第21話 ~ インタビュー ウィズ ダークエルフ ~
全編、アフィーシャの独白回です。
終章第21話です。
私とアフィーシャも双子だった――かしら……。
物心ついた頃には、人買いの商品になって、2人して奴隷市場で二束三文で売られていたわ。いえ……。さすがに言い過ぎだったかしら。
もう少し価値があったような気がするけど、まあこんな話はいいかしら。
胸くそ悪いし……。
最初のご主人様は貴族だったわ。
どこのかって?
覚えていないかしら。
どうでもいいもの。
……もう死んじゃったし。
そう。私たちが殺したのよ。
だって、あいつ……。私たちを人間扱いしなかったのだもの。
あ。ごめんなさい。私ってばダークエルフだったかしら。
……今の笑うところよ。
例に漏れず地獄の日々だったかしら。
特殊な性癖の持ち主でね。エルフでまだ幼気な子供といえば、もうわかるでしょ。
あら……。お好みでないかしら。
王女様にはキツかったかしらね。
あの悪魔なら、きっと「kwsk」とか訳の分からないことを言いそうだけど。
そんな地獄にも、意外といいこともあったかしら。
その貴族はね。
何を思ったのか私たちに教育を施したの。
私たちをダークエルフと知っていてね。
そう。犯罪よ。
死刑になってもおかしくない。
なのに、その貴族ったら……。
きっと自分ならダークエルフを御せると思ったのでしょうね。
妙に自分のことを高く買う男だった。自信過剰といえばいいのかしら。
毎日のように主君の悪口を聞かされたわ。。
結果、私たちは武器を得た。
オーバリアントのことを知り、さらに国のあり方を知り、そして自分たちのことを知った。
つまり、知識を得たのかしら。
余談だけど、私のこの“かしら”という口癖も、その貴族の娘がそういう風に話してたのを真似ていたら、そうなったものなの。
直そうと努力はしたのだけど、いまだになおらないのよね。
やんなるかしら……。
あ。ほら、また――。
閑話休題。
知識を得たことによって、私たちは何者かを知った。
そして何をするかがわかった。
私たちはすぐに行動を移したわ。
とりあえず、貴族の当主を取り込んだ。
簡単よ。ベッドで骨抜きにしたの……。ああ、この話はやめておきましょう。ゲスな悪魔ぐらいしか喜ばせないかしら。
ところで、あの子。本当に寝てるのよね?
話を戻しましょう。
傀儡となった当主を私たちは知略を持って、出世させた。
それを持って、家内で私たちの評価は鰻登りに上がっていったわ。
『神童』とか言われてね。
どっちかというと『悪党』なのに。
完全に家を掌握するのに、2年とかからなかったわ。
いつの間にか、私たちに刃向かうものはいなくなった。
いたとしても、影で始末してたんだけどね。
年?
ああ、そうね。
確かその時で5歳じゃなかったかしら。
ふふ……。驚いたでしょう。
5歳のダークエルフに、人間が這い蹲っていたわけ。
そして、ついに当主は王の親族となった。
裏から国を操る立場になったわけ。もちろん、操っていたのは当主じゃなくて、私たちだけどね。
当主の精神を徹底的にマッドに教育した。
頭がぷっつんするのに、そう時間はかからなかったかしら。
元々そういう気質があったのね。
当主は王を傀儡として、暴政をしいた。
重税を課し、無謀な外征を繰り返し、逆らえば女子供容赦なく縛り首にした。
一方で私腹を肥やし、あるだけの金品をかき集め、可能な限りの贅を尽くした。
そんなことをやっていれば、当然民衆の怒りを買う。
暴動が起きて、あっさりと当主と王は死んだ。
だけど、幸せだったかもしれないわね。
事態はそれだけでは収まらず、残った王族と民衆の間で激しい内紛が続いた。
川や井戸に毒を盛られ、田畑は10年を持ってしても再生出来ないほど荒れ果てたわ。それでも人は戦いを止めなかった。
つまり、王や当主だけではなく、みんなぷっつんしてたってことね。
結果、他国の介入があるまでの間に、国家の7割に及ぶ人間が死んだかしら。
言うまでもなく――そして、完膚無きまで、その国は滅亡を迎えたのよ。
どこまでが私たちの仕業って?
そうね。当主が傀儡政権を作ったってとこまでかしら。
あとはすべて人間たちのアドリブ……。
本当に愉快なショーだったかしら。
あら。
そんな怖い顔しないでくれるかしら。
聞きたいといったのは、そっちよ。宗一郎。
……それから私たちは、多くの国を渡り歩いたわ。
40年間で小国を10国、大国を2国滅亡寸前にまで至らしめた。
前にマキシアの文献を読ませてもらったんだけど、どうやらダークエルフがらみで滅亡した国の半分は、私たちの仕業だったらしいわ。
で……。
そんなことをすれば、ダークエルフへの風当たりは厳しくなるのは自明の理よね。
だから、私たちは国を玩具にするのをすっぱり止めたわ。
飽きてもいたしね。
ラフィーシャはそこでダークエルフの1つの大望を目指すことに決意したの。
え? それは何かって?
長老に聞かなかったの?
まあ、それはいいわ。
つまりね。
“神の創造”かしら……。
ダークエルフの究極の目的は、そこにあった。
自分たちを作った神を、自分たちが作る。
それは神への冒涜というよりは、反逆の意味が込められていたかしら。
私たちにとっても、「神の創造」は憧れだった。
自分たちを虐げる下位種である人間の意志を変革させる存在。
それを王のように操ることこそが、私たちの目的だったかしら。
私たち2人は、様々なアプローチを試みた。
私は生命をいじり、ラフィーシャはかつてダークエルフが作り上げた技術を蘇らせた。
その間も、私たちは国を滅ぼし続けたわ。
寄生し、財政を搾り取り、必要であれば人体実験を繰り返した。
さらに、そこに多くのダークエルフが加わった。
あなたと関わったことがあるエーリヤというダークエルフも、その1人よ。
研究が大詰めを迎える頃、イレギュラーは起こった。
それがあなた達もよく知るプリシラ。
後に女神になる女がオーバリアントにやってきた時、私たちの計画は狂い始めた。
プリシラは私たちの存在を知るなり、執拗に追いかけた。
さらに厄介なことに、彼女には女神からもらった祝福――「呪術」があったわ。
彼女の周りには多くの仲間が集い、次第に私たちは追いつめられていった――かしら。
焦ったラフィーシャは、ダークエルフの異次元ゲートと開いた。
私たちはそれを使い、新たな“神”を呼び出すつもりだった。
知っての通りそれは失敗した。
出てきたのは凶暴なだけの低知能の魔物だ。
それが後々「モンスター」と呼ばれる存在かしら。
結果的にモンスターはオーバリアントを混乱させたけれど、私たちの大望からはほど遠かった。
そして私たちは離ればなれになってしまった。
しばらく探してあちこち回ったけど、ラフィーシャを見つける事はかなわなかった。
次第に飽きてきて、止めてしまったわ。
その時気付いたかしら。
私にとって、ラフィーシャはどうでもいい存在だった、ということを……。
一方で、プリシラはモンスターと共存するための『プリシラシステム』を作り、自身はオーバリアントの女神となった。
皮肉にも、私たちが追っていた神の座に、宿敵が居座ってしまったというわけ。
悔しかった……。
正直にいってね。
おそらく私たちにとって、初めての敗北だった。
最初こそ打倒プリシラと思っていたけど、それもどうでもよくなっていったわ。
少しして【エルフ】という島があることを聞いた。
ラードの父親に当たるダークエルフからね。
そこで私はラードとパルシアを生んだ。
そして、今振り返っても信じられないほど、退屈で穏やかな時間を過ごしたというわけよ。
昔話はこんなところかしら……。
あなた達の参考になれば幸いね。
そう思って聞かせた訳ではないのだけど……かしら。
ちょっと胸くそ悪い回でしたが、いかがだったでしょうか?
次回は来週月曜更新します(今度は遅れないぞ!)




