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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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幕間 ~ いつか世界を破壊するために ~

ダークエルフ説明回(会)です。

 ダークエルフの長の部屋の一室。


 フォログラフィックのような映像を見ながら、3人の人間は長老の説明に耳を傾けていた。


 その反応は三者三様。

 宗一郎は口を結んだまま、視線をフォロに向け、ローランは未来技術を見せられた子供のように目を輝かせている。1人落ち着かないユカは、あんぐりと口を開けながら、目を泳がせていた。


 長老の説明は朗々と紡がれていった。



 ★



 ダークエルフはオーバリアントにおいて、もっとも古い知的生物であった。


 その発祥や元となった生物については、色々な諸説はあるが、自然発生的に開いたゲートによって入ってきたと考えられている。


 ゲートとは異界へ行き来できる扉のことだ。

 オーバリアントの空気に含まれる力源(デロン)(現代世界で言う『マナ』)が溜まることによって空間に沈殿し、別世界への道を開いてしまう現象の事をいう。

 ダークエルフは古くからこのメカニズムに気付いていた。


 性質の話に戻る。


 その知能は高く、高度な文化を築き、現在においても、その技術はオーバリアントのどんな文化よりも進んでいた。

 肉体的にも精神的にもタフで、長い寿命を持っている。


 一方で、自我が強く、個人主義であった彼らは、コミュニティ――「群れる」という言葉を嫌った。あるのは利己心であり、現在の自分の生活をよりよくするという平凡な考え方を、先鋭化させていった。


 そんなダークエルフを悩ませたのが、出生率の低さだ。


 ダークエルフは「愛情」という観念が薄かった。

「愛」という言葉はあれど、人間が抱く言葉の重みよりも数段低い。「愛している」は「馬鹿にしている」という言葉と同義であったという時代があったほどだ。


 性交や繁殖行為といったものは、野にいる獣すら出来る。

 種族繁栄という本能を、崇高なものとして捉えてこなかったのも一因だった。


 ダークエルフには雄性・雌性とあり、その生殖方法は人間と変わらない。

 ある一定周期に交尾期が存在し、ほとんどの雌性が半ば強姦されるという状態が、現在も続いている。


 いくら高度な文化を持ち、長寿命な肉体を持っていたとしても、種の存続は必要だった。しかし、一向に出生率は伸びることはない。まず直面したのが労働力の問題だった。そこで彼らは1つの結論に達す。


 それが、自分たちのクローンやキメラを作ることだった。


 そうして最初に生まれたのが、シルバーエルフだ。


 長い寿命。自分たちと同じ知能を持ち、繁殖能力もダークエルフと比べれば高い。肌が白いのは、自分たちと比べるためであって、ダークエルフの高いクローン技術の賜物であった。


 シルバーエルフは順調に増えていったが、1つだけ欠点があった。

 免疫力のないウィルスに滅法弱かったのである(むろんそれはダークエルフも同じだが、耐性の違いが目に見えて異なっていた)。


 さらにダークエルフと同じくらい自我が強く、創造者であるダークエルフに反逆するものも現れはじめた。

 ダークエルフの社会から離脱するものが後を絶たず、結局、シルバーエルフが定着することはなかった。


 だが、労働力は必要だ。


 そこそこに賢く、従順で忠誠心があり、繁殖能力が高い生物。

 ダークエルフはありとあらゆる生命技術を使い、臨んだが、どれも失敗に終わる。余談ではあるが、この過程の中で獣人が生まれている。


 自分たちの遺伝子では生まれてくる生物は知能が高かったし、その他の遺伝子を使っても、逆に知能が低いものしか生まれてこなかった。


 そこでダークエルフは考え方を改める。

 オーバリアント(この頃は『セフォ』と呼ばれていた)の生物では理想の生物を生み出すことができないと結論づけた彼らは、多世界――つまり異世界から生物を連れてくることを考えた。


 すでに異界が存在することを突き止めていた彼らは、異世界召喚を研究し、実行する。


 そうして召喚されたのが、異界にいた一部の人類だった。


 ダークエルフの目論見は当たる。


 それなりに賢く、従順で、高い繁殖能力を持つ。


 人類は打って付けの人材だったのだ。

 ダークエルフは人類を操り、過酷な労働をしいた。

 面倒な実務を人類に押しつけ、ダークエルフは自分のしたいことをはじめた(というよりは、いつも通りの生活を続けた)。


 だが、この時点でダークエルフは人類を虐げていたわけではない。


 社会的に衣食住を保証し、精神的な安定性が必要であったため、自由と権利も与えた。出来る限りの医療技術も教えた。


 それでも人類の不満は募っていく。

 理由は明白だった。


 ダークエルフには愛がなかった……。

 人類には愛があった……。


 ダークエルフに探究心があっても、人類が持つ向上心というものを理解できなかったのだ。


 ダークエルフは人類の上位者。

 いつまで経っても、人類はダークエルフと同等に見なされなかった。


 傍目から見れば、文化的な齟齬だ。

 それも些細なものである。


 しかし、0.01度のわずかな傾斜が、1000ミリに到達した時、1センチものズレになるように、時間が経てば経つほど大きくなっていった。


 やがて人類の不満は爆発する。


 ある老人が死んだ時だった。

 年だったが、流行病をこじらせ死んでしまった。

 ダークエルフの医師は老人の治療を施さなかった。

 理由は以下だった。


「体力的に助からない。廃棄が妥当である」


 彼らは人類を生物ではなく、鍬や鋤と同じ道具にしか見ていなかったのだ。


 この些細な事件がきっかけに、ダークエルフと人類の対立が深まっていく。

 ダークエルフの社会から脱却しようというものも現れ、人類独自のコミュニティを作りはじめた。

 最初は傍観を決め込んでいたダークエルフだったが、そこで人類に時間を与えすぎてしまった。


 文化を学んだ人類はダークエルフに戦争を挑んだのである。


 すべてにおいて誤算だった……。


 そこそこに賢い知能を、上位者に認められたいと思う一途さだけで、人類はダークエルフの文化を習得した。


 何より誤算だったのは、高い繁殖能力。


 すでにこの時のダークエルフと人類の比率は1:900。数からいっても、圧倒的だった。


 それでも戦争はダークエルフ有利に進んだ。


 危機を察した人類は、シルバーエルフを味方につける。

 それが功を奏した。形勢は一気に逆転する。


 結局、ダークエルフの社会は崩壊し、彼らは各地へ散った。


 その後も人類は執拗にダークエルフを追跡する。

 忌まわしき歴史は長きに及んだ。


 まるでハンティングでもするかのように殺す者。

 拷問の末に殺す者。

 慰み者にし、性のはけ口に使い、挙げ句殺す者。

 その末路は悲惨なものだった。


 戦争によって、ダークエルフの個体はわずか100体にまで減少したと言われている。


 今までひたすらニュートラルであったダークエルフに、強い感情が芽生えるようになる。


 つまり“恨み”である。


 人類を根絶やし。

 シルバーエルフを根絶やし。

 そしてダークエルフそのものの存在を否定した世界を破壊するという――強い破壊衝動が生まれたのだ。


 長い年月をかけても、復讐を果たすことを本能的に決定づけたのである。


 ダークエルフは個体数の少なさを埋めるため、人類社会を裏から破壊しようとした。


 高い知能を活かし、権力者に取り入り、人類のコミュニティを根絶やしにしていった。

 人類と奇妙な共生関係を描いてでも、ダークエルフは本能に従った。


 それは途方もない時間をかけたゲリラ戦だった。

 何千年という時を経てなお、彼らはそのゲリラ戦を続けているのである。


 いつか世界を破壊するために……。


何気にこちらもptが増えていてうれしいです。

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