表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

285/330

第46話 ~ 最後は船とともに…… ~

久しぶりに更新しました。

終章46話です。

 突如として鳴り響く轟音。


 それとともに、船体は大きく傾いた。

 杯に注がれた酒がこぼれる。

 それどころか手を放し、甲板上を転がると、酒と一緒に海へと放り出された。


「なんだ!!」


 姿勢を整え、いの一番に顔を上げたのはドクトルだった。

 続いて艦長、パルシア、そしてライカ、ゼネクロと続く。


 風切り音は止まない。

 帆に何かが貫くと、艦首前方にあった島国連合の軍艦に突き刺さる。

 次の瞬間、激しい音とともに炸裂した。

 木片がドクトルが乗艦する旗艦にまで届く。


 艦砲であることは間違いない。


 ドクトルは艦首へと走る。

 元首の姿に、一同も付き従った。

 崩れた欄干に手を置き、彼方を見やる。


「――――ッ!!」


 息を呑んだ。


 艦首砲を搭載した軍艦。

 その船檣の先には、旗が翻っている。

 青地に金貨を模した星がちりばめられた旗。

 島国連合とマキシア帝国の軍艦がもつれる海域に向かって、全速で向かってきている。


「どういうことだ!? アーラジャの軍艦じゃねぇか!」


 艦長は声を荒げた。

 皆も口を噤み、艦首砲を向ける無傷の艦隊を見つめる。


 驚くのも無理はない。

 アーラジャの艦隊は、【太陽の手(バリアル)】に巻き込まれ全滅したはずだからだ。


「新手か……」


 ドクトルが知る限り、アーラジャが保有していた艦隊は、今ここにあるものですべてのはずだ。

 元首が知らないところで新造艦を作っていたとしか考えられない。


 エジニアが裏切ったという可能性もないが、わざわざアーラジャの旗を使うとは考えにくい。


「司令官、どうしやす?」


 艦長が尋ねる。

 ドクトルは周りを伺う。

 マキシアの特攻作戦は島国連合の船に壊滅的なダメージを与えていた。

 動く船は何隻かはあるが、密集しすぎて取り回しが難しい。

 曳航船で動かなくなった船を先に排除しなければならない。

 特攻したマキシアの船にも同じ事がいえた。


「元首、投降の信号旗を上げてみては?」


 提案したのはライカだ。


「私から事情を話しましょう。決して悪いようにはしません」


 ドクトルとパルシアは一瞬、アイコンタクトを取る。

 現状、ライカの提案以上に生き残る手段はない。

 海に逃れる手もあるが、この海域は殺人魚(ロダニー)が多い。

 生存確率は限りなく0に近いだろう。


「わかった。よろしく頼む」


 早速、投降の信号旗を上げる。

 同時にマキシア艦隊からは、事情を説明したい旨の手旗信号を送った。

 つと艦砲が止む。

 気づけば、マキシア艦隊、島国連合艦隊は壊滅的な打撃を受けていた。

 無傷の艦船を探す方が難しい状況だ。


 対しアーラジャの新手の軍艦の数は7隻。

 傷ついた島国連合とマキシア艦隊を取り囲むように円陣を組む。

 船側を向け、艦砲をこちらに向けた。


 物々しい雰囲気だ。

 アーラジャからは何も応答がないのが一層不気味だった。


「陛下……」


 ゼネクロは耳打ちする。

 様子がおかしいことを察したのだろう。


「ゼネクロ、すぐに動かせる船はあるか?」


「1隻ならばなんとか。少々場所が遠いですが」


「退路を確保してくれ。最悪、ドクトルとパルシアだけでも逃がす」


「よろしいのですか?」


 ドクトルはともかくとしても、ダークエルフまで助けるのは、ゼネクロにとって意外だった。

 マキシアにはかの一族に、国自体を滅茶苦茶にされた過去があるからだ。


「彼らは大事な同志だ。ここで死なせるのはおしい」


「わかりました。――おい、行くぞ」


 ゼネクロが尻を叩いたのは、艦長だった。


「なんだよ、爺さん」


「優秀な船員が必要なのだ。お前も来い。最後は船とともに……という柄でもあるまい」


「ちっ! 仕方ねぇなあ」


 艦長はドクトルの許可をもらい、ゼネクロと一緒に動き出す。

 すると、見張り台に上った船員から報告が来た。


「短艇が降りてます。何人かがこちらに」


「誰だ?」


 ドクトルが尋ねる。

 遠見鏡を覗いた船員は報告を送った。


「ただの水兵のようです」


「水兵……」


 ますます怪しい。

 こちらは降伏している。

 戦意もないし、そもそも攻撃できる手段もない。

 艦長もしくは副官以上の役職の人間が、使者として立つのが通例のはずだ。


 アーラジャの使者を乗せた短艇は、旗艦に横付けする。

 下ろされた縄ばしごを登り、甲板へと姿を見せた。


「よくこられた使者殿」


 最初に迎えたのはライカだった。

 マキシア帝国女帝直々の歓待に使者は驚く。

 が、それ以上反応することはなかった。


 そして淡々とこう述べた。


「我々は使者ではありません」


「なに?」


 ドクトルのポーカーフェイスが崩れる。


「あなた方にこれを渡せと命令されてきました」


 手の平を向けて渡されたのは、小さな宝石だった。

 そこにエルフが使う魔法言語が刻まれている。


伝聲石(ケーサ)ですな」


 ゼネクロは摘まんだ宝石を見ながら、目を細めた。


 遠くに声を飛ばすことが出来る魔導具の一種だ。

 通常2つ作られ、魔力を込めると双方の宝石に声を届けることが可能となる。

 使用する魔法石の産出量が少ないことから、かなり高価で、こんなに小さくても小城を建てることが出来るほど価値がある。


 ライカも自身の目で見るのは、2度目。

 戦場で使われたのを目撃したのは、これが初めてだった。

 そんな高価なものを無造作に一兵士に預けることが出来るアーラジャの財力は、やはり底が知れない。


『こちらの声が聞こえますかな』


 落ち着いた声が伝聲石(ケーサ)から聞こえる。

 ライカとゼネクロは思わず身を引く。

 代わりに、ドクトルは眉間に皺を寄せ、ほのかに光る石を睨んだ。


「カリヤか……」


『ほう。その声は元首様。お元気そうで重畳重畳』


「誰ですか?」


 ライカはドクトルに尋ねる。


「内商大臣だ」


「うちの実質ナンバー3。アーラジャ1の財力を誇る大商人だよ」


 国政を担う者が商売をすることは、マキシアでは禁止されている。

 一方、アーラジャでは禁止されず、むしろ推奨されていた。

 商人の国家らしい慣習だ。


『美しい女性の声が聞こえますが。もしや――』


「はじめまして、カリヤ大臣。私はマキシア帝国第120代女帝ライカ・グランデール・マキシアと申します」


 ライカは名を名乗る。

 伝聲石(ケーサ)から『ほう』と感嘆する声が聞こえた。


『これはこれは、陛下。初めまして。私の名前はカリヤ・マーバラウ。海洋国家アーラジャの内商大臣を務めております。珍しい名前ですが、この内商というのは――』


「詳しいお話は(おか)でお聞かせください。現在の状況を端的にご報告したいのですが」


『ほう……。いいでしょう』


 ライカは簡単に説明した。

 港町ダバダで交渉の結果。

 商務副大臣ホセ・ブレリンカの身柄を預かっていること。

 マキシアが島国連合を追いかけ、ここに追い詰めたこと。

 結果、ドクトルが投降したこと。


「以上の理由から、ドクトル元首に抵抗の意志はないと考えます。彼は大いに反省し、出来れば弁明の機会と、情状酌量の余地を」


『なるほど。陛下の慈悲心……。我々アーラジャはいたく感銘を受けました』


「では、まずは貴国の艦艇の砲門を閉じていただきたい。詳細はアーラジャ上陸後に……」


『それは出来ません、陛下』


 甲板上に緊張が走る。


 事情を聞く前に、カリヤはさらに断言した。


『商売以外のことで回りくどいことは私は嫌いでして、おっと……。単刀直入に申し上げましょう、陛下』



 元首と陛下は、ここでご退場いただきたい……。


超鈍足更新ですが、エタらないよう頑張りますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ