表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝 ~ それぞれの1ヶ月 ~
26/330

外伝 ~ 宗一郎と無口な司書長 ~ 中編

中編です

よろしくお願いします。

 夜の帳が降りると、館内はますます暗くなっていった。


 一応、各所にランプが灯っているが、広い図書館に訪れた闇には、焼け石に水程度の効果しか現れていない。

 全体的に薄暗く、ホーンテッドマンションの様相を呈してきた。


 こうなってくると、アリエラが持っていたカンテラを借りればよかったと悔やんだ。


 一度降りて、カンテラを借りよう。

 そう考えて、昇ってきた階段の方に足を向ける。


 しかし行けども行けども階段が見つからない。


「道を間違えたか?」


 転身して、もう一度先ほど立っていた場所に戻ってみたが、同じ風景に出会うことはなかった。

 ならば壁沿いを伝って、探してみようと考えた。だが、今度は本棚に阻まれ、うまく行かない。そうこうしているうちに、段々と方向がわからなくなってきた。


「む? これは――」


 どうやら迷子になったらしい……。


 ミイラ取りがミイラになるとはよくいったものだが、まさにこのことだった。

 確かに、プロの司書長であっても、この図書館は迷うかも知れない。


 先ほど馬鹿にしたことを、密かに詫びた。


 助けてくれー、とアリエラを呼べば、すっ飛んでくるかも知れないが、さすがに矜持がそれを許さない。


 気がつけば、完全に日が暮れ、一寸先すら見えぬ暗闇が横臥していた。


「仕方あるまい。緊急避難だ」



「フルカス。……闇夜に一条の光を示せ」



 悪魔の力を使い、手に炎を灯した。

 ほんのりとカンテラサイズぐらいの光が、辺りを照らす。


「本に燃え移らないように気を付けないとな」


 慎重に歩み進めた。


 彷徨ってるうちに、ようやく階段を見つける。


 ひとまず階下まで降りて、アリエラと合流しよう――。

 そう考え、一歩踏み出したその時。


 からり……。


 物音が聞こえて、宗一郎は反射的に振り返った。


「誰かいるのか?」


 闇に問いかけてみたものの、沈黙しか返ってこない。

 踏み出した足を元に戻し、もう一度5階を捜索する。


「アリエラか?」


 呼びかけてみるも、またも沈黙。

 足を忍ばせ、再び奥へと歩き出す。


 ふっ……。


 今、何かが横切った。

 本棚と本棚の間。図書館に点在するランプの影――。


 ――小さい。動物だろうか……。


 慎重に歩みを進め、角を曲がる。


 暗闇が広がる場所に、炎を向けた。


 現れたのは――。


「こども……!?」


 小学校低学年ぐらいだろうか。

 おかっぱの頭に、つぶらな瞳。

 瞬間的に頭によぎったのは――座敷童子だ。


「なんでこんなところに子供が……」


 宗一郎と同じく閉館時間を過ぎて、取り残されたのだろうか。

 ともかく保護して、アリエラのもとへ送り届けるのが筋だろう。


 一歩、二歩、と宗一郎が近づいた瞬間――。


「マガ・ラゴス・ヴァーラ。カニスタ!」


 聞いた事のない言葉。

 だが、それが何かは想像は付いた。


 ――呪唱!!


 子供の手の平に生み出されたのは、氷の刃だ。


 風が鳴る。

 氷の刃は、宗一郎の手の平にある灯火に直撃した。


 火が一瞬にして凍り付けになる。

 慌てて手を離した。

 硬い木の床に落ちると、粉々に飛び散る。


 降って湧いた危機。

 しかしそれを回避したことよりも、宗一郎の思考を埋め尽くしたのは少女が使った魔法だ。


 ライカから一通り魔法士が使う魔法の種類や特性を聞いているが、少女が唱えたものはどれも合致しない。そもそもレベル上で覚えられる魔法に、あれほど長い呪唱が必要となるものはない。

 そもそもこんな少女が、魔法を使えることがおかしい。


 宗一郎は魔眼を起動する。

 青い2つの光が、暗闇に閃いた。


 息を飲むのがわかった。


 さっと横へ駆け出す。


「あ。待て!」


 宗一郎は追いかける。

 異世界図書館マルルガントで、壮大な鬼ごっこが始まった。


 初めは余裕で捕まえられると思っていた。

 何せ子供の足だ。

 大人の宗一郎が負けるはずがない。


 しかし地の利は向こうの方にあるらしい。

 捕まえる寸前に、どこかへ身を隠してしまう。


 おそらく叡智の結晶ともいえる場所で、友達と遊んでいるうちに身につけた能力なのだろう。


 図書館マニアの宗一郎にとっては、許しがたい蛮行だ。


 いくら慣れた場所とは言え、さすがに大人と子供では体力が違う。

 次第に宗一郎は追い詰めていく。


 とうとう子供を袋小路に追い詰めた。


「ふふふ……。観念しろ」


 鼻息荒くし少女に近づく宗一郎の姿は、紛れもなく変態だった。


 その時、少女が取った行動――。


「なに!」


 なんと器用に本棚を昇り始めたのだ。


「おい! こら! 本に傷がいったらどうする!」


 ばっかもーん! という感じで、宗一郎は怒鳴った。


 少女の身体がビクッと固まる。

 瞬間、ずるりと足を踏み外した。


「ちっ」


 軽く舌打ちしながら、宗一郎は飛びついた。

 空中で見事キャッチするも、勢い余って顔面を壁にぶつける。


 が、事態は収まらない。


 少女が昇った本棚がぐらりと揺れた。

 斜めに傾くと、大量の本とともに棚が落ちてくる。


 少女の顔の横に手をつき、慌てて身体を入れ替える。

 びっくした少女と目が合った。


 覆い被さるように、本から少女を守る。

 その時――。


「エオ・ヌゥ・アパクリス、パウ・ピル!」


 少女は再び呪文を唱えた。


 降り注ぐと思われた本や棚が、空中で停止する。

 すると、巻き取られるように元の位置へと戻っていった。


 残ったのは、整然と並んだ本棚と、静寂だけだった。


「助けてくれたのか?」

「…………」


 少女はただつぶらな瞳を宗一郎に向けるだけだった。


「大丈夫ですか?」


 不意に声が聞こえ、カンテラの明かりが2人を照らした。

 アリエラだ。


 少女は宗一郎の懐からぬるりと抜けだし、ダッシュする。

 タタタッとアリエラに駆け寄り、抱きついた。


 おかっぱ頭をよしよしと撫でる。

 その姿は、母と子を想像させた。


「もしかして、アリエラの子供か?」


 宗一郎はスーツをはたきながら、立ち上がった。


 アリエラはきょとんとしてから、柔らかい笑みを浮かべる。


「いいえ」

「じゃあ、オレと同じ館内に残っていた利用者か……。こんな時間まで残ってたら、保護者が心配するだろう」

「いえ、そういう訳ではないんです。宗一郎様」

「…………?」


 宗一郎は首を傾げる。

 少女はアリエラのスカートを引っ張った。


「…………」


 何か無言で訴えると、アリエラは大きく頷いた。


「あ、はい。こちらはスギイソウイチロウ様と申しまして。司書長にお会いしたく、当館においでになったそうです」


 何故か、子供に対して、年上と接するように丁寧な言葉使いで話す。

 さらに。


「…………」

「いえ。決して怪しい人ではないかと」

「…………」

「ええ! そうなんですか? ……宗一郎様。館内は火器厳禁となっているのですが」


 おそらく魔術で作った炎のことを言っているのだろう。


「ああ。すまない。ちょっと暗くて、止むに止まれず――――って!!」



 ちょっと待て!!



「はい?」

「なぜ何も喋ってないのに、アリエラはその子供の言葉がわかるんだ?」

「わかりますよ」


 アリエラは子供の脇に手を挟んで持ち上げた。


「見て下さい、宗一郎様。このつぶらな目を――」


 言われて、じっと目を見てみた。

 少女も、凝視してくる。


 顔に「・」しかない――本当につぶらな瞳だった。


「どうです? 雄弁に語っているでしょう!」

「わかるかああああああああ!!!!」


 その辺にある本を投げ飛ばしたい気分だった。


「誰なんだ? その娘は!」

「ああ、これは申し遅れました」


 丁寧に少女を下ろすと、アリエラは言った。


「こちらが当館の司書長であらせられます。マルフィアミ・グルミでございます」


 ……………………………………………………………………………………。


「うええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 宗一郎の大絶叫は、マルルガントの隅から隅まで響き渡った。


本日最後の話は21時に投稿します。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ