新連載が始まります。
誰もがスキルが使える世界で、唯一スキルを使えず虐げられた主人公が、誰も思いつかなかった料理で、SSクラスの姫騎士、神獣、聖霊たちの舌を唸らせていく飯ものです。
今のなろうの流行からは離れていますが、とっても面白く美味しいお話なので、是非読んで下さい!




