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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第53話 ~ 人がゴミのようだ! ~

色々お待たせしましたw

『キャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』


 狂ったような声が甲板に響き渡る。

 伝聲石(ケーサ)からもたらされる女神の大笑に誰も反応していなった。


 見ていたのは、北西に浮かぶ大きな雲だ。


 水平線上の向こうにかかわらず、はっきりキノコの形が見える。

 次いで吹き荒れた風の中には、怨嗟の声が聞こえたような気がした。


「アーラジャが……」


 何が起こったか、理解出来ていた。

 そして雲の下で何が起こっているのかも。


 特にアーラジャを支持していた兵士の落胆は大きい。

 皆持っていた武器を取り落とし、口をカッと空けて固まっていた。

 瞳は絶望に揺れ、涙を浮かべているものもいる。


 逆に怒りを露わにしたのは、敵対していたマキシア帝国女帝だった。

 金髪を振り乱し、鬼のような形相で空を睨む。

 緑の瞳に映っていたのは、天空を渡る城の姿だった。


「ラフィィィィィィィィシャァァァァァアアアアアアア!!!!」


 ライカは猛り狂う。


 敵国も自国も関係ない。

 あの下で大量の人間が死んだ。

 それは紛れもない事実なのだ。


 しかし、新女神に反省の弁はない。

 むしろライカの怒りを感じ、それを肴にして酔いしれていた。


『はぁぁぁああ……。溜まらないわ、ライカ陛下。その怒り、憎しみ、呪詛……。そう――それが見たかったのよ。お利口なあなたの顔が歪むところをね』


「貴様! 何故だ!! アーラジャはお前の庇護下にあるのではなかったのか? 何故、それを裏切った?」


『そうね。確かに私はアーラジャに力を貸したわ。そのために数発の【太陽の手(バリアル)】も譲ってあげた。庇護下にあることは確かね』


「なら――」


『陛下、私はね。作法に則っただけなのよ』


「作法だと……?」


「益あるものと手を握る――そういうことね、叔母さん」


 気づけば、パルシアは伝聲石(ケーサ)を手の平に載せていた。

 その顔は中庸だ。

 悲しそうでもあり、深い怒りの渦中にいるようにも見える。

 だが、口から吐き出された言葉には、力強さを感じた。


「だったら、次に叔母さんと組んだのどこの国、勢力なのかしら? ウチバ、それともエジニアかしら?」


『あははは……。違うわ、パルシア。我が姪っ子。私が組んだのはどこでもない。何せね――』



 私の味方は私だけだから……。



 ライカはぐっと奥歯を噛んだ。


「最初から誰とも組むつもりはなかったということか!!」


『当たり前でしょ。この世に新女神ラフィーシャ様を頼りにするものがいても、私が頼りにするものなどいない。私は神なのよ、陛下。唯一オーバリアントに君臨する神。一体、誰が私と対等であるというの!』


 パルシアは顔を上げた。

 ライカと同じく城を見つめる。


「人間と組む振りをし、マキシア帝国やその同盟国に対して、敵意を煽るようなことをしていたのは、その城の準備の時間稼ぎだったってこと」


『なかなか頭が回るわね。さすがはアフィーシャの子供。素直に誉めて上げるわ』


「くそっ! じゃあ、グアラルを攻撃し、アーラジャの内部の意見を割ったのも」


『そう……。この私よ』


「どういうことだ、パルシア?」


 ライカは尋ねると、ダークエルフの少女は俯いた。

 両拳を強く握り、告白する。


「ごめん、陛下。報告は遅れたけど、グアラルを攻撃したのは、ぼくたちじゃないんだ」


「グアラルに対し、従属するように脅しをかけたのは事実だ」


 ドクトルが割って入る。


「だが、それはあくまで脅しだ。都市を破壊するつもりはなかった。そもそも【太陽の手】も仕掛けていなかったしな」


「何故、それを先にいわなかった」


「言っても信じてもらえないと思ったんだよ」


 確かに……。

 あの張り詰めた交渉の場でいったとしても、素直に信じられなかったかもしれない。

 それを見越し、パルシアはグアラルを破壊したことを既成事実化して、逆に交渉を有利に進めるようにドクトルに進言した。


 オーバリアントに漂う戦争の気配を、いち早く消そうとしたのだ。


 しかし、叔母の方が1枚上手だった。


『私の意図を読んだ事はさすがと誉めてあげるわ、パルシア。けれど、予測したところで、その結果が覆らなければ参謀としては失格よね』


「ならば、貴様の目的はなんだ、ラフィーシャ!」


『決まってるわ、オーバリアントをもっと面白いものに作り替える』


「オーバリアントを作り替えるだと」


『そうよ。もっと私好みに作り替える。手始めにまた【ゲート】を開くわ』


「ゲート?」


「昔、アフィーシャとラフィーシャが開いたっていう異次元へのゲートのことでしょ。そこから、モンスターがやってきたっていわれてる」


 パルシアは捕捉する。


 人間、獣人、エルフ、モンスター、そこにさらなる未知のモンスターが加わる。

 そうなれば、ストラバールはさらなる混沌とした時代を迎えることになるだろう。


「なら、その野望を砕くまでだ!」


 ライカは剣を城へとかざした。

 勇ましい声に、その場にいた人間すべてが勇気づけられる。

 家族を失った悲しみに暮れるアーラジャ兵士たちも息を吹き返し、ともに気勢を上げた。

 ドクトルも、パルシアも、ゼネクロも、艦長も混じる。


 混沌を望むラフィーシャであったが、確実に人間の意志は、新女神打倒に集約しようとしていた。


『それが出来れば――の話ではないかしら(ヽヽヽ)


「なに?」


『この城には1000発以上の【太陽の手(バリアル)】があるのよ』


「1000発じゃと……」


『さらには、【太陽の手】を作る工場も完備している。そしてこの機動城砦……。これが示す事実がどういうことを指さすのか、おわかりかしら、陛下?』


「すべての国や地域に【太陽の手】が撃てるということか……」


『あははははははは……。大正解!!』


 伝聲石(ケーサ)から拍手が聞こえる。

 悪魔の哄笑に、一同絶句した。


 だが、ライカは怯まない。

 それどこから笑みを浮かべた。


「撃てるものなら、撃ってみるがいい、ダークエルフよ」


『あら……。珍しく挑発するじゃない。アーラジャが壊滅したことをもう忘れているのかしら』


「お前こそ忘れていないか? 新女神に武器を向けるものは、ここにいるものだけと思ったら、大間違いだぞ」


『何をいって――』


 瞬間、伝聲石から轟音が響いた。


 かなり大きな魔力の干渉があったのだろう。

 通信がぷつりと途絶える。


 何があったか明白だった。


 新女神がいると思われる機動城砦に、突如煙が立ち上ったのだ。


 すると、何か黒い塊が陽の光を遮る。

 空気を切り裂き、落ちてきたのは巨大な城門だった。


 海に激突した瞬間、大きな水柱が立ち上る。

 水しぶきは、ライカたちが立っていた甲板にまで届いた。


「な、何が起こったんですかい?」


 艦長が戸惑った様子で、顔を上げる。


 マキシアの女帝は、薄く微笑んだ。


「やって来たんだよ」


 我らが勇者が…………。



 ◇◇◇◇◇



「いやー、最終決戦の場が空飛ぶ城なんて乙っすねぇ。ふはははは……。人がゴミのようだ! とかいってみたいッス」


 ツーサイドアップにした薄紫の髪を揺らしながら、少女は嬉々としていった。

 浅黒い肌。超然とした金色の瞳。

 悪戯っぽい白い八重歯を覗かせ、笑っている。


「うるさいぞ、フルフル。ここは敵地だ。少しはらしくしろ」


 そういったのは、日本人の男だった。


 黒い髪を撫でつけ、高そうなスーツをビシッと決めている。

 手には剣が握られ、油断のない眼光を城の奥へと向けていた。


「へへへ……。そんなこといいながら、ご主人も1度はいいたいんでしょ。ジ○リの名言を」


「黙れ、お喋り悪魔。……が、悪くはないな」


「おお。珍しくご主人がやる気っすね」


 男は立ち止まる。

 仁王立ちになり、城のど真ん中で叫んだ。


「3分待ってやる! 俺と勝負しろ! ラフィーシャ!!」


 魔術師にして、オーバリアントの勇者。


 杉井宗一郎が、天空城砦に降り立った。


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