第25話 ~ 15歳の娘に色気を求められても困りますわ ~
お待たせしました。
スローペースですが、連載を再開していきます。
1度、ローレスに戻った宗一郎は、快復したローレス王ラザールに謁見した。
「無事のご帰還何よりだ、勇者殿」
「もったいなきお言葉です、陛下。長らく留守にし、申し訳ありませんでした」
「なに気にするな。お主の従者がよく働いてくれた」
ラザールの視線の先には、真っ黒なタキシードを着た優男がいた。
ベルゼバブだ。
主と同じく、膝をつき拝謁している。
「ベルゼバブ、特に問題なかったか?」
「さしあたって何も。サリストを占拠したエジニア軍も今のところ大人しくしております」
「1度サリストの王に面会するといい。そなたに感謝しておったぞ」
「では、後ほど」
「うむ。……ローラン、お主からは何かないか?」
玉座の横で控えたローランに話しかけた。
体調こそ問題なさそうだが、顎をひき、物憂げだ。
口元を小さく動かし、何かブツブツと呟いていた。
「こら。ローラン、勇者殿が帰ってきたのだぞ」
「あ。失礼しました。……お帰り、宗一郎くん」
「ただいま」
短く挨拶を交わす。
他に言葉はいらない。
それだけでお互いのことがわかる関係だ。
「まったく……。もう少し色気を出したらどうなのだ?」
「15歳の娘に色気を求められても困りますわ」
「王よ。叱らないでやってくれ。王女は、前の世界でもずっとこうなのだ」
「まあ、勇者様……。それではまるで私がちっとも成長していないといっているようなものじゃないですか」
「そうは言っていないが、あながち間違いではないな」
肩を竦めた。
すると、一同はプッと吹き出す。
サリスト王国の陥落。
さらにマキシア帝国とその同盟国の包囲網。
新たな女神……。
ネガティブな情報ばかり飛び交い、沈鬱な空気に支配されていた王城に、久しぶりに明るい笑い声が響き渡る。
「談笑はこのぐらいにして、お主がいない間に起こったことを伝えておく」
前振りをすると、ラザールは自らの口で状況を説明した。
「島国連合ですか?」
「元々の構想は初代アーラジャの元首が提唱し、70年越しに新元首が達成した。その中にエジニアが加わるとは思わなかったがな」
「その元首の狙いはわかりますか?」
ラザールは首を振る。
「わからん。しかし、島国連合構想は4大国家であるマキシア帝国、グアラル王国、ウルリアノ王国、ウチバ連邦を陸の王とするならば、島国連合は海を1つの領土と捉え、治める構想だと聞いたことがある」
「なるほど。海にモンスターはいませんからね。この60年間、もっとも安寧で、利益を貪ったのは、海に生きたものかもしれない」
「アーラジャは最たるものだろう。世界の海を知り尽くしているからな」
「ご教授いただきありがとうございます。情勢は理解しました」
宗一郎は後ろに控えたフルフルとともに立ち上がった。
「行くか? マキシアと島国連合の会談へ」
「いえ。それはライカ陛下にお任せします」
「うん? それはちと冷たいのではないか? もしかして我が子に――」
「お父様!!」
ローランが目を三角にしながら、父を睨む。
背中にオーラを灯し、今にも王に平手を喰らわさんばかりの勢いだ。
親子のやりとりを浮かべながら、宗一郎は苦笑を浮かべた。
「陛下ならうまくやれるでしょう。それにあまり国同士の話し合いに、私が出ていくのはどうかと」
「しかし、心配ではないのか?」
「優秀な部下を付けてあります。例え、一戦交えることになっても、島国連合に負けることはないでしょう」
「そうか。では、勇者殿はこれからどうするのだ?」
「さしずめサリストに言って、王都を解放しようかと」
「まさか1人でか?」
ラザールは驚き、玉座から身を乗り出した。
「後ろの従者とともに」
「それでもたった2人ではないか? もうすぐ兵の体調も回復する頃合いだろう。それを待ってからでも」
「問題ありません。今の私は例え、相手が万の騎兵とて勝利することは叶いましょう」
宗一郎は意識せず口元を緩めた。
凄然とした笑みを見て、ラザールは思わず息を飲む。
この男ならば――という気を持たせてくれる表情だった。
「わかった。くれぐれも気を付けよ。相手はグアラルの王都スピノヴァを灰燼にするほどの兵器を持った悪魔だ。説法を説くわけではないが、努々油断するでないぞ」
「ありがとうございます」
むしろ宗一郎が単独でサリストへ向かうのは、そうした警戒もあった。
万が一、【太陽の手】が使われても、宗一郎であれば回避する事が出来る。軍を率いて、兵をむざむざ失うわけにはいかなかった。
「その後は、マキシアの南東にあるモンスターの居城に向かおうかと。そこにラフィーシャがいる可能性が高いことがわかりましたので」
「あいわかった。ローレス……いや、オーバリアントの未来。そなたに託す。存分に働いてくれ」
「はっ」
胸に手を置き、宗一郎は頭を垂れた。
そして章の冒頭に戻る。
宗一郎はサリスト王国王都ロダルを占拠していたエジニア軍第一軍を排除。
さらに司令官ワペルド中将を処刑し、あっさりと王都を解放した。
しかし、王都の損傷はひどく、さらに都民の7割が死亡。
まさに死の都になってしまった。
再生には困難を極めるだろう。
それを決めるのは、サリスト王自身だ。
宗一郎は安全を確保すると、ローレスに救援を要請。
生存者の安全をやってきた部隊に任せ、一足早くローレスに戻った。
ラザールは宗一郎の報告を聞き、ショックを受け、一緒にサリスト王と王妃も嘆き悲しんだ。
「すまない。俺がもっと早くいっていれば」
「気に病むな、勇者殿」
「そうだ。そなたはよくやってくれた。感謝する、勇者殿」
両王は勇者の功績を讃えた。
王の間を出ても、宗一郎は依然として浮かない顔だった。
久しぶりに見た人間の業……。
現代世界でも、理不尽に死んでいく女子供を何度も見た。
またこのオーバリアントでも、人が人を殺す時代がやってくる。
ギュッと胸が締め付けられた。
「ご主人……」
側に立った従者悪魔は辛そうに顔を歪める主を見て、目を細めた。
黄金色の瞳は若干潤んでいるようにも見える。
泣けない主の代わりに、悪魔が泣いているようだった。
「ああ……。すまない。心配をかけたな」
「ご主人の気持ちはわかるッスよ。……しかし、もう無茶はやめてほしいッス」
「わかっている。では、向かうか」
「魔王の城へッスね」
一転して、フルフルは陽気に笑う。
夏のひまわりにも似た笑顔に、ようやく主人の顔も綻んだ。
「宗一郎!」
声がかかる。
廊下の向こうから、大柄な女が走ってくるのが見えた。
「ユカ、どうした?」
かなり慌てているのだろう。
額に汗を掻き、膝に手をついて息を整えた。
「やられた!」
「何が?」
「ローランがまた脱走した!」
一度緩んだ勇者の顔面は、再び氷壁のようにかたく硬化した。
長い間、休載していて申し訳ない。
今のところ週何回とか決めることなく、出来た端から投稿していこうと思います。
今後とも作品をよろしくお願いします。




