第20話 ~ 魔法使いどころか悪魔になっちゃった ~
お待たせしてすいません。
終章第20話です。
「母」
「さ」
「ん」
「……」
「え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
え
!
!」
宗一郎たちの絶叫が突き刺さる。
その勢いはオーバリアントを1周してしまうほどの強烈さだった。
一番驚いていたのは、ブローチを持つフルフルだ。
げっそりと痩せた悪魔は、フラフラと立ち上がる。
悪魔というよりは、その姿はもはや死人に近い。
「ど、どういうことッスか! 子供って! なにリア充の極みみたいなことしてるんですか。え? 訳わかんないッス。ご主人とかローランとか、男に興味なさそうなユカはいいッスよ」
「おい! コラ! なにをどさくさに紛れて、人を決めつけてるんだクソ悪魔」
ユカがバキバキと指を鳴らした。
その横でローランがどうどうとあやしている。
「人外であるフルフルはいつもぼっちキャラで、最後までそうなるんだろうなあって覚悟はあったッスよ。ガン○ムのカ○みたいなポジションになるんじゃないかと……」
――とりあえず、ファンに謝れ!
「なのに……。なのに……。アフィーシャたんがまさかのフラウ・○ウポジションなんて、凄い裏切られた気持ちッスよぉぉおおお」
おいおい、と泣き始める。
涙がブローチに伝わるのを見ながら、アフィーシャは「ちょーめんどくさいんですけど」と宗一郎に抗議の目線を向けた。
「ああ、もう! うるさいかしら。あなたはともかくとして、私はこれでもそこそこ年を食ってるのよ。子供の1人や2人いてもおかしくないかしら!」
「何を言ってるッスか! 年で子供が産めたら苦労ないッス! フルフルなんて年を取りすぎて、魔法使いどころか悪魔になっちゃったんスよ」
結局、やっぱり泣き始めた。
アフィーシャはじっと宗一郎を見つめる。
振り返れば、ローランとユカも彼を見ていた。
どうやら宗一郎がどうにかしろ、とのことらしい。
宗一郎は肩を竦める。
こほん、と咳を払った。
「フルフル……」
「どうしたッスか、ご主人。今から子作りするッスか?」
「だ・ま・れ・!」
「あい……」
泣きやんだ。
ようやく話を進める態勢が整う。
アフィーシャは顔を上げた。
「久しぶりね、ラード。まさかまた会えるとは思わなかったわ」
「ええ……。ぼくもだよ。再会を喜ぶ気は全くないけどね」
「あーら。20年近く会ってないと変わるものね。すっかりダークエルフっぽくなって」
「子供の成長を喜ぶ両親ヅラなんてしてほしくないね。あんただけには……」
2人の会話はどんどん険悪になっていった。
好青年と思われたラードの顔に皺が寄る。
積年の恨みが宿ったかのようだった。
「ところでパルシアの姿が見えないようだけど……」
「アフィーシャたん。パルシアって?」
「双子の片割れの方よ。この子の姉かしら」
「双子ッスか!」
「大変だったわよ、ホント」
しみじみと昔の記憶を思い出すアフィーシャは、母の顔になっていた。
「姉さんなら、島を出ていったよ」
「あら、そう。どうしてかしら?」
「さあね。母さんを探しに行ったのかもと思ったけど」
「残念ながら、親子の感動の再会は未だ果たされていないわ。あの子はどっちかっていうと、ラフィーシャに似ていて、凶人の部類だからどこぞで一国を滅ぼしているかもしれないかしら」
「それって褒めてる?」
「子供を褒めない親なんていないかしら……」
会話がかみ合わない。
親子というよりは、仇同士がばったり出会ったという方が近い。
それほど因縁を感じさせる。
ラードはそれでも切り込み続けた。
「訊いていい?」
「なにかしら?」
「なんで島を出ていったの?」
「理由がなくちゃ【エルフ】から出ていってはダメなのかしら?」
「…………」
「それよりもラード。あなた、私の子供よね。親がこんなところに閉じこめられていることに、何か思うところがないのかしら」
アフィーシャはブローチの内側からノックする。
ラードは目を細めるだけだった。
「どうせ自業自得だろ。この人間たちに迷惑をかけたんだ」
「それはそれってね。助けてくれないのかしら?」
「助けるも助けないもこちらの自由だろ。そもそもダークエルフに横の繋がりなんてないんだ。それを教えてくれたのは、母さんだったはず」
「確かに……」
アフィーシャは集まったダークエルフの青年たちを見つめる。
やがて目に蓋をした。
「やはりあなた……。随分とダークエルフらしくなってきたのね」
「…………」
ラードは黙って上を向いた。
一陣の風が吹く。
生ぬるく、塩気を含んでいた。
太陽は西に沈み、青と朱が混ざったような紅掛空色の空が広がっていた。
「今日は遅い。空いてる部屋があるから、今日は泊まっていくといい」
ラードは言葉を吐き出すのだった。
カプセルホテルのような狭さの部屋に、1人1室あてがわれた。
ユカはローランの護衛があるため、その部屋の前で夜を明かすと言い、宗一郎はその隣の部屋で泊まることにした。
夜だ。
宗一郎は1人部屋を出る。
ローランの部屋の前で、座ったまま寝ていたユカを見つけた。
剣を抱いたまま、こっくりこっくりと首を動かしている。
相当の疲れていたらしい。
無理もない。
ダークエルフの本拠地で、一国の姫を守るのだ。
気を張らないわけにはいかないだろう。
宗一郎はそっと自分の部屋にあった毛布をかぶせる。
ややムズがるような動きを見せたが、規則正しい寝息が聞こえてきた。
「そのまま寝かせておいて」
囁く声が部屋の方から聞こえた。
視線を送ると、ローランが上体を起こしている。
暗闇の中で、淡いピンクの眼を光らせた。
「起こしたか?」
「ううん。起きてただけ……。宗一郎くんこそ、どうしたの?」
「ちと話を聞きたいヤツがいてな」
「アフィーシャちゃんのことね」
「お見通しか……」
宗一郎は髪を撫でる。
「私も聞きたいわ。ラフィーシャのことも聞きたいし」
ちらりとユカを一瞥する。
護衛がこんな状態だ。
自分が離れれば、もしものことがあった時に対応が遅れるかもしれない。
だが――。
――ローランがいなくなったと知ったら、驚くだろうな……。
「ユカなら大丈夫よ」
まなかにはお見通しだったらしい。
「わかったよ」と最後には折れた。
そっとユカを起こさないように部屋を出る。
隣の部屋へ向かうと、フルフルが寝ていた。
毛布を蹴っ飛ばし、子供みたいに涎を垂らしている。
前々から知っていたが、この悪魔は寝相が悪い。
宗一郎が一緒に寝たくないのも、これが理由の1つであった。
なんとかフルフルからブローチを奪取する。
2人は足を忍ばせ、塔を出ていった。
外は思いの外明るい。
帝都と同じ精霊光球が使われているらしく、それが街灯のように舗装された道を照らしている。
人気はない。
ダークエルフという割りに、夜行性というわけでもないようだ。
近くにあった木のベンチに、宗一郎とローランは腰掛ける。
ブローチを取り出し、ピンと指で弾いた。
昼間ずっと寝ていたはずのアフィーシャは、寝ぼけ眼を擦り起き上がる。
宗一郎とローランの顔を見て、首を傾げた。
「なにかしら? 今からあなたたちの性交でもみて、年長者としてのアドバイスを受けたいのかしら」
「な! 何を言っているんだ、お前は!」
「そうよ! そういうのは、宗一郎くんとライカちゃんがする時にして!」
「いや、それもダメだろ!!」
フルフル化が著しいダークエルフは、クスクスと笑う。
真っ赤な顔の2人を指さしながら、唇を蠱惑的に歪める。
「それで、何を訊きたいのかしら?」
「すべてだ」
「……ッ!」
「お前のすべてを教えろ」
そして宗一郎は口を結ぶ。
精霊光球の光を受けた男の顔を見ながら、またアフィーシャを笑った。
やがて唄うように、話を始めた。
「私とアフィーシャも双子だった――かしら……」
新作の影響で微妙にポイントを伸ばしております。
ブクマ・評価いただきありがとうございます。
更新続けて行くので、これからもよろしくお願いします。




