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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第23話 ~ お祈りゲーか! ~

終章第23話です。

よろしくお願いします。

 朝起きると、にわかにダークエルフの村が騒がしくなっていた。

 多くのダークエルフの若者が集まり、武器を携えている。

 宗一郎は初めはギョッとして驚いたが、昨日ラードと共にマーグという――あのにんじんの姿をした――モンスターを倒しに行く約束していたことを思い出した。


「宗一郎くん」


 背中に声をかけてきたのは、まなかことローランだ。

 お供のユカとともに、塔から出てきた。


「私たちはローレスに戻るわ」

「ならば、オレも付いていこうか」

「必要ない。ローランは我々――王女護衛隊が責任をもって、王国まで連れ帰る。宗一郎はこのままモンスター討伐に加わってくれ」


 宗一郎は迷ったが、最終的には肯定した。


「でも、随分あっさりと引き下がるんだな。まなか姉なら、にんじん討伐に連れてってとかいいそうなものなのに」

「まあ、失礼ね、宗一郎くん。いつまでも私は子供じゃないのよ。否定はしないけどね」


 未成熟の胸に手を置いた。


「ダークエルフやアフィーシャちゃんのお話は聞けたし。ここで私がすることは何もないと思っただけ。王都に戻って、少し考えたいこともあるしね」

「そうか。じゃあ、一旦お別れだな」

「ええ。また王都で会いましょう。勇者宗一郎殿」

「王女さまこそ、お元気で」


 役柄っぽく、宗一郎は腰を折った。

 ローランは手を振り、ユカと共に旅の祠がある方へと消えていく。

 それを見送った後、ラードたちとモンスター討伐に向かった。


 ダークエルフたちは森に入るなり、横一列に並ぶ。

 ローラー作戦のようにモンスターを捜し始めた。


 宗一郎とフルフルは、ラードの後ろに付いていく。


「ラード。にんじん――じゃなかった――マーグに対して、何かダークエルフの方で対策はないのか?」

「対策?」

「戦術といえばいいか。いつもどうやって倒していたか、ということだ」

「ああ。すばしっこいからな。唯一、有効なのはそっと近づいて、弓で仕留めるやり方だな。ただそうすると、他のマーグに気付かれて逃げられる。結局、1日に1匹しか仕留められないなんてことはざら(ヽヽ)だ」

「弱点は?」

「特にない。体力自体はあまり高くないらしい。攻撃が当たれば、倒せるぐらいの感覚でいいと思う。まあ、その攻撃を当てるのが難しいんだがな」

「ますます某ゲームの高経験値モンスターだな」


 宗一郎は息を吐く。

 反論したのは、従者悪魔だった。


「何をいうんスか、ご主人。はぐれ○タルを1発で倒せるなんて、青帽子を被った脳筋王子ぐらいッスよ。フルフルからしてみれば、ぬるゲーっスよ」

「ぬるゲー云々はともかく、主人が遠慮して、固有名詞を避けていることにもう少し配慮した発言をしろ、ゲーマー悪魔」

「ははん! 一体どこの誰に気を遣えっていうんスか? 堀井○二ッスか? 鳥○明ッスか?」


 ――せめて敬称は使え! どこぞの誰とはいわんが、怖くて夜も眠れなくなるだろうが!!


「ははは……。あんたらの話は訳わからんが、面白いな」

「すまん。決して面白い話をしているわけではないのだ」


 宗一郎はげっそりとした顔をラードに向けた。

 フルフルと喋っていると、10キロぐらいすぐに痩せてしまいそうだ。


「で? そのゲーマー悪魔殿の対策はあるのか。昨日、おっかけ回したのだろう」

「基本的にラッキーパンチを待つしかないッスね」

「お祈りゲーか!」

「仕方ないッスよ。あいつらの素早さは尋常じゃないッスからね。ただ弱点はわからないッスけど、あいつらが好きなものは見つけたッスよ」


「「好きなもの?」」


 宗一郎とラードは声を揃えた。


「どうやら光り物に弱いらしいッス。綺麗な貝殻とか石とか集めてましたから」

「光り物……」

「光り物か」

「そう。光り物ッス」


 宗一郎とラードの視線が、自然とある一点へと絞られていく。

 それはフルフルの魅惑的な大きな胸――ではなく、その胸に下がったブローチだった。


 2人の視線に、ブローチに閉じこめられたアフィーシャは気付く。

 珍しく顔を青ざめながら、出来る限り奥へと後ずさる。


「ちょ……。なに――かしら?」

「たまには役に立ってもらわないとな」

「むふふ……。見える見えるッスよ。多くの野菜モンスターの触手に絡め取られるダークエルフの姿を――。抜ける(ヽヽヽ)!」

「な、何をいっているかしら! 昨日、有用な情報提供をしてあげたじゃない! もう忘れたのかしら、勇者様」

「ぷぷぷ……。アフィーシャ、いい気味だ」

「いい気味って! ちょっと! 親に向かってなんて口の利き方はしているのかしら、この子は!」

「覚悟を決めろ、アフィーシャ」


 宗一郎はブローチに手を伸ばした。




 アフィーシャが入ったブローチをポツンと森の一画に落とし、宗一郎たちはマーグが来るのを茂みから見守った。


「本当に来るのか、こんなんで」

「ご主人、静かにするッスよ」

「ぷくく……。アフィーシャの慌てようは笑うな」


 ラードはまだ笑っていた。

 母親の不幸がよほど面白いらしい。

 数十年育児放棄した意趣返しだろうか。


 一方、アフィーシャはキョロキョロと周りを見回していた。

 珍しく不安そうな顔をしている。

 あのブローチは悪魔が作った鉱石でそうそう割れないように出来ているのだが、その説明があっても、黒い妖精はご不満らしい。


 宗一郎たちと、他のダークエルフたちは、木に昇り、ひたすら息を殺して、獲物が近づいてくるのを待った。

 勇者の手には弓が握られている。

 ゴールド製の弓らしいが、性能はさほどでもないとラードから説明があった。

 弓は初めてだが、『フェルフェールの瞳』を使って、短期間でエルフたちの弓術を修めていた。昔、ロイトロスの剣術をトレースした時の要領だ。


 1時間ほど木の上で過ごしただろうか。

 獲物は現れた。

 マーグだ。

 すると、続々木の陰や茂みから現れた。

 宗一郎たちに気付いていない。


「そろそろ……」


 ラードは矢を持つ手に力を入れる。

 だが、「まだ」と宗一郎は自制を促した。

 じっとマーグたちの様子を伺う。


 その間に1匹、また1匹とブローチに群がっていた。

 おそらくブローチにはめられた宝石のようなものは初めて見るのだろう。

 初めは恐る恐るという感じで近づいていく。


 1匹がトントンと3本指でつついた。

 スマホを見つけた原始人みたいな反応で、滑稽だった。


 やがて害がないと判断したらしい。

 1人が持ち上げた。

 さらにマーグが群がってくる。


 その中でアフィーシャの顔が見えた。

 迫ってくる謎の生物を見て、顔を青くしている。

 早くするかしら、とこちらを見て、目で訴えていた。


 宗一郎は手を挙げた。

 一斉にダークエルフたちは矢をつがえる。宗一郎もまた弦を引いた。


「いまだ、フルフル」

「あいあい」


 従者悪魔は目の前の縄を引く。


 すると、突然マーグが集まった地面から蔓や木の枝で作られた網が現れた。

 異変に気付いたマーグたちは我先に逃げ始めるも、他のものは網に引っかかる。そのまま蓑虫のように吊り下がった。


「放て!」


 宗一郎は声を荒げる。

 狙うは蓑虫状に固まったマーグたち。

 動けなくなったモンスターの塊など、サンドバックに等しい。


 無数の矢がマーグに突き刺さる。

 赤い光点が光ると、モンスターは「ぽふっ」と間抜けな音が立てて消滅した。


 宗一郎は混乱する残りのマーグに射掛ける。

 幸運にも、1匹仕留めることに成功した。

 だが、そのほとんどを逃がしてしまう。


「2匹か」

「いや、上等だよ。罠にかかったのを入れれば、一気に十数匹は倒したはずだ」


 ラードはポンと宗一郎の肩を叩いた。


「むー。フルフルも倒したかったス」

「また今度な。おっと――」


 ピロリロリン……。


 間抜けな音が頭の中で響く。

 さらに――。


 “杉井宗一郎はレベルが上がった。”


 という音声が聞こえてきた。


 以前、オーガラストを倒した時のような報告が続く。

 かなり長い報告でうんざりしたが、結局レベル〈8〉だった宗一郎は、一気にレベル〈29〉まで上がった。


 予想はしていたことだが、宗一郎は思わず歓声を上げた。


「凄いな」

「よっぽど、経験値をため込んでいるッスね。このにんじん! フルフルも早く倒したいッス」

「ともかく、要領はわかった。倒すぞ、こいつらを」

「了解ッス!」


 フルフルは嬉しそうに敬礼した。


 一方、アフィーシャは――。


「ちょっと! 私を忘れてないかしら。こんなのごめんよ! お野菜食べられなくなるじゃないの!」


 絶叫していた。


ちょっとずつですが、ブクマ・評価が増えて嬉しいです。

今後もよろしくお願いします。


次回は来週月曜更新させていただきます。


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