表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/330

第27話 ~ ローランの冒険Ⅱ ~

お待たせしました。

第4章第27話です。

 ローランはそっと木の陰から顔を出した。


 周囲を警戒しながら、乗り合わせた乗客に近づいていく。


「やるわね」

「そうでもない。雇い主を殺された。ボクの失策だ」


 素直に反省する。

 ローランはフッと鼻で笑った。

 すかさず手を掲げる。


 呪唱した。


「我――ローラン・ミリダラ・ローレスが命じる。炎帝の稚児よ。紅蓮を纏いて、炎翼を広げよ」



 顕現せよ(エコーズ)炎竜ブレアト(ブレアト)



 瞬間、魔法円が浮かんだ。

 円の中心に現れたのは、灼熱の外皮を纏った小さな竜だった。


「ぱううううう!!」


 竜の稚児は口を開け、咆哮を上げた。

 可愛げすら感じられる声が森に響き渡る。


「ブレアト! 炎を!!」

「ぱう!!」


 子竜は大きく息を吸い込む。

 腹を空気で満たすと、再び口を開けて、炎を吐きだした。


 眼前の乗客に向けられたかと思えば、そうではない。

 大きく逸れると、崖の上へと突き刺さった。


「んぎゃああああ!!」


 悲鳴が上がる。

 盗賊だ。

 竜の炎で燃えてしまった弓を、慌てて放り投げる。

 乗客の剣によって負傷したが、まだ反撃する余力があったらしい。


 情けない悲鳴をあげると、今度こそ背中を向けて逃走した。


 乗客は踵を返し、追跡の構えを取る。

 ローランは呼び止めた。


「もう、いいんじゃない」

「相手は盗賊だぞ。雇い主を殺した」

「うん。そうね。……でも、殺生はよくないわ。おじいさんもそれを望まない」


 乗客は体勢を解いた。

 ローランに向き直る。

 フードの奥から真っ直ぐ少女を見据えた。


 姫君は続ける。

 唄うように。


「おじいさんが望むのは、私たちが無事であること。2度と盗賊が悪さをしないこと。そして、自分を埋葬してほしいということ……」


 道ばたに倒れた老人を見つめる。

 憂い帯びた瞳には、うっすら涙が滲んでいた。


「死んだ者の声が聞こえるのか」

「ううん。……そういう気がするだけ。私の自己満足よ」


 ローランは涙を払い、埋葬の準備のため1歩踏み出す。

 その後ろ姿を見ながら、乗客はふっと息を吐いた。


「変わってるな、お前」

「うん。よくいわれる」


 あっけらかんと答えた。


 ローランは盗賊が落とした剣を。

 乗客は崖上に落ちていたショートソードを取ってくると、穴を掘り始めた。

 しばし2人は黙って作業を続ける。


 だが、痺れを切らしたのか。

 先に声をかけたのは、お喋りな姫君の方だった。


「本当なら、家族のもとに返してあげたいんだけど」

「自分たちが殺したと疑われるのがオチだ。ただでさえ、この辺りの憲兵は外の者に辛く当たる傾向がある。今の情勢であれば、なおさらだ」


 新女神による布告。

 島国連合が攻めてくる噂。

 戦乱が再び起こるのではないかという不安。

 それらが渾然一体となり、ピリピリとしたムードが版図全土を包んでいた。


 老人を殺していないという証明をするのは容易いが、取り調べられるのはまずい。

 ローランがローレスの姫君だとばれるからだ。

 おそらく、この乗客にも似たような理由があるのだろう。


 珠のような汗をお互い掻きながら、作業を進める。

 中盤にさしかかったところで、今度は乗客の方が話しかけてきた。


「お前、召喚師か?」

「ええ……。かけ出しで。小さな竜しか呼び出せないけど」


 1人で旅することは、出発前から決めていたことだ。

 だから、こっそりジョブを取得し、この1ヶ月レベルを上げていた。


 召喚師というのはなかなかレアなジョブらしい。

 ローランに素質があったらしく、対応したギルド職員が薦めてくれた。


「礼はいわないぞ」

「別にいいわよ。そんなつもりはなかったし」

「ボクは気付いていた」

「知ってる。だから、あの人を殺めないようにしたの。ところで――」

「なんだ?」

「あなたは獣人よね」


 乗客はローランの方を向く。

 口元が震わせ、驚いていた。

 さらに殺気へと変わっていく。

 気配を察しつつも、ローランは作業を続けた。


「友達に獣人の子がいるの。その子と一緒の匂いがする」

「友達?」

「狼族の子でパレアっていうの? 知ってる?」

「知らん。……が、合点がいった」

「なに?」


 ローランは首を傾げる。


「道理で狼臭いと思っていたが、そのせいか」

「え? 私、そんな臭うの」

「ボクの鼻を狂わせるぐらいにな」

「やだ! 身体はちゃんと洗ってるのに」


 汗でペタペタになった着物を見つめる。


 穴を掘り終えた。

 2人で老人の死体を埋葬する。

 安らかな顔だった。


 ローランは軽く手を払って、土を落とす。

 乗客の方に向き直った。


「ありがとう。えっと自己紹介がまだだったわね」


 フードを取る。

 森林を抜けてきた涼風に、白い髪がなびいた。

 淡いピンクの瞳には、口を開けたフードの女性が映っている。


 単純に珍しい髪の色に驚いたのか。

 それとも美しさに見惚れたのか。

 判然としなかったが、息を飲むのはわかった。


「私の名前はまなかよ。黒星まなかよ」

「変わった名前だな」

「それもよく言われる。オーバリアント(ここ)ではね」


 軽くウィンクして誤魔化す。


「あなたの名前は?」

「ルーベル……。単なるルーベルだ」

「そう。フードは取ってくれないのかしら。心配しなくても、私は獣人を差別したり、蔑んだりしない。そんなことをしたら、大切な友達に絶交宣言されちゃう」


 肩を竦めて、笑った。

 ルーベルは躊躇う。

 長い沈黙の後、フードを払った。


 ピンと立った金色の耳が露わになる。


「かわいい!!」


 アイドルに送る声援のように叫んだ。

 ずいっと顔を寄せる。ピンクの瞳には、星が宿っていた。

 一方、ルーベルはローランの押しに圧倒されている。

 盗賊団と勇敢に戦った獣人は、半歩後ろに下がった。


「触っていい?」


 尋ねた時には、すでに耳に手がかかっていた。


「やめろ! 人に触られるのは好きじゃない」

「ちぇ! ケチ!」


 むぅ、とローランは口を尖らせる。

 半目になりながら、ルーベルを睨んだ。

 隙あらば、触りに行くといった様子だ。


 ルーベルは息を吐く。


「そろそろ行くぞ」


 主を失った馬車へと向かった。




 馬車は森を抜ける。

 太陽(バリアン)が山陰に入ろうとしていたが、街はもうすぐだ。


 ルーベルが手綱を持ち、横でローランがパタパタと足を動かしている。

 再びフードをかむり直した姫君は、手で押さえながら質問を口にした。


「ルーベルはこの後、どうするの?」

「どうもしない。東へ向かうだけだ」

「そう。私も東へ行くの」

「そうか」

「一緒にいかない?」

「な――」


 唐突な提案にルーベルは驚く。

 思わず手綱を引き、馬車を止めてしまった。


「そんなに驚くことはないでしょ」

「わかっているのか。ボクは獣人で」

「だから、私は気にしないって」


 ルーベルは目で威嚇するが、ローランはどこ吹く風だ。

 ちょんちょんと、淡いピンクの瞳を瞬かせている。


「それにね。ちょうど護衛が必要だったし」

「護衛? お金はあるのか?」

「今はないわ。でも、こう見えて私、いいとこのお嬢さんなの」

「自分で言うのか……。まあ、何となく察しはついていたがな」


 胸を反らす娘を見ながら、ルーベルはジト目で睨んだ。


「報酬はちゃんと払うから。行き先は一緒なんだからいいでしょ?」


 ルーベルはまた息を吐く。

 しばし考えた後、獣人の娘は答えた。


「途中までなら」

「やった!」


 ローランはギュッとルーベルに抱きつく。

 スリスリと相手の頬に自分の頬をこすりつけた。


「ちょっと! まなか!!」

「ルーベルってお肌すべすべ。しかも、なんかほのかに暖かい」


 抗議するも、ローランはやめようとはしない。

 幸せそうに目を細めていた。


 こうして姫君と獣人の旅は始まったのだった。


ひとまず2人のニハニハ道中は終わり。

次回はライカパートになります。


いつの間にかptが6000pt目前になってました。

ブクマ・評価を入れていただいた方。

本当にありがとうございますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ